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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第六章 サファイア共和国と天才魔導士
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大統領セイレン=ヴォーダー

 私とソリッドは故郷を発った翌日に到着した。東の隣国サファイア共和国へと。


 そして、首都アクアマリンへ降り立った私達は、盛大な歓迎を受ける。大統領が手配した、国防軍が総出で出迎えてくれたりした。


 ただ、私はそんな派手な出迎えに興味は無い。彼等を適当に散らすと、さっさと大統領の元へと案内させた。


 悲しそうな顔の指揮官に連れられ、私は大統領官邸へと向かう。その後ろには、申し訳なさそうな顔のソリッド。


 私はそれらの一切を無視して、最短で大統領との面会を果たす。


「貴殿がパッフェル=アマン! そして、兄のソリッド=アマンですな!」


「ええ、初めまして。私達の挨拶は不要みたいですね。セイレン大統領?」


 応接室で対面する私とセイレン大統領。互いに笑みを浮かべると、右手を差し出し握り合った。


 なお、セイレン大統領は四十歳程の銀髪の男性である。軍服を着ており体格も良い。顔も厳つくて、堅気には見えない雰囲気を纏っている。


 それと言うのも、彼は実力で成り上がった叩き上げ。元冒険者でもあり、サファイア共和国最強の軍人でもあるのだ。


 海の魔獣との争いが絶えない地故に、その実力は国民の憧れとなる。そして、国を任せるに足る人物と、皆に認められた人物なのである。


「さあ、おくつろぎ下さい! 状況を説明させて頂きます!」


「ええ、それではお願いします」


 セイレン大統領は私達にソファーを勧める。そして、彼自身もその向かいに腰を落とした。


 秘書らしき女性がコーヒーを用意するが、そちらは無視する。だって、コーヒーって苦くて美味しくないしね。


「それで、巨大クラーケンでしたっけ? それって領域守護者でしょうか?」


「はい、ご認識の通りです。あのサイズは、それ以外に有り得ませんので……」


 セイレン大統領はチラリと窓に視線を向ける。その視線は遠くに見える海へと向けられていた。


 私もその視線を追い掛ける。そして、私は遠くに見える、イカの頭を発見した。


「……ここからでも、ハッキリと姿が見えますね」


「ええ、実際はかなり遠いです。近寄れば、島かと思えるサイズですよ」


 それは間違いなく領域守護者だ。通常の生物は魔獣と言えども、島程のサイズへ成長するはずがない。


 その理由は餌が足りないから。その巨体を維持する為の、エネルギーを摂取出来ないからである。


 では、どうして領域守護者なら可能なのか? それは、領域守護者のエネルギー供給が、食事によらないからである。


 領域守護者とは霊脈と呼ばれる土地のヌシ。霊脈から溢れるマナを独占する事で、その領域を支配する存在なのである。


「ただ、どうして領域守護者が? 誰かが領域を侵したんですか?」


「それがわからないのです。この国に住む者が、その様な禁を犯すとは思えないのですが……」


 セイレン大統領は腕を組んで唸る。今の所は、彼も原因がわかっていないらしい。


 とはいえ、誰かが領域に踏み込んだのは間違いない。領域守護者が動く理由なんて、それ以外には有り得ないのだから。


 何せ領域守護者は自らの領域を守る存在。それ以外に興味は無いが、領域を侵す者は絶対に許さない。犯した者へは必ず報復を行う。


 だからこそ、人類はその領域へ踏み込む事が無い。それはサファイア共和国に限らず、全ての人類にとって共通のルールなのである。


 私は再び海へと視線を向ける。そして、穏やかな海の様子に眉を顰める。


「……居座るだけで、攻撃はして来ないのですか?」


「ええ、そうです。近寄らない限り、居座っているだけです」


 セイレン大統領は困った表情で頷いた。こちらについても、私と同じく理解出来ないのだろう。


 報復するなら街を沈める事も出来るはず。領域守護者ならそれだけの能力があるはずなのだ。


 しかし、報復をしないなら、どうして居座っているのだろうか? 領域守護者のそんな行動は、私の知る限りでは記録されていないはずだが……。


