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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第一章 根暗アサシンと駆け出し冒険者
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番号交換

 昨日はミーティアに対し、『短剣術』『高速ステップ』『バックスタブ』を指導した。何とか形にはなったので、基本的な戦闘は可能になったと思って良い。


 ちなみに、盗賊ギルドでの検定試験を受けていない為、ギルドカードには習得済みとして表示されない。これは複数のスキルを指導した後に、まとめて検定試験を受ければ良いと考えている。


 試験自体はいずれも短時間で終える事が出来る。Lv1の試験内容は簡単なので、一日使えば全て習得済みとして、ギルドカードへの反映も可能なはずだ。


「それで、今日は急で済まないが妹も同行している。ちなみに、妹は高レベルの魔導士だ」


 昨日と同じ森に、俺とパッフェルが並んで立つ。俺は黒のレザースーツ姿で、パッフェルは白のローブに黒のケープ。普段着でもあり、戦闘時の装備でもある。


 向かい合うのはミーティアとクーレッジ。こちらも基本的には昨日と同じ姿だ。昨晩は宿舎で良く眠れたらしく、どちらも顔色は良好である。


「ミーティアです! 宜しくお願いします! 昨日からお兄さんの弟子です!」


「妹ですか? 全然似ていませんね。というか、何やら見覚えがある様な……」


 昨日同様に元気いっぱいのミーティア。彼女はバッと頭を下げて、パッフェルへと挨拶を行っている。


 クーレッジは眉を寄せて、何やら悩ましい表情を浮かべていた。何やら唸っている彼女に対し、パッフェルは気だるげに挨拶を行った。


「パッフェル=アマンよ。私の名前くらいは、聞いた事があるかもね……」


 パッフェルが名を告げると、ミーティは不思議そうな表情を浮かべる。そして、隣のクーレッジへと視線を向けた。


 クーレッジはポカンと口を開く。そして、自分の懐をまさぐりながら、ワナワナと身を震わせていた。


「パッフェル……アマン……? ――って、パッフェル=アマンっ?! え、大魔導士のパッフェル様ですか! 生パッフェル様!」


 クーレッジは手にした写真に視線を落とす。そして、パッフェルと見比べて、目を大きく見開いていた。


 チラリと見えたが、その写真には戦場のパッフェルが映っている。それをクーレッジが持っている事に戸惑っていると、パッフェルが溜息と共に俺へと告げる。


「王都で出回ってるの。私とお兄ちゃんのブロマイド。ほら、私達って美化されて、勇者一行として喧伝されてるから……」


「ああ、なるほどな……」


 戦争には付き物であろう。平和の象徴で合ったり、正義を示す存在の喧伝というものは。


 人族の未来の為に戦う勇者一行を美談とし、王侯貴族や白神教が世間に話を広めるのだ。そうすることで、自分たちの行いを正当化するのである。


 なお、パッフェルは苦々し気な表情を浮かべている。それは、その勇者一行に俺が含まれていないからである。王侯貴族や白神教からすると、俺は隠しておきたい存在だからな。


 そんな事は今更なので、俺としては気にしていない。しかし、パッフェルやアレックスは、今でもその事を気にし、俺に対して気遣ってくれる。


 俺としては嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちが半々という所。俺からすると、もうそんな状況を終わりにしたいのけどな……。


「……ねえ、師匠。師匠って凄く強いし、もしかして勇者パーティーの一員なの?」


 気付くとミーティアが、俺のすぐ傍に立っていた。そして、キラキラした瞳で俺の事を見上げている。


 しかし、俺が答えるよりも早く、慌てた様子でクーレッジが叫んだ。


「ば、馬鹿ミーティア! 失礼な事を言わないでよ! こんな根暗アサシンが、勇者パーティーの一員なわけ……!」



 ――カッ! ゴゴウッッッ!!!



