表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

B.K.L騎士団

 睨み合うノエルとシュレディンガー。

 二人の間に流れる殺気を含んだ空気が、人混みの濁流の中で存在を確立させていた。

 じりじりと狭まってくる包囲の気配を感じながら、冷や汗交じりにミコノの手を握ったノエル。

 どう切り抜ける?打開策を見出しかねるノエルの右手が、少しずつ懐に忍ばせた拳銃に迫る。

 人混みの流れのこともある。側面に銃を向けるよりは前方に突き出した方が狙いやすい。

 そして覚悟の有無を問わずタイミングはやってくる。

 人混みの隙間に一筋の射線が開いた。

 撃つべきか?撃つべきだろう。ここで撃たねば後はない。

 覚悟を決めて、拳銃を引き抜いた瞬間である。

 大きな爆発が、人工の刺すような光に溢れる薄暗い街を赤く染め上げたのだ。

 一瞬遅れてやってきた爆発音がノエルたちの脇を過ぎ去る。

 その黒煙が入り混じった赤い光は、あろうことかアーマメンツ・ボックスから湧き上がっていた。


「なにッ!?」


 背後からの爆発音を受けてシュレディンガーが狼狽える。

 捨てる神あれば拾う神あり。

 探しあぐねていた脱出の糸口がここで開かれた。


 爆発に驚く者、携帯端末を掲げて写真を撮る者。

 通行人は様々だったが、ノエルはここで拳銃を空に撃った。

 間近で鳴り響いた銃声に人々がいよいよ逃げ出し始め、ノエルとミコノはその流れに紛れるようにして包囲を脱する。


「ちぃ! 何処へ行った!?」


 辺りに二人の姿が見えず、背後に振り返ったシュレディンガーはそこに逃げゆくミコノの後ろ姿を捉える。


「逃すな!」


 シュレディンガーがそう指示すると包囲を作っていた男たちが動き始め、人混みの合間を縫うように二人を追いかけ始めた。

 その無駄のない足運びはレプリカント特有の所作である。


「ミコノ、こっちへ!」


「ま、待って!」


 彼女の手を引いて走るノエルは片手間に携帯端末を取り出してミラージュたちに連絡を取ろうとするも、電波強度を示すアイコンに赤いバツマークが重なっている。

 ソレス影響下の街中で圏外になるはずがない。

 それはつまり、強力な電波妨害が展開されたことを意味する。


 そのことがアーマメンツ・ボックスの爆発と重なり、ノエルは全てを察した。

 それはつまり、マシーネ・ヘッドを駆る傭兵の仕事に巻き込まれたのだ。


 連絡を諦めて置いてきた車まで走ろうとしたその時である。

 逃げ惑う人々の頭上を光が通過して直後ブースターの熱風が吹き付けた。


「こ、今度はなんなの!?」


 ノエルが顔を上げると、血のように赤いアフターバーナー炎を吹き出しながら、飛行物体が道路の上を舐めるように低空飛行していく。


 立ち止まろうとしたミコノの手を多少強引にでも引っ張り、走るように促す。

 この人の流れの中で立ち止まるのは危険だ。

 だが、さっき頭上を飛び去った物体のことも気になる。

 改めてビルの合間を見やったノエルは、薄暗い空を背景に白色の物体を見た。


 人型の後ろ姿。

 マシーネ・ヘッドだ。


 間違いない。何処かの命知らずがアーマメンツ社上層部役員会議襲撃の依頼でも受けたのだろう。


 しかし飛び去っていったマシーネ・ヘッドに妙な既視感を覚える。

 一瞬しか見られなかったが、ヘルネハイム系列機体の面影があったように感じたのだ。

 王国製マシーネ・ヘッドで白い機体といえば......。


「ホワイトアウトか?」


 ビル群を抜け、燃え盛るアーマメンツ・ボックスの方へと飛んでゆく白色のマシーネ・ヘッド。


 白───といえばそうだろうが、より厳密にはガラスの様に半透明の装甲である。

