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あのね、いきがくるしいの。

 むかしむかし、ある異世界に、『アメリア』という女の子がおりました。

 えらーい貴族の子として生まれたアメリアには、生まれたときからの婚約者がいます。

 それが『ラファレイ』。将来アメリアの国の王様となることが決まっている、王子様です。


 アメリアは物心ついた頃からずっと周りに、「あなたは王妃になるのよ」と言われて育ってきました。

 その言葉通り、六歳になる頃には王妃となる女性として受けなければならない教育が始まりましたが、当然その教育は大変に厳しいもので。

 だというのに、アメリアは文句一つ言いません。


 周りの大人たちは口々にアメリアを褒めました。


「こんなにも幼い頃から王妃としての自覚が備わっているなんて」

「良き国母になるに違いない」

「我が国の将来は安泰だ」


 ──けれど幼いアメリアは、別に王妃になるために頑張っているわけではありませんでした。


 アメリアはただ、自分より十歳上の優しいお兄さんが、自分のことを『アミィ』と呼んで可愛がってくれる『レイにいさま』のことが、大好きだったのです。

 「レイにいさまとずっと一緒にいられるなら」と努力を苦にも感じないくらい、好きで好きでたまらなかったのです。


 幼いアメリアのその感情は、もしかしたら恋愛感情では無かったのかもしれません。

 けれどアメリアが成長するにつれ、その感情はたしかに恋として育っていきました。


 そうしてアメリアが十八になり、いよいよラファレイに輿入れする日。


 アメリアはもう、天にも昇る気持ちでした。

 淑女として、皇太子妃として、自身の立場に責任が伴うことは当然理解していましたが、それ以上に、幼き『アミィ』がずっとずっと抱えてきた『レイにいさまのおよめさん』という夢がやっと叶うのです。


 今までは『レイにいさま』の忙しさもありそう多くの時間を共には過ごせなかったけれど、これからは夫婦として長い時間を共に過ごすことができるはず。


 大事に大事にしてきた想いを抱き締めて、結婚式を済ませた夜。


 しかし、ラファレイは言いました。



「親の決めた結婚とは言え、君にとって俺との結婚は本意ではないだろうに……すまない」

「褥を共にするのは必要な時だけで構わないから、無理はしないでほしい」

「好いた男ができたときは、国民に不安を抱かせないよう注意を払ってくれるのであれば好きにしてくれて構わないよ」



 アメリアは、それにただ頷きました。

 「えぇ、承知いたしましたわ殿下」「ご厚情痛み入ります」と、淑女の皮を被って微笑みました。


 アメリアは自身の感情を殺すのが得意でした。

 『レイにいさまのおよめさん』になるために、そう育てられたからです。


 なのでアメリアは泣きませんでした。

 ラファレイが自分のことを好いていないと分かっても、大事に大事に抱え込んでいた想いが軋んでも、心の臓を握り潰されるような感覚に陥っても。

 自分の手で大切な感情(アミィ)を殺すことになっても、アメリアはただ、上手に笑って見せました。




 ──あぁ。

 いきが、くるしい。



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