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『無能令嬢の神聖蜜婚』

コンセプト&キャラクター設定

ジャンル: 異世界シンデレラ・ラブファンタジー(契約結婚・執着溺愛)


ターゲット設定: ムーンライトノベルズ(女性向けTL)。「身分差」「じれじれからの激しい溺愛」「初夜のギャップ」を重視。


年齢制限クリア: ヒロイン20歳、ヒーロー24歳(性的描写の年齢規定を完全クリア)。


【キャラクター】

ヒロイン:エルセ(20歳)

没落貴族の娘。魔力を持たない「無能」と虐げられ、実家で冷遇されていた。おっとりしているが芯が強い。実は「至高の癒やし(神聖魔力)」を秘めているが本人は気づいていない。


ヒーロー:ギルベルト・フォン・ヴァルハイト(24歳)

帝国の冷徹なる「氷狼公爵」。戦場での呪いにより、夜な夜な狂気と激痛に苛まれている。女性嫌いで有名。エルセの「声」と「肌の接触」だけが彼の呪いを鎮めることができる。

第1話:虐げられた令嬢と、氷の公爵

「おい、無能。まだそこに突っ立っているのか? 早くその汚い手を動かして、私のドレスの泥汚れを落としなさい」


突き刺さるような鋭い声が、ひび割れた石造りの洗濯室に響き渡った。

声を上げたのは、豪奢なシルクのドレスを身にまとった美しい少女だ。波打つ金髪を誇らしげに揺らし、サファイアのような瞳でこちらを蔑むように見下ろしている。彼女の名はジュリア。このオルブライト伯爵家の正統なる令嬢であり、私の腹違いの妹だった。


「申し訳ありません、ジュリア様。今すぐ洗います」


私は冷たい水に浸かった手を止めず、深く頭を下げた。

私の名前はエルセ。同じ伯爵の血を引きながらも、この家での扱いは奴隷以下だ。理由は至極単純だった。この「エレジア王国」において、貴族の価値は生まれ持った魔力の量と質で決まる。妹のジュリアは若くして優れた火属性の魔力を開花させ、実家を興隆させる至宝と崇められていた。

一方で、私は二十歳になる今日まで、測定器の針を一度も動かしたことがない。魔力を一切持たない、完全なる「無能」。それが私の烙印だった。


「ふん、本当に不愉快な生き物。お父様が優しさでこの家に置いてあげているというのに、ろくに役に立ちもしないなんて。今日があなたの二十歳の誕生日だっけ? お祝い代わりに、庭の生垣の剪定も今日中に終わらせておきなさい。一枚でも葉の形が不揃いだったら、夕食は抜きだからね」


ジュリアはせせら笑いながら、泥のついた靴でわざと私の足元に水を跳ね上げ、立ち去っていった。

静かになった洗濯室で、私は小さく息を吐き出す。

かじかんだ指先は赤く腫れ上がり、感覚がほとんどない。伯爵である父は、私の母が亡くなった途端に新しい妻とジュリアを迎え、私を離れの物置へと追いやった。それ以来、私はまともな衣服も与えられず、朝から晩まで重労働を課されている。


(……でも、泣いてはいけない。ここで俯いたら、本当に心が壊れてしまう)


私は冷水で顔を洗い、自分を鼓舞した。魔力はなくとも、私には健康な身体がある。いつかこの家を抜け出し、小さな街で静かに暮らすのだという平穏な夢だけが、私の心を支えていた。


――だが、そのささやかな日常は、その日の夕方に脆くも崩れ去ることになる。


ジュリアに命じられた生垣の剪定を終える頃には、空は不気味な赤黒い残照に染まっていた。

オルブライト伯爵邸の裏手には、王国でも最悪の危険地帯とされる「黒枯れの森」が広がっている。狂暴な魔獣が跋扈し、一般の人間は足を踏み入れることすら許されない禁忌の地だ。

その森の境界線に近い生垣を片付けていた時、突如として、大気を震わせるような凄まじい咆哮が響き渡った。


「――ッ!?」


地響きと共に、森の木々がなぎ倒される音が聞こえる。

何かがこちらへ向かってきている。圧倒的な殺気と、肌を刺すような冷気。それは、魔力を持たない私でさえ、本能的に「死」を予感させるものだった。

逃げなければ。そう思った瞬間には、すでに遅かった。


茂みを引き裂いて現れたのは、巨大な黒い影。――いや、それは人間だった。

漆黒の軍服を身にまとい、銀色の髪を乱暴に揺らした一人の男。その背丈は高く、鍛え上げられた体躯からは、尋常ではない威圧感が放たれている。

しかし、何よりも異常だったのは、彼の瞳だった。

本来は美しいはずの氷の如きブルーの瞳が、今は血のような赤色に染まり、濁った狂気を孕んでギラギラと輝いている。彼の全身からは、どす黒い霧のような魔力が溢れ出し、周囲の草木を一瞬で凍りつかせていた。


「ア、ァ……ガァッ……!」


男は獣のような唸り声を上げ、自身の頭を掻きむしるようにして絶叫した。その凄まじい魔力の奔流に、私は腰を抜かし、地面にへたり込んでしまう。


(この人は……まさか……)


噂に聞いたことがあった。

エレジア王国の若き英雄であり、北方の戦場を統べる最高帥。同時に、戦場で浴びた魔獣の呪いにより、夜な夜な理性を失い狂暴化するという、恐るべき「氷狼公爵」。

ギルベルト・フォン・ヴァルハイト卿。


なぜ彼がこんな場所にいるのか。おそらく、黒枯れの森での魔獣討伐の最中に、呪いが発症して暴走してしまったのだろう。

ギルベルト公爵の赤い瞳が、恐怖で硬直している私を捉えた。


「人間……か……。消えろ……さもなければ、噛み殺す……!」


彼の声は地獄の底から響くように低く、凄絶だった。だが、その声の裏に、耐え難い「苦痛」が混ざっているのを、私は聞き逃さなかった。

彼は狂気に呑まれそうになりながら、必死で自らの理性を繋ぎ止めようとしている。その証拠に、私に向けられた氷の刃のような魔力は、彼の意思によって激しく震えていた。


「あ……」


恐怖よりも先に、胸が締め付けられるような痛みが走った。

この人は、とても苦しんでいる。誰よりも強い力を持ちながら、その力に身を焼き切られそうになっている。

ギルベルトは一歩、また一歩と私に近づいてくる。彼の足元から広がる氷が、私の古びたスカートの裾を白く染めていく。


「狂う……脳が、融ける……。誰か……止めろ……ッ!」


彼がガクリと膝をついた。その拍子に、彼の大きな手が、地面に突いた私の手の上に重なった。


――その瞬間だった。


カチリ、と頭の中で何かが噛み合う音がした。

私の身体の奥深く、これまで一度も揺らぐことのなかった暗闇の底から、温かく、眩いほどの「光」が爆発的に溢れ出したのだ。

それは、目に見える光ではなかった。だが、確実に対象を包み込む、至高の癒やしの奔流。


「――え?」


驚いたのは私だけではない。

ギルベルト公爵の身体が、びくりと大きく跳ね上がった。

私の手から流れ出た目に見えない温かな何かが、彼の全身を覆っていたどす黒い呪霧を、またたく間に霧散させていく。彼の肌を苛んでいた激しい血管の脈動が静まり、周囲の凄まじい冷気が、嘘のように凪いでいった。


「……は……っ、あ……?」


ギルベルトの口から、荒い呼吸が漏れる。

彼の瞳から濁った赤色が急速に引き、澄み渡るような、美しい琥珀がかった氷ブルーの色彩が戻ってきた。

彼は信じられないものを見る目で、自分の手の下にある私の小さな手を見つめ、それから私の顔を凝視した。


「お前……今、何をした……?」


その声には、先ほどの狂気は一切なかった。ただ、深い困惑と、魂を揺さぶられたような衝撃だけが混ざっている。


「私は……何も……」


答えようとした瞬間、緊張の糸が切れた私は、急激な疲労感に襲われて視界がぐにゃりと歪んだ。生まれて初めて「何か」を体外に放出した反動だろうか。身体から全ての力が抜けていく。


「おい、しっかりしろ!」


倒れそうになる私の身体を、彼の強靭な腕がしっかりと受け止めた。

冷徹と恐れられる公爵の胸の中は、驚くほど熱く、男らしい匂いに満ちていた。彼は私の顎を長い指先ですくい上げ、その鋭い視線で私の瞳の奥を覗き込んできた。


「俺の呪いが……完全に静まった。この女の、声と、接触だけで……」


ギルベルトは独り言のように呟くと、その冷徹な唇の端を、妖しく、そして傲慢に釣り上げた。


「面白い。お前が何者かは知らんが、離すつもりはない。――おい、俺の妻になれ」


「……へ?」


それが、私の二十歳の誕生日に起きた、人生最大の転換点。

無能と呼ばれた私が、帝国最強の「氷狼公爵」に捕らえられた瞬間だった。


第2話:初夜の契約、冷徹な誓い

「お前を我がヴァルハイト公爵家の正式な『婚約者』、いや――『正妃』として迎え入れる。異論は認めん」


その男の言葉は、提案ではなく、絶対的な『宣告』だった。


オルブライト伯爵邸の薄暗い応接室は、凍りつくような沈黙に支配されていた。

つい数時間前まで、私を「無能」「出来損ない」と罵り、物置小屋に閉じ込めていた父と継母は、今や見たこともないほど真っ青な顔で床に額を擦りつけている。それもそのはずだ。彼らの目の前に鎮座しているのは、王国の最高権力者の一人であり、戦場の生ける伝説――ギルベルト・フォン・ヴァルハイト公爵その人なのだから。


「こ、公爵閣下……! 何かの間違いではございませんか!? そのエルセは、我が家の恥晒しとも言うべき、魔力を持たない無能でございます! もしや、我がジュリアとお見間違えでは――」


継母が、必死に自分の娘を売り込もうと震える声を出した。

その瞬間。


「黙れ。不快だ」


ギルベルトがピシャリと言い放つ。ただそれだけの言葉に、部屋の空気が物理的な重圧となって二人を押し潰した。彼の琥珀がかった氷ブルーの瞳が、冷酷な光を放つ。


「俺が求めているのはエルセだ。お前たちの腐った魔力など、俺の呪いの前には何の役にも立たん。……これ以上、俺の妻を愚弄するならば、オルブライト伯爵家を明日の朝を待たずに潰すが?」


