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日が沈み始めたころ、広い草原で馬車は止まった。

そこからの騎士たちは手慣れた動きで、野営の準備はすぐに整った。

食事も手際よく素早く用意されていく。

最初の頃は騎士たちは子供たちと仲良くなろうとあらゆる方法を試すが、子供たちは一定の距離以上近付かれると逃げる。

その繰り返しだった。

3週間経った今でも、子供たちと騎士たちとの心の距離はあまり縮まっていない。

最初の頃、私は馬車から降りる事すら禁止されていた。

が、子供たちが泣いたり、逃げ回ったり、食事を拒否するため常に騎士団長が張り付いた状態であれば、ある程度の行動を許可された。

何度か、


「騎士団長ともあろうお方が、私の傍に四六時中いらっしゃっては色々ご不便でしょう?他の方に変わっていただいて問題ありませんよ?」


と提案してみたが、


「問題ない。死者を出したくないしな」


と毎度断られた。

逃げる予定はないけれど、信用がなさすぎる気がする。

私が近くにいないと、騎士と会話もしない。

私が騎士から受け取った食事を一人一人に渡して、私が食事に口を付けないと食事もしない現状が今も続いている。

それでも、騎士が一定の距離以上離れていれば、子供たちだけで楽しそうに遊んでいる。

今まで普通の子供のように走り回ることなく、毎日緊張感をもって過ごしていた子供たちには新鮮な時間なのかもしれない。

私は馬車にもたれかかりながら、その光景をただ眺めていた。


「予定より日数がかかったが、明日には王都に着く」


騎士団長は少し悲しみの籠った声色で教えてくれる。


「そうですか。こんなに時間を自由に感じたのは初めてです」

「王都につけば、そのまま王城に向う。子供たちはそのまま新しい生活拠点となる場所へ向かい、君たちは牢へ収容する」

「ご丁寧にどうも」

「子供たちに何か伝えたいことがあれば、今日中に伝えておけ」

「かしこまりました」


私の淡々とした返答に騎士団長は少し迷ってから言葉を発する。


「怖くはないのか」


表情は変わらないが、温かさが籠った言葉に感じた。


「騎士団長は、死が怖いのですか?」

「私は忠誠を誓ってここにいる。どこでどう死のうと自分の意志だ。だが、君は違うだろう?」

「私の事を子供として見過ぎですよ」


かなり久しぶりに心から笑いが込み上げてきた。

そして何とも言えない嬉しさも感じる。

私の周りにいる大人たち、兄さんや姉さんたちですら私を大人として扱う。

私はそれが嬉しかった。

でも子ども扱いされるのも嫌いではないらしい。

屋敷の大人たちからの子ども扱いされるときとは違う感覚。

新しい自分を今更ながら知れて内心とても驚いた。


「私は私の意志で行動してきました。あなたと一緒ですよ」

「最初は違ったのでないのか?最初から自分の意志だったわけではないのだろう?」

「…………最初から自分の意志でしたよ」


たった数日一緒にいただけの関係の相手を本気で心配しているようだ。

哀れというかお人よしというのか。

どちらでも良いが、これで騎士団長なのだから人は見た目では分からないものだ。

本当に人は見た目や少し一緒に過ごすだけでは分からない。


「私の生活環境や、以前の待遇が刑罰の軽減につながる可能性はあるのですか?」


私の言葉に騎士団長は顔を曇らせる。

可能性は限りなくゼロに近いのだろう。

これまでの道のりでたくさん話をしてきたが、どんな質問にもすぐに答えてくれた騎士団長が言い淀んでいている。

この人は見た目や立場に寄らず、かなりのお人よしの分類に入る人だと思う。

それでも立場や忠誠心を一番に考えて行動している。

真っすぐな強い芯がある大人。

これだから、たかだか数日一緒にいただけのこの人に好感をもってしまったのだろう。


「私、結構騎士団長の事、好きみたいです」

「そうか」


素直に伝えてみると、最初は心ここに在らずの返答だったが、だんだん飲み込んできたのか驚いた顔に変わっていく。

