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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第五章(裏) 苦労人聖女と勇者の母
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星の巫女

 マリー様より『強欲の厄災』について説明を受けた。それと同時に、教皇であるお爺様と光の精霊王が、『強欲の厄災』の力を抑えているとも。


 そして、王様からの直電で、パッフェルとソリッドは席を立った。滅亡の危機であるサファイア共和国を救いに行くそうだ。


 他にも白神教が選ぶ『勇者』は偽物と判明。精霊王が選ぶ本物の『厄災』対策はパッフェルだったり。


 既にこの時点で、私はもうお腹いっぱいである。それにも関わらず、マリー様は私に対して過酷な説明を続ける。


「ソリッドの説明がまだだけど、本人居ないししゃあないか~。とりあえず今は、ローラちゃんの役割だけ説明しとくね~」


「私の役割、ですか……?」


 ソリッドの説明も気になるが仕方ない。それよりも問題なのが、私にも役割があると言う事だから。


 魔王軍との戦争どころではない。世界の危機とも言える『厄災』相手に、どうして私にも役割があると言うのだろうか……。


 内心で軽くへこみつつも、表向きは冷静さを保つ。すると、マリー様は私に対して指を突きつけて来た。


「ローラちゃんも加護ギフト持ってるよね? 『星の巫女』っての」


「――っ……?! 私の加護ギフトについて、何かご存じなのですか?」


 その存在を知る事に驚かされた。私の持つ加護ギフトも特殊な為、一般的にはその名も伏せられているからだ。


 加護ギフトの名は『星の巫女』。これまでに未確認の、未知なる加護ギフトである。


 そして、上級鑑定により判明しているのが、以下の内容だけなのである……。


 ================

 汝、数多の試練を乗り越えるべし。

 その試練を乗り越えた先に、

 汝は神の御業に到達するであろう。

 ================


 今の所、この加護ギフトによる恩恵を感じた事は無い。特殊なスキルを使えたり、何かしらの能力が上がる訳でも無い。


 それ所か、何故か私の元にはトラブルが集まって来る。これが数多の試練なのか、私は理不尽な状況に置かれる事が多いのだ。


 とはいえ、私は白神教の神官。『神の御業に到達する』力となると、組織内での立場は嫌でも上がってしまう。


 そんな訳で、私は十歳の頃から『聖女』と呼ばれ出した。そして、何の力も無い小娘なのに、『勇者アレックス』の従者にまで選ばれた訳で……。


「その加護ギフトは、私達が住まう星。この世界『ポラリース』が与えた力なの」


「私達が住まう星……? それに、『ポラリース』……?」


 星とは、夜空に輝く星の事だろうか? 私達が住まう場所が、あの小さな星々と同じだと言うのだろうか?


 それに『ポラリース』という名も初めて聞いた。私達の住むこの世界にも、名前が付けられていただなんて……。


「この世界は『ポラリース』誕生により初まった。それと同時に、白の神ブロンシュ様、黒の神ノエル様も誕生した。この世界と、それを管理する神様。その三者は同時に誕生した三姉妹でもあるの」


「世界と神々が三姉妹、なのですか……?」


 それは聖書に書かれた内容では無い。歴史書に残された記録でも無かった。


 この世界の始まりを知る者等、神々以外に存在しないはず。ならば、その知識も天啓オラクルによって齎されたものなのだろうか……?


「白と黒の神様は、世界に生命を生み出しました。そして、自らの子が育つ様に見守り、時に困った子供達に力を貸し与えます。『ポラリース』は自らの体で生命を育みました。生命が活動出来る様に、食べ物やマナを与えています。ただ、とてものんびり屋なので、普段は能動的に動く事がありません」


「…………」


 絵本でも読み聞かせるかの様に、優しい口調で語られる内容。しかし、その内容は世界に大きな衝撃を与えかねないものでした。


 この世界が何なのか? それを知る人も、考えた事がある人も居ないはずです。


 まさか、我々が住む大地が、白と黒の神々と姉妹関係にある存在だなんて……。


「そして、千年前に起きた『大厄災』。これは白と黒の神様が、一時的に不在の時に起こったのです。流石に不味いと焦った『ポラリース』は、一人の才有る少女に力を与えました。――そう、人を神へと昇格させる『星の巫女』という加護ギフトを……」


「…………え?」


 いま、何とおっしゃいました? 人を神へと昇格させる?


