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余白税  作者: 未確定ログ
第六章 余白税
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最終話 余白の帰還

定義が完全に固定された世界では、すべてが正しく、すべてが動かない。


 それは安定ではなく、“終了していない停止”だった。


 朝の教室。


 レイは教室中央に固定されたまま、もうほとんど動かない。


 湊もまた、「湊」という定義に沿ってそこにいるだけになっていた。


 九条だけが、まだわずかに揺れている。


「ねえ湊」


 レイの声。


 だがそれは、もう発声ではない。


 定義された“発話イベント”だ。


「私、もう終わるんだと思う」


 湊は眉をひそめる。


「終わるって何がだよ」


 レイは少しだけ間を置く。


「私という定義」


 そのとき九条が入ってくる。


 九条はすでに“例外”に近い存在になっていた。


 定義に完全には属していない。


 湊はすぐに聞く。


「なあ九条」


「これ、まだ戻せるのか?」


 九条は止まる。


 長い沈黙。


「戻す、という定義は存在しない」


 レイが小さく言う。


「じゃあ、もう終わり?」


 九条は首を振る。


「違う」


 九条は続ける。


「定義が完成すると、余白が露出する」


 沈黙。


 湊は眉をひそめる。


「余白?」


 九条は静かに答える。


「未定義の領域だ」


 その瞬間。


 教室の黒板がひび割れるように崩れ始める。


 完全に固定されていた世界に、“説明されていない空白”が戻り始める。


 レイの輪郭が揺れる。


「これ……私、戻ってる?」


 湊は呟く。


「定義が壊れてる」


 九条は静かに言う。


「崩壊ではない」


「解放だ」


 黒板が完全に消える。


 教室の定義が崩れ、机も椅子も“ただの物”へ戻っていく。


 中心も固定も消えていく。


 レイがゆっくりとこちらを見る。


「ねえ、これでいいのかな」


 湊は少しだけ間を置く。


「分かんねぇよ」


 だが続ける。


「でもさ、やっと“余白”が戻った気がする」


 九条は静かに言う。


「余白税は徴収を終えた」


 レイが小さく笑う。


「なんだそれ」


 湊も少しだけ笑う。


「意味わかんねぇのに、今が一番マシかもな」


 世界はまだ続いている。


 だが今度は――


 “定義ではなく、未定義のまま存在できる世界へ戻り始めている”。

読んでいただきありがとうございます。

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