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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第六章 サファイア共和国と天才魔導士
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サファイア共和国

 私はパッフェル=アマン。宮廷魔術師の立場を持っており、そのせいで危険な仕事が舞い込んでしまった。


 それは、天災級の災害への対応。国の危機に関わる程の、困難への対処である。


 ただし、その危機にあるのは、私の住むパール王国ではない。東の隣国であるサファイア共和国である。


 何でも港のすぐ側に、巨大クラーケンが居座ってしまったらしい。そんな者が居座っては、あの国の主力産業である海産物が手に入らなくなる。


 しかも、サイズはキング級。間違いなく領域守護者の大海獣である。強さで言えば、ソリッドの倒した神竜に匹敵するだろう。


 本来ならば人の手に余る存在。けれど、私は過去に神竜を討伐した事になっている(・・・・・・・・・)。だからこそ、あの国からの救助要請があった訳だが……。


「筆頭宮廷魔術師なんて、お飾りの称号のつもりだったのになぁ……」


 貴族の地位を手に入れて、周囲を黙らせたかったから。その為に、わざわざ自分で首輪をはめ、鎖を国に預けたのだ。


 けれど、鎖を預ければ義務も生じる。ただ、その地位に応じた利益だけを得られるはずがない。


 なので、これは対価。ソリッドの自由を勝ち取る為に、私が支払うべき対価なのである。


 海中の大海獣を倒す事は無理だとしても、せめて追い払って港の解放くらいはする必要があるのだが……。


「――なあ、パッフェル」


「うん? どうかした?」


 背中からソリッドの声が届く。その理由は、彼が私を背後から抱きしめているため。


 そして、抱きしめている理由は、ここがドラゴンの背中だから。上空を移動中の私の身を案じ、ソリッドが私を抱きしめてくれていた。


 思考の中から現実に意識を戻すと、私はソリッドの胸に寄りかかる。そして、ソリッドの言葉を待った。


「俺はサファイア共和国に詳しくない。パッフェルはどの程度の知識がある?」


「サファイア共和国について? うーん、多くを知っている訳じゃないけど……」


 当然ながら、私も行った事は無い。冒険者時代はパール王国内で活動し、魔王軍との戦争では真逆の西へと向かっていたしね。


 とはいえ、貴族の立場としても、商会長の立場としても、最低限の知識は求められる。その辺りの知識で言うと……。


「海岸辺りを除くと、基本的に島の集合体みたいだね。後は島ごとに独立した小国みたいになっていて、王族みたいな人達は居ないみたい」


「王族が居ない? それでは、どうやって国が成り立つと言うのだ?」


 ソリッドの疑問がわからないでもない。私も初めて知った時は驚いたしね。


 人族の領地は中央がパール王国。西がガーネット王国。北はドワーフ王国で、南はエルフの女王が治める大森林となる。


 魔王国は魔王が全領地の支配者であるが、あそこも国王が支配する王政の土地だ。国王が不在なのは、サファイア共和国くらいのものだろう。


「民主制を導入しているのよ。国民の皆が代表を選挙で選ぶ。そして、選ばれた代表が五年間、国政を決定する権利を得るの」


「民主制? それに選挙だと?」


 聞きなれない概念に、ソリッドが戸惑っている。私もその辺りの理解には苦労したからね。


 私は師匠から教わった知識を引き釣りだし、ソリッドへと説明を続ける。


「あの国は島の集合体なのよ。そして、海は魔獣と領域守護者の支配地。人間はその合間を縫って、細々と航海をしている状況があるわけ」


「なるほど。海上では人間が不利だろうしな」


 小型の魔獣程度は漁師でも倒せる。大型の魔獣は高ランクの冒険者であれば倒せる。


 けれど、小型であれども船が群れに囲まれたら? 大型と戦っている間に、船底に穴でも空けられたら?


 例え勝てても被害は大きい。コストに見合わないので、航海するなら魔獣の寄らない場所を選ぶしかないのだ。


 勿論、傷付ける事すら困難な、領域守護者の住処になんて近寄らない。大海獣を前にすれば、人間の船なんて木の葉にも等しい存在なのだから。


「そんで、島ごとに独立した統治がされてるんだけど、これをどこかの国が支配したり出来ないのよ。だって、海軍を編成したとしても、そんな大型船が大量に通れる航路が無いんだもの」


「なるほどな。一番の覇者は海中の生物と言う訳か」


 私の説明にソリッドも納得する。一番強い人が国を支配し、国王になると言うプロセスが経られないのだ。


 勿論、領域守護者を倒せる程の猛者が居れば別だ。けれど、海陸合わせて討伐されたのって、ソリッドが倒した神竜が史上初なんだもの。


 そういう理由で、あの国は王家による支配が出来ない土地となっているのだ。


「とはいえ、他国との交易なんかも必要でしょ? だから、島々を国として纏めて、代表を決めた方が効率的って流れになってね。それで共和国って形式にして、国民の投票で代表を決める事にしたそうなのよ」


「それがサファイア共和国の成り立ちということか」


 ソリッドは納得した様子で頷いた。私は子供の時に教わった知識だが、忘れていなくてホッとした。


 むしろ、子供に向けだったから、簡単でわかりやすく教えてくれていたのかも。そう考えると、ちょっとは師匠に感謝しないとね。


「……他国の成り立ちに詳しい割に、生まれ故郷の方を覚えないのは何故だ?」


「だ、だって、お金にならないし……。私ってば、商売の為に覚えた訳だし……」


 生まれ故郷の成り立ちなんてどうでも良いよね? 師匠がどうやって村を作ったかなんてさ?


 師匠の悲しそうな顔が思い浮かぶが、それはそれ、これはこれである。私には無駄な知識を詰め込む余裕なんて一切無いのだ。


 すぐ近くで、ソリッドが息を吐く気配を感じる。しかし、それ以上はこの件に触れず、代わりにこう尋ねて来た。


「それで、今回の依頼者は国の代表とやらか?」


「うん、そうだね。サファイア共和国の大統領」


 私に仕事を触れるのは、国のトップである国王だけ。その国王に救助要請を出せる存在は、それと同等の地位を持つ同盟者に限られる。


 サファイア共和国は同じ人間種族・・・・が治める地。それ故に、パール王国とは同盟関係にある国なのだ。


「そして、海域の番人にして、水棲魔獣退治のプロ。水魔術の名門にして、魔法学園の理事長でもある。その大統領の名は、セイレン=ヴォーダーよ」


「大統領セイレン=ヴォーダーか……」


 彼は特殊な経歴を持つ人物である。恐らくは、私やソリッドとの友好的な関係を築けるはず。


 商会の力で得た情報が確かであれば、今回の件で大きな貸しが作れる。そうすれば、私達の今後の支援者にもなってくれるだろう。


 ……まあ、大海獣クラーケンを、どうにか出来ればの話なんだけどね?


 それは現地を見て見ないと何とも言えない。なので深く考えたりせず、私はソリッドとの空の旅を楽しむ事にした。

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