その後は困惑した顔に変わる。

そこから今度は考え込む、険しい顔。

コロコロ変わる表情が本当に面白い。


「騎士団長は本当に可愛いですね」


また困惑した顔。

普段はほとんど表情が変わらないが、今日に限っては本当によく変わる。

これで私の2倍以上年上なのだから、可愛いと思わない方が可笑しい。


「準備ができたようですね」


食事の準備を終え、こちらに視線を送ってくる騎士たち。

数人の騎士が未だに実らない努力を続けている。

行動だけを見れば、完全なる不審者。

しかたなく騎士たちのもとに歩き始める。

少し遅れて騎士団長も付いてくる。

私が騎士たちに近付くのに気が付いて、子供たちが近づいてくる。

近付いてくるのに気か付いた騎士が食事を皿によそい始めた。

そのお皿を受け取り、子供たちにお皿を渡していく。

お皿を受け取った子たちは、騎士たちから少し離れた場所に集まりながら座る。

全員渡し終えて自分のをもらって子供たちの方に向かう。

いつもはギリギリ声が聞こえる距離までついてくる騎士団長が、今日は騎士の輪の中で食事を始める。

私をしっかりと視界に収められる場所に座っているので、気を使ってくれているのかもしれない。

私も食事を始めながら、さっきの騎士団長の言葉を思い出す。


「明日には王都に着くらしいよ」

「王都に着いたらどうなるの?」


ライナが、質問する。


「新しいお屋敷に馬車が連れっていってくれるよ」

「新しいお屋敷でまた働くの?」

「新しいお屋敷ではみんな一日中好きなことをして過ごしていいんだよ」

「好きな事?」

「そう、好きなこと。お勉強しても良いし、遊んでてもいい。剣術を磨いても良いし、料理を習うこともできるかも。多くの事を経験して、これから大きくなってもしたいことを探すの」

「大きくなってもしたいことが見つからなかったら?」

「見つかるまでゆっくり探せばいい。みんなにはこれから自分の為の自由な時間がいっぱいあるから」


王都についてからの事は何も言われていないが、確信している。

子供たちは大切にしてもらえる。

私の話に子供たちは、自分なりに考えてくれている気がする。

みんな不安そうではあるけれど、問題なさそうな気がした。


「みんなずっと一緒?」


ミーが不安そうに質問する。

優しく微笑む。


「いたいだけ、ずっと一緒にいられるよ」


みんなの表情が少しだけ解れる。

それからはみんなで少し未来の話をした。

10年や20年先の話は誰も想像できなかったようだけれど、1年後などの近い未来の話をした。

やってみたい事。できるようになりたい事。

目に輝きが少しだけ宿った気がする。

日が暮れ、夜になっても話は続き、寝る直前まで楽しそうに話していた。

子供たちが全員寝たのを確認して、焚火の近くで談笑する騎士たちをしり目に火の番をしていた団長に近づく。

黙って横に座り火を眺める。

少しの間、お互いに火を眺めるだけの時間が続いた。

王都への旅路でこんな時間はよくあったからか、この時間が今では落ち着く。


「君は何が好きなんだ?」


質問の意図が分からず、横目で表情を確認する。

焚火の火で照らされた騎士団長の表情は穏やかだった。

だから多分普通の世間話のつもりなのだろう。


「勉強や剣術は好きですかね」

「剣術は私も好きだ」

「好きでもなきゃ、騎士団長になるほどの実力は身に付かないでしょうね」

「私の剣術の腕を褒める者のほとんどは、血筋も褒める。私がこの地位を手に入れたのは、家柄もあるのだろう」

「これは昔に姉さんが言ってたことですが、才能は血縁など関係なくみんな平等に持っているもので、必要なのは努力の仕方だけだと」

「努力の仕方?」

「才能が開花するのは、どう努力すれば才能が一番に発揮されるかを知っている人。大勢と同じ事をすれば良い人もいれば、別のやり方をしなければ行けない人。その違いがあるだけだと。大抵の人は同じやり方では開花しないから、みんな才能がないと言うだけだと」

