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お酒の香るモンブランB

作者: ゆっか

 ようやっと紗枝が部屋に来てくれることになった。

 先日、紗枝が「レポートの資料がないのよ」と困り顔で言うので、「俺の部屋には同じテーマの物が一杯そろっているよ」と答えた。

そうすると、彼女は上目遣いで僕の方をしばらくじっと見上げた後、ふと目を逸らして「じゃあ、今度の土曜日でも、あなたの部屋行って良い?」と甘い声で囁いた。

もちろん俺は内心二つ返事。

でも勉強が目的には違いないから、真面目な顔で「いいよ」ってちょっと機械的な調子になってしまった。

紗枝、どう思ったかな。

 

 とにかく、今は紗枝を迎える準備だ。

部屋を片付けてもらうっていうどきどきな選択肢もあるかもしれないが、初めてのご訪問だから、もう徹底的にきれいに掃除をした。

三日間掛かったが、喚起オッケー。掃除機掛けオッケー。窓まで拭いて、僕の部屋は入居したてのようにピカピカだ。

あとは、勉強の合間に息抜きをするためのお茶の用意だ。

どうしようかな。

彼女甘いものが好きだから、ケーキなんて買ったりしようかな。

うーん。どうせなら手作りして、今時の役に立つ男子っぷりをアピールしようかな。

甘いムードに持っていくためには良い考えかもしれない。

今は秋だから、栗のモンブランなんて良いなあ。

いかにも難しそうだし、うまく出来上がれば、紗枝も俺のことを改めて有能な男だと見直すかもしれない。


 ということで、あれこれネット検索をし、これならば俺でも作れそうというレシピを選び抜いた。

なんでも土台のタルトはホットケーキミックスを使い、後はホイップクリームを乗せて、その上からマロンペーストを絞り出すという手順らしい。

マロンペーストの絞り出しが難関のようだ。

ここを、男らしくワイルドにアレンジすれば、意外と美味しくかつ独創的なものを作ることが出来るかもしれない。

あとはマロンペーストに入れるラム酒だな。

砂糖は惜しんでも、これは惜しまないぞ。


 紗枝を迎える日、早起きした俺はいつになく整頓された台所に鼻歌混じりに立ち、モンブランを作るべく、栗を茹でたり、百均でこの日のために買った裏ごし器で裏ごししたりと、まめまめしく働いた。できたぞ。


午後三時、約束の時間きっかりにドアのチャイムが鳴った。

「あ、いらっしゃい。どうぞ、入って」

紗枝は鞄の他にケーキの箱をぶら下げていた。

「これ、あとでお茶しながら食べましょうよ」

「あれ、中身は?」

「モンブランよ。秋ですもん。今、栗が美味しいでしょう」

と差し出された中身を見れば、有名パティシエのいる隣町の店で買った瀟洒なケーキだった。

俺の素人の自信作が俄然見劣りをする。


 しかし、ここでひるむ俺ではない。

一通りのお勉強の後、お茶の時間になって、俺の机に座っている紗枝に、コーヒーと俺が作った方のモンブランを提供した。


「あら、これ、お菓子?あなたが作ったの?こんなこともするんだ」

と、紗枝は意外そうな目で俺を見る。

俺が「ちょっと食べてみて」と勧めると、一口食べた紗枝は「あ、モンブランなのね。でもお酒が。酔っ払いそうだわ」

と笑った。

「俺は君が買ってきてくれたのを食べるよ」

と言ったのも、その店のケーキは子供でも食べられるようアルコールは一切入っていないというのが特徴だったからだ。

この状況で、彼女をリードするには、俺は自分のケーキで酔っぱらう訳にはいかない。

ちょうど良かったのだ。


俺たちはゆっくりとケーキを味わって、それぞれに酔っぱらってしまった。彼女はケーキの中のラム酒に。俺は彼女がケーキを食べる可愛い仕草に。


その後のことはもう書かない。

ただ、僕たちのキスはモンブランの味に劣らず甘かったってことだけさ。

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― 新着の感想 ―
[一言] Aの方も読ませて頂きました。 同じ「お酒の香るモンブラン」であっても、作品のカラーががらりと変わっていて、面白かったです。 それにしてもモンブランを手作りする男子、すごいです……! それぞれ…
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