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クズな私は英雄です  作者: さにー
第1章
3/5

3 使えるもの全てを使って

GO(ゴー)


 司令の声と同時に、2号が矢を放つ。私も3号と共に、隊長に続いて駆け出した。

 ――崖に向かって。


「え、ちょっと、待って、このままだと――」

「よし、時間短縮のため、崖から行くぞ!」

「え、ちょ、は? え、待って待って待っ――」

「行くぞ!!」


 慌てふためく私を気にせず、隊長は崖を滑るように走り出す。

 3号も当たり前と言うように続き、それにつられた私も崖に飛び出す。

 私は魔力と体を酷使して、崖をほぼ垂直に走った。

 崖の途中で、隊長が剣を抜き、地面を蹴り、宙を飛んだ。


「オラァァァァ!!!!!!」


――ドガーン!!!


 隊長の操る大剣によって、〈黄金女神の庭〉を囲む壁が破壊された。

 私は念動(サイコキネシス)を発動させ、ゆっくりと地面に降り立つ。


 土煙が立ち込める。

 その中に、人影が見える。

 土煙が引き始め、その正体は明らかになっていく。

 人の姿をしたそいつの頭には、ツノが生えていた。


 ――敵だ。


 戦いが始まる。

 瞬間、どこからかパラパラ……と音がする。

(石……?)

 それを確認する暇なんて無い。

 勘だけで後ろに飛び退く。

 ――さっきまで私がいた所に、”岩”が飛んできた。

 私の身長の倍はありそうな岩が、庭園の歩道を砕いた。


(ひえぇ! 避けてなかったら、今頃ぺっちゃんこに……)


 あまりの破壊力に震える私。前に進み出た隊長の剣が光り、岩が真っ二つになった。それを見て、敵は、口を開く。


「ダメだったカァ……! まさかボクの攻撃を、避けるどころか、切るなんてネェ……!」


 その声には、好奇心と強者の余裕、猛烈な狂気が混じっていた。

 角を生やした敵――悪魔は、ツノをなでながら、笑みを浮かべた。


 「光の国」に人間という種族がいるように、「闇の国」には悪魔という種族がいる。

 ほとんどの悪魔は魔王軍に所属していて、ツノの大きさ✕数で強さが決まる。

 この悪魔は、中くらいのツノが2本。

 ――かなり、強い方だ。


「ボクの岩を傷付ける人なら時々いるけど、切った人なんて、今までダァレもいなかったヨォ!」


 ふと、悪魔は、油断なく構える私たちを見て、手を上げた。


「……もうおしゃべりは終わりにしようかナァ? 魔法発動・岩投(ロック・スロー)!!」


 すると、天へと差し伸べられた手に、魔力が溜まる。

 そして、岩ができた。

 その岩は、山崩れのような勢いで、私たちの方へと襲いかかってくる!


「……うわっ」


 全力でそれを避けると、悪魔の口角がさらに上がる。


「ボクの得意魔法は(ロック)! 岩を生成して、操ることができるんダァ! 例えば――岩壁(ロック・フェイス)! 岩の雨(ロック・レイン)!」


 悪魔が手を上げ下げすれば、庭園を覆っていた岩の壁と、同じ物が出来上がった。すると、岩の壁はそのまま押し寄せてきた。

 追い打ちをかけるように、空からは、無数の小さな岩が降ってくる――!


「……っ!」


 私はナイフに魔法をかけて、当たりそうになった岩をなんとか防ぐ。

 瞬間、腕に強い衝撃が走る。ナイフにひびが入り、私は思わずナイフを取り落とした。


「――こちら、3号。司令、悪魔の討伐より〈H.A〉の救助を優先した方が良いのではないでしょうか。作戦の変更をお願いします」

『……了解。では、3号と1号は救助を頼みます。隊長は攻撃。2号は全体のサポートを』

「「「了解」」」

『移動中に話した通り、要救助者は五名。場所は変わらず』

「「「了解!」」」


 司令の言葉を受けて、私たちは走り出した。


(――頑張るぞ、お昼寝とチョコのために!)


 気を引き締めて、救助者がいると思われる場所に着いた私たち。

 岩の独特な匂いが、私の鼻を刺す。地面の半分以上は岩で覆われていた。


「さて、仕事ね。救助者を見つけないと。1号、二手に分かれるわよ」

「えぇ~? 心細いんだけど……」


 つい、顔をしかめてしまう。

(でも、やらなきゃだよね……)

 私は小さくうなづいた。3号が行くのを見送ったあと、私は心の中でため息をつく。


(はぁ……)


 みんなを助けなきゃいけないのに、それを怖がってる自分がいる。

 本当に、私、なんで、〈ヒーロー〉を目指してるのかな。

 心に、ズキッと痛みが走る。

 心臓の、今までとはまた違う、鼓動の激しさが、騒がしさが、痛い。

 目をギュッとつぶって、逃げ出したくなるような感覚。


 岩でできた迷路の中を、さまよい歩く。

 その道中で吐いたため息は、自分の影に溶けていった。


 さっきのことを思い出して、ボロボロのナイフを握りしめる。

 あーあ……武器を傷付けちゃうなんて……。

 ああいうときは、死ぬ気で避けるか、ナイフの側面とか背とかを使って、攻撃を()()のが当たり前なのに。

 焦って間違えたせいで、ナイフが傷付いちゃったし。


 ――なんでだろう。

 全部全部、自分が悪いのに。


 足が止まりかけ、うつむいていた、そのとき。

 前の方から、道を照らすように、やさしい黄金の光が広がってきた。

 思わず顔を上げる。

 そこには、黄金色に輝く、女神様の像があった。


「わあ……」


 つい、声がこぼれてしまう。

 まるで、天から、本当に女神様が降りてきたみたい……!