「ひ、ひえっ……!」


父と継母は完全に言葉を失い、ただガタガタと震えることしかできなかった。

私は、ボロ布のような衣服のまま、ただ呆然とギルベルトを見つめていた。彼は立ち上がると、私の無骨で傷だらけの手を、まるで壊れ物を扱うかのように――だが、決して逃がさないという強い力で包み込んだ。


「行くぞ、エルセ。こんなゴミ溜めに、お前を置いておく時間は一秒もない」


こうして私は、着の身着のまま、夢にまで見たオルブライト伯爵家からの『解放』を果たすことになった。――しかし、それが本当の幸福への道なのか、それとも新たな地獄の始まりなのか、その時の私には知る由もなかった。


ヴァルハイト公爵邸は、王都の小高い丘の上にそびえ立つ、息をのむほど壮麗な黒曜石の城だった。

出迎えた使用人たちは、ボロボロの私を見ても顔色一つ変えず、むしろ深い同情と敬意を込めて「お待ちしておりました、エルセ様」と頭を下げた。すぐに用意された薔薇の香りの湯に浸かり、絹のようになめらかな極上のドレスに身を包んだ時、私はようやく、自分が本当にあの家を出たのだと実感した。


だが、息をつく暇もなく、私は最上階にある公爵の執務室へと呼び出された。


「座れ」


机に向かい、書類にペンを走らせていたギルベルトが、顔を上げずに言った。

昼間の軍服姿とは違い、上着を脱いで白い上質なシャツを身にまとった彼は、彫刻のように美しい容姿がさらに際立って見えた。しかし、その全身から漂う「人を寄せ付けない拒絶のオーラ」は、昼間よりもずっと強くなっているように感じられた。


私が恐る恐るソファーに腰を下ろすと、彼はペンを置き、組み替えた長い脚をこちらに向けて、冷徹な視線を突き刺してきた。


「単刀直入に言う。お前をここに連れてきたのは、愛しているからでも、憐れみからでもない。――お前の持つ『力』が欲しいからだ」


低く、抑えられた声が室内に響く。


「俺の身体には、黒枯れの森の特級魔獣から受けた『呪い』が刻まれている。夜な夜な理性を奪われ、骨を融かされるような激痛に襲われる呪いだ。王都のいかなる高位魔導師も、聖女の癒やしさえも、この呪いを抑えることはできなかった。……だが、昼間のお前の『声』と『接触』だけは、驚くほど劇的に呪いを鎮めた」


ギルベルトは立ち上がり、ゆっくりと私に近づいてくる。彼の影が私を覆い尽くし、心臓がトクンと跳ね上がった。


「お前は実家で『無能』と虐げられていたようだが、それはお前の魔力が『神聖属性』の極致であり、既存の測定器では計測不能だったからに過ぎん。お前は、俺を生かすための唯一の『道具』だ」


「道具……」


その言葉に、胸がチクリと痛んだ。オルブライト家での扱いと、本質的には変わらないのかもしれない。悲しみが胸をよぎる。

しかし、ギルベルトは私の顎を再びすくい上げ、じっと目を合わせながら言葉を続けた。その瞳の奥には、冷徹さとは裏腹に、どこか哀切を帯びた、激しい感情の揺らぎが見えた。


「そうだ。だが、道具である以上、最高の待遇を約束する。この邸での地位、財産、お前を脅かす者からの絶対的な保護。これらすべてをお前に与えよう。お前が俺に与えるべきは、ただ一つ。――俺が狂いそうになった時、その身を以て俺を正気に繋ぎ止めることだ」


彼の熱い指先が、私の唇をなぞる。その感触だけで、昼間に感じたあの『光』が、身体の奥で小さく疼くような感覚があった。


「お前に拒否権はない。これは契約だ。……そして今夜から、お前は俺と同じ部屋で眠ってもらう」


「えっ……!? お、同じ部屋、ですか……?」


「当然だ。呪いがいつ暴走するか分からん。いつでも触れられる距離にいろ」


私の顔が、一気にカッと熱くなる。二十歳になるまで、男性と手を握ったことすらなかった私に、同じ部屋で眠るなど、刺激が強すぎる。


「案ずるな」


ギルベルトはフッと冷たい笑みを漏らし、指を離した。


「先ほども言った通り、お前を愛するつもりはない。夜の営み(・・・・・)を強要するつもりもない。これはあくまで『治療』だ。お前が望まぬ限り、俺はお前に指一本触れん。……ただの『白い結婚』だと思え」


その言葉に、私はホッと安堵すると同時に――なぜか、ほんの少しだけ、胸の奥が締め付けられるような、奇妙な寂しさを覚えたのだった。


深夜。公爵の主寝室。

部屋の中央に鎮座する、広大な天蓋付きのベッド。私は、絹のネグリジェ姿で、その端の方に身を縮めて横たわっていた。

隣には、同じベッドに横たわるギルベルトがいる。


部屋の明かりは落とされ、月光だけが室内を淡く照らしている。

ギルベルトは私に背を向け、微動だにせず眠っているようだった。


(本当に……触れてこない。あたり前よね、私はただの『呪い除け』なのだから……)


静寂の中、自分の鼓動の音だけが大きく聞こえる。

冷徹と言われたけれど、彼は私をあの地獄のような実家から救い出してくれた。道具としてであれ、必要としてくれた。それだけで、私にとっては十分すぎるほど救いだった。


(ギルベルト様が、少しでも楽になるなら、私は喜んで道具になります――)


そう心の中で誓い、目を閉じようとした、その時だった。


「――っ……う、あ、ガはっ……!」


突如として、隣から押し殺したような、凄絶な呻き声が聞こえた。

跳ね起きると、ギルベルトが激しく身体を震わせ、胸を掻きむしっていた。彼の肌から、あのどす黒い呪いの霧がモウモウと立ち上り、部屋の温度が急激に低下していく。


「ギルベルト様!?」


「来るな……っ! 今夜は……いつもより、衝動が……強い……っ! お前を、噛み殺して、しまう……っ!」


彼の氷ブルーの瞳が、瞬く間にあの狂気の赤色へと染まっていく。理性を失いかけた彼は、ベッドから逃れようと這い出そうとする。

だが、その背中は、耐え難い痛みのせいで激しく痙攣していた。


(ダメ……! 行かせない!)


私は本能的に動いていた。

ベッドを飛び出し、ギルベルトの逞しい背中に、後ろから思い切り抱きついたのだ。


「――ッ!?」


「逃げないでください! 私は、あなたの道具でしょう!? 私を使ってください、ギルベルト様!」


細い腕で、彼の広い背中を必死にホールドする。

その瞬間、私の身体から、昼間よりもさらに濃密で、圧倒的な『聖なる光』が溢れ出し、ギルベルトの身体へと流れ込んでいった。


「あ……が、ああああっ……!」


ギルベルトの口から、引き裂かれるような悲鳴が上がる。それは、呪いが急激に浄化されることによる、拒絶と快楽の混ざった声だった。

彼は凄まじい力で反転すると、私をベッドのふかふかなシーツの上へと押し倒した。


「ギル、ベル……んっ!」


言葉は、彼の熱い手のひらによって遮られた。

私を組み敷いたギルベルトの顔は、至近距離にあった。赤と青が激しく混ざり合う彼の瞳が、ギラギラとした強い『肉食獣の欲望』を孕んで私を見下ろしている。彼の荒い息が、私の鎖骨のあたりに吹きかかり、全身が粟立つ。


「道具、だと……? お前は、自分がどれほど恐ろしいことを言っているか、分かっていない……」


ギルベルトの声は、掠れ、酷く色っぽく震えていた。

彼の大きな手が、私の細い手首を掴み、ベッドの上に固定する。肌と肌が触れ合うたびに、私の魔力が彼の中に流れ込み、彼の呪いを激しく溶かしていく。その心地よさに、ギルベルト自身も理性のエッジが融けかかっているようだった。


「指一本触れないと言ったが……前言撤回だ。お前のこの甘い光が……俺を、狂わせる……」


「ギル、ベルト様……あ……」


恐怖はなかった。ただ、彼の琥珀の瞳に見つめられ、身体の奥がじんわりと熱くなっていく。

ギルベルトは、耐えかねたように顔を近づけ――。


私たちの唇が、静かに、だが抗いようのない力で重ね合わされようとしていた。


第3話:氷の仮面がひび割れる時

「――っ、は……、ぁ……」


どれほどの時間が経ったのだろう。

カーテンの隙間から差し込むかすかな朝の光が、ヴァルハイト公爵邸の主寝室を白々と照らし始めていた。

私はゆっくりと意識を浮上させ、自分の置かれた状況に気づいて、危うく悲鳴を上げそうになった。


(え……っ!? な、何、これ……っ?)


