体温
2017年 初夏
私の初体験は十五歳の時だった。相手も初めてで、なんだかそれがとても美しく思えた。
彼の体温は私の心の闇をゆっくりと、溶かしてくれた。初めてそう感じたのは、学校の帰り道に手をつないだ時だった。
それまで私は自分の手の冷たさが誰にも言えない心の寂しさを語るようでとても嫌いだった。氷を掴んでいたかと思うほど冷たい私の手を、彼の大きな手が包み込んだ瞬間、その優しいぬくもりは、指先から徐々に私の身体に流れ出し、血流に乗ってすぐに心の中までたどり着いた。
彼の温もりは少し冷めたコーヒーカップのように、どこか儚くて私の冷たい手には、とても居心地がよかった。
もし、彼の体温が煎れたてのコーヒーカップのように熱かったら、私は自分の手の冷たさを忘れることは出来なかっただろう。
関係を求めたのは私からだった。
彼とのセックスは身体の距離が近づけば、近づくほど、心の距離を離さなければならない、そんな矛盾がつきまとった。
彼を愛したままでは、彼の望みを叶えることが出来ないからだ。
私にとってその行為は、身体的満足や、興奮などより、彼のすべてを独占するための行為だった。
私は最愛の人を苦しめるすべての物を、壊さなければならない。愛という感情は人間が最も欲深い生物だと私に教えてくれた。その感情をコントロールすることは不可能だということも……。
強欲な私は許されない罪を犯した。でも、後悔はしていない。私が犯した罪によって、彼の心を救えたのだから……。