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クズな私は英雄です  作者: さにー
第1章
6/6

6 ベールの下には

「……なあ、今の、なんだ?」

「さあ? 知らないけど、国王様って……」


キーンコーンカーンコーン


 誰かの話し声を遮るように、授業の終わりを告げる音が響いた。


「――それでは、時間になりますので、授業を終わります」


 先生はそう言うと、転校してきた彼女の方を向いて、微笑んだ。


「マリットさんのことは、皆さんでサポートしてあげてくださいね。それでは、日直は号令を」

「……あっ、き、起立――」


 日直の子が慌てて号令をかける。


「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」

「はい、ありがとうございました」


 挨拶が終わると、教室がざわめきに包まれた。

 私も鼻息を荒くしながら、クロスくんに話しかけた。


「ねえ! さっきの聞いた!?」

「……さっきのって、国王様の?」

「そうそう! 国王様がやってくるなんて、滅多にないよ! すごくない!?」


 前のめりになりながら、私は早口気味に語る。すると、ずっと無表情だったクロスくんが、わずかに眉をひそめた。


「いや……本当だったらすごいけどさ……普通に考えて、告知も無しに国王様が来るはずないでしょ」

「……!」


 呆れたようにクロスくんに指摘されて、私は固まった。クロスくんは追い打ちをかけるように続ける。


「……国外のことは分からないけどさ。少なくとも、ここ『光の国』の王様は、民の前に現れるときはベールをつけて顔を隠さないといけないくらい、神聖な存在だし――」

「……!!」


 クロスくんに、次から次へと正論をぶつけられ、私の腕は怒りでぷるぷると震えだした。


「……つまり、国王様がいる可能性は、ほぼ()――」


バンッッ!!!!


 そのとき、何かが破裂したような音が教室に響いた。

 立ち上がった私が、机をぶっ叩いたのである。


「……そんなに言うなら、私が国王様を探すから!!」

「……は?」


 クロスくんが、『意味が分からない』とでも言いたげに、目を二回瞬かせた。


「だって、私が国王様と会うことができれば、クロスくんは何も言えないでしょ? だから、絶対に見つけてくる! というか、見つけるまで戻らないから!」


 私は勢いのままに宣言すると、教室を出た。



°✧˖°✧˖°✧˖°✧˖°



(いま気付いたけど……国王様が本当に来ているかも分からないのに、探すなんて無理じゃん!?)


 国王様の探索を始めてからまだ数分も経っていないが、私はすでに自分の行いを後悔していた。窓が並んだ、人気(ひとけ)のない廊下をトボトボと歩きながら、私はため息をついた。


