星の巫女
マリー様より『強欲の厄災』について説明を受けた。それと同時に、教皇であるお爺様と光の精霊王が、『強欲の厄災』の力を抑えているとも。
そして、王様からの直電で、パッフェルとソリッドは席を立った。滅亡の危機であるサファイア共和国を救いに行くそうだ。
他にも白神教が選ぶ『勇者』は偽物と判明。精霊王が選ぶ本物の『厄災』対策はパッフェルだったり。
既にこの時点で、私はもうお腹いっぱいである。それにも関わらず、マリー様は私に対して過酷な説明を続ける。
「ソリッドの説明がまだだけど、本人居ないししゃあないか~。とりあえず今は、ローラちゃんの役割だけ説明しとくね~」
「私の役割、ですか……?」
ソリッドの説明も気になるが仕方ない。それよりも問題なのが、私にも役割があると言う事だから。
魔王軍との戦争どころではない。世界の危機とも言える『厄災』相手に、どうして私にも役割があると言うのだろうか……。
内心で軽くへこみつつも、表向きは冷静さを保つ。すると、マリー様は私に対して指を突きつけて来た。
「ローラちゃんも加護持ってるよね? 『星の巫女』っての」
「――っ……?! 私の加護について、何かご存じなのですか?」
その存在を知る事に驚かされた。私の持つ加護も特殊な為、一般的にはその名も伏せられているからだ。
加護の名は『星の巫女』。これまでに未確認の、未知なる加護である。
そして、上級鑑定により判明しているのが、以下の内容だけなのである……。
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汝、数多の試練を乗り越えるべし。
その試練を乗り越えた先に、
汝は神の御業に到達するであろう。
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今の所、この加護による恩恵を感じた事は無い。特殊なスキルを使えたり、何かしらの能力が上がる訳でも無い。
それ所か、何故か私の元にはトラブルが集まって来る。これが数多の試練なのか、私は理不尽な状況に置かれる事が多いのだ。
とはいえ、私は白神教の神官。『神の御業に到達する』力となると、組織内での立場は嫌でも上がってしまう。
そんな訳で、私は十歳の頃から『聖女』と呼ばれ出した。そして、何の力も無い小娘なのに、『勇者アレックス』の従者にまで選ばれた訳で……。
「その加護は、私達が住まう星。この世界『ポラリース』が与えた力なの」
「私達が住まう星……? それに、『ポラリース』……?」
星とは、夜空に輝く星の事だろうか? 私達が住まう場所が、あの小さな星々と同じだと言うのだろうか?
それに『ポラリース』という名も初めて聞いた。私達の住むこの世界にも、名前が付けられていただなんて……。
「この世界は『ポラリース』誕生により初まった。それと同時に、白の神ブロンシュ様、黒の神ノエル様も誕生した。この世界と、それを管理する神様。その三者は同時に誕生した三姉妹でもあるの」
「世界と神々が三姉妹、なのですか……?」
それは聖書に書かれた内容では無い。歴史書に残された記録でも無かった。
この世界の始まりを知る者等、神々以外に存在しないはず。ならば、その知識も天啓によって齎されたものなのだろうか……?
「白と黒の神様は、世界に生命を生み出しました。そして、自らの子が育つ様に見守り、時に困った子供達に力を貸し与えます。『ポラリース』は自らの体で生命を育みました。生命が活動出来る様に、食べ物やマナを与えています。ただ、とてものんびり屋なので、普段は能動的に動く事がありません」
「…………」
絵本でも読み聞かせるかの様に、優しい口調で語られる内容。しかし、その内容は世界に大きな衝撃を与えかねないものでした。
この世界が何なのか? それを知る人も、考えた事がある人も居ないはずです。
まさか、我々が住む大地が、白と黒の神々と姉妹関係にある存在だなんて……。
「そして、千年前に起きた『大厄災』。これは白と黒の神様が、一時的に不在の時に起こったのです。流石に不味いと焦った『ポラリース』は、一人の才有る少女に力を与えました。――そう、人を神へと昇格させる『星の巫女』という加護を……」
「…………え?」
いま、何とおっしゃいました? 人を神へと昇格させる?
あれ、おかしいな? 加護の名前が、私のと同じ気がしたんですが?
「今の私達の時代は、千年前をも超える危機的状況なの。だから、三姉妹である神々が、それぞれに対策を取ったってわけ。そして、『ポラリース』から選ばれて、力を与えられたのがローラちゃんって訳なのよ」
「そんな……。馬鹿、な……」
私にはパッフェルみたいな力は無い。城を吹き飛ばす程の大魔法が使える訳では無いのだ。
アレックスみたいに国一番の魔法戦士でも無いし、圧倒的なカリスマを持つ訳でも無い。
ソリッドみたいに異常な身体能力や、冒険者としての熟練の経験も持って無い。
あくまでも、私はレベル相応の力を持つ神官。一般常識の枠に収まる存在だと思うのだけど……。
「まあ、『ポラリース』はのんびり屋だからね。所謂、大器晩成の加護なのよ。千年前の『大厄災』でも、『星の巫女』が神様になれたのって、『勇者』が『大厄災』を対処した後だったみたいだしね~」
「それ意味無くないですかっ⁈」
問題解決の為の加護じゃないの! 問題が解決してから神様にってダメじゃないっ⁈
……もしかして、私の加護って外れ枠? 下っ端として事後処理だけ任せられるとか?
うん、何だか嫌な未来が見えた。パッフェルが全てを片付けて、事後処理くらいはやれと放り投げられる感じだ。
私がガッカリと肩を落とすと、マリー様は陽気に笑ってこう告げた。
「あはは、そう気負わない様にね? その加護の目的は神様になる事だけど、それだけの能力って訳じゃないから。きっと未来は良くなるって、そういう心構えが重要だと思うよ?」
「はあ、そういうものでそうか……?」
それは慰めの言葉だったのかもしれない。しかし、その優しい笑みを見ると、少しだけ心が軽くなった気がした。
確かに悪い方向にばかり考えるのは、私の悪い癖である。こういう明るさは、見習えると良いなと思います。
「さぁてと。最低限、話すべき事は話したかな? それじゃあ、出かけるとしましょうか?」
「出かける……? それは、どちらに……?」
唐突な呼びかけに困惑する。何故だか、私も一緒に付いて行く流れになっている。
マリー様は目をパチクリと瞬く。そして、二カッと笑ってこう告げた。
「どこって決まってるでしょ? まずは、ローラちゃんの父でもある、トーラス兄さんの所にだね!」
「…………は?」
私の父親? 確かに私に父の名はトーラス=ホーネストである。
それをトーラス兄さんと呼ぶマリー様。今更ながらに、マリー様が私の叔母だと思い至る。
「あれ? もしかして、パッフェルって私の従妹になる……?」
「あはは、何をいまさら! そんなの当たり前じゃないの!」
パッフェルと従妹って何か嫌だな……。アレックスも何考えてるか不明だし……。
ソリッドなら良いなと一瞬思ったけど、私と従妹にはならないだろう。何せ彼の戸籍は、村長であるフェイカー家となっているのだから。
「それじゃあ、馬車に乗ってのんびり行きましょうか。ドラゴンの背中も興味あるけど、パッフェルみたいな大金は払えないしね~」
「そ、そうですね……」
お金なら出せなくは無いけど黙っておく。だって、死を感じる高所はもう勘弁だから……。
私はキリリと表情を引き締める。そして、ドラゴンから興味を逸らす様に、マリー様へ別の話題を振りながら馬車へと向かうのだった。