第3話:巡廻異端審問官、勝手に自警団を家捜しする
そろそろ前書きで何を書いていいのかわからなくなってきましたね。
聖職者の女の子が絶叫しながら街中を引きずり回される話が好きな人、ピンポイントにお楽しみください。
皆さん、人生とはままならないものですね。
私は、コギトさんが
「ちょっと自警団に忍び込んでくるぜ」
そんなことを言い出したから、これはまずいと思い、止めるために追いかけてきました。
それなのに……。
「おい、フリッカ。そっちにめぼしい資料はあるか?」
今、私は思いっ切り、コギトさんを手伝わされて、自警団の部屋にあるメモや書類を片っ端から引っ張り出しているのです。
これってダメですよね!? 悪い事ですよね!?
「心配するな、正義のため多少のことはマナウス様も見逃してくれるってもんだぜ」
私が思いっ切り悲鳴をあげそうになるのを見透かしたみたいに、コギトさんはそういって自警団の机を物色しています。
勝手に心とか読まないでほしいです。
「うう……もうおしまいです。とうとう犯罪に手を染めてしまいました……」
私はぺそぺそになりながら、自警団の記録を流し見する。
酒場の乱闘騒ぎの記録や、裏路地で金を巻き上げた悪党の記録など、捕まったり牢に入れられた人たちの記録は沢山出てくる。
だけど、リーレンさんの事件についての記録は今のところ出てこない。
どうしてだろう。
この街は酔っ払いの喧嘩はしょっちゅうなんだけど、それでもわりと平和な方。
大きな事件は滅多にないのだ。
リーレンさんの件は自殺だって聞いたけど、ワンダさんは敏腕の自警団だ。
死体がある、となったら必ず自分の目で確かめに行くはずだから、例え自殺とわかっていても検分の記録は残っているはずなのに。
「お……おい見ろよフリッカ。俺がブチ殺してやった司祭の検分、もう終わってるみたいだぜ」
そうしてる間に、コギトさんは笑いながら手元の紙をひらひらさせる。
って、なーーーーにやってるのこの人! 自分が! 自分の犯罪の記録が! 自分が何をしたか本当に自覚しているの!?
「だ、駄目ですよそんな、勝手に見ちゃ!」
い、いや、もう充分勝手に見てるんだけど!
でも、流石になんか自分のしでかしをひけらかすのは不謹慎です!
私はコギトさんから書類を取り上げる。別に見る気はなかったんだけど、つい内容に目が行く。
どうやら自警団は、小屋にいるディエゴさんの遺体を発見し検分してるみたい。
でも……あれ、何かおかしい。ディエゴさん、刺されて死んだ事になっている……?
コギトさんは刃物はもっていない。私が見る限り完全に素手で相手を殴り倒しているし、私とあった時も確かに「ぶん殴った」といっていた。
それなのに、どうして刺されてるんだろう?
疑問を憶える私の横で、コギトさんはガリガリと頭を掻いた。
「あー、やっぱり見つかんねぇな。おい、フリッカ。おまえのほうは何か見たか?」
「えっ! いえ、私も見てません。おかしいですね、ワンダさんは真面目だから、絶対どこかに記録はあるはずなんですけど」
私は紙の束を元あった場所に戻す。
自警団は、教会や貴族の権威に触れてないという証拠として、いろいろ記録を残しておくはずなのに。
「となると、調べたが書類が残ってないか……あるいは、自警団の連中はリーレンの事件を調べてないってことだな」
コギトさんはあごに手をおいて独りごちる。
「で、でも、ワンダさんは真面目ですから絶対記録は残すと思いますし、事件となれば自警団が調べるはずですよ」
「どこにでも例外ってのはあるだろ? 自警団がおいそれと調べられない場所や事件ってのはあるか?」
それには、心当たりがある。
一つは、教会の中でおきた事件。これは教会の騎士が調べ、内々に解決するものだ。
もう一つは、貴族の内部でおこった事件。
貴族たちは自分の館でおこった事件は、一般的に教会の騎士たちが介入し、自警団は一切知らされないか、知らされても全て終わってからというのが多いそうだ。
ワンダさんたち自警団が手伝うことになっても、詳細は知らされないというのも多いのだという。
リーレンさんは個人の学者さんだったけど、潤沢な資金をもち研究をしていた。
きっと、貴族のパトロンがおいるんだろうと専らのだった。
まさか、貴族がリーレンさんを……?
それを教会の騎士たちが調査でもみ消したとしたら……。
そ、そ、そ、それは大事件! 大事件じゃないですか!
