表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クズな私は英雄です  作者: さにー
~第1章~
3/5

3 使えるもの全てを使って

 うう~! 崖から飛び降りたときから、私の心臓がうるさい~!!


 さっき、

(崖の上からテレポートとかするのかな~! でも魔力は温存したいな~)

 とか思って、のほほんとしてたら、隊長がいきなり飛び降りて。3号も、当たり前かのように続いてさ。

 それにつられて、私も飛びこんでしまったのだ。


 あ、そんなこと考えてる場合じゃないね。今は――

 ――戦いに集中しなきゃ。


「オラァァァァ!!!!!!」


――ドガーン!!!


 隊長の剣によって、〈黄金女神の庭〉を囲む(バリケード)は破壊された。

 土煙が立ち込める。

 その中に、人影が見える。

 土煙が引き始めて、その正体は明らかになる。

 人の姿をしたそいつの頭には、ツノが生えていた。


 ――敵だ。


 ――戦いが始まる。

 瞬間、どこからかパラパラ……と音がする。

(石……?)

 それを確認する暇なんて無い。

 勘だけで後ろに飛び退く。

 ――さっきまで私がいた所に、”岩”が飛んできた。

 私の身長の、何倍もありそうな岩が、庭園の歩道を砕いた。


(ひえぇ! 避けてなかったら、今頃ぺっちゃんこに……)


 怖すぎるって……!


 あまりの破壊力に震える私。その横で、隊長の剣の刃先が光り、岩が真っ二つになった。

 それを見て、敵は、口を開く。その声には、好奇心と強者の余裕、猛烈な狂いが混じっていた。


「ダメだったカァ……! まさか、ボクの攻撃を、避けるどころか、切るなんてネェ……!」


 角を生やした敵――悪魔は、ツノをなでながら、笑みを浮かべた。


 「光の国」に人間という種族がいるように、「闇の国」には悪魔という種族がいるのだ。

 大体の悪魔は魔王軍に所属していて、ツノの大きさ✕数で強さが決まる。

 この悪魔は、中くらいのツノが2本。

 ――かな~り強い方。


「ボクの岩を傷付ける人なら時々いるけど、切った人なんて、今までダァレもいなかったヨォ!」


 ふと、悪魔は、油断なく構える私たちを見て、手を上げた。


「……もうおしゃべりは終わりにしようかナァ? 魔法発動・岩投(ロック・スロー)!!」


 すると、天へと差し伸べられた手に、魔力が溜まる。

 そして、岩ができた。

 その岩は、山崩れのような勢いで、私たちの方へと襲いかかってくる!


「……うわっ」


 全力でそれを避けると、悪魔の口角がさらに上がる。


「ボクの得意魔法は(ロック)! 岩を生成して、操ることができるんダァ! 例えば――岩壁(ロック・フェイス)! 岩の雨(ロック・レイン)!」


 悪魔が手を上げ下げすれば、庭園を覆っていた岩の壁と、同じ物が出来上がった。すると、岩の壁はそのまま押し寄せてきた。

 追い打ちをかけるように、空からは、無数の小さな岩が降ってくる――!


「……っ!」


 ナイフに魔法をかけて、当たりそうになった岩をなんとか防ぐ。

 瞬間、腕に強い衝撃が走る。思わずナイフを取り落とす。

 ナイフにはヒビが入っていた。

 それを見た3号が、司令に連絡をとる。


「司令、3号です。わたし達があの悪魔を倒すまでには、それなりの時間を要することになりそうです」

『……作戦を変更します。敵を倒してから救助する予定でしたが、救助優先で。3号、救助。隊長と2号は攻撃。1号は3号のサポートを』

「「「了解」」」

『移動中に話した通り、要救助者は五名。場所は変わらず』

「「「了解!」」」


 司令の言葉を受けて、私たちは走り出した。


(――頑張るぞ、お昼寝とチョコのために!)


 気を引き締めて、救助者がいると思われる場所に着いた私たち。

 だけど、そこは岩が他の所よりも、め~っちゃ多い!

 あっち見れば岩、こっち見たら岩、そっちを見ても岩! 岩、岩、岩!

 地面の面積の半分以上を岩が覆っているんですけど!

 岩の独特な匂いが、私の鼻を刺してる。ぐすん。


「さて、仕事ね。救助者を見つけなくては。1号、二手に分かれるわよ」

「えぇ~? 心細いんだけど……」


 つい、顔をしかめてしまう。3号に付いて行くだけの方が良いけど……でも、やらなきゃだよね……。

 小さくうなづいた後、私は心の中でため息をつく。


(はぁ……)


 みんなを助けなきゃいけないのに、それを怖がってる自分がいる。

 本当に、私、なんで、〈ヒーロー〉を目指してるのかな。

 心に、ズキッと痛みが走る。

 心臓の、今までとはまた違う、鼓動の激しさが、騒がしさが、痛い。

 目をギュッとつぶって、逃げ出したくなるような感覚。


 岩でできた迷路の中を、さまよい歩く。

 その道中で吐いたため息は、自分の影に溶けていった。


 さっきのことを思い出して、ボロボロのナイフを握りしめる。

 あーあ……武器を傷付けちゃうなんて……。

 ああいうときは、死ぬ気で避けるか、ナイフの側面とか背とかを使って、攻撃を()()のが当たり前なのに。

 焦って間違えたせいで、ナイフが傷付いちゃったし。


 ――なんでだろう。

 全部全部、自分が悪いのに。


 足が止まりかけ、うつむいていた、そのとき。

 前の方から、道を照らすように、やさしい黄金の光が広がってきた。

 思わず顔を上げる。

 そこには、黄金色に輝く、女神様の像があった。


「わあ……」


 つい、声がこぼれてしまう。

 まるで、天から、本当に女神様が降りてきたみたい……!