「哲学的な話だな」

「シュレディンガーの猫と姉さんは言ってましたね」

「どういう意味だい?」

「それは私にもサッパリ」


ワザとらしく肩をすくめてみる。

納得はしてないが、私のしぐさに騎士団長もワザとらしく笑う。


「変わったお姉さんだね」

「ええ、意味の分からないことをよく言ってました」

「そのお姉さんを、なんて名前で呼んでいたんだい?」

「内緒です。私たちにとって名前は特別な物なんですよ。普段は人前で呼び合ったりしないんですよ」

「今は特別なのか?」

「これからは番号で呼ばれる事はないですからね。知らない人からも名前で呼ばれるのに慣れる必要がありますよね?」

「……そうだね」


少しの悲しみと後悔が滲む返答。

この人が何かしら後ろめたさを持つ必要はないのに、律儀なのか変に責任感が強いのか。

全部が完璧にできる人などいないだろうに。

人ができる事など限られているのだから、手の届かない所など仕方ないと切り捨てれば良いのに。

それでもこの人に好感を持っているのだから、不思議。

年齢も性別も全然違うのに、姉さんに重なるの所が多いからかもしれない。


「そのお姉さんは君よりいくつ年上だったんだい?」


今日は踏み込んだ質問が多い。

ふと、昔姉さんが好きだった恋愛小説を思い出した。

お見合いで初めて顔を合わせた男女のぎこちない会話のシーン。

姉さんが烈々にそのシーンの解説をしていたが、興味も共感ももてないシーンだったので、聞いているふりをして聞き流していたのを思い出した。

なんと言っていたか何一つ思い出せない。

心の中で姉さんに一応謝っておく。


「いくつだったら嬉しいですか?」

「そんな意図はないよ。純粋な疑問だったんだ」

「そういうことにしときましょうか」

「本当に純粋な疑問だ。私には愛すべき妻もいる」

「奥様はおいくつですか?」

「私の3つ下だ」


騎士団長は48歳と言っていたから、3つしたなら45歳。

見た目そのままの人物で、面白味がなくて残念、


「私は騎士団長様の剣術の腕に興味がありますけどね」

「それは君もそれなりの手練れだからか?」

「おや、騎士団長様から見て私はそれなりの手練れに見えますか?」


少し嬉しい。


「ああ。いつか君と手合わせしたいものだ」

「それは良いですね。私からもぜひお願いしたいです。でも、せっかく手合わせするなら、勝ちたいですね」

「これでも以前は帝国一の騎士の異名を持っていたからな。簡単には負けれないな」

「それはかなり興味深いお話ですね。とても手合わせをお願いしたいところです」

「ああ、できればね」


悲しみが籠った声は、焚火の弾ける音に消え入りそうなほど小さかった。

それから少しの沈黙の時間が流れる。

2人で静かに焚火を眺める。

揺らめく火を見ながら、この男は何を思っているのだろう。


「明日も朝早くから出発する。もう、寝なさい」


静かな大人の声に、横目で表情を確認しようとする。

しかし、焚火で照らされる横顔からは何も読み取れなかった。

色々な大人と会ってきたが、ここまで読めない人は2人目。

あの精霊師は分かりたくないので、理解しようとしてこなかったけれど、この人は分かりたくても分からない。

夜風の冷たい風を感じながら、誰かと火を囲む時間は昔から好きだった。

最近はこんな時間はなかったけれど、姉さんたちがいた頃は稀にこんな時間があった。


――懐かしい……。


今日も程よく夜風が吹く。

風に揺られる葉のこすれあう音。焚火にくべられた木が弾ける音。火の燃える音。

全ての音が心地いい。


「いい夜だね~~。こんな日は寝るのがもったいないよね~~」


心地よい音をぶち壊して響く、気が抜けたような声に殺意が湧く。

良い具合に邪魔しかしないこの声の主は、顔が見やすいように焚火を挟んだ正面に座る。


「そんなことはありません。丁度眠気が来ましたので、もう寝ようと思っていました」