私の身体は、大きな、そして驚くほど熱い肉体にすっぽりと包み込まれていた。

ギルベルト様の逞しい腕が私の腰をがっちりと抱き込み、彼の胸板に私の背中が隙間なく密着している。まるで、大切な宝物を外敵から隠すように、強く、執拗なまでの力加減で抱きすくめられていたのだ。

彼の規則正しい、低く落ち着いた寝息が、私のうなじに直接吹きかかってくる。そのたびに、ゾクゾクとした甘い電流が背筋を駆け抜け、顔が爆発しそうなほど熱くなった。


昨晩の記憶が、濁流のように脳裏に蘇る。

呪いの激痛に狂いかけたギルベルト様を、私は後ろから抱きしめた。彼は私を組み敷き、その琥珀がかった氷ブルーの瞳に危険な情欲を灯して、私に口づけようとしたのだ。


『お前のこの甘い光が……俺を、狂わせる……』


掠れた、ひどく色っぽい声が耳の奥でリフレインする。

結局、昨夜は唇が触れ合う寸前で、ギルベルト様が超人的な理性で自らを律した。彼は苦しげに顔を背け、「すまない、これ以上は俺の理性が持たん」と呟くと、そのまま私を自身の身体に強く巻き付けるようにして、夜を明かしたのだった。肌を密着させているだけで、私の「神聖魔力」が彼の呪いを中和し続けたため、彼はそれ以上暴走することなく、深い眠りに落ちることができたらしい。


(指一本触れないって言っていたのに……。ううん、これは『治療』なのだから、変に意識しちゃダメよね。私はただの、呪い除けの道具なのだから……)


自分にそう言い聞かせるけれど、トクトクと早く打つ心臓の音を止めることはできない。

私が緊張で身を硬くしていると、後ろの大きな身体が、わずかに身じろぎした。


「……ん……」


ギルベルト様の長い睫毛が震え、ゆっくりと瞳が開かれる。朝日に照らされたその瞳は、昨夜の禍々しい赤色は完全に消え去り、澄み渡るような美しい氷ブルーに戻っていた。

彼は自分が私を抱きつぶすようにしている状況を自覚すると、端正な顔をわずかに硬直させた。


「……目覚めたか、エルセ」


「は、はい! おはようございます、ギルベルト様!」


私は慌てて彼の手から抜け出し、ベッドの上に正座して頭を下げた。ネグリジェの胸元が少し乱れていることに気づき、慌てて手で隠す。

ギルベルト様はベッドの上に上半身を起こすと、乱れた銀髪を面倒そうに掻き揚げた。その隙から覗く彼の鎖骨や胸元の肌が、朝の光にさらされて、息をのむほどに雄々しく、美しい。


「……昨夜は、その、取り乱した。お前に恐怖を植え付けたのなら、謝罪する」


彼はふいっぽく顔を背け、低い声で言った。その耳の尖端が、ほんの少しだけ赤くなっているように見えるのは、私の気のせいだろうか。


「いいえ! 恐怖なんてありません! お役に立てて、私は嬉しかったのです。昨日も申し上げた通り、私はギルベルト様の道具ですから、いくらでも使ってください!」


私が大真面目にそう言うと、ギルベルト様はなぜか酷く複雑な表情を浮かべ、深く、重い溜息をついた。


「お前は……本当に無防備というか、危機感がないな。……まあいい。約束通り、今日からお前をこの邸の新たな主として扱う。まずは朝食を摂りに行こう」


着替えを終え、広大なダイニングルームへと移動すると、そこには信じられない光景が待っていた。

長大なテーブルの上に並べられた、山のようなご馳走。焼き立てのパンの香ばしい匂い、新鮮な果物、ジューシーな肉料理に、見たこともないほど繊細なスープ。


「エルセ様の御用達を祝して、料理長が腕によりをかけました。どうぞお好きなだけお召し上がりください」


老執事のハンスが、温かい微笑みを浮かべて一礼する。

私はその豪華さに圧倒され、フォークを持つ手が震えてしまった。オルブライト家では、一週間前のカビの生えたパンの残りと、薄い泥のようなスープしか与えられていなかったのだ。


「……どうした? 口に合わないか」


向かいの席に座るギルベルト様が、不審そうに眉をひそめる。


「いえ、そんな滅相もないです! ただ、こんなに素晴らしいお料理を、私がいただいても良いのかと思ってしまって……」


私が正直に答えると、ギルベルト様の目がわずかに細められた。ハンスをはじめ、周囲に控えていたメイドたちの表情が一瞬で沈み、オルブライト伯爵家への無言の怒りが部屋を満たす。


「エルセ、何度も言わせるな。お前は俺の妻であり、この邸の主だ。お前が飢えるなど、ヴァルハイト公爵家の名が許さん。……ハンス」


「はっ、ただちに」


ハンスは私の皿に、次々と美味しそうな料理を優しく取り分けてくれた。

私は意を決して、スープを一口口に含む。その瞬間、濃厚な旨味と温かさが口いっぱいに広がり、胸の奥がじんわりと解けていくような感覚に包まれた。


「美味しい……! こんなに美味しいもの、生まれて初めて食べました……!」


私がパッと顔を輝かせて笑うと、ダイニングの空気が一瞬で和らいだ。メイドたちの中には、あまりの健気さに涙ぐんでいる者さえいる。

ふとギルベルト様を見ると、彼は頬杖をついたまま、私の食事の様子をじっと見つめていた。その氷のようだった瞳に、どこか柔らかい、温かな光が灯っているのを私は見逃さなかった。


「……たくさん食え。お前は細すぎる。俺を支える道具なら、もっと体力をつけてもらわねば困る」


「はい! たくさん食べます!」


不器用な彼の言葉の裏にある優しさが、今の私にはとても心地よかった。


朝食の後、ギルベルト様は公務のために執務室へと籠もってしまった。

私は広大な邸の中で、自分にできることはないかと探し始めた。何もせず、ただ贅沢な暮らしを与えられるだけでは、「道具」としての申し訳なさで胸が押し潰されそうだったからだ。


「エルセ様、どうかお部屋で休まれていてください。私たちは、エルセ様が快適に過ごされることが一番の願いなのですから」


メイドのアンナが困ったように言うが、私は首を振った。


「お願い、アンナ。少しだけでもいいから、私にお手伝いをさせて。じっとしている方が落ち着かないの。……そうだ、ギルベルト様にお茶をお持ちするのは、私がやってもいいかしら?」


私の必死の願いに、アンナは根負けしたように微笑んだ。


「分かりました。では、旦那様がお好きな特製のハーブティーの淹れ方をお教えしますね。……実は、旦那様は普段、お仕事中は非常に神経質になられて、私たちでも近づくのが恐ろしいほどなのです。でも、エルセ様ならきっと、旦那様の心を和らげることができると思いますわ」


アンナの指導のもと、私は心を込めて丁寧にお茶を淹れた。オルブライト家で嫌というほど叩き込まれた家事の技術が、こんなところで役に立つとは思わなかった。


トレイにお茶を載せ、私は緊張しながら最上階の執務室の前に立った。

コンコン、とドアを叩く。


「……ハンスか。入れ。言っておくが、次の予算書類ならまだ終わって――」


中から聞こえるギルベルト様の声は、驚くほど低く、ひりつくような威圧感を孕んでいた。アンナの言った通り、仕事中の彼は近づき難い「氷狼」そのものだった。


「失礼いたします、ギルベルト様。お茶をお持ちしました」


私がそっとドアを開けて入っていくと、ギルベルト様は驚いたように目を見張った。山積みの書類に囲まれ、眉間に深い皺を寄せていた彼の表情が、私の姿を見た瞬間に目に見えて和らいでいく。


「お前が……なぜお茶を」


「お仕事がお忙しいと伺ったので、少しでもお疲れが取れればと思いまして……。アンナに教えてもらって、一生懸命淹れました」


私は机の端にトレイを置き、カップにお茶を注いだ。さわやかなミントとカモミールの香りが、張り詰めていた執務室の空気を優しく満たしていく。


「どうぞ、ギルベルト様」


私が笑顔でお茶を差し出すと、ギルベルト様は一瞬躊躇うように手を伸ばし、カップを受け取った。そして、静かに一口すする。


「……驚いたな」


「お、口に合いませんでしたか……?」


不安になって覗き込むと、ギルベルト様は小さく首を振った。


「いや、美味い。ハンスが淹れるものよりも、ずっと、心が落ち着く味がする。……お前の淹れた茶には、その『光』の魔力が混ざっているのか?」


「えっ? 私は普通に淹れただけですが……」


「ふっ、無自覚か。本当に底が知れないな、お前は」


ギルベルト様はそう言うと、ふっと微かな、だが確かに、これまでで一番優しい笑みを浮かべた。その笑顔の美しさに、私の心臓が大きく跳ね上がる。胸の奥が熱くて、息が上手くできなくなる。


彼がカップを置いた。そして、机越しに私の手をそっと取った。

彼の長い指先が、私の手のひらにある、これまでの労働でできた固いマメや、小さな傷跡を優しくなぞる。


「あ……あの、ギルベルト様……?」


「これほどの傷を負うまで、あの家に虐げられていたのだな。……許せん。お前を傷つける全てのものを、俺がこの手で噛み砕いてやりたい」


彼の瞳に、昼間とは違う、暗く、激しい独占欲の炎が揺らめいた。

彼の指先が、手のひらから手首へ、そしてゆっくりと私の頬へと滑り上がってくる。


「ギル、ベルト様……っ」


熱い。彼の指先が触れる場所から、身体がじりじりと焼けていくようだ。

昨夜のあの、押し倒された時の情熱的な空気感が、再び二人の間に立ち込め始める。ギルベルト様の視線が、私の唇へと注がれる。彼の琥珀のブルーが、熱っぽく潤んでいくのが分かった。


彼が机から身を乗り出し、私の顔にその美しい顔を近づけていく。

あと数センチで、お互いの息遣いが完全に重なる――。


その時。


――コンコン。


「閣下、北方師団からの緊急伝令が入りました。至急、ご確認をお願いいたします」


ハンスの冷静な声が、非情にもドアの外から響き渡った。


「――ッ!?」


私は弾かれたように後ろに飛び退いた。顔が耳まで真っ赤になり、心臓が壊れそうなほど激しく波打っている。

ギルベルト様は、差し伸べた手を空中で止め、酷く忌々しそうな、今にもハンスを斬り殺しそうなほどの恐ろしい形相でドアを睨みつけた。


「……チッ、分かった。すぐに行く」


ギルベルト様は忌々しげに舌打ちをすると、立ち上がり、私の横を通り過ぎる際に、私の頭を乱暴に、だけど愛おしそうにクシャリと撫でた。


「エルセ。お茶は美味かった。……続きは、今夜のベッドの上でな」


耳元でそう囁かれ、私はその場にへたり込んでしまいそうだった。

氷の公爵様の仮面が、私の前で少しずつ、だが確実にひび割れ、その奥にある「獰猛な執着」が顔を覗かせ始めていた。それに気づいていながら、私の心は、恐怖ではなく、甘い期待に震えていたのだった。


(第4話へ続く)




第4話:狂気の夜と、初めての口づけ

その日は、天空から光が完全に消え去る「新月」の夜だった。


昼間の執務室での、あの一触即発の甘い空気。

『続きは、今夜のベッドの上でな』

ギルベルト様に囁かれた言葉を思い出すたびに、私は胸を高鳴らせ、一人で顔を赤らめていた。けれど、お城の古参のメイドたちやハンスの表情が、日が暮れるにつれて目に見えて強張っていくのを見て、私は自分の浮ついた心を恥じ、引き締め直した。


「エルセ様……今夜は新月です。新月の夜は、旦那様の中に宿る魔獣の呪いが、一年のうちでも最も激しく暴れ狂う日なのです」


夕食の際、ハンスが沈痛な面持ちで教えてくれた。

「普段なら、旦那様はご自身を地下の頑丈な最深監獄に隔離し、朝が来るまでただ一人で苦痛に耐えられます。ですが……今夜はエルセ様がいてくださる。どうか、旦那様をお救いください。しかし、もし生命の危険を感じられたら、すぐに部屋の外へ逃げてください」


(逃げるなんて、絶対にしない……!)


