第4話 警告
俺は部屋に戻り、椅子に腰を下ろした。
頭の中では、さっきの会話が何度も繰り返されている。
三日後。
元老院。
暗殺。
歴史の知識と、今目の前で起きている現実が重なり合う。
俺は机の上の書簡を一通ずつ手に取った。
元老院議員たちからの手紙。
どれも礼儀正しい文章だ。
だが、歴史オタクの俺には分かる。
この中の何人かは——
三日後、俺を刺す。
ふと、一通の手紙が目に留まった。
見慣れた名前。
差出人は
マルクス・ユニウス・ブルートゥス。
俺はゆっくり封を切った。
短い文章だった。
「カエサルへ。
どうか三日後、元老院には来ないでください」
俺は思わず息を呑んだ。
やはりだ。
ブルートゥスは知っている。
暗殺計画を。
そして俺に警告している。
俺は椅子の背にもたれ、天井を見上げた。
歴史の本には、確かこんな話もあった。
占い師が警告した。
「三月十五日に気をつけろ」と。
さらに、カエサルの妻も夢を見た。
血まみれのカエサルの夢を。
それでも彼は元老院へ行った。
つまり——
逃げることはできた。
それでもカエサルは行った。
なぜだ?
その時、扉がノックされた。
「カエサル様」
入ってきたのは側近だった。
「元老院議員が面会を求めています」
俺は顔を上げた。
「誰だ」
側近は答えた。
「カッシウスです」
俺の心臓が一瞬強く脈打つ。
ガイウス・カッシウス・ロンギヌス。
暗殺の首謀者。
その男が、今ここに来ている。
俺は数秒だけ考えた。
そして言った。
「通せ」
扉が開く。
カッシウスは深く頭を下げた。
「カエサル閣下」
穏やかな声。
だが、その目の奥は冷たい。
俺は彼を見つめた。
この男は三日後、俺を殺す。
歴史ではそうなっている。
カッシウスは静かに言った。
「三日後の元老院会議について、少し相談が」
俺は頷いた。
「聞こう」
カッシウスは一歩近づく。
「ぜひ、ご出席いただきたい」
その瞬間、俺は確信した。
やはり暗殺は三日後だ。
そしてこの男は、それを知っている。
俺はゆっくり笑った。
「もちろん行くさ」
カッシウスの眉がわずかに動く。
俺は続けた。
「ローマの元老院に呼ばれて、行かない理由はない」
カッシウスは深く頭を下げた。
「感謝します」
そして部屋を出ていった。
扉が閉まる。
静寂。
俺は手の中の手紙を見つめた。
ブルートゥスの警告。
「元老院には来るな」
逃げることはできる。
だが——
歴史ではカエサルは行った。
俺は小さく呟いた。
「……なぜだ?」
カエサルほどの男が。
危険を察しながら、なぜ元老院へ向かったのか。
俺はゆっくり立ち上がった。
窓の外にはローマの街が広がっている。
そして思った。
もしかすると——
カエサルは
暗殺を止められたのに、止めなかったのではないか。
その理由を、俺はまだ知らない。
暗殺まで、あと三日。
歴史はすでに動いている。
そして俺は、その中心にいる。