「そう言わずに~~。少しお話しようよ~~」

「申し訳ございませんが、瞼も重くなってきましたので。ここで寝てしまって騎士団長様にご迷惑をかけるわけにはまいりませんので」

「私は気にしない」


分かりやすく断ったつもりだったが、騎士団長に退路を断たれた。

騎士団長の言葉に精霊師は嬉しそうにニコニコする。

火のついた薪を引っ張り出し、顔面に投げつけてあげたい。

人前に出れない程の顔面にしてあげたい。


「王都に着いたら、時期を見て子供たちには精霊の儀をしてあげなきゃだね~~」


精霊の儀。

帝国の10歳になった子供が行う儀式。

帝国のあらゆる場所に設置されている塔の中で、精霊に祝福をもらう。

ここまでの旅路で一度見ることが出来たが、塔と言うより球体の半分の様に見えた。

窓は見えなかったが、遠くから見たのに大きい建物に見えた。

精霊の儀では、塔に一人ずつ入って儀式を行う。

平民は基本的に精霊からの祝福をもらうだけですぐに終わる。

皇族・貴族は特別な精霊との契約を行う。

ご先祖様が契約した種族の中から、相性の良い精霊が現れるため、その精霊と契約できる。

契約をしないこともできるらしいが、お互いの同意が必要だし、契約は精霊優位の為、精霊が望めば勝手に契約させられてしまうらしい。

目の前に精霊が現れた時点で、半強制的に確定らしい。


「年齢の分からない子もいますが、どうされるのですか?」

「大丈夫~~。僕が分かるから~~」

「素晴らしい才能をお持ちなのですね」

「精霊たちが教えてくれるからね~~」


ワハハと子供の様に笑う精霊師。


「お話は終わったようなので、私は寝るために失礼させていただきます」

「え~~。もう少しお話ししよう~~」

「失礼いたします」


2人にお辞儀をしてその場を離れる。

火から離れたことで、先程までの心地よい夜風が少し肌寒く感じた。

子供たちは輪になって寝ていた。

いつものように中心が開けられていた、

私が寝ているいつもの定位置。

こんなことも今日で最後なのだとふと思う。

何とも言えない解放感の中に一滴の寂しさを感じた気がする。

寝ようとしたところで、モゾモゾと動く人影が数体。

月明かりで照らされた顔は、アルクとミーとライナとチコだった。


「起こした?」


4人は何も言わずに、私に近づいて来てしがみつく。

優しく抱きしめて、小さい頃に姉たちが歌ってくれていた子守唄を歌う。

歌い終わる頃にはミーからは寝息が聞こえてきた。

アルクとチコば睡魔と戦いながら、かろうじて目を開けている。


「眠いならは早く寝ないと、明日も朝から移動らしいよ」

「でも、アルファ姉とまだお話してたい……。最近、アルファ姉を独り占めできる時間がないし、大人たちと話してるほうが多い……」

「チコは寂しかったんだね」


チコを抱き寄せて優しく抱きしめて、背中を優しく叩く。

少しの間叩いていると、チコからも寝息が聞こえてくる。

ゆっくり降ろして、布団を被せる。

するとアルクは服の裾を少し握り、じっとこちらを見てくる。


「……まだ、傍にいてほしい」

「今日はアルクも甘えただね」


勢いに任せて抱きつこうとすると、身を引かれて静かに拒否される。


「……まだ、答えてもらってない」

「大丈夫だよ。みんなが寝るまでは、ちゃんと傍にいるよ」

「そういう事じゃないのは分かってるでしょ……」


だんだんと弱くなっていく声。

これからの事を、全て手は無くても察している。

本当に賢い子。

今度は、アルクが拒否する隙を与えず、抱きしめる。

腕の中で暴れるアルク。


「ごめんね」


耳元で囁くと、抵抗が止んだ。

少しして、胸元が濡れてきた。

声を押し殺して体を震わせて泣く、アルクを腕の中で感じる。


「ごめんね」


何度も何度もアルクの耳元で呟く。

しばらくして、腕の中から寝息は聞こえてくる。

ゆっくり体を横たえ、布団をかける。

目元が赤く、少し腫れていた。