私は、寝室の広大なベッドの上で、膝を抱えてギルベルト様の帰りを待っていた。

深夜、静まり返った部屋の扉が、音もなく開いた。


「……エルセ、起きていたのか」


入ってきたギルベルト様の姿に、私は息を呑んだ。

軍服のボタンは引きちぎられ、乱れた銀髪の下の肌は、信じられないほど青白く乾いている。そして、彼の全身の皮膚の下を、どす黒い血管のような「呪いの紋様」が、まるで生き物のようにうごめき、脈打っていた。

その瞳は、昼間の美しい氷ブルーではなかった。すでに濁った、血のように凄絶な「赤色」が、彼の理性を侵食し尽くそうとギラギラと輝いている。


「ギルベルト様……!」


「来るな、と言いたいが……くそっ、今夜は、本当に、限界だ……!」


ギルベルト様はガクリと床に膝をつき、自身の胸元を、爪が食い込むほどの力で掻きむしった。彼の口から、獣のような、地獄の底から響くような呻き声が漏れる。部屋の温度が瞬く間に氷点下へと下がり、窓ガラスに白い霜の結晶が、不気味な音を立てて広がっていく。


骨がきしむ音が聞こえるほどの激痛。理性を焼き尽くす狂気。

彼は私を巻き込むまいと、自らの腕を噛みちぎらんばかりに噛み締め、衝動を抑えようとしていた。


(そんなに、自分を傷つけないで……!)


私の胸の奥で、何かが激しく弾けた。恐怖など、一瞬で消し飛んだ。

私はベッドを滑り降りると、床にうずくまる彼の大きな身体に、正面から強く飛びついた。


「――っ、お前……、離れろと言って、いるだろう……!」


「離れません! 私はあなたの妻です! あなたの道具です! 苦しいなら、全部私にぶつけてください!」


彼の逞しい首筋に両腕を回し、その引き締まった身体を必死に抱きしめる。

その瞬間、私の身体の奥底から、これまでとは比べ物にならないほどの、圧倒的な量と密度の「聖なる光」が爆発した。それはまるでお湯のように温かく、まばゆい奔流となって、ギルベルト様の身体を包み込んでいく。


「あ、が、あぁぁぁああっ……!!」


ギルベルト様が、引き裂かれるような絶叫を上げた。

私の神聖魔力が、彼の身体に深く根を張る魔獣の呪いと激しく衝突し、それを強引に融解させていく。その衝撃と、あまりの心地よさに、彼の理性の最後の一線が音を立てて崩壊した。


「エル、セ……ッ!!」


ドサリ、と激しい音が響く。

気がついた時には、私はふかふかのベッドの上に押し倒されていた。

上から私を組み敷くギルベルト様の重量感が、私の細い身体にずっしりとのしかかる。彼の熱い手のひらが、私の両手首を容赦ない力でベッドに縫い付けた。ビキ、と手首がきしむほどの強烈な力。けれど、不思議と痛みはなかった。


至近距離で見下ろしてくる彼の顔は、まさに飢えた「氷狼」そのものだった。

濁った赤い瞳が、激しい独占欲と、抗えない性衝動に濡れてギラついている。彼の荒い息が、私の唇や首筋に吹きかかり、それだけで身体が痺れるように熱くなっていく。


「お前が……お前が俺を拒まないのが悪い……。もう、限界だ。理性が、吹き飛ぶ……」


「ギル、ベルト様……」


「治療だと……? 道具だと……? お前は、そんな言葉で、俺が大人しく引き下がるとでも思っていたのか?」


彼の声は低く、ひどく掠れていて、残酷なほどに色っぽかった。

ギルベルト様は固定していた私の片手を離すと、その大きな手で私のネグリジェの襟元を掴み、無造作に引き下げた。

白露にさらされた私の鎖骨と肩の肌に、彼の冷たい指先が触れる。その瞬間、お互いの肌から激しい火花が散るような感覚があった。触れ合えば触れ合うほど、私の魔力が彼へと流れ込み、彼の呪いの痛みを快楽へと変えていく。


「あ……っ、ん、は……」


初めて知る男性の、容赦のない愛撫の熱さに、私の口から甘い悲鳴が漏れた。

ギルベルト様は、私の鎖骨にその鋭い犬歯を立て、甘噛みするように強く吸い付いた。


「っ……、ぁ!」


「お前の身体は、どうしてこんなに甘くて、温かい……。俺のすべてが、お前を喰らい尽くせと叫んでいる」


彼は狂おしげに呟くと、私の顎を強引に上向かせた。

拒絶する隙など、一秒も与えられなかった。


――ん、む……。


激しく、深く、私たちの唇が重ね合わされた。

それは、昼間の焦れったい距離感をすべて踏み潰すような、強引で、獰猛な口づけだった。


「ん、うぅ……っ、ん、は……」


彼の熱い舌が、私の不慣れな唇を割って容赦なく中に侵入してくる。口内を隅々まで愛撫され、息をする吸い口さえもすべて奪い去られていく。私の脳内は一瞬で真っ白になり、身体から完全に力が抜けて、シーツへと沈み込んでいった。


ただの「接触」よりも、唇と唇を合わせ、互いの息を交わす口づけの方が、何十倍も強く魔力が循環していく。

ギルベルト様は、私の口内から溢れる神聖な魔力を貪るように、何度も、何度も角度を変えて深く、深く唇を貪り続けた。彼の瞳から、濁った赤色が少しずつ、だが確実に、熱情を孕んだ美しい氷ブルーへと押し戻されていく。


「エルセ……、エルセ……っ」


キスの合間に、彼は私の名前を何度も、祈るように、呪いのように呼びかける。その声には、冷徹な公爵としての面影などどこにもなく、ただ一人の女性を激しく欲する、哀れなほどに貪欲な男の生身の感情が溢れていた。


「ギル、ベル……様……、ん、あ……」


私は奪われる快感に身を震わせながらも、彼の背中にそっと手を回した。

私の拙い愛撫が、彼の背中のうごめく呪紋をさらに優しく溶かしていく。


新月の夜の深い闇の中。

私たちは互いの身体を求め合い、貪り合いながら、朝が来るまで何度も、何度も激しい口づけを交わし続けた。

これは「治療」の範疇を、とうに超えてしまっている。

お互いにそれを自覚していながら、引き返すことなど、もう誰にもできなかった。氷狼公爵の獰猛な執着の炎が、私の全てを焼き尽くそうと、激しく燃え上がっていた。


(第5話へ続く)



第5話:加速する独占欲

嵐のような新月の夜が明け、数日が過ぎた。


あの日以来、ヴァルハイト公爵邸の空気は、これまでとは劇的に、そして少々奇妙な方向へと変化していた。

何が変わったかと言えば、他でもない。私を「道具」と呼び、愛するつもりはないと言い放ったギルベルト様ご本人の態度である。


「エルセ、今日の体調はどうだ。どこか痛むところはないか? 少しでも身体が重いと感じたらすぐに言うんだ。今日の公務はすべてキャンセルして、一日中お前を抱きしめてベッドで過ごしてもいい」


「ギ、ギルベルト様っ……! 私はいたって元気ですから、公務に行ってくださいっ!」


朝のダイニングルーム。

私の隣の席にこれでもかと椅子を寄せ、私の手を両手で包み込みながら真剣な目で覗き込んでくるギルベルト様に、私は顔を真っ赤にして抗議した。

あの新月の夜、貪るような激しい口づけを朝まで幾度も交わして以降、彼の「氷の仮面」はどこかへ吹き飛んでしまったらしい。今や、隙さえあれば私の髪を撫で、頬に触れ、熱い視線を注いでくる。


「……お前が元気ならいい。だが、あの夜、俺はお前に酷いことをした。手首にもまだ微かに赤みが残っている……。俺の理性が狂ったせいで、お前を傷つけた。そう思うと、胸が引き裂かれそうになる」


ギルベルト様は切なげに眉をひそめ、私の手首にそっと唇を寄せた。

ちゅ、と微かな甘い音が室内に響く。


「んっ……、あ、あの、ハンスさんたちが見ています……!」


恥ずかしさのあまり消え入りそうな私を余所に、背後に控える老執事のハンスやメイドたちは、皆一様に「ああ、微笑ましい……」「旦那様が人間の心を取り戻された……」と、涙ぐみながら温かい眼差しを向けている。誰も止めてくれない。


「ハンスが見ていようが関係ない。お前は俺の妻だ。これほど愛らしい者を、片時も離したくないと思うのは男として当然だろう。……ああ、今日も軍の演習など行きたくない。お前をこの腕に閉じ込めておきたい」


低く、甘く、掠れた声。あの冷徹だった「氷狼公爵」が、今や私に対して、まるで飢えた獣のような、底なしの独占欲を隠そうともしないのだ。

彼が私を「道具」ではなく「一人の女性」として求めてくれている。その事実が、私の胸をどうしようもないほど甘く、激しく揺さぶっていた。


「……だが、仕方ない。夕方には必ず戻る。エルセ、他の・・に、その笑顔を見せるなよ。部下の騎士どもであっても、お前を色目で見れば、俺がその目をくり抜きかねん」


美しい氷ブルーの瞳に、冗談とは思えない本気の「昏い執着」を灯して、ギルベルト様は最後に私の額へ深く、吸い付くような口づけを落とし、後ろ髪を引かれるようにして出仕していった。