一人で慌てて金魚のように口をパクパク開ける私の耳に、ドアが開く音がする。
たたたたた、大変! きっと自警団の人が帰ってきたんだ!
「コギトさん! 音のドアがして人の自警団が帰ってきたみたいです、逃げましょう!」
「おいおい、落ち着け。いってることムチャクチャだぞ」
「落ち着けないです! 自警団に忍び込んで勝手に書類を見てるんですよ! こんなことバレたら私たちが監獄行きです!」
すっかり慌てる私を前に、コギトさんはふてぶてしく笑う。
「いいじゃねぇか、せっかく帰ってきたんだから聞きたい事がある。付き合えよ」
「いいいい、いやですー! ま、まだ逮捕されたくありませーん!」
「いいから付き合えよ、それに逮捕されたらトンズラこけばいいだけだろ」
コギトさんはそういって、私の襟首をつかみずるずるっと引っ張る。
わ、私の自由意志! 私の自由意志はどこに!
まだお尋ね者にはなりたくないですし、トンズラ前提で話を進めるのはやめてほしいです!
なんて思っているうちに、ワンダさんたちがドヤドヤと自警団に戻ってきちゃいました。
ドゥーくんとサンチョさんもいて、当然の如く勝手に入っている私たちに目を丸くしています。
「あ、あなたは一体何者ですか! それに、どうしてフリッカさんもここに! さては、フリッカさんを人質にして……卑怯者め!」
ドゥーくんは、私がコギトさんに首根っこを掴まれてるから、圧倒的にコギトさんが悪人だと思ってるみたい。
そうなんです! 私けっこう無理矢理やらされてるんです!
でも、コギトさんが悪人なのかな、と言われると正直ちょっと迷っているんですよね。
コギトさんの行動はムチャクチャだけど、一貫してリーレンさんの事件を調べている。
そして、そこに確固たる信念がある。
それだけは事実だから。
「フリッカさん大丈夫ですか! あぁ、フリッカさん可哀想に……」
うっうっ、ドゥーくんが私のこと心配してくれるから、私の罪は紛れそう。
いや、罪を紛らわそうと思うなんて私だいぶ利己的になってる!
いけないフリッカ、あなた聖職者なのよ!
そうやって私を庇おうと声をあげるドゥーくんとコギトさんの間に、ワンダさんが割って入ってきた。
「よぅ、見ない顔だな。旅のもんか? 見る限り……マナウス教の人間のようだが」
「おう、そっちは見る限り、鍵師あがりの情報屋、ってとこか? お前だけ足音の消し方が見事だから、隠してても分かるってもんだ」
コギトさんの返答に、ワンダさんは小さく舌打ちする。
鍵師あがり……ってどいういうこと? 情報屋……って、ワンダさんは自警団の傍ら修理屋をしていて器用ではあるけど、別に鍵屋さんではないはずだ。
「目聡い奴だな。ただの坊主じゃねぇってことか。ここに何の用だ?」
「話が早くて助かるぜ。俺は、リーレンって奴が殺された件を調べてんだ。ここに、リーレンの事件に関する資料はねぇのか?」
ま、ま、まってコギトさん! リーレンさん、殺されたっていった!?
「……なに? リーレンは殺されたのか?」
ほら、ワンダさんも驚いてる!
リーレンさん、何かいろいろおかしなことはあるけど、まだ自殺って話だもんね。
「そうか……やはり、するってぇと……」
ワンダさんは真剣な顔で俯く。
えぇ……なになに、どういうこと? 置いてかれちゃってる!
私が一人でパニックになってる中、ワンダさんは顔をあげた。
「悪いが、ここにはリーレンに関連した文書の類いはもちろん、証拠品も一切ないぜ。何せあの事件は、マナウス教会の連中が全部調べ終わってから自殺って報告だけしか届いてないからな」
えっ!?
そ、それって……どういうことだってば! もう!
でも、コギトさんはそれだけ聞いたらもう満足って顔をした。
「そうか。それだけわかれば充分だ。それじゃ、あばよ!」
そして私の首根っこを掴んだまま、堂々と窓から飛び出していく。
って、まってー! やめてー! ここ二階だよコギトさぁん!
「ぎゃあああああああ! たーすけてーー!」
私の叫びも空しく、そのまま引きずられて連れ去られちゃうのでした。
うう、どうなっちゃうの私。
特に説明はしてないんですが、この地域では紙は羊皮紙ではなく、手漉きの紙が主流です。
羊皮紙と比べれば安いのですが、それでも日用品ではないのでぽんぽん使える訳ではない、くらいのイメージで書いてます。
特にどうでもいい補足でした。