 踵のヒールや指先の鋭い爪、肋骨が浮き出たような胸部に、主張は控えめな肩部。

 全体としてノエルのブラックアウトと共通した意匠を持つが、頭部はアシンメトリーではなく赤い双眼が鈍く輝く。


 そして左胸に施されたマーキングには『B.K.L RW』の文字。

 肩には特徴的な十字架状のエンブレムが施されている。


 アーマメンツ・ボックスの衛星塔へ猛然と迫る白色のマシーネ・ヘッドが、マイクロミサイルを振り撒きながら右手に持つレールガンを乱射する。


≪砲台が全滅!? たった十秒足らずでか!?≫


≪弾薬庫隔離! ダメです、ダメコン間に合いません!≫


 一瞬にしてボックスの防衛砲台を壊滅させると、阿鼻叫喚のアーマメンツ部隊の事など露知らず燃え盛る屋上に降り立った白いマシーネ・ヘッドは破壊された痕をぼうっと見届ける。


 屋上には既に先行した二機のマシーネ・ヘッドによる戦闘が終了した後だった。

 それぞれ赤い四脚と、黒い中量二脚である。

 この二機もまたヘルネハイム系列機であり、特に黒い方はブラックアウトそのものに見える。

 その黒い機が渋い声色で無線にボソリと呟いた。


≪少々暴れ過ぎたか......。まあいい、上層部役員の殺害数はクライアントの提示した規定に収めてある≫


 そして後からやってきた白いマシーネ・ヘッドに、赤い四脚を駆る女戦士が言った。


≪新入り、お前の噂は予々耳にしている。期待しているぞ≫


 鋭いプレッシャーを無線に乗せ、黒い機と赤い四脚はアフターバーナーから炎を吹き出してボックスの屋上から飛び去っていく。


 白い機のヘッド・ライナーはモニター越しに去っていく二機を見送ると市街地の方へと振り向き、屋上の縁に立って街中の様子を見下ろした。


 そんな白いマシーネ・ヘッドにアーマメンツの残存部隊から警告が入る。


≪そこのマシーネ・ヘッド!直ちに武装を解除して投降せよ!≫


 アーマメンツ部隊からの警告が終わった瞬間、街中から無数のロックオンを受ける。

 モニターにあふれ出した警告表示を見てなお、白い機のヘッド・ライナーは臆せず無線を開いた。


「すみませんが、それはできかねます。こちらも仕事です。応戦させていただきます」


 白い機がボックスの縁から夜景の湖へ跳ぶと、その瞬間、市街から無数の曳光弾が殺到した。

 敵陣に飛び込む様は獲物を狙いすます猛禽の如く。

ビルの間へと吸い込まれるように飛び入り、曳航ひしめく弾幕の合間を縫って路面の一点に見えたアーマメンツトレーサーの一機を捕捉、その真上に着地する。

 トレーサーの両ひざが重みを受け止められずに砕け散り、白い機が左腕に構えるシールドブレードにエネルギーの光が集約。そしてそのままトレーサーのコックピットに突き入れると、敵機が右腕に持っていた機関砲を飛び降り様に踏み潰す。


 アーマメンツ部隊のトレーサーを破壊した後、路上に立ち尽くす白いマシーネ・ヘッド。

 そのコックピットで主張するタイマーの表示は二つあった。

 五分と三分のふたつのタイマーだ。

 後者のタイマーは上級役員の護衛をしているレッドスクトゥムが、作戦区域に戻ってくるまでの予想時間。

 前者は戦闘終了定時までの時間だが、敵が追撃の構えを見せるならば状況次第では時間以上に戦闘する必要がある。


 街灯や路上を埋め尽くす一般車のヘッドライトに照らされて、半透明な装甲の奥に見える骨格構造が浮かび上がる。

 額に集まった小さな五本のアンテナは王冠を彷彿とさせ、首の後ろにはエネルギー偏向器が荒々しい襟の様にして立ち上がっている。

 長槍のようなレールガンと大判なシールドブレードが合わさって威風堂々という外観だが、骸骨を思わせる全体の造形や禍々しく光る赤い眼は、見る者に『亡霊騎士』という所感を与えた。