ギルベルト様が不在の間、私は彼の過保護な言いつけを守りつつ、邸の図書室で過ごしていた。

自分の内に宿る「神聖魔力」について調べるためだ。

本を紐解くと、私の持つような「測定不能の治癒魔力」は、歴史上、ほんの数人しか確認されていない稀少なものであることが分かった。国を揺るがすほどの聖女の力。そんな強大な力を、魔力なしの「無能」だと思い込んでいたなんて、今さらながら恐ろしくなる。


(でも、この力のおかげでギルベルト様を救える。そのためなら、私はなんだってするわ)


そう決意を新たにした時、図書室の扉が慌ただしく開いた。ハンスが、普段の冷静さを欠いた硬い表情で入ってくる。


「エルセ様、少々不穏な知らせがございます」


「ハンスさん? どうしたのですか?」


「オルブライト伯爵家……エルセ様のご実家が、王都の貴族街で不審な動きを見せております。どうやら彼らは、エルセ様がヴァルハイト公爵家へ入られて以降、旦那様の呪いの発症がピタリと止まった原因を嗅ぎ回っていたようでございます。そして……」


ハンスは悔しげに唇を噛んだ。


「エルセ様が『無能』ではなく、特級の『神聖魔力』の保持者であるという確信を得たようです。今朝、オルブライト伯爵が『我が家の至宝である娘を、公爵に無理やり奪われた。連れ戻す』と、周囲の貴族たちに触れ回っているとの報告が入りました」


「そんな……っ!」


背筋に冷たいものが走った。

あの冷酷な父と継母、そして妹のジュリアの顔が脳裏をよぎる。彼らは私を人間扱いしていなかった。だが、私に莫大な「価値」があると知った途端、その強欲な牙を剥いて私を檻に連れ戻そうというのだ。


「旦那様が邸におられれば一蹴できる問題ですが、あいにく本日の演習地は王都から離れた結界内。通信魔導具も繋がりません。……そして、非常に悪いことに、今夜は王宮で、全貴族の出席が義務付けられている『夏至の祝祭夜会』がございます」


「夜会……」


「はい。王命による夜会ゆえ、公爵家の主代行として、エルセ様も出席せざるを得ません。おそらく、オルブライト伯爵家はそこを狙って、エルセ様を公衆の面前で陥れ、連れ戻すための『罠』を仕掛けてくるものと思われます」


ハンスの言葉に、私の心臓が恐怖でドクドクと脈打ち始める。

ギルベルト様がいない夜会。そこに待ち受ける、かつて私を地獄に突き落とした家族たち。


逃げ出したい、という本能的な恐怖が頭をもたげる。

しかし、私はぎゅっと自分の両手を握りしめた。ギルベルト様が私を救ってくれた。最高の待遇と、溢れるほどの愛をくれた。今度は、私が公爵家の名に恥じぬよう、堂々と立ち向かう番だ。


「ハンスさん、夜会の準備をお願いします。私は逃げません。ヴァルハイト公爵の妻として、立派に務めを果たします」


「……エルセ様。おお、なんと勇敢な……。畏まりました。我が公爵家の精鋭の護衛を、影に潜ませます。何があっても、エルセ様をお守りいたします!」


その夜。王宮の大舞踏会。

きらびやかなシャンデリアの光が降り注ぐ会場は、着飾った貴族たちで埋め尽くされていた。

ヴァルハイト公爵家の紋章が刺繍された、豪奢な深紅のドレスを身にまとった私が会場に足を踏み入れた瞬間、周囲の視線が一斉に突き刺さった。


「おい、見ろよ……。あれが、氷狼公爵が娶ったという没落令嬢か?」

「魔力なしの無能と聞いていたが……なんという気品だ」

「美しいな……」


ひそひそ話が波のように広がる。私は緊張で震えそうになる足を必死に堪え、背筋を伸ばして歩を進めた。


だが、その静寂を引き裂くように、不快な高笑いが響き渡った。


「あらあら? どこの泥棒猫かと思えば、我が家を這い出た泥塗れのエルセじゃないの。そんな立派なドレスを着せてもらって、お人形ごっこかしら?」


人混みを割って現れたのは、派手な黄金のドレスを着たジュリアと、傲慢な笑みを浮かべた父と継母だった。

ジュリアのサファイアの瞳には、私への激しい嫉妬と、見下すような悪意がギラギラと燃え盛っている。


「ジュリア様……、お父様……」


「気安く呼ぶな、この裏切り者め!」

父が一歩前に出て、周囲に聞こえよがしな大声を上げた。

「皆の者、聞くがいい! このエルセは、我がオルブライト伯爵家が極秘裏に育てていた、至高の神聖魔力を持つ『聖女』である! それを、ギルベルト公爵は軍事力を背景に、我が家から脅し取るようにして掠奪したのだ! これは王国の法に反する暴挙である!」


会場が騒然となる。

「な、何だって!?」

「氷狼公爵が掠奪を?」


卑劣な嘘。私を物置に閉じ込め、無能と罵っていたくせに、今さらそんな大言壮語を吐くなんて。


「違います! 私は掠奪などされていません! 私は、ギルベルト様に救われたのです!」

私は必死に声を張り上げたが、ジュリアがそれを嘲笑うように遮った。


「黙りなさい、エルセ。あなたが公爵に『弱み』を握られて、脅されているのは分かっているのよ。……さあ、お父様、お母様。この哀れなお姉様を、今すぐ連れ戻しましょう。公爵の手から『保護』するのです!」


ジュリアが合図を送ると、オルブライト家の私兵たちが、私を囲むようにしてじりじりと近づいてきた。

公爵家の影の護衛たちが動こうとした、その時――。


「――お前たち、その汚い手で誰に触れようとしている?」


地獄の底から響くような、凄絶な冷気を孕んだ声が、広い舞踏会会場の隅々にまで叩きつけられた。


会場の巨大な扉が、凄まじい魔力の風圧によって吹き飛ぶようにして開く。

そこに立っていたのは、軍服に身を包み、漆黒の外套をなびかせた――ギルベルト様だった。

彼の氷ブルーの瞳は、怒りのあまりに深い、深い「深淵の藍」へと染まり、その全身からは、周囲の人間を窒息させるほどの圧倒的な殺気が立ち上っていた。


「ギ、ギルベルト様……!?」


私がその名を呼んだ瞬間、ギルベルト様は一瞬で私の元へと移動し、私の腰を強引に抱き寄せて、自身の広い胸の中へと囲い込んだ。

そして、獲物を引き裂く直前の狼のような、獰猛極まりない視線をオルブライト伯爵家へと向けた。


「我が妻を……、俺の唯一の光を、誰が連れ戻すと言った? ……命が惜しくないようだな、有象無象ども」


氷狼公爵の、本当の怒りが爆発しようとしていた。


(第6話へ続く)


第6話:仕組まれた罠と、狼の怒り

「ひ、ひっ……あ、ヴァ、ヴァルハイト公爵……っ!?」


さきほどまで傲慢に私を見下ろしていた父の顔から、一瞬にして血の気が引いた。継母もジュリアも、まるで巨大な捕食者を目の前にした哀れな小動物のようにガタガタと震え、その場にへたり込んでいる。

会場を埋め尽くす数百人の貴族たちも、誰一人として息をすることすらできない。それほどまでに、私を背後から抱きしめるギルベルト様の身体から放たれる殺気は、圧倒的で、苛烈だった。


「演習地から王都へ戻る道すがら、不快なネズミが我が家の庭を嗅ぎ回っているという報告を受けてな。まさか、王宮の真ん中で我が物顔で吠えるほど、身の程を弁えぬ愚者だったとは」


ギルベルト様の低く冷徹な声が、凍りついた舞踏会会場に響き渡る。彼の長い指先が、私の腰を骨がきしむほどの強さで抱きすくめていた。絶対に離さない、誰の手にも触れさせないという、狂おしいほどの独占欲がその腕から伝わってくる。


「こ、公爵閣下! 誤解です、我々はただ、不当に連れ去られた娘を――」


「まだその汚い口を動かすか、オルブライト」


ギルベルト様が冷たく瞳を細めた瞬間、パキパキと不気味な音を立てて、父の足元の床が真っ白に凍りついた。冷気は瞬く間に彼の両足を覆い、極寒の氷の枷となって床に縫い付ける。


「ぎゃああああああっ!? ひ、冷たい、足が、私の足がっ!」


「お父様――っ!?」


悲鳴を上げる父を見捨て、ジュリアが必死の形相で声を張り上げた。

「公、公爵閣下! 騙されてはなりません! そのエルセは、我が家では一言も喋らず、魔力も隠していた陰気な女なのです! そんな無能よりも、私の方がずっと――」


「黙れ、色ボケの雌狐が」


ギルベルト様の視線がジュリアを射抜いた。その一瞥だけで、ジュリアは喉をかきむしり、呼吸を忘れたように声を失った。


「エルセがどれほど尊く、どれほど俺にとってかけがえのない存在か、お前たちのような強欲な寄生虫に理解できるはずもない。――ハンス」


「はっ、ここに」


いつの間にか背後に控えていた老執事が、冷徹に一礼する。


「オルブライト伯爵家が、神聖魔力を持つ我が妻を長年にわたり不当に監禁し、虐待していた証拠をすべて王室法廷に提出しろ。一族全員、二度と日の光を浴びられぬ地の果ての鉱山へ叩き込め。家資はすべて没収だ」


「畏まりました。ただちに、我が家の私兵と近衛騎士団を動かします」


「ま、待って、お待ちください……っ!」

継母が涙を流して縋ろうとするが、ギルベルト様は一秒たりとも彼らに視線を戻すことはなかった。彼は私の身体をひょいと、まるでお姫様抱きのように軽々と腕の中に抱き上げた。


「ギ、ギルベルト様……!?」


「帰るぞ、エルセ。こんな汚悪な場所に、お前をこれ以上一秒も居座らせたくない」


何百人もの貴族たちが呆然と見守る中、ギルベルト様は私を抱いたまま、堂々とした足取りで王宮を後にした。彼の胸板は驚くほど熱く、激しく脈打っていた。私を実家から救い出してくれた怒りと、私への異常なまでの執着が、彼の全身から痛いほどに伝わってきた。