「――もしや、報復対象がこの国の者では無いのでは?」


「「え……?」」


 ポツリと呟くソリッドに、私とセイレン大統領の視線が向く。私達にはその意味が、すぐに理解出来なかったのだ。


 すると、ソリッドは私達に向かって、自分の考えを披露し始めた。


「領域守護者は、只の魔獣と同じと思えない。恐らく人と同等か、それ以上の知能を持つのではないか? そして、報復するべき対象を、正しく識別しているのではないか?」


「領域守護者は、知能が高いって言いたいの?」


 領域守護者は実態が不明な存在である。何せ近寄れば危険な為、誰も調べる事が出来ないからだ。


 だから、ソリッドの意見は推測の域を出ない。それでも一考の余地がある様に思えた。


「領域守護者は生態系の頂点に立つ存在だ。しかし、その力を無暗に振るう事が無い。数多存在する超常の存在が、全て大人しいのには理由があると思えないか?」


「……仮に領域守護者を人間の王とする。そして、この世界には力ある王が多数存在している。その中の一人が勝手な振る舞いをし、平穏を乱そうとすれば、周囲の王が粛清を行うとか?」


 ソリッドの意見を元に、私は仮説を立てて見る。その意見を聞いたソリッドは、同意であると示す様に頷いた。


 すると、セイレン大統領もその意見に乗ったらしく、自分の意見を語りだした。


「つまり、正しくない相手への報復が、領域守護者にとっては世を乱す行為。だからこそ、報復対象を探しはしても、この国へは手を出していないと?」


「……推測ではあるがな。一応の説明は付くと思う」


 それを証明する術はない。しかし、その仮説を否定する事も出来なかった。


 領域守護者からすれば、人間なんて大量に発生した羽虫にも等しい存在だ。例え一掃するとなっても、何の憐みを感じる事も無いだろう。


 しかし、彼等は自分と同等の存在を恐れている。そして、彼等同士で暗黙のルールを定めていたとしても、それはとても自然な考え方に思えた。


 今の私達はその暗黙のルールで守られている。そう考えれば納得は出来るが、何とも落ち着かない状況でもある……。


「ま、まあ、理由は考えても結果は出ないよね? それよりも対処をどうするかだけれど……」



 ――コンコン



 不意に室内にノック音が響く。そして、扉の外から誰かが声を発する。


「お父様、ネーレです。失礼させて頂きますね」


 見るとセイレン大統領の顔が引き攣っている。何やら急に冷や汗をかき始めた。


 そして、私とソリッドを除けば、室内に居るのはセイレン大統領と女性秘書のみ。


 お父様と呼ばれる人物が居るとすれば、セイレン大統領以外は考えられない。


「失礼致します。英雄のお二人にご挨拶をと思いまして……」


 返事も待たずに入って来たのは、一人の少女だった。彼女は室内に踏み込むと、優雅に一礼した。


 年齢は十五歳程だろうか? プラチナの髪を持ち、強気な印象を与える強い眼差し。服装は魔術師らしい、青色のローブ。


 ネーレと名乗る少女は、頭を上げるとニコリと微笑む。そして、私と目が合うと、低い声でこう告げた。


「魔族に勝利した英雄等と称賛されておりますが、調子に乗らない事ですわね。この国の真の英雄は、お父様ただ一人なのですから」


「――はぁっ……?」


 何故か知らないが急に喧嘩を売られたんだけど? これは買っても良い流れだよね?


 そう思った所で、隣のソリッドが瞬時に動いた。私を羽交い絞めにすると、手で口も塞いで魔法も使えなくされた。



 ――ガッ! シュタッ!



 そして、私が身動き出来ずにいる間に、セイレン大統領が動く。娘を小脇に抱えると、ダッシュで部屋から飛び出して行った。


 余りにも鮮やかな一連の流れ。私が呆然としていると、ソリッドが私の顔を覗き込んで来た。


 突然の事態に頭が冷えた私は、大丈夫とソリッドに視線を返す。すると、ソリッドはホッとした様子で、私の拘束を解いてくれた。


「……えっと、今のは何だったの?」


「いや、それを俺に聞かれてもな……」


 ソリッドの返しに、私は確かにと納得する。流石のソリッドも、こんな状況を想定出来るはずもない。


 そして、私達が呆然としていると、秘書さんがコーヒーを入れ直すか尋ねて来た。私はその申し出を断ると、代わりに先程の娘さんについて説明して貰った……。

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