 クーレッジの言葉の途中で閃光が弾ける。クーレッジの背後で、一本の巨木が燃え上がったのだ。


 クーレッジが慌てて背後へと振り返る。そして、半分が炭となり、残り半分が灰として舞い散る巨木に目を丸くする。


 呆然と立ち尽くすクーレッジの肩に、パッフェルは手にした杖をトンと落とした。


「私はね、家族を馬鹿にされるが大嫌いなの。次は無いから、気を付けてね?」


「――は、はいぃぃぃ! 二度と無い様に気を付けます!」


 ガタガタと震えるクーレッジ。それを冷たい視線で見つめるパッフェル。その見慣れた光景に、俺は内心で息を吐く。


 パッフェルのこういう行動は、戦場では良く見る事が出来た。唐突にキレて、気付いた時には敵味方問わず、相手を吹き飛ばしているのである。


 何がスイッチかは不明。気付くといつも事後であり、吹き飛ばされた相手は黙秘を貫く。ただ、いずれの戦場でも、彼女は唐突にキレるのだ。


 そして、付いた通り名が『歩く天災』。いずれの戦場でも、全兵士に対してこう指示が飛ぶ。『パッフェル=アマンの前では、決して口を開いてはいけない』と。


 とはいえ、今回の被害は一本の木のみ。クーレッジ本人に被害がなかっただけ、パッフェルも丸くなったのかもしれない。


「あ、あの、パッフェル様……。もし宜しければサインを……。それと、可能であれば番号交換なんかも……」


 クーレッジは写真とペンを右手に、魔導デバイスを左手に持っていた。そして、その両方をそっとパッフェルに差し出した。


 パッフェルの怒りを買い、それでもめげない根性は凄いと思う。パッフェルもクーレッジの反応には驚いた様子であった。


 そして、その行動に真っ先に反応したのはミーティアだ。彼女は羨ましそうな視線で、クーレッジへと話しかけていた。


「あー、くーちゃん良いなぁ! 私も魔導デバイス持ってたら、師匠と番号交換出来たのに! 魔導デバイスがもっと安ければなぁ……」


 しょんぼりと肩を落とすミーティア。どうやら彼女は、魔導デバイスを持っていないらしい。安くなったとはいえ、庶民の月収程度の金額はするからな。


 そして、ミーティアのボヤキに対して、パッフェルがピクリと反応する。チラリと視線を向けると、彼女に対して声を掛けた。


「ソリッドは持ってないよ。魔導デバイスは魔力が無いと使えないから。そもそも、ソリッドは使う事が出来ないんだよ」


「え、魔力が無い? まったく無いって事ですか?」


 びっくりした様子で、クーレッジが声を上げる。魔力をまったく持たない俺に、あり得ないという視線を向けて来た。


 そして、昨日の出来事を思い出したみたいで、俺に対して怪訝な視線を向ける。


「でも、昨日のギルドカード。魔力の記載がありましたよね。まったく無いなら、おかしくないですか?」


「……あれは自動計算された、職業の平均値でしかない。個々人の正確な数値を計るなら、身体測定を受ける必要がある」


 そう、ギルドカードは自動で更新される。依頼達成時や、魔物討伐の報告により、職業レベルが更新された場合に。その際に、その職業レベルに応じた『平均値』が自動的に加算されるのだ。


 勿論、それだと正確な情報とならない。その為、各ギルドでは加盟者に対し、一定間隔での身体測定を推奨・・している。余り数値がかけ離れては、正しく依頼を発行したり、受注したり出来なくなるからである。


 とはいえ、俺は前回も言った通り、魔王軍との激しい戦場に身を置いていた。身体測定を受ける余裕なんて無かったのである。その為、勝手に更新されていく職業レベルに応じ、『平均値』が自動的に加算されてしまったのである。


「まあ、無くて困る物でもない。あれば便利なのは確かだろうがな」


「私はバッテリータイプも提案したんだけどね? けれど、私が毎日魔力チャージするって言ったら、いらないって言い始めてさ……」


 俺の隣で顔を顰め、肩をすくめるパッフェル。以前に彼女の提案を断った事を、今でもまだ根に持っているらしい。


 とはいえ、利用するには毎日の魔力チャージが必要なのだ。パッフェルが毎日一緒でなければ、魔導デバイスを使えないと言うのである。


 そんな物を持っても仕方がないだろう? 兄妹とは頻繁に顔を合わせるし、それ以外とは連絡を取り合う相手もいないと言うのに……。


 俺は内心でやれやれ肩を竦める。すると、パッフェルが何かを思いついたらしく、笑顔をミーティアへと向けた。


「ソリッドに用事がある時は、彼女に連絡して貰いなさい。私がソリッドに用件を伝えてあげる」


「ええ、良いんですかっ?! くーちゃんの推し活の人に、そんなお手間を取らせるなんて……!」


 え? 推し活の人? クーレッジはパッフェルのファンなのか?


 いや、確かにブロマイドは持っていたな。ただ、身内に対するそういう反応は未だに慣れないのだ。家ではゴロゴロして、いつもだらけた姿を見ている訳だしな……。


 釈然としない俺を他所に、パッフェルは楽し気な笑みで答える。


「良いのよ。ソリッドの居場所は、常に把握しているから。そちらの貴女も、それで良いわね?」


「は、はい! パッフェル様のお声が聴けるなら、用事が無くてもいつでも連絡したい位です!」


 パッフェルは笑顔で、それは止める様にと釘を刺す。それが通じたかは不明だが、二人はすんなり番号交換を終えてしまった。


 というか、パッフェルの前提条件おかしくないか? 俺の位置を常に把握してるとか……。


 俺は何とも言えない、モヤモヤした気持ちを胸に抱く。しかし、右腕の袖をミーティアがつまみ、俺に嬉しそうな笑みを向けて来た。


「私、嬉しいです! これでいつでも、師匠と連絡が取れますね!」


「……ああ、そうだな」


 この子はどうして、こんなに俺に懐いているのだろう? 純度100%の笑顔を前に、俺は眩しさから目を細めてしまう。


 そして、俺は細かな悩み等、どうでも良いと思えて来た。ふっと笑みをこぼし、俺は愛弟子に対して頷いて見せた。

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