王宮から公爵邸へと向かう、夜の馬車の中。

密室となった空間で、ギルベルト様は私を自分の膝の上に抱き乗せたまま、一刻も離そうとしなかった。


「あの……ギルベルト様、もう大丈夫ですから、降ろしてください……」


恥ずかしさで俯く私に対し、彼の氷ブルーの瞳には、まだ消えやらぬ暗い激情の炎が揺らめいていた。彼は私の細い顎を強い力ですくい上げ、強引に目を合わせる。


「大丈夫なわけがあるか。俺が、俺がどれほど肝を冷やしたか、お前は分かっていない」


その声は、怒りではなく、大切なものを失いかけた男の、切実な「恐怖」に震えていた。


「お前が、あの忌々しい家族の元へ連れ戻されるかもしれないと思った瞬間……俺の脳内は完全に狂った。この国ごと、あの伯爵家を跡形もなく消し去ってやろうかと本気で思った。お前を失うくらいなら、俺は世界のすべてを敵に回しても構わない」


「ギルベルト様……」


「お前は俺の光だ、エルセ。道具などという言葉で、二度と自分を縛るな。お前は、俺が命を懸けて愛し、独占すべき唯一の女だ」


彼の熱い唇が、私の額、目元、そして頬へと、貪るように幾度も押し当てられる。肌が触れ合うたびに、私の身体の奥から溢れる神聖な魔力が彼へと流れ込み、彼の張り詰めた心を優しく蕩かしていく。


けれど、今夜のギルベルト様は、それでは決して満足しなかった。

彼の視線が、私の唇へと吸い寄せられる。新月の夜よりも、昼間のお茶の時間よりも、何倍も濃厚で、暗い色気を持った「肉食獣の目」が、私を完全に捕らえていた。


「……邸に着いたら、もう、お前を絶対にベッドから離さない。覚悟しておけ、エルセ」


掠れた、ひどく熱い声。

馬車が公爵邸の門をくぐる音を聞きながら、私は彼の胸に顔を埋め、これから訪れる濃密な夜の予感に、身体の奥がじんわりと熱くなるのを止められなかった。


(第7話へ続く)



第7話:【濃密回】愛欲の不夜城(前編)

馬車が公爵邸へ到着したとき、夜空の月は雲に隠れ、世界は二人だけの濃密な闇に包まれていた。

ギルベルト様は馬車の扉が開くや否や、私を再びその強靭な腕で抱き上げ、周囲の使用人たちに一瞥もくれず、最上階の主寝室へと直行した。


バタン、と重厚な木製の扉が閉まり、内側から鍵が掛けられる。

その冷たい金属音が、静まり返った部屋にやけに大きく響いた。


「ギ、ギルベルト様……?」


ふかふかの巨大なベッドの上に優しく降ろされた私は、心臓が口から飛び出しそうなほど激しく波打っているのを感じていた。王宮の夜会で身にまとっていた、あの豪奢な深紅のドレスの裾が、白いシーツの上に乱雑に広がる。


見上げる先、ギルベルト様は無造作に軍服の上着を脱ぎ捨て、床へと滑り落とした。

薄暗い部屋の中、白いシャツ一枚になった彼の体躯は、昼間よりもずっと大きく、圧倒的な威圧感を持って私を圧迫する。その氷ブルーの瞳は、激しい情熱と、誰にも渡さないという獰猛な執着の熱を孕んで、じっと私を捕らえて離さない。


「エルセ……お前をあの夜会で見つけた瞬間、俺の理性の糸は完全に焼き切れた」


彼はベッドに膝を突き、ゆっくりと私の上に這い寄ってきた。

ギルベルト様の長い指先が、私の頬に触れる。その指先は驚くほど熱く、かすかに震えていた。


「あの有象無象どもがお前に触れようとしただけで、俺のすべてが怒りで狂いそうになった。……お前は俺の光だ。俺をこの地獄から救い出してくれた、唯一無二の存在なんだ。それを、あいつらは……」


「ギルベルト様……もう大丈夫です。私はここにいます。私は、あなたのものです……」


私が精一杯の声を絞り出してそう告げると、ギルベルト様の瞳が、歓喜と切なさに激しく揺れ動いた。


「ああ……お前がそう言ってくれるなら、俺はもう、自分を止めることができない」


掠れた、鼓膜を甘く痺れさせるような低音。

次の瞬間、彼の大きな体温が私の全身にのしかかった。


――ん、んむ……っ。


重ねられた唇は、これまでのどの口づけよりも深く、熱く、容赦がなかった。

王宮で抑え込んでいた彼の独占欲が、濁流となって私の口内へと流れ込んでくる。彼の熱い舌が、私の不慣れな舌を絡め取り、吸い上げ、息をする隙間さえもすべて奪い去っていく。


「ん、うぅ……っ、ん、は……っ」


あまりの激しさに、私の脳内は一瞬で真っ白になった。身体から完全に力が抜け、シーツへと深く沈み込んでいく。

ギルベルト様は口づけを交わしながら、手慣れた手つきで私のドレスの背の紐を滑らかに解いていった。冷たい夜の空気が肌に触れたのも束の間、すぐに彼の熱い手のひらが、私の露わになった肩や鎖骨の肌へと滑り込んでくる。


「あ……っ、ん、はぁ……」


初めて知る、男性の容赦のない愛撫の熱さ。

彼の指先が私の肌をなぞるたびに、身体の奥深くから、これまでになく濃密でお湯のように温かい「神聖魔力」が爆発的に溢れ出し、彼の身体へと伝わっていく。

その光の奔流に触れ、ギルベルト様は狂おしげに喉を鳴らした。


「エルセ、お前のこの身体が、俺をどうしようもなく狂わせる……。呪いの痛みなどではない。お前をすべて喰らい尽くしたいという、男としての欲望で、俺の身体が引き裂かれそうだ……!」


彼は私のドレスを完全に肌から滑り落とすと、薄い下着一枚になった私の細い腰を、折れんばかりの強さで引き寄せた。

彼の熱い唇が、私の首筋から、鎖骨、そして胸元へと、痕を刻みつけるように深く、強く吸い付いていく。


「っ……、あ、ギル、ベルト様……っ、熱い、です……っ!」


快感と気恥ずかしさで涙を浮かべる私の手を、彼は自身の逞しい胸板へと導いた。薄いシャツ越しに、彼の心臓が、壊れそうなほどの早さで激しく鼓動しているのが手のひらから伝わってくる。


「お前と同じだ、エルセ。俺の心臓もお前を求めて狂っている。……道具としての契約など、今夜ですべて終わりだ。俺はお前を、一人の女として、生涯離さない我が正妃として、今夜、完全に俺のものにする」


彼の氷ブルーの瞳が、至近距離で潤み、熱っぽく私を見つめる。その瞳に見つめられるだけで、私の身体の奥の熱は、もう引き返すことのできない臨界点へと達しようとしていた。


「はい……っ、ギルベルト様……。あなたの、すべてを……私に、ください……っ」


私がそう答えた瞬間、ギルベルト様は獣のような獰猛な微笑みを浮かべ、私の最後の下着を優しく、だが拒絶を許さない力強さで引き去った。

二人の素肌が完全に重なり合い、部屋の空気は、朝が来るまで終わらない愛欲の不夜城へと、激しく加速していくのだった。


(第8話へ続く)



第8話:【濃密回】愛欲の不夜城(後編)

「エルセ……、エルセ……っ」


遮光カーテンの閉ざされた暗闇の中、私の名前を呼ぶギルベルト様の声だけが、世界で一番甘く、そして残酷な熱を持って耳元に響いていた。


完全に衣服を剥ぎ取られ、一糸まとわぬ姿でベッドに横たわる私。その上に重なるギルベルト様の肉体は、汗ばみ、彫刻のように美しく引き締まり、男らしい熱量で私を圧倒していた。彼の逞しい胸板が私の柔らかな胸を圧迫するたび、心臓の鼓動が互いに共鳴するようにドクドクと早く、激しく脈打つ。


「あ……、ん、はぁっ……、ギルベルト、様……」


彼の熱い手のひらが私の太腿を割り、内側の柔らかな肌を愛撫しながら、ゆっくりとせり上がってくる。指先が触れるすべての場所が、まるで火をつけられたように熱く痺れ、初めて経験する未知の快感に、私はただシーツを涙目で握りしめることしかできなかった。


「緊張しているな。だが、逃がさない……。お前のすべてが愛おしくて、壊してしまいそうなほど俺の欲が暴れている」


ギルベルト様は歪んだ情熱を秘めた氷ブルーの瞳で私を見つめ、私の手首を再びベッドへと優しく、だが確実に縫い留めた。

そして、彼の熱く硬い質量が、私の純潔の境界へとゆっくりと押し当てられる。


「あ……っ、ん、うぅ……っ!」


未だかつてない圧迫感と、切り裂かれるような熱い痛みに、私は思わず身を硬くして声を漏らした。

その瞬間、私の身体の奥深くに眠っていた、規格外の「神聖魔力」が、彼の侵入に反応して爆発的にお湯のような光の奔流となって溢れ出した。部屋全体を優しく満たすほどのまばゆい光が、二人の結合部から音もなく立ち上る。


「くっ……! あ、あぁ……っ!!」


ギルベルト様が、喉を詰まらせたような凄絶な声を上げた。

私の光の魔力が、彼の身体に深く根を張っていた魔獣の呪いと完全に『交わった』のだ。呪いを強烈に浄化していく神聖な光。しかしそれは、彼にとって苦痛ではなく、脳を蕩かすような至高の快楽となってその全身を駆け巡っていた。