「はぁ……」


 国王様探しを諦めかけていた、そのとき。


「――ヒカリさん? どうしたの、ため息なんかついて」

「……!」


 前方から、聞き覚えのある声がした。驚いた私は顔を上げる。

 だが、そこには誰もいない。辺りをキョロキョロと見渡してみたが、声の主は見つからなかった。


「その声……国王、陛下?」

「おっ、よく分かったね!」


 尋ねると、誰の姿も見えない空間から、明るい国王様の声が返ってきた。

 私は一歩後退り、どこかにいるであろう国王様に向けて口を開いた。


「どこにいらっしゃるのですか? 陛下のお姿が、見当たりませんけど」


 すると、国王様は笑いながら、楽しげに言った。


「そうだねぇ……どこにいると思う?」


 私は試しに感覚に意識を集中させてみたが、物音一つ聞こえなかった。私はため息混じりに話す。


「誰に向かって聞いているのです? 私に分かる訳がないでしょう?」

「そっか。種明かしすると、いま使っている魔法は、隠蔽コンシール。僕の得意魔法で、姿とか足音とか、色々なものやことを隠せる魔法だよ」


 そのとき、窓から日光が差してきた。


「魔法解除」


 そのとき、声が聞こえた場所で、純白のベールがきらきらと輝いた。

 華やかな服で身を包み、美術品のような剣を腰に下げ、よく手入れされた金髪をもつ彼は、王族の印が入ったベールで顔を隠している。私は彼に向けて微笑んだ。


「お久しぶりです。お元気そうで安心いたしました、神威(かむい)レイヴェル陛下」


 名前を呼ぶと、国王様はベールの下に笑みを浮かべた。


「ヒカリさんと会うのは、きみたち〈H.S〉が二代目魔王を討伐したという報告を受けたとき以来かな。調子はどう? 悪そうだけど」

「はい! とっても悪いです!」

「そうか。前よりは元気になったようだけど、無理はしないように」

「はい!」


 国王様と冗談交じりの会話をしたのち、私は彼に、気になっていたことを問いかけた。


「そういえば、陛下はなぜこの学園へ?」

「えっ、あっ、それは……まあ、いろいろ……」


 私の質問に、国王様はしどろもどろに答える。

 疑わしく思った私は、国王様を問い詰めた。


「もしかして……お城から逃げ出した、というわけではないですよね?」

「なっ……! そ、そんなこと……!」


 純白のベールに隠されているせいで顔はよく見えないが、明らかに動揺していることは分かる。


 困ったことに、この王様は、お城をよく抜け出すのだ。


 そこまでして何をするのかと思えば、町の武道大会に身分を隠して参加したり、農民たちと畑仕事に励んだり、ときには趣味の一環として、貧民街で楽しく暮らしたりしているらしい。


「で、でも、今回は本当に違うんだ。この学園に王としての仕事で来たあとに、逃げ出したんだ」

「結局、逃げてるから同じです」

「そうしたら、間違えて魔法を解除しちゃったところを、生徒に見つかって叫ばれて――うっ……うう……ひっく……」

「そ、そんなことで泣かないでくださいよ……! 国王様って大人ですよね……?」


 国王様はベールの下で涙をぬぐうと、続けた。


「ああ、それと――〈H.S〉にも用があってね」

「え、〈H.S〉に、ですか?」


 思わぬ方向に話が進み、私は目を瞬かせた。

 先ほどの様子とは打って変わり、陛下ははっきり堂々とした態度で話した。


「ヒカリさん。学校が終わったら、〈H.S〉の本部で集合してほしい」

「は、はい! 分かりました」

「他の隊員たちには僕が伝えに行くから、よろしくね」


 みんなで集まって何をするんだろう、と思いながらも、私は頷いた。

 そうしていると、国王様がふと懐中時計を取り出した。彼は時間を確認すると、今度は私の方に時計の文字盤を向けてきた。


「長く付き合わせてしまって、本当に申し訳ない。実は、授業開始まで残り一分しかないんだ」

「え」


 その言葉の意味を理解した瞬間、私は真っ青になり、廊下を全速力で駆け出した。



°✧˖°✧˖°✧˖°✧˖°



 私は〈H.S〉本部へと通じる、一つ目の扉の鍵穴に、鍵を差し込んだ。

 鍵を回すと、ガチャッと音がする。扉を開けて、私の後ろにいた彼を先に通してから、自分も中に入った。

 ドアを閉めると、横の壁が変化し、二つ目の扉が現れた。この扉は、指定された番号を入れると解錠されるようになっている。彼が慣れた手つきで番号を入れると、すぐにカチッと音がした。

 その扉を開くと、最後の扉が現れた。


「ねぇ……いつも思うけどさぁ……ここ、入るとき、めっちゃめんどくさいよね」

「……誰かに侵入されたら困るから、仕方ないけど……面倒だよな」


 ここは珍しく意見がそろった。二人してため息をついた後、私は扉の近くにあるスクリーンに目を向けた。

 この扉は、かなり高度な魔法がかかっているらしく、顔を画面に映すだけで鍵が開くようになっている。だから、今までの扉よりも、私は楽だ。


 だが、この方法は、眼帯などで片目が隠れているとできない。私は顔を、横にいる彼に向けた。

 彼――クロスくんの左目は眼帯で覆われている。


「……この扉が面倒なのは僕だけって、なんか悲しいな」


 そう口にすると、クロスくんは耳に掛けた眼帯の紐に指を触れさせた。

 私は息を呑んだ。この動作はもう何回も見ているが、なぜだか目が離せないのだ。


 次の瞬間。はらり、と彼の眼帯が宙を舞った。

 眼帯が取れると、隠されていた彼の左目が見えた。


 冷たく、無機質な漆黒の瞳。そこには、真っ白なバツ印が刻まれていた。

 周りの光を一瞬も映さないそれは、魔眼と呼ばれる、特別な眼だ。


カチャッ


 鍵が開いたようだ。私は隣にいる彼と、一緒に扉を開く。


「行くよ、2号!」

「……了解、1号」


 私の声に、彼――2号は無表情のまま言葉を返した。

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