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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第六章 サファイア共和国と天才魔導士
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大海獣クラーケン

 私とソリッドは車――四輪魔導車に乗せられ、海岸へと向かった。運転手は大統領秘書のライザさんである。


 そして、到着したのは港のすぐ側。そこは白い砂浜が広がるビーチと、遠くに見える巨大なイカ頭。なんともシュールな光景が広がっていた。


「何この光景……? ギャグなの……?」


「いえ、至って真剣に困った状況です」


 私の呟きに、背後のライザさんが反応する。実に見事なツッコミである。


 ただ、今はそんな遊んでいる状況でも無いのだ。私は振り返って、ライザさんと会話を始める。


「私もソリッドも、海の魔獣って詳しく無いのよね。少し説明をお願い出来る?」


「畏まりました。私もここが地元の元冒険者です。その辺りの説明はお任せ下さい」


 私の頼みに、真剣な表情で頷くライザさん。如何にも出来る秘書ってオーラが出てる。


 それと同時に、彼女は元冒険者らしくないと思った。魔術師らしいけど、線が細くて、とても上品だ。荒事には向かなさそうな人物である。


「まずは基礎から。魔獣とは獣に限らず、魔力有る生物全てを指す言葉です。魚や貝、目の前のイカ等も、分類上は全て魔獣と総称します」


 私達は揃って海へと視線を向ける。そこには巨大なイカの頭。あれも魔獣に入ると言うことである。


「そして本来『海獣』とは海の獣。哺乳類を指す言葉です。しかし、『大海獣』に対しては意味が異なります。巨大な海の生物全てを総称する言葉となっています」


 私達は再びイカ頭を見る。明らかに哺乳類ではないが、あれも『大海獣』ということである。


「次に海の魔獣の特性について。基本的に殆どの魔獣が『水魔法』を使います。低ランクの魔獣は水中移動の補助程度ですが、高ランクの魔獣は街を沈める程の大魔法を使う事もあるそうです」


 その辺りは何となく理解出来る。砂漠で『火魔法』を使う魔獣とも戦った事があるしね。


 多くの魔獣は熱に対する耐性を持つ程度。けれど、一部の大型は軍を全滅しかねない熱波を放ったりもした。


 私とローラが防いでいなければ、パール王国軍は、ガーネット王国を踏破する事が出来なかったであろう。


「ちなみに、海とダンジョンではランク付けが変わります。ダンジョンは強い個体が高ランクに認定されます。しかし、海では弱い個体でも、群れたり戦術を多用する者も多くおります。そう言った危険度を含めてのランク付けとなる訳です」


「へぇ、それは知らなかったわ……」


 勿論、陸の魔獣だって群れたり、罠を張るタイプもいる。そういう魔獣は、条件付きで一つ上のランクと記される事がある。


 しかし、ライザさんの口ぶりから、海では条件付きがスタンダートなのだ。だから、状況に応じたランク分けがされないのだろう。


 ただ、それは今の私達が知りたい情報では無い。この地で冒険者業をする予定が無いからね。


 今の私が知りたいのは、あの『大海獣』攻略に繋がる情報である。それを察したライザさんは、小さく頷いて説明を続けた。


「なお、『大海獣』に関しては、多くが分かっている訳ではありません。そもそもが、我々は『大海獣』の住まう『領域』へ踏み込む事がありませんので」


「うん、それはわかってる」


 基本的には『大海獣』も『領域守護者』の一部である。その住まいが陸か海かの違いしかない。


 しかし、同じ『領域守護者』でも個体差はある。出来ることなら、あのクラーケンについての能力が知りたい訳なのだ。


 そして、出来る秘書であるライザさんは、その辺りも抜かりは無いらしい。私の知りたい情報を、サクサクと説明してくれる。


「その前提で、クラーケンの能力についてです。基本は十本の足で相手を捉えて捕食します。他には墨を吐いて、視界や動きを封じる事もありますね」


「ふむふむ……」


 クラーケン相手に近接戦闘は不利だろうね。十本の足を捌くには、十名以上の戦士が必要となる。


 ただ、私ならば近寄る前にヤル。相手の射程距離外から吹き飛ばすだけなのだが……。


「そして、クラーケンが最も厄介なのは、その水魔法の使い方です。奴は魔術の発動を知覚すると、『ウォーターバリア』で魔法を防ぐのです。その皮膚は弾力もあって矢が通り辛く、遠距離攻撃では倒しにくい魔獣なんですよね……」


「…………はぁっ?!」


 ちょっと、待ってね……。


 クラーケンって魔法が通じないのっ?! それって、私の天敵じゃん! 


 いや、勿論普通の魔獣なら、バリア諸共吹き飛ばすよ? けど、あれって領域守護者で、強さの桁が違うわけじゃん!


 これは色々と不味いな……。私の精霊魔法でも、通じない可能性が出て来たわ……。


「こうなれば、最後の手段か……?」


「うん? どうした、パッフェル?」


 私の視線に気付き、ソリッドが首を傾げる。私の視線の意図には気付いていないらしい。


 なお、私の言う最後の手段は、ソリッドを『大海獣』へと放り投げること。どうも彼は死に掛けると、あの超常の力が発動するみたいなんだよね。


「――いや、無いんだけどね。必ず生還出来る保証も無いし……」


 そう、その手段を取ることはない。それをする位なら、この依頼を失敗した事にする方がマシだ。


 この国が衰退しようと、滅びようとも関係無い。ソリッドの命を代償にする程の価値は無いのだから……。


「となると、すぐに対処法は思いつかないな~。もう少し、クラーケンと大海獣の情報収集かな~」


「まあ、そうですよね……。それでは、まずは冒険者ギルドへ向かいますか?」


 ライザさんはガッカリした様子で肩を落とす。ただ、すぐに気持ちを切り替えて、私に提案する当たりは流石である。


 流石に大統領を補佐するだけの人物だ。タイミングがあれば、ヘッドハントの打診をしてみたい気が……。


「なあ、パッフェル。歌が聞こえないか?」


「は? 歌? ううん、聞こえないけど?」


 ソリッドからの問いに、私はライザさんへと視線を向ける。彼女も聞こえないみたいで、首を横に振っていた。


 ただ、ソリッドの身体能力は人間を辞めている。私達には聞こえなくても、彼に聞こえると言う事はあるだろう。


「でも、歌がどうしたの? 誰かが歌ってるだけでしょ?」


「そうなんだが……。何故か助けを求めている気がしてな……」


 ソリッドは何を言っているのだろう? 助けを求めるのに、どうして歌なの?


 ただ、ソリッドも良くわからないみたいだ。状況を説明し辛いみたいで、腕を組んで唸ってしまっている。


 ただ、そんな中でライザさんだけが、表情を強張らせていた。そして、真剣な表情で、私達に対して提案して来た。


「少々、嫌な予感がします。念のために、確かめに行きませんか?」


「嫌な予感? まあ、別に構わないけど……」


 有無を言わせぬ迫力に、私は思わず頷いてしまう。見ればソリッドも、同じ感じで頷いていた。


 ライザさんの予感が何かはわからない。けれど、今は急ぎの用事がある訳でも無い。少々の寄り道は問題がないだろう。


 私とソリッドは車に乗ると、ソリッドの耳を頼りに移動を開始した。

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