こんなとこを見られたら、また第一皇子に嫌味を言われそうだ。


「ライナはまだ眠たくならない?」


静かに私を見ているだけだったライナに声をかける。


「アルファ姉は嘘が上手だから、勘でしかないんだけど……」


少し伏し目がちに、珍しく言葉に詰まっているライナ。

いつもしっかりと自分の意見を言うライナには珍しい。


「アルファ姉は嘘をついたよね?」

「どんな嘘だと思うの?」


ライナは少し考えておずおずと口を開く。


「これからも、アルファ姉も一緒にいられるの?」

「私は無理かな」

「やっぱりそうなんだね」

「ごめんね」


瞳に溜まった涙を優しく拭ってあげる。

拭った手を両手で掴まれる。


「私は、私たちはみんな、アルファ姉と一緒にいたい!」

「ごめんね。無理なんだよ」

「アルファ姉は何も悪いことしてないよ!」

「そんなことないよ。いっぱい悪いことしたんだよ」

「私たちにとって、アルファ姉は良い人だよ」

「ありがとう。でもね、少数の意見は国家にとって何の意味もないんだよ。それこそ、私たちみたいな平民以下の存在の言葉なんて誰の耳にも届かない」


唇を強く噛んで、瞳にはまた涙を溜める。

どこまで意味を分かっているのかは分からない。

でも、自分たちがどれだけ価値の無い存在なのかは今までの生活で、嫌って程沁みついている、

瞳に溜まった涙が一雫零れる。


「ライナ。あなたたちはちゃんと分かってる。だから、怖がらないても大丈夫。姉さまたちもたくさん助けてくれる。あなたたちの味方はいっぱいいるから。大丈夫」

「アルファ姉の味方もいっぱいいるよ。何も望まないのはアルファ姉の悪いところだよ。私たちはアルファ姉が望めばなんでもするよ」


これは子供たち全員の意志だろう。

でも、違う。


「私だって我が儘だよ。ただ1つの望みの為に、一生懸命頑張ってきたんだよ」


優しく抱きしめる。

14歳とは思えない華奢な少女。

私によく似た見た目の、しっかり者の幼い子供。

昔からよく姉妹と間違われた。

人の気持ちに聡いこの子は、何も心配ない。

心配なく送り出せる。

嘘と本音を混ぜた言葉。


「…………おおやすみ、ライナ」


また子守唄を歌う。

しばらくして、ライナからも寝息が聞こえてくる。

領地経営・奴隷の管理・売買と様々なことをやってきた。

最初は、目的の為に死に物狂いでやって、成果を出す事だけを目標にしてきた。

それが姉さんたちとの約束だったから。

最初は子供たちを奴隷として売買することに抵抗もあったけど、今では流れ作業の様に行っていた。

ガルドも傭兵として買った子供たちの現状を最初は報告してくれていたけど、いつの間にかその会話は無くなった。

自分も大人たちと一緒になってしまったのだと思っていた。

心が溶けて無くなっていったのだと思っていた。

なのにこの3週間は本当に初めての事が多かった。

黄色に咲き乱れる花畑を見て綺麗だと思えた。

大きな川で水遊びをする子供たちを見て自然と笑みが零れた。

段々と増えていく子供たちの笑顔に無くなっていたと思った心が熱をもった気がした。

でも心躍る時間は、今日で終わり。

後悔は微塵もない。

眠る子供たちの顔を見た。

穏やかな寝顔。


「私は後悔だけはしない……。自分で決めたことだから」


決意を確かめるように、しっかりと呟く。

夜空を仰ぐ。

黒く染まった空に煌めく星々。

丸い月が2つ、重なり合って浮かぶ。

雲一つない今日の夜空は、どこまでも綺麗に月が輝く。


――ああ、大人たちもこんな気持ちだったのかもしれない……。


あの日の大人たちの気持ちが今、ほんの少しだけ分かったのかもしれない。

最後になるであろう子供たちの温もりを感じる。


――――リッン、リッン、リッン。


澄んだ鈴の音が3回森の中から響く。

私はゆっくりと立ち上がった。

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