 あれ、おかしいな? 加護ギフトの名前が、私のと同じ気がしたんですが?


「今の私達の時代は、千年前をも超える危機的状況なの。だから、三姉妹である神々が、それぞれに対策を取ったってわけ。そして、『ポラリース』から選ばれて、力を与えられたのがローラちゃんって訳なのよ」


「そんな……。馬鹿、な……」


 私にはパッフェルみたいな力は無い。城を吹き飛ばす程の大魔法が使える訳では無いのだ。


 アレックスみたいに国一番の魔法戦士でも無いし、圧倒的なカリスマを持つ訳でも無い。


 ソリッドみたいに異常な身体能力フィジカルや、冒険者としての熟練の経験も持って無い。


 あくまでも、私はレベル相応の力を持つ神官。一般常識の枠に収まる存在だと思うのだけど……。


「まあ、『ポラリース』はのんびり屋だからね。所謂、大器晩成の加護ギフトなのよ。千年前の『大厄災』でも、『星の巫女』が神様になれたのって、『勇者』が『大厄災』を対処した後だったみたいだしね~」


「それ意味無くないですかっ⁈」


 問題解決の為の加護ギフトじゃないの! 問題が解決してから神様にってダメじゃないっ⁈


 ……もしかして、私の加護ギフトって外れ枠? 下っ端として事後処理だけ任せられるとか?


 うん、何だか嫌な未来が見えた。パッフェルが全てを片付けて、事後処理くらいはやれと放り投げられる感じだ。


 私がガッカリと肩を落とすと、マリー様は陽気に笑ってこう告げた。


「あはは、そう気負わない様にね? その加護ギフトの目的は神様になる事だけど、それだけの能力って訳じゃないから。きっと未来は良くなるって、そういう心構えが重要だと思うよ?」


「はあ、そういうものでそうか……?」


 それは慰めの言葉だったのかもしれない。しかし、その優しい笑みを見ると、少しだけ心が軽くなった気がした。


 確かに悪い方向にばかり考えるのは、私の悪い癖である。こういう明るさは、見習えると良いなと思います。


「さぁてと。最低限、話すべき事は話したかな? それじゃあ、出かけるとしましょうか?」


「出かける……? それは、どちらに……?」


 唐突な呼びかけに困惑する。何故だか、私も一緒に付いて行く流れになっている。


 マリー様は目をパチクリと瞬く。そして、二カッと笑ってこう告げた。


「どこって決まってるでしょ? まずは、ローラちゃんの父でもある、トーラス兄さんの所にだね!」


「…………は?」


 私の父親? 確かに私に父の名はトーラス=ホーネストである。


 それをトーラス兄さんと呼ぶマリー様。今更ながらに、マリー様が私の叔母だと思い至る。


「あれ? もしかして、パッフェルって私の従妹になる……?」


「あはは、何をいまさら! そんなの当たり前じゃないの!」


 パッフェルと従妹って何か嫌だな……。アレックスも何考えてるか不明だし……。


 ソリッドなら良いなと一瞬思ったけど、私と従妹にはならないだろう。何せ彼の戸籍は、村長であるフェイカー家となっているのだから。


「それじゃあ、馬車に乗ってのんびり行きましょうか。ドラゴンの背中も興味あるけど、パッフェルみたいな大金は払えないしね~」


「そ、そうですね……」


 お金なら出せなくは無いけど黙っておく。だって、死を感じる高所はもう勘弁だから……。


 私はキリリと表情を引き締める。そして、ドラゴンから興味を逸らす様に、マリー様へ別の話題を振りながら馬車へと向かうのだった。

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