第2話 カエサルはすでに知っていた
三日後。
俺は暗殺される。
それが歴史だ。
ユリウス・カエサル暗殺。
場所は元老院。
犯人は元老院議員たち。
その中心にいるのは
マルクス・ユニウス・ブルートゥス。
歴史上、最も有名な裏切り者だ。
だが。
部屋の机の前に座りながら、俺はどうしても違和感を覚えていた。
目の前には大量の書簡。
元老院議員たちからのものだ。
俺は一通ずつ目を通していく。
すると。
ある手紙で手が止まった。
差出人は
ガイウス・カッシウス・ロンギヌス。
カエサル暗殺の首謀者の一人。
俺は思わず苦笑した。
「なるほどな……」
手紙の内容は、表向きは礼儀正しい。
だが行間から、明らかな敵意がにじんでいる。
こんなもの。
歴史オタクじゃなくても分かる。
カエサルほどの政治家なら、なおさらだ。
つまり——
カエサルは気づいていた可能性が高い。
だが歴史では、彼は暗殺される。
なぜ?
その時だった。
部屋の外から声がした。
「カエサル様」
振り向くと、一人の男が立っていた。
鋭い目。
整った顔。
そして、静かな威圧感。
俺は思わず息を呑む。
そこに立っていたのは
マルクス・ユニウス・ブルートゥス。
歴史上、カエサルを刺した男。
ブルートゥスは穏やかな声で言った。
「元老院での会議について、相談があります」
俺は彼を見つめた。
この男は、三日後に俺を刺す。
歴史はそう言っている。
だが。
実際に目の前にいるブルートゥスは
そんな男には見えなかった。
むしろ。
苦しんでいるように見える。
俺の頭の中で、歴史の知識が回転する。
ブルートゥスはカエサルに恩義があった。
それでも暗殺に加わった。
なぜ?
俺は椅子に深く腰掛けた。
そして言った。
「ブルートゥス」
「もし私が死んだら」
「ローマはどうなると思う?」
ブルートゥスの表情が、わずかに揺れた。
その一瞬で、俺は確信した。
この事件には
まだ誰も知らない事情がある。
歴史書には書かれていない何かが。
俺はゆっくり笑った。
「面白い」
「どうやら私は——」
「この暗殺の真相を知ることになりそうだ」
三日後。
ローマ史上最大の暗殺事件が起きる。
そして俺は、
その中心にいる。