 温かく、美しいものが、私の心を溶かしていく。

 自分よりも大きい、女神様の像。

 気が付けば、それに向かって、一歩、また一歩と、歩み寄っていた。

 近づいてよく見てみる。小さな宝石のきらめきに、息を呑んだ。

 だんだんと、ぼやけていく視界。

 だけど、感情の波が私の目から溢れるより先に、耳の通信機が震えた。

 同時に、仲間の声が聞こえ始めた。


『3号です。金像広場で、要救助者を二名発見しました』

『了解です――残り三名』

『こちら、2号……。……今、要救助者……一名、見つけた』

『残り二名――2号は、1号たちがいる金象広場に向かって』

『……了解』

『隊長だ! なんか戦ってるうちに一人見つけたぞ!』

『……残り一名――』


 意外とスムーズに進んでいる。

 この調子で、残りの一人も――


『――待ってください』


 いきなり、司令が声を出す。

 いつもの冷静な声に、ほんの少し、焦りを滲ませて。


『敵が近いです。……数秒後には、金像広場に入ります』

「「「「……!」」」」

『隊長、3号。1号の場所へ移動を!』

「「了解!」」


 司令が言った瞬間に、隊長と3号が駆けつける。

 二人の額には、汗が光っていた。


『2号は広場へ合流後、援護射撃を!』

『……分かってる……!』


 司令が次々と命令を飛ばす。

 その間、私の心臓は、破裂しそうなくらいに暴れていた。

 痛みと共に胸を叩き続ける鼓動。

 もう、金の像の温かなオーラなんて、分からない。

 そこにあるのは、あたりを包む緊迫感だけだ。


 そのとき。

――ガシャァァン!

 何かが砕け散る音が、静寂の空間に響きわたった。

 それに遅れて聞こえる、場に合わない声。


「すごいネェ! ボクがこんなに本気になるなんて、なかなか無いヨォ?」


 私は、声のする方向を睨みつける。

 でも、悪魔の言葉は、私たち〈H.S〉に向けたものじゃなかった。

 続く破壊の音と共に、”何か”が一直線に飛んできた。

 木の幹に強く打ち付けられて、”何か”は、崩れ落ちるように止まった。

 それに、近づいてみる。すぐにその正体が分かった。


 ――人間だ。


 だけど、その人は服も体もボロボロだ。

 そして、服の胸辺り。そこには、金色の縁取りをされた、ルビーのような物が輝いていた。


 ――――〈H.A〉の紋章。


 ということは……。


 その人も、私に気付いたようで、顔を上げた。

 その拍子に、少し灰色の混じった黒髪が、サラリと揺れる。

 戸惑ったように私を見る、淡い青色の瞳。


 ――間違いない。


 ――彼の名前はラプト。

 最年少で〈H.A〉の副隊長になった天才として有名な人。

 ……そして、校内放送で〈H.S〉に救助要請を送ったのも、この人だ。


 そのとき、背後から、パラパラ……と音が聞こえた。

 ――悪魔!

 振り向くと、溢れ出る魔力をかかげた、悪魔の姿が。

 それは、やがて、隕石のような巨大な岩へと変化する……!


「いっくヨォ~! 最終奥義! 巨大隕岩(ロックメテオ)()滅砕(デストロイ)!!」


 無邪気に投げられた巨大隕岩(ロックメテオ)は、私達を滅するために襲いかかる――!


「まずい! あれは俺も切れない!」

「思ったよりスピードがあるわね。頑張れば止めれそうだけど――」

『僕も一応やってみるけど……火力が足りなさすぎる』


 悪魔は、そんな私たちを見て、微笑んだ。


「これで、み~んな死んじゃうネェ?」


 悪魔がニコニコ笑顔でそう言ったとき。


――ブチッ


 私の中の何かが切れた。

 ――ねぇ、みんなはさ。

 自分たちの生死を、他の人に勝手に決められたら――

 もっと生きてやろうと、思わない?


 気が付けば、私の体は動いていた。

 とんでもなく美しい、女神様の像に手を置く。

 そして――


「でりゃあぁぁぁぁぁっ!!!!!!! 魔法発動!! 念動(サイコキネシス)ぅぅ!!!!!」


 自分よりも大きく、自分よりも重く、自分よりも強い、黄金の女神像。

 私は、それを持ち上げた。


 ――それは全て、人の命を助けるために。




ヒカリ:(壁代わりの大きさの岩を破壊するって、隊長、馬鹿力すぎない?)


~その後~


ヒカリ:(怒り怒り怒り怒り怒り怒り…フンッ!!!!!!!!)

 隊長:「金でできた女神像がァ!? 1号、得意魔法を使ったにしても、それは馬鹿力すぎるぞ!?」

 3号:(いや、馬鹿力どころじゃないでしょ…。人間にできる技じゃないわ…)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