未来
春の風が優しく頬をなぜる校庭で、三年間の思いが出が詰まった涙で頬を濡らすクラスメートの横を、彼と私は並んで明日から通う事のない校門を目指して
歩いた。
照れ臭そうに卒業証書を見せ合うクラスメートを見て、彼は微笑んだ。
隣で微笑む彼の横顔を見上げて、私は胸が絞めつけられた。
これから生きていく長い時間のなかで、この人より好きな人が私にできるのだろうか。
私はきみの隣でしか生きていけないんじゃないか……。
そんな恐怖にも似た感情が頭をよぎった瞬間、不意に隣を歩く彼の体温を私は感じた。
右手に感じた手のぬくもりは、徐々に掌から優しく身体全体に広がる。いつもなら私の不安な気持ちを少しずつ消し去ってくれるのに、今は違っていた。
いつまでもこの温もりを独占したい。
私が彼の最後の彼女でありますように、そう願った。
手をつないだまま私たちは、中学校から少し離れた場所にある、公園の大きな桜の木の下まで歩いた。
風が花びらを揺らす心地よい静かな音が二人を包む。
桜の花びらからこぼれる柔らかな香りが、私の背中を優しく押した。
私は空を見上げている彼の頬にキスをした。
ほんの一瞬だったのに唇が離れると、なんだか心まで離れていくようで、嬉しさよりも、切なさが私の心を埋め尽くす。
うるんだ瞳で見つめる彼女の視線を、僕は真っ直ぐ受け止めた。
自分は目の前に立つ彼女の事が、本当に好きなのだろうか……。
僕はそんなバカげた想いを打ち消すように、彼女の唇にゆっくりと唇をかさねた。
僕はこれから何度、彼女にキスをするのだろう……。
私は何度目のキスで、彼との別れを受け入れるのだろう……。
この頃の二人は、永遠なんて不確かな未来を信じられるほど、子供ではなく、永遠なんてないと言えるほど、大人でもなかった。