第25話 言語の崩壊
意味が抜け落ちる世界では、次に崩れるのは“言葉”だった。
湊はもう、会話が成立しているのかすら自信が持てなくなっていた。
朝の教室。
レイが口を開く。
「ねえ湊、さっきね……あの……」
言葉が途中で途切れる。
何を言おうとしていたのか、自分でも分からなくなる。
「……ごめん、忘れた」
湊はそれを見て、嫌な予感が確信に変わる。
「なあ九条」
湊はすぐに聞く。
「言葉、おかしくなってないか?」
九条は止まる。
「崩れている」
レイが不安そうに言う。
「崩れるって……意味じゃなくて?」
九条は静かに答える。
「意味の前段階だ」
沈黙。
湊は眉をひそめる。
「前段階って何だよ」
九条は説明する。
「言葉は“意味の容器”だ」
「容器が壊れれば、中身も保持できない」
レイが震える声で言う。
「じゃあ……今は容器が壊れてるの?」
九条は頷く。
その瞬間。
黒板の文字が一瞬だけ“ただの線の集まり”になる。
読むという行為が成立しない。
「……今の見たか?」
湊の声に、レイはうなずく。
「読めなかった」
湊は呟く。
「読めないっていうか……文字じゃなかった」
九条は静かに言う。
「言語崩壊だ」
昼休み。
廊下。
生徒たちの会話が聞こえる。
だが言葉が意味として繋がらない。
「これ、やばいだろ……」
そのとき九条が現れる。
「進行している」
湊は振り返る。
「何がだよ」
九条は答える。
「言語体系そのものだ」
レイが小さく言う。
「じゃあ……どうやって話すの?」
九条は少しだけ間を置く。
「話せなくなる」
沈黙。
湊はため息をつく。
「もう終わってるじゃんそれ」
九条は否定しない。
その瞬間。
廊下の向こうから聞こえる声が、一瞬だけ“意味を持たない音”になる。
ただの響き。
レイが呟く。
「今の……言葉じゃなかった」
湊は静かに言う。
「音だった」
九条は言う。
「それが言語の崩壊だ」
世界はまだ続いている。
だが確実に――
“意味を運ぶ手段そのものが壊れ始めている”。
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