「エルセ……お前の、お前の中は、なんて温かくて……俺を狂わせるんだ……っ!」


彼は痛みに耐えるように私の首筋に顔を埋め、荒い息を吐きながら、ゆっくりと、だが深く腰を進めてきた。

痛みが徐々に甘い痺れへと変わっていく。彼が動くたびに、私の身体の奥の最も敏感な部分が強く擦られ、頭の中がチカチカと白い光で満たされていく。


「ん、あ……っ、は、んんっ……、ギル、ベルト様……っ、おかしく、なっちゃう……っ!」


「おかしくなれ、俺と共に狂え……! もうお前を、誰の手にも、あの実家にも、世界中の何処にも渡さない……っ。お前は俺の、俺だけのつがいだ……!」


ギルベルト様は獣のような獰猛さと、愛おしくて堪らないという極限の優しさを交えながら、何度も、何度も激しく突き上げてきた。

重なる素肌から汗が飛び散り、ベッドがきしむ音が静かな寝室に規則正しく響く。


その時、奇跡が起きた。


何度も深く交わり、二人の魔力が完全に一つに溶け合ったその瞬間――ギルベルト様の背中や腕の皮膚の下で、これまで不気味に黒くうごめいていた「魔獣の呪紋」が、パキパキと音を立てて白く光り輝いたのだ。

そして、光の粒子となって、彼の肌から次々と剥がれ落ち、空気中へと霧散していく。


「あ、あああああっ……!!」


ギルベルト様が、歓喜の絶頂の中で私の口唇を深く塞いだ。

深い、深い、魂までを繋ぎ止めるような口づけ。

彼の瞳から濁った赤さは完全に消え去り、夜明け前の空のようにどこまでも深く、美しい純粋な氷ブルーの輝きだけがそこにあった。


長年、彼を地獄の苦しみへと突き落としていた魔獣の呪いが、今、二人の激しい愛の営みによって、根底から完全に消滅した瞬間だった。


「エルセ……、愛している、愛している……っ」


絶頂の果て、彼は私の中に熱い命の証をすべて注ぎ込みながら、狂おしいほどの愛の言葉を何度も、何度も私の耳元で囁き続けた。

私は疲弊しきった身体で、彼の広い背中にそっと腕を回す。

窓の外からは、夜の終わりを告げるかすかな朝の光が、カーテンの隙間から差し込み始めていた。私たちは互いの身体を固く抱きしめ合ったまま、満ち足りた幸福の海へと、深く沈み込んでいったのだった。


(第9話へ続く)



第9話:解かれた呪いと、終わらない愛の誓い

「……ん……っ」


窓の隙間から差し込む柔らかな朝の光が、私の瞼を優しく叩いた。

ゆっくりと目を覚ますと、全身を包み込む心地よい疲労感と、肌に触れる上質なシルクのシーツの感触。そして何よりも、私の腰をがっちりと抱きすくめている、驚くほど熱く、逞しい腕の重みで、昨夜の出来事がすべて現実だったのだと一気に思い出された。


(私……本当に、ギルベルト様と……)


思い出しただけで顔から火が出そうになり、私は思わず両手で顔を覆った。衣服をすべて剥ぎ取られ、彼の激しい情熱に翻弄されながら何度も名前を呼ばれた記憶が、脳裏を支配して身体の奥がじんわりと熱くなる。


「……起きたか、俺の可愛い人魚おひめさま


耳元で、まだ少し眠気の残った、ひどく低くて甘い声が響いた。

ビクッと身体を震わせると、ギルベルト様は満足げに喉を鳴らし、私のうなじにそっと唇を寄せた。


「ギ、ギルベルト様……っ。あ、あの、もう朝ですから、その……離して、ください……」


「嫌だと言ったら?」


彼は悪戯っぽく微笑むと、さらに腕に力を込め、私の身体を自身の胸板へと引き寄せた。ぴったりと重なる素肌。けれど、その瞬間に私はある『異変』に気がつき、息を呑んだ。


「あっ……! ギルベルト様、背中の、お怪我の痕が……!」


慌てて彼の背中に手を回し、触れてみる。いつもなら、彼の肌の下で不気味に熱を持ち、ドクドクと嫌な脈動を打っていたあの黒い「魔獣の呪紋」が――影も形もなく消え去り、驚くほど滑らかで、美しい大理石のような肌へと戻っていたのだ。


ギルベルト様は私の手を優しく取り、その手のひらにそっと口づけを落とした。その氷ブルーの瞳は、これまでに見たことがないほど澄み渡り、深く、優しい光を湛えている。


「ああ、お前の言う通りだ、エルセ。長年、俺の魂を削り、狂わせ続けていたあの忌々しい呪いが……跡形もなく消え去っている。身体が驚くほど軽い。魔力の暴走も、あの焼き付くような激痛も、もうどこにもないんだ」


「本当に出し、消えたのですね……っ。よかった……本当によかった……!」


私の目から、ぽろぽろと涙が溢れ出した。自分が役に立てた嬉しさと、彼がようやく地獄の苦しみから解放されたのだという安堵感が、胸をいっぱいに満たしていく。


「泣かないでくれ、エルセ。お前は俺の命の恩人であり、救い主だ」


ギルベルト様は愛おしげに私の涙を指で拭うと、今度は私の唇に、昨夜の激しさとは打って変わった、触れるだけの切ない口づけを何度も、何度も重ねてきた。


「だが、もう『聖女の力を持つ道具』としての契約は終わりだ。これからは、俺の愛する妻として、このヴァルハイト公爵家の正妃として、俺の隣にいてほしい。お前を不当に扱ったオルブライト伯爵家は完全に破滅させた。もうお前を脅かすものは何一つない」


「ギルベルト様……。はい、喜んで。私はずっと、あなたの隣にいます……っ」


心からの誓いを口にすると、彼は狂おしげに私を強く抱きしめ、私たちは朝の光の中で、再び静かに愛を確かめ合った。


幸せに満ちた朝食の時間が終わった頃。

公爵邸の執務室に、老執事ハンスが青ざめた顔で駆け込んできた。その手には、王室の刻印が押された一通の緊急親書が握られていた。


「閣下、エルセ様! 大変でございます。王宮より、緊急の召喚状が届きました!」


ギルベルト様は眉をひそめ、冷徹な目をハンスに向けた。

「王宮だと? オルブライトの処分なら、すでに近衛と法廷に引き渡したはずだが」


「それが……オルブライト伯爵が捕縛される直前、王太子殿下に『エルセは国を揺るがすほどの異常な魔力を隠し持っており、ヴァルハイト公爵はその力を我が物にして謀反を企てている』と、虚偽の密告を行ったようなのです! そのため、王太子殿下自らが、エルセ様の『聖女としての適性検査』と、閣下への査問を行うと……!」


「なっ……!?」


私は思わず椅子から立ち上がり、血の気が引いていくのを感じた。せっかく手に入れた幸せが、また実家の悪意によって引き裂かれようとしている。


「面白い」


しかし、ギルベルト様は怯むどころか、獰猛な狼のような不敵な笑みを浮かべた。彼は立ち上がり、怯える私の肩を抱き寄せ、力強く告げる。


「我が妻エルセをただの無能と罵り、捨てた分際で、今度は国を揺るがす魔力だと? どこまで見窄らしい一族だ。エルセ、何も恐れることはない。王太子だろうが国王だろうが、お前を道具扱いしようとする者がいるならば、俺がそのすべてを捩じ伏せてみせる」


彼の瞳に宿る、圧倒的な絶対王者の風格。

呪いを解かれ、真の力を取り戻した最強の公爵が、エルセを守るために今、傲慢な王宮へと反撃の狼煙を上げる――。


(第10話へ続く)


第10話:氷の公爵は、聖女を永遠に蕩かす

王宮の謁見の間は、重苦しい緊迫感に包まれていた。

玉座に座る王太子は、冷淡な視線で私たちを見下ろしている。その周囲には、王宮魔導師団の精鋭たちがずらりと並び、中央に置かれた巨大な「魔力測定水晶」が不気味な光を放っていた。


「ヴァルハイト公爵、並びにエルセ。オルブライト伯爵からの密告に基づき、これより査問を行う。エルセ、お前が国を揺るがすほどの『神聖魔力』を秘匿し、公爵と共に謀反を企てていないか、その力をここで証明してもらおう。もし虚偽があれば、公爵家であっても容赦はせぬ」


王太子の高圧的な言葉に、私は一瞬、足がすくみそうになった。

だが、私の肩を抱くギルベルト様の腕には、微塵の揺らぎもなかった。


「謀反だと? 笑わせるな」


ギルベルト様が冷たく言い放った瞬間、謁見の間の全大気がびりびりと震えた。呪いという足枷を完全に消し去った彼の魔力は、以前とは比べ物にならないほど純粋で、圧倒的な神威を放っている。


「俺がこの国を守ってきたのは、義務だからではない。俺の愛する妻が、この国で平穏に暮らすためだ。王太子殿下、もしエルセの力を不当に利用しようとするならば、俺が今この場で、その玉座ごと王宮を氷漬けにしても構わないのだぞ?」


「な、何だと……っ!?」


王太子が恐怖に顔を歪める。ギルベルト様の本気の殺気に、周囲の魔導師たちも武器を構えることすらできずに立ち尽くしていた。


「ギルベルト様、大丈夫です。私にやらせてください」


私はギルベルト様を見上げ、優しく微笑んだ。これ以上、彼に無用な敵を作ってほしくなかったし、何より、私はもう、守られるだけの無能な少女ではないのだから。

私は一歩前に出ると、中央の魔力測定水晶へと歩み寄り、その表面にそっと両手を触れた。


(私の大切な人を、これ以上誰も脅かせないように――!)


胸の奥から、ギルベルト様と結ばれたあの夜に開花した、圧倒的な「神聖魔力」を優しく呼び覚ます。

キィィィン――。


次の瞬間、謁見の間全体が、目も開けられないほどのまばゆい、そして最高に温かい「純白の光」によって満たされた。

パキ、パキパキ、パリンッ!!

