浜辺と犬
「おい、そんなとこで何やってんだ?」
気になった俺は問いかけた。
ここは海岸。見覚えのあるセーラー服姿が突っ立っていた。おなじみの白いポメラニアンもおらず、一人で。
浜辺に立っていた工藤は振り向いた。
いつも通りの青いセーラー服は母校の証だ。
整っているが気の強そうな目がこちらを睨む。眉間に皺が寄っていて、機嫌はよくなさそうだ。
「別に、海を見てただけ。貴方はもう帰りなの? 部活は?」
「今日は無い。工藤は何してるんだ? 散歩じゃなさそうだな」
俺が言うと、工藤の目が細くなり、少し俯く。
「私は海を見てるだけ、見て分からないの?」
「……あっそ。じゃ、俺は行くわ」
「……」
工藤から離れ、海岸傍の道に行く。白い浜辺から黒いアスファルトに入る。
靴に砂が入って、ざらざらするが気にしないでおく。
置いておいた自転車に乗って、そのまま進んだ。
犬の散歩をしている時の工藤はもっと機嫌いいのに、今日は違ったみたいだ。
***
「えっと、りんご、トマト、レタス、バナナ」
忘れないように口ずさむ。
家に帰った時に、母親に買い物を頼まれたのだ。
自転車に乗り、また同じ道を進んでいく。
「あ」
また工藤がいた。
今度は浜辺に座っている。
砂に尻をつき、じっと海を見ている。
「何やってんだアイツ」
ずっとあそこにいるな。
一人で浜辺にいる工藤は何かが欠けているように見えてしまう。
いつもポメラニアンと一緒だったからな。
とはいえ、話しかけても怒られるだけだ、さっさと行こう。
俺は無視して買い物に行く。
***
「まだいるのか」
自転車のかごに食材が詰まった買い物袋を乗せて、また浜辺の横を通っていた。
工藤がまだいる。
俺は自転車を止め、浜辺を歩く。
「おーい、まだここにいるのか?」
声をかけると、工藤が顔をこっちに向ける。
「何? 家に帰ったんじゃなかったの?」
「買い物に行ってたんだよ。そしたら工藤がまだいるからさ。何してるんだ?」
工藤の顔がくしゃりと歪む。涙が一滴垂れ、頬が赤くなる。俺は思わずおろおろしてしまう。
「何かあったのか?」
「あの子はもういないの」
「え」
その一言で何があったのか理解できてしまった。
「だからちょっと、ここで気分を落ち着けてたの。座ってく?」
工藤は砂をポンポン叩く。
俺は工藤の傍によって座った。
そして二人でぽつぽつ話していた。
工藤は犬と一緒に浜辺を散歩するのが大好きだったのは知っていた。
今、波の音を聞くと犬のことを思い出すらしい。
俺も耳を澄ませる。波の間から犬の鳴き声がした気がした。
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