 温かく、美しいものが、私の心を溶かしていく。

 自分よりも大きい、女神様の像。

 気が付けば、それに向かって、一歩、また一歩と、歩み寄っていた。

 近づいてよく見てみる。小さな宝石のきらめきに、息を呑んだ。

 だんだんと、ぼやけていく視界。

 だけど、感情の波が私の目から溢れるより先に、耳の通信機が震えた。

 同時に、仲間の声が聞こえ始めた。


『3号です。金像広場で、要救助者を二名発見しました』

『了解です――残り三名』

『こちら、2号……。今、要救助者……一名、見つけた』

『了解、残り二名――2号は、1号たちがいる金象広場に向かって』

『……ん、了解』

『隊長だ! なんか戦ってるうちに一人見つけたぞ!』

『……残り一名――』


 意外とスムーズに進んでいるようだ。

 この調子で、残りの一人も――


『――待ってください』


 いきなり、司令が声を出す。

 いつもの冷静な声に、ほんの少し、焦りを滲ませて。


『敵が近い。……数秒後には、金像広場に入ります』

「「「「……!」」」」

『隊長、3号! 1号の場所へ移動を!』

「「了解!」」


 司令が言った瞬間に、隊長と3号が駆けつける。

 二人の額には、汗が光っていた。


『2号は広場へ合流後、援護射撃を!』

『了解……!』


 司令が次々と命令を飛ばす。

 その間、私の心臓は、破裂しそうなくらいに暴れていた。

 痛みと共に胸を叩き続ける鼓動。

 もう、金の女神像の温かなオーラなんて、分からない。

 そこにあるのは、あたりを包む緊迫感だけだ。


 そのとき。

――ガシャァァン!

 何かが砕け散る音が、静寂の空間に響きわたった。

 それに遅れて聞こえる、場に合わない声。


「すごいネェ! ボクがこんなに本気になるなんて、なかなか無いヨォ?」


 私は、声のする方向を睨みつける。

 でも、悪魔の言葉は、私たち〈H.S〉に向けたものじゃなかった。

 続く破壊の音と共に、”何か”が一直線に飛んできた。

 木の幹に強く打ち付けられて、”何か”は、崩れ落ちるように止まった。

 それに、近づいてみる。すぐにその正体が分かった。


 ――人間だ。


 だけど、その人は服も体もボロボロだ。

 そして、服の胸辺り。そこには、金色の縁取りをされた、ルビーのような物が輝いていた。


 ――――〈H.A〉の紋章。


 ということは……。


 その人も、私に気付いたようで、顔を上げた。

 その拍子に、少し灰色の混じった黒髪が、サラリと揺れる。

 戸惑ったように私を見る、淡い青色の瞳。


 ――間違いない。


 ――彼の名前はラプト。

 最年少で〈H.A〉の副隊長になった天才として有名な人。

 ……そして、校内放送で〈H.S〉に救助要請を送ったのも、この人だ。


 そのとき、背後から、パラパラ……と音が聞こえた。

 ――悪魔!

 振り向くと、溢れ出る魔力をかかげた、悪魔の姿が。

 魔力は塊となり、やがて、隕石のような巨大な岩へと変化する……!


「いっくヨォ~! 最終奥義! 巨大隕岩(ロックメテオ)()滅砕(デストロイ)!!」


 無邪気に投げられた巨大隕岩(ロックメテオ)は、私たちを滅するために襲いかかる――!


「……ヤベーかもな。あれは俺も切れるか分からない」

「思ったよりスピードがあるわね。わたしたちだけが避けるならできるけど、要救助者は――」

『僕も一応やってみるけど……多分、無理』


 悪魔は、そんな私たちを見下ろし、嬉々として声を上げた。


「これで、み~んな死んじゃうネェ?」


 悪魔がそう言ったとき。


――ブチッ


 私の中の何かが切れた。


 ――みんなはさ。

 自分たちの生死を、他の人に勝手に決められたら――

 もっと生きてやろうと、思わない?


 気が付けば、私の体は動いていた。

 息がもれるほど美しい、女神様の像に腕を置く。

 そして――


「魔法発動・念動(サイコキネシス)!!! うおおぉぉぉぉぉッ!!!!!」


 自分よりも大きく、自分よりも重く、自分よりも強い、黄金の女神像。

 私は、それを高々と持ち上げた。


 ――それは全て、誰かの命を助けるために。

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