王宮が誇る最高峰の測定水晶が、私の魔力の総量に耐えきれず、一瞬で粉々に砕け散ったのだ。それだけではない。溢れ出た神聖な光は、謁見の間の古びた壁に飾られた植物の紋様を本物の瑞々しい花々へと変え、居並ぶ魔導師たちの長年の古傷や疲労を一瞬ではぎ取っていった。


「な、なんだ、この温かい魔力は……。身体の痛みが、消えていく……っ!?」

「測定不能……! これこそ、歴史に名高き『伝説の聖女』の御力だ……!」


魔導師たちが次々とその場に膝を突き、私に向かって祈るように頭を下げ始める。王太子もまた、私の規格外の力と、それを背後から獰猛な笑みで見守るギルベルト様の姿を見て、完全に戦意を喪失し、ガタガタと震えながら玉座に深く沈み込んだ。


「これでも、我が妻を『謀反人』と呼ぶか? 王太子殿下」


ギルベルト様の低い声が響く。王太子は首を激しく横に振り、震える声で答えた。

「い、いや……。エルセ殿こそ、我が国を救う真の聖女である……! ヴァルハイト公爵家には、国家より最高位の勲章を授与し、オルブライトの不敬な密告は完全に却下する……!」


こうして、実家が仕掛けた最後の罠は、私たちの圧倒的な力によって、跡形もなく粉砕されたのだった。


数ヶ月後。

オルブライト伯爵家が完全に没落し、日の当たらない鉱山へと追放された頃。

ヴァルハイト公爵邸の広大な庭園には、色とりどりの薔薇が咲き誇り、最高の祝福に満ちた「結婚式」が執り行われていた。


「エルセ、お前は世界で一番美しい」


純白のウェディングドレスに身を包んだ私を、同じく白の礼服を着たギルベルト様が、とろけるような甘い眼差しで見つめていた。彼の氷ブルーの瞳には、かつての冷徹さは微塵もなく、ただ私への底なしの愛と執着だけが満ちている。


「ありがとうございます、ギルベルト様。私をあの地獄から救い出し、こんなに幸せにしてくれて……」


「違うな、エルセ。救われたのは俺の方だ。お前が俺の凍りついた心を蕩かし、光をくれたんだ」


大勢の使用人たちや、国中から集まった貴族たちの盛大な拍手と歓声の中、私たちは静かに唇を重ねた。それは、生涯を共に歩むという、揺るぎない永遠の誓いだった。


その日の深夜。主寝室。

披露宴の喧騒が終わり、静まり返った部屋で、私はネグリジェ姿でベッドの上に座っていた。

そこへ、上着を緩く着崩したギルベルト様が入ってくる。彼の瞳は、すでに夜の「肉食獣」の熱を帯びて、ギラついた輝きを放っていた。


「あ……ギ、ギルベルト様、お疲れ様でした……」


「疲れてなどいない。むしろ、昼間からずっと、お前をこの手で触りたくて、狂いそうだった」


彼はベッドに潜り込むなり、私の細い腰を強引に引き寄せ、自身の逞しい胸の中へと閉じ込めた。

「ギルベルト様、もう呪いは解けたのですから、そんなに毎日、私をベッドに閉じ込めなくても……っ」


「何を言っている」

ギルベルト様は不敵に、そして酷く色っぽく唇の端を釣り上げた。彼の熱い指先が、私のネグリジェの紐をゆっくりと、楽しむように解いていく。


「呪いは解けたが、俺の中には、新たなお前への『中毒』という名の消えない呪いが刻まれたんだ。エルセ、お前が足りない。朝まで何度愛し合っても、お前をすべて喰らい尽くしたいという欲が止まらないんだ」


「んっ……あ……っ」


重ねられた唇から、甘く熱い吐息が漏れる。

かつて「白い結婚」を誓った冷徹な氷狼公爵は、今や私を永遠に蕩かし尽くす、最愛の旦那様。

窓の外で輝く満月の光に照らされながら、私たちは終わらない愛の不夜城へと、今夜も深く、激しく溺れていくのだった。


(めでたしめでたし/本編完結)


全10話の構成・執筆プラン


【第1話:虐げられた令嬢と、氷の公爵】

概要: エルセの不遇な現状と、ギルベルトとの最悪で運命的な出会い。


展開: 実家で奴隷のように扱われていたエルセは、ある日、魔獣討伐の帰りに呪いを発症して暴走寸前の公爵・ギルベルトと遭遇する。恐怖の中、彼に触れられた瞬間、エルセの隠された魔力が発動し、彼の狂気が一瞬で鎮まる。ギルベルトは彼女の顎をすくい上げ、冷徹な瞳で「俺の妻になれ」と命じる。


【第2話:初夜の契約、冷徹な誓い】

概要: 公爵邸への輿入れと、ビジネスとしての「白い結婚」の提示。


展開: 実家を追い出されるようにして公爵邸へ向かったエルセ。ギルベルトは「愛するつもりはない。ただの呪い除けの道具だ」と言い放ち、触れるのは呪いが暴走しそうな夜だけ、という契約を結ぶ。広大なベッドで背を向け合って眠る、緊張の初夜。


【第3話:氷の仮面がひび割れる時】

概要: 日常生活での接近と、ギルベルトの心情の変化。


展開: 公爵邸の人々はエルセを歓迎し、彼女の健気さに魅了されていく。ギルベルトも、彼女が淹れたお茶や不器用な笑顔に、頑なだった心が少しずつ解けていくのを感じる。ある日、仕事に追われるギルベルトの指先がエルセの頬に触れ、互いに激しく動揺する。


【第4話:狂気の夜と、初めての口づけ】

概要: 呪いの本格的な暴走と、過激なヒーリング(微エロ要素)。


展開: 新月の夜、ギルベルトが激しい呪いの痛みに襲われる。理性を失いかけた彼は、エルセをベッドに押し倒してしまう。肌を密着させることでしか呪いを抑えられないため、ギルベルトは躊躇いながらもエルセの唇を奪う。ただの「治療」のはずが、彼のキスは熱く、独占欲を孕んでいく。


【第5話:加速する独占欲】

概要: ヒーローの自覚と、ヒロインを狙う影。


展開: 前夜のキス以降、ギルベルトの態度が「冷徹」から「過保護・執着」へと変わり始める。エルセを他の男(部下など)の目に触れさせたくないほどの独占欲を見せる。一方、エルセの元実家が、彼女の「聖女並みの魔力」に気づき、連れ戻そうと画策し始める。


【第6話:仕組まれた罠と、狼の怒り】

概要: エルセの危機と、ギルベルトの圧倒的救出劇。


展開: 夜会に強制出席させられたエルセは、実家の策略で媚薬を盛られ、監禁されそうになる。そこへ激怒したギルベルトが乱入。圧倒的な力で実家を叩き潰し、熱にうなされるエルセを抱き上げて私邸へと連れ帰る。


【第7話:【濃密回】愛欲の不夜城(前編)】

概要: 媚薬と呪いの相乗効果による、初めての本格的な寝室シーン(R18)。


展開: 媚薬で理性を失いかけるエルセと、彼女の甘い匂いに呪いが刺激され、限界を迎えたギルベルト。お互いに「道具」ではなく「一人の男と女」として求め合う。ギルベルトの氷のような冷徹さは消え去り、獣のような激しさと、壊れ物を扱うような優しさでエルセのすべてを暴いていく。


【第8話:【濃密回】愛欲の不夜城(後編)】

概要: 朝まで続く濃厚な愛の営みと、契約の崩壊(R18)。


展開: 1度では満たされないギルベルトは、何度もエルセを求め、愛の言葉を囁き続ける。エルセもまた、彼への愛を自覚し、そのすべてを受け入れる。二人の魔力と身体が完全に交わったことで、ギルベルトの身体から長年彼を苦しめていた呪いの紋様が完全に消滅していく。


【第9話:呪いの解明と、揺るぎない覚悟】

概要: 事後の甘い空気と、本当の夫婦へのステップ。


展開: 翌朝、呪いが完全に解けたことに気づく二人。ギルベルトは「契約は終わりだ」と告げる。エルセは捨てられるのかと絶望するが、ギルベルトは彼女を強く抱きしめ、「これからは契約ではなく、俺の最愛の妻としてここにいてくれ。もう一生離さない」と、これまでにない情熱的なプロポーズをする。


【第10話:氷の公爵は、聖女を永遠に蕩かす】

概要: 大団円ハッピーエンドと、未来への誓い(甘々・R18エピローグ)。


展開: エルセは正式に公爵夫人となり、国中から「公爵を救った聖女」として称えられる。実家は完全に没落。ラストは、呪いが解けたにもかかわらず、毎夜「エルセ不足だ」と言い訳をしては彼女をベッドに囲い込み、激しく愛し続けるギルベルトの溺愛描写で幕を閉じる。




【『氷の公爵は、聖女を永遠に蕩かす』あらすじ】


「一言も喋らず魔力も持たない無能」と実家のオルブライト伯爵家から蔑まれ、監禁・虐待に近い扱いを受けていた薄幸の令嬢・エルセ。彼女は実家によって、国境の守護を担う「ヴァルハイト公爵」ギルベルトのもとへ、いわば厄介払いとして輿入れさせられることになる。ギルベルトは「氷狼公爵」の異名を持つ冷徹な傑物だったが、実は先代の魔獣討伐の折に受けた「魔獣の呪い」の暴走と激痛に長年蝕まれており、周囲を拒絶して孤独な日々を送っていた。


二人の結婚は、便宜上だけの冷え切った「白い結婚」になるはずだった。しかし、初夜の夜に奇跡が起きる。無能と噂されていたエルセの身体の奥底には、実は歴史上でも類を見ないほどの規格外な「神聖魔力」が眠っていたのだ。二人の肌が触れ合った瞬間、エルセの持つ純粋な光の魔力がお湯のような奔流となって溢れ出し、ギルベルトを苛んでいた呪いの苦痛を劇的に和らげていく。


自身の傷を癒やし、凍りついた心を優しく蕩かしてくれるエルセの尊さに触れたギルベルトは、それまでの冷徹な態度を一変。彼女を「道具」ではなく「生涯の伴侶」として愛することを誓い、理性を狂わせるほどの獰猛な独占欲と執着を剥き出しにしていく。実家がエルセを連れ戻そうと王宮の夜会で仕掛けた卑劣な罠も、呪いから解放されて真の最強へと覚醒したギルベルトは圧倒的な力で粉砕し、伯爵家を完全に破滅へと追い込む。


さらに、エルセの力を恐れた王宮からの理不尽な査問に対しても、エルセ自身が測定水晶を粉砕するほどの圧倒的な聖女の力を示してねじ伏せ、国中を心服させる。すべての障害を乗り越えた二人は名実ともに結ばれ、永遠の愛を誓い合う。かつて孤独だった氷の公爵が、最愛の聖女を朝まで何度でも蕩かし尽くす、極上の溺愛ロマンファンタジー。


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