 そんな毒の光でも振り撒きそうな赤黒い眼光がゆっくりと旋回する。

 あたりには渋滞で放置された車や、逃げ惑う一般人の姿が濁流の如くして道を埋め尽くしている。

 ヘッド・ライナーはその人混みの中で、ある青年と少女の姿を目にした。

 灰色髪をした有角人種の少女の手を握って走る青年。彼の目は機体の方を向いている。

 無数の人々の中でなぜこの二人を注視したかといえば、その青年と装甲越しに視線が重なった気がしたからだ。

 ただの一般人という気がしない。何か運命的なつながりを感じる。

 それが良いものであれ、悪いものであれ。


≪戦闘中の各隊へ通達。敵性マシーネ・ヘッドを全力で無力化せよ。あらゆる武装制限を解除する≫


≪無茶を言うな本部!レッドスクトゥムはまだなのか!≫


≪民衆がいる中で撃てというのか......?≫


 逃げ惑う人々同様、アーマメンツ部隊も圧倒的な襲撃者を前に狼狽していた。

 単にマシンスペックが違うだけではない。明らかに名のあるヘッド・ライナーの中でも際立った実力をしている。

 操縦者が半端なマシーネ・ヘッドならばトレーサーの数で圧倒できるだろう。

 しかし相手が上澄みでは途端に通用しなくなっていく。

 良くも悪くもそれがマシーネ・ヘッドの性質だった。


 赤い眼を輝かせて周辺索敵を掛けていると、その隙を突くかのように曲がり角から姿を現したアーマメンツのトレーサーが巨大なガトリング砲を撃ち放つ。

 布を裂くような轟音と共に90ミリの砲弾が雨霰。

 曳航の火線が白いマシーネ・ヘッドに殺到し、その上、排出された空の薬莢が人の乗っている一般車に容赦なく降り注ぐ。


「そちらが配慮しないのであれば、殺らせていただきます」


 白い機は周囲を気にしてか、バリアを展開することなく盾で敵弾受け止める。

 そして盾受けで生じた黒煙に隠すように高速でレールガンを二射撃ち込み、ガトリング機のコックピットを的確に射貫く。

 トレーサーの弾痕から緩やかに火の手が上り始めたところを見、やがてヘッド・ライナーは3分経過の報を受けた。


* * *


 ガトリング砲火の着弾した強烈な熱波と爆音を受けて、白いマシーネ・ヘッドの周辺にいた殆どの人々はその場に倒れ込み、その中でノエルは、ミコノに覆いかぶさって路面に伏していた。

