表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新説民話体系「蜂蟻譚」

作者: 着地した鶏
掲載日:2026/02/07

誰も知らない昔の話、昔々の物語。

天の高みをクルクルと八の字描いて飛び回る、黄色い縞が空を舞う。


見上げると蜂の群れが羽音を奏でて飛び回っていた。

すらりと伸びた触角、透き通ったはねと黄色と黒の縞模様が陽の光で輝いている。

蜂たちは色とりどりの花々の蜜を吸い回り、薫り高い花粉に舌鼓を打つ。

陽の光を浴びながら優雅に暮らしていたが、ひとたび機嫌を曲げてしまうと、その毒針で彼方此方あちこちの鳥獣を刺して回っていった。

その毒針がゆえに鳥獣たちは近づくことを恐れ、逆らう者のいなくなった蜂たちは、いつからからおのれを天の主だと思い込むようになった。


ある日、蜂たちはふと気づく。

自分たちの遥か頭上で輝く太陽が、まるで自分たちを見下ろしているように思えたのだ。

こちらがあぎとを鳴らし、翅をきしませ、毒針の先をきらめかせ、いくら威嚇しようとも、太陽は素知らぬ顔でさらに一層光を増すのである。

蜂たちは怒りに燃え、太陽を刺し討つことに決めた。


鋭き顎をカチカチと打ち鳴らし、翅を震わせ、天のさらに高みへと飛び立った。

風を切って一直線に、あの天上の一点を目指して飛び上がった。

ところが、太陽に近づけば近づくほど、チリチリと熱は増し、目の前が陽炎かげろうのようにぼんやりと歪んでいく。

やがて蜂たちの翅が次々と焦げ始め、背からボウボウと煙が上がり始めるのだった。

身がかれる痛みに耐えきれず、蜂たちは一匹、また一匹と力尽き、黒い影となって地上へと落ちていく。


風に揉まれ、地面に打ち付けられた勢いで、焦げ残った翅もすっかり抜け落ち、触角も醜く折れ曲がってしまった。

そして、その身は焼け焦がれ、かつての鮮やかな縞模様は消え失せて、墨のように真っ黒になってしまった。

翅も毒針も灼かれてしまい、力を失った蜂は空を飛ぶことも、周りの鳥獣を刺すことも出来ない。

もはや飛んで逃げることも、毒針で追い払うこともできず、かつて見下ろしていた鳥獣が、今や己を見下ろす敵に変わってしまったのだ。


蜂たちは身を寄せ合い、震えながら己が身を隠すための影を探して這い回る。

敵の目から逃れるように、折れた触角を揺らして彼方此方を見渡しながら這い回る。

太陽の光を見るたびに、灼かれたときの痛みが身体の奥から蘇った。

そして蜂たちは、地面に小さな穴を掘り、暗く冷たい土の中に潜り込んだのだった。


地に落ちた蜂たちは、花の蜜を吸うこともできず、木陰の朽ちた種や虫のむくろを拾って生きる。

誰にも知られぬように、地の底に深く根を張り暮らしている。

そこに、天の主を気取っていた頃の面影はどこにもない。


こうして、天を舞っていた蜂が、地を這う蟻へと姿を変えたのだとう。

今でも蟻が太陽を避けて地中深くに潜るのは、あの日、太陽に灼かれた痛みを思い出してしまうからだと語り伝えられる。


これは誰も知らない昔の話、昔々の偽語にせがたり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