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未知との接続

作者: TOMMY
掲載日:2026/03/04

湖の上を、損傷した船が彷徨っていた。

焦げついた金属質の外装は、ボロボロと崩れ落ち、湖に波紋を浮かべている。


ふらふらと上空を漂い、ときよりガクッと高度を下げる。

そのたびに機体は、わずかに発光しながら灰色の煙を上げた。


墜落を拒むように、かろうじて水平を保っている。

一瞬だけ、内側に影が見えた気がした。


私はその光景から、目を離せなかった。


焦げた鉄の匂い。

砕ける金属片。

弱々しく脈打つ光。


形を保つこと自体が苦痛のように見えた。


「○*∞×ココに凹……☆♪↓否定?」


とつぜん、頭の中に記号のような音が鳴った。


音のはずなのに、頭の中に記号が浮かぶ。

それは何度も、私の頭の中に流れ込んできた。


弱々しく、不規則に届く音の記号。

言葉を理解するというより、形を理解する方が近い。

そんな奇妙な感覚が全身を震わせた。


応えたい。

だが、応え方がわからない。


○応えた凹


「……っ!?」


頭の中に記号が浮かんだ。

自分でも知り得ない言葉。


言葉と記号が頭の中で──繋がれた。


その瞬間、頭に流れ込む音の記号が少しだけ理解できた。


”ココに凹、否定?”

頭に文字が並ぶ。


「大丈夫……」


喉が震えた。

それでも私は叫んだ。


「そこに降りて、大丈夫」


しかし、その船は空を彷徨い続けた。


辛そうに、

懸命に、

墜落を必死にこらえている。


その瞬間、船が大きく傾いた。


光が消える。

黒煙だけが、空に滲む。


──途絶えた。


頭の中の記号も、完全に消えた。


音もない。

匂いもない。

ただ、壊れかけの鉄の塊が、ゆっくりと落ちていく。


私は立ち尽くした。

さっきのは、錯覚だったのか。

最初から、何も届いてなどいなかったのか。


胸の奥が、冷たくなる。


船は、さらに高度を落とす。


もう間に合わない。


私は湖岸を走った。

意味がなくても、走った。


立ち止まり、両手で大きな円を描く。

何度も。

何度も。


腕が軋む。


それでも描き続ける。


そのとき。


──○


胸の奥に、微かな震え。


耳ではない。

外でもない。

内側から、形が浮かび上がる。


「○*↓凹」


思考より先に、記号が生まれた。


それは私が作ったのか。

それとも、向こうが私を使ったのか。

境界が、曖昧になる。


船の光が、かすかに明滅した。


「○*↓凹◎」


返ってくる。


今度は、途切れない。


すると船が一瞬、動きを止めた。

機体の光が明滅する。


「○∞*↓凹×?∞*☆〜×……」


それまで小さかった頭の中に浮かぶ記号が、大きくなった。


頭の奥で、形がぶつかり合う。

身体中の血液が、波紋のように震えた。

理解が、身体を通り抜ける。


砕ける星の痛み。

ひしゃげる金属の恐怖。

落ちたい、という焦燥。


言いたいことが手に取るようにわかった。

でも、私にはその答えを伝えられなかった。

立ち止まり、身体を幾重にもくねらせる。


──ジェスチャーだけでは、伝えられない。

そう直感した瞬間。

私は動きを止め、目をつぶった。


そして、心の中で、丸を描いた。


すると、頭の中に船から○が返ってきた。

ぶわりと鳥肌が全身を波打つ。


”○*↓凹◎!”


心の中で記号を作る。

一瞬、めまいのように、閉じた世界が記号へと折りたたまれた。


「○*↓凹◎!」


返ってくる。

さきほどより、軽い。

迷いがない。


私はゆっくりと、目を開けた。


機体は、かろうじて水平を保ちながら、

ゆっくりと下降していた。


ときどき、黒煙を吐きながら。

ボロボロと金属片を落としながら。

淡く発光して、私に記号を送りながら。


「○*↓凹〜∞☆♪」


「大丈夫。湖が、受け止めてくれる」


やがて機体は、湖にぶつかった。


水面が割れる。

黒煙が噴き上がる。

一瞬、光が消えた。


私は呼吸も、瞬きも忘れて、ただ祈っていた。


──湖面がひとつ、大きく息をした。


……かすかに、○が返ってきた。


それ以来、

世界のすべてが、

わずかに丸くなった。


湖に浮かぶ機体の奥から、

何かが現れるのを、私は待った。


熱。

震え。

気配。


けれど、水面は静まり返っている。


ハッチは開かない。

影も出てこない。

そこに何も、いなかった。


そのとき気づいた。


○が、消えていない。


耳の奥ではない。

外でもない。

胸の中心で、正確に脈打っている。


一拍。

一拍。


私の心臓とは、わずかにずれて。


風が鳴る。

波が寄せる。

木々がざわめく。


それらが、ほんの少しだけ形に見えた。

すべてが、閉じた図形へと近づいていく。


世界が、かすかに歪んでいる。

いや。

歪んだのは、私のほうだ。


ふと、空を見上げた。

そこには、何もいない。


だが、焦げた匂いは消えていなかった。


最初から、

”ここに来る者”など、いなかったのかもしれない。


──湖面に、また円が広がる。


偶然ではない。

あれは着水ではなかった。

——接続。


あの船がここに来たのか。

それとも、

私が、向こうへ触れてしまったのか。


胸の中心で、○が正確に脈打つ。


私の心臓と、同じ回数で。


だが、位相だけが、わずかにずれている。


風が鳴る。

世界が、閉じる。


私はそれを、

もう失うことができない。


はじめから

途切れてなどいなかった○

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