 すぐ後にレールガンの砲声が突き抜け、ガトリング砲弾の爆音が止む。

 顔を上げたノエルは、目の前に佇むマシーネ・ヘッドを見上げた。


 ヘルネハイム系に見える機体。

 だがそれよりも肩部に見えるエンブレムことを知っている。


 B.K.L騎士団リッターオルデン

数ある傭兵集団の中でも最も有名で、同時に謎の多い集団。

 B.K.Lとは創設者三人の名を取ってつけられたものだが、ノエルにとって問題なのは彼らがヘルネハイム王国の流れを汲んでいるということだ。

 だが彼らとの接点はなく、その活動目的も不明。

 現にこうしてアーマメンツ・ボックスを襲撃した理由もわからない。


 動き出した白亜の像。

 ブースターのチャージ音がしたとき死を覚悟したが、ヘッド・ライナーは周囲の状況をわきまえていたのか脚力でビルの隙間を跳び抜けた後にアフターバーナーを点火した。

 遠ざかっていく爆音と、それを追いかけるように沸き上がった対空砲火の銃声が街中をこだまする。

 束の間の安堵。しかしノエルはすぐに走り出すことになった。

 視線を下げたとき、倒れた人々の向こうに奴の姿を見たからだ。


「シュレディンガー!まだ追ってくるのか! ミコノ、行───」


 言いかけようとして彼女が動かないことに気付く。

 暗がりの中、ミコノの横顔を見る。

 目を見開いたまま気絶していたのだ。

 揺さぶっても意識が戻らず、強引にでも抱えて走り出したノエルは足元で倒れた人々を避けながら走る。


「まずはミラージュたちと合流しなければ......!」


 ビルの真下であるが、そこにガラス片は落ちていない。

 アーマメンツ・ボックスを含むロザルスは、有事には要塞として機能するように設計されている。

 分厚いプラスチックの窓は割れることがなく、壁面は半端な砲弾を弾く。

 店で買った厚底のスニーカーは瓦礫散らばる悪路を走っても足を痛めないようにする算段だったのだが、ロザルスでは杞憂だった。

 しかしだからと言って路上が安全になるという話ではない。

 とにかくメイドたちの元へ走らねば。

 強力な電波妨害で携帯電話が使えないが、ホテルに向かえば合流できるはずだ。

 問題は、そのホテルがロザルスの中心にある巨大ロータリー交差点を越えた先にあるということだ。

 

 ミコノを抱えて走るノエルの頭上を、ふたたび爆音が通過した。

 それも一度ではない。二つ、三つと爆音の数は次第に増えていく。

 ノエルが上空をちらりと見やると、ビルの隙間から覗く夜空にアフターバーナーの青白い火柱が流れ星の様に過ぎ去っていく。

 その光はマシーネ・ヘッドの最大戦闘速度の輝き。

 すなわちレッドスクトゥム隊の到着を意味していた。

 マシーネ・ヘッド同士の戦闘となれば街への被害はさらに大きくなる。

 そして戦闘が最も激化する場所はおそらくこの先に控えている巨大ロータリー交差点だ。

 ロータリーの中心には公園があって、それはマシーネ・ヘッドにとって最も戦いやすい開けた場所でもある。


 そのさなか、抱えていたミコノが長く潜った後かのように激しく呼吸しだした。


「ミコノ、無事かい!」


「ノ、ノエル......」


 少しずつ状況を把握し始めたミコノが自力で走り出そうとして、ノエルは恐る恐る抱えていた腕の力を緩め始める。

 自分の脚で走り出したミコノの手を引いて、そのさなかノエルは背後をちらりと見やった。

 あの屈強な肉体は自力で手に入れたものではないだろう。

 シュレディンガーという男がマシーネ・ヘッド操縦に最適化された強化人間の類であれば、持久走で勝ち目はない。

 選択肢が刻々と減っていく。

 インフォーリング機関の追っ手を振り切りたくば、巨人たちの闘技場と化すロータリー中央公園に走り込むしかないということだ。

 しかしミコノにその現実を突きつけるわけにもいかず、ノエルは黙々と走り続けることしかできなかった。


 そんな地上の様子など露知らず、レッドスクトゥムのホプリテス編隊が夜空を駆ける。

 見るからに鈍重そうな外観とは相反する軽快な飛行でロザルスへと戻ってきたレッドスクトゥムに、アーマメンツ・ボックス本部からの通信が入る。


≪レッドスクトゥム各隊へ通達。襲撃者の素性が判明したためデータを共有する≫


 編隊を先導する隊長機をはじめとして、アーマメンツ社の精鋭である全員がデータの内容を見て驚愕した。


≪アリーナ登録名は『ハスラー・ワン』。ダイヤリーグ・アリーナのランク九位で登録マシーネ・ヘッドは『B.K.Lホワイトアウト』。機体名の通り、傭兵集団、B.K.L騎士団リッターオルデンの構成員だ≫


 アリーナには階級ごとのリーグが存在する。

 ダイヤリーグはその中でも最上級であり、このリーグに身を置くヘッド・ライナーは例外なく怪物だ。

 殆どのアリーナランカーはリーグ賞金で稼いでいる。

 対戦に専念しなければならないアスリートであることからも傭兵活動を行うことは稀なことだが、だからこそ目の前の存在はレッドスクトゥムにとって怪物の戯れとしか映らなかった。


≪しかしたった三機でボックスを襲撃するとは、大胆にし過ぎたなイレギュラー。各機続け!数的有利で仕留めるぞ!≫


 総勢八機ほどの最新鋭ハイエンドが亡霊騎士ホワイトアウトを囲む。

 ホワイトアウトは反物質由来の瞬間加速───クイックブーストで前後左右に高速移動しながら完全に囲まれない立ち位置を常に維持し続け、マイクロミサイルを一機ずつに集中させながら、バリアが割れた瞬間を狙ってレールガンを的確に頭部へ撃ち込んでいく。

