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【短編】勇者は構ってちゃん

作者: 雷電鉄

この世界における「勇者」は、特別な血筋の人間の事ではなく、過酷な修行をして実績を挙げた末に誰しもが授けられうる称号のような物です。


 ここは魔物達がはびこり、 魔王が人々を苦しめる世界。

 俺達のパーティーは、 今まさに敵の本拠地の宮殿に踏み込み、 魔王に挑んでいた。

 だが、 魔王の力は強く、 俺達は苦戦を余儀なくされていた―――



「ククク……もう終わりか……? 口ほどにもなき奴らよ……」


 魔王はそう言うと、 手から黒い波動を放った。

 食らってしまう!

 そう思ったが、 間一髪のところで戦士のタイファが俺をかばって波動を受けた。


「タイファーーー!!」


 そう言って俺が駆けよるとタイファは、


「宝箱を……宝箱を開けるんじゃなかった……! ミミックに……ミミックに食われてしまう……助けてくれ…!」


 とうわ言のように言って気を失った。


「くっ……タイファ……!」


 そう言う間にも、 魔術士のジーメが魔王に魔法攻撃を試みる。

 だが魔王はあっさり魔法を防ぐと、 やはりジーメにあの黒い波動を放った。


「ああ……私達エルフの村が……エルフの村が焼かれる……! おのれ、 人間め……!」


 波動を受けたジーメは、 そう言って虚ろな目をしながら短剣を俺に向けた。

 一歩、 また一歩とジーメは俺に近づいてくる。

 が、 ジーメは何とか俺の手前で我に帰ると、 息も絶え絶えになって言った。


「ハァ……ハァ……気を付けて……あの攻撃を食らうと……心の中の最も見たくない光景を幻影として見せられて……精神を……破壊される……」

「何だって……!」


 そして、 やはりジーメもタイファと同じように気を失った。

 そんな仲間たちの姿を見て、 俺は……俺は……

 ―――自分でもあの技を食らってみたくなった。


 何しろ、 俺もトラウマの元には事欠かない。

 幼少の頃から想いを寄せていた聖職者の女性には振られ、 最初に入ったパーティーでは役立たずとして追放され、 その後も魔物との戦いで何度も命を落としかけた。

 そして、 俺はそんな心の傷を癒やすべく勇者を目指して修行を始めた。

 そこいらの冒険者なら辛い過去を話しても誰も相手にしてくれないが、 勇者ともなれば話は別だ。

 それに、 悲しい過去のある勇者なんて最高にカッコイイだろう?


 元々才能もあったのか、 俺はメキメキと実力を上げて行き、 ついには魔王討伐パーティーのリーダーを任されるまでになった。

 幸いにも俺の過去を受け入れてくれる仲間にも恵まれ、 俺は過去のトラウマを振り切った。

 ―――はずだったが、 やはり俺もいっぱしの冒険者だ。 あの技で、 どのトラウマが幻影として現れるかという好奇心には逆らえなかった。


「終わりじゃない。 まだ俺が残っているぞ!」


 俺はそう叫んで立ち上がり、 剣を握った。

 そして、 魔王目指して突っ込んでいく。


「ククク……正面から飛び込んでくるとは、 愚かな勇者よ……!」


 そう言うと、 俺の狙い通りに魔王は例の黒い波動を放ってきた。

 正面から浴びた俺の体を、 黒いオーラが取り囲む。

 やがて、 目の前にあったはずの宮殿の光景は、 完全に消え失せて行った―――


 気がつくと、 俺の目の前に広がっていたのは何もない、 ただ真っ白な空間だった。

 何だこれは? まさか、 技が失敗したのか?

 などと考えていると、 真っ白な空間に魔王の重々しい声が響いてきた。


「ククク……技を掛け損なってなどおらん。 ()()こそが、 貴様の『最も見たくないであろう光景』なのだ……」

「何だと……?」

「分からぬか? 貴様は過去のトラウマを映し出した光景がここに現れると思っていたようだが、 ここには何もない。 つまり……」


 それを聞いて、 俺ははっと感づいた。

 おい、 やめろ。その先は言うな……!


「そう、 貴様は悲しい過去を持つ勇者を気取っているが、 実際はただ己のトラウマをネタに自己憐憫に浸り、 周囲に甘えていただけなのだ。 フハハハハ、 仲間たちに慰められて、 さぞ心地よかったであろう……」


 あああああああああ〜〜〜〜〜…………


 *

 *

 *


 数日後。

 冒険者ギルドでは、 魔王に挑んだパーティーの勇者が別パーティーに救出された後に、 冒険からの引退を宣言したという話題でもちきりだった。


「何でも、 『パーティーから追放されたり魔物との戦いで死にかけたりした経験を創作に活かしたい』と作家への転身を宣言したらしいわよ」

「へえ……今度は上手くいくと良いわねぇ……」


 と、 ギルドの給仕たちは噂し合った……

(おわり)







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