 マシーネ・ヘッドにおける頭部とは光ニューロ・ブレインを格納している部位である。

 つまり、頭部が破壊された時点で機体は機能停止するのだ。

 その戦法はマシーネ・ヘッド戦闘における基礎技術でもあり、本体装甲が堅牢と名高いホプリテスを効率的に撃破するための方策にもなった。

 自機の特性を理解し、勝ち筋を的確に見出す。

 本来、弛まぬ研鑽の末に得られるはずの技量を天才的感性として持ち合わせることは、戦闘の流れそのものを体感の延長として掴むことを意味する。

 故に天才は、それ以外の者とで一線を画すのだ。


 一方で、そんな戦場の真下を駆け抜けるノエルたち。

 公園にはほかの市民たちも集まっていて、上空で始まった戦闘の爆発音が鳴るたびに女性の悲鳴が轟く。

 空から容赦なく降り注ぐ薬莢や装弾筒の雨を交わしながらノエルとミコノが走る。

 落下してきた薬莢が公園に落下すると、地面のタイルを砕いて突き刺さる。

 そんな致死の雨を目の前にしてシュレディンガーはとうとう追跡の脚を止めた。


「ノエル・グレイ......! つくづく運の強い奴め!」


 背後をちらりと見、追っ手を撒いたことに若干安堵した、その瞬間だった。

 ミコノが思い切り腕を引っ張ってノエルを引き留めたのである。


「ノエル、止まって!」


「なッ!?」


 直後だった。

 頭部を破壊されたらしきホプリテスが、焼け付くような排気を纏って二人の進路上へ墜落してきたのだ。

 あと数歩前に出ていたならば死んでいた、そんなギリギリのところである。

 公園を横切ろうという判断はやはり悪手だったのだろうか。

 今更後悔し始めたところで、今度はミコノがノエルの手を引いて走り出した。


「足を止めないで!」


「あ、ああ!」


 未来が視えているのか、あるいは単に強運の持ち主であるのか。

 今のノエルにわかるのは、ミコノと立場が入れ替わったことぐらいだ。

 そして、地上に落ちてきたホワイトアウトとレッドスクトゥムの隊長機が各々の近接武器同士を打ち込む。

 片腕だけでも数トンはあるだろう巨体が、あろうことか人間以上の敏捷性で動き回る。

 それは拡大された人間という最初期コンセプトの体現であり、その設計思想を色濃く受け継ぐホワイトアウトは徒手格闘を使いこなしてレッドスクトゥムを追い詰める。

 刀身にまとうエネルギーが光る風の様に刃を取り巻き、重なり合った光刃が白色の奔流を散らす。

 ガンマ線が降り注ぐ中、必死に駆け抜ける二人を尻目に巨人達が刃を打ち合う。

 隊長機が踏み込む、だがその瞬間だった。

 素早く退いたホワイトアウトが突然レールガンを撃ち放ち、隊長機の右腕を撃ち抜いたのだ。


 互いに環境を考慮した最小限の戦闘。

 地上ではバリアも展開できず、満足な機動もできず。

 その上、よりきつい縛りを課されたレッドスクトゥム隊は数的有利を活かせずして圧倒される。

 作戦終了時間に差し掛かったホワイトアウトは満身創痍のホプリテス編隊を一通り睨んだ。

 だが次第に輝きが落ちていく赤い双眼は敵手への興味を失ったかのようで、やがて白色のマシーネ・ヘッドは踵を反して夜空へと飛び去って行く。


 腕や足を落とされ、去り行く機影を見送るしかないレッドスクトゥム。

 追いかけようとした部下を隊長機が引き留め、あたりにはスパークを散らす欠損した手足が引き千切れたケーブルを引きずって散乱するばかり。


 ひんやりとした夜風が吹き抜ける中、やがて駆動音や重く響く足音は鳴りを潜める。

 そんな戦闘が冷めていく空気を感じ取り、ノエルとミコノは操り糸を切られた人形の如くその場にへたり込んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