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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第五章(裏) 苦労人聖女と勇者の母
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教皇一族の陰謀

 マリー様の説明には驚かされた。ただ、最も驚いたのはパッフェルだろう。何せ本人は他人事と思って聞いていたのだから。


 しかも、その内容は『厄災』を滅ぼす運命さだめを与えられたと言うもの。並みの神経であれば、取り乱しても仕方が無いものである。


 けれど、パッフェル=アマンは取り乱さない。ただ、めんどくさそうな顔をするだけだった。


 何せ彼女は精神面メンタルが化け物なのだ。それを知る我々は、特に気にせず話を進めた。


「私が子供の時から少しずつ天啓オラクルで指示が下りてね。私はこの加護ギフトの存在を世間に隠したまま、十歳頃に死んだ扱いになってるのよね。それから十八歳までは、冒険者になって世界を放浪してた感じなのよ~」


「死んだ事に、ですか……?」


 私はマリー様の存在を、これまで聞いた事がない。お父様も、兄弟は兄が一人だけだと言っていた。


 しかし、存在を隠すなんて事が本当に可能なのだろうか? 仮にも教皇の一族が、死を偽装するだなんて……。


 私が疑念を抱いていると、マリー様がニヤリと笑う。そして、陽気な口調でこう告げた。


「ああ、手を回したのは親父殿だよ。ローラちゃんの祖父でもある、ゲイニッツ=ホーネストだね」


「お爺様……って、教皇自らが、そのような偽装をっ……⁈」


 まったくもって理解出来ない。私の知らない所で、何が起きていると言うのだろうか?


 私の知るお爺様は、とても厳しい人物。それと同に、権力に貪欲な人物でもある。


 もしや、マリー様を隠した事も、お爺様の求める権力と関わるのだろうか……?


「うんうん、わかるよ~。親父が何考えてるかわからないんだよね? それは当然の事だと思うよ。何せ親父殿は五十年も、仮面を被って世間を欺いて来た人だからね~」


「世間を欺く……?」


 ニヤニヤと笑うマリー様。何故だかとても楽しそうな雰囲気を滲ませている。


 しかし、私は状況がわからず混乱するばかり。ソリッドとパッフェルも、話は私に任せて静観の構えだった。


「そう。権力を求める強欲な教皇。そう思われる様に、わざとそう振舞ってんの。そんでもって、白神教の幹部は腐敗してると、そう世間に思わせてんのよね~」


「なぜ、そのようなことを……?」


 純粋に権力を欲しているなら、まだ理解が出来る。けれど、そう思われる様に振舞うのは、まったくもって理解出来ない。


 そんな事をしても周りから嫌われるだけ。何のメリットも無い様に思うのだけれど……。


「親父がしてるのは、強欲で無能な人達を集めること。そんな人達に地位を与えて、白神教を無能でコントロールしやすい組織にしてんのよ。そうしないと『強欲の厄災』が力を付けちゃうからね」


「――『強欲の厄災』っ⁈ どういう事でしょうか!」


 既に『強欲の厄災』が活動している? その対策をお爺様がしていると言うのだろうか?


 想定外の言葉に私は焦る。すると、マリー様は肩を竦めて、やれやれと首を振る。


「『強欲の厄災』は想定よりも早く、六十年前に生まれてしまってね~。いち早く気付いた光の精霊王が、全身全霊でその力の成長を封じたんだよ。けれど、その封印に抗う様に、『強欲の厄災』が周囲の強欲な者達を集めようとし始めちゃってさ……」


「……『強欲』な者が集まると、その力が強まるのですか?」


 私の問いにマリー様は頷く。そして、やれやれと肩を竦めながら溜息を吐く。


「親父殿は光の精霊の特殊な加護ギフト持ちでね……。まあ、疑似的な天啓オラクルみたいな加護ギフトと思ったら良いよ? その加護ギフトのお陰で、世界に起きている危機に、いち早く気付けたってわけ」


「そうだったのですか……」


 先程の話を聞く限り、『厄災』への対抗手段カウンターはパッフェルだ。ならば、五十年前には対抗手段が無かった事になる。


 その時点で『強欲の厄災』が猛威を振るっていれば、この国は破滅していた可能性が高い。そうならない為に、光の精霊とお爺様が時間稼ぎをしていたのだろう。


「それでまあ、私の元にパッフェル達が揃って話を聞きに来た。それはつまり、『厄災』対策の準備が整ったって事なんだろうなって思うわけよ。あなた達からすると、魔王軍との戦いが終わったばっかだよね? けれど、ぶっちゃけここからが本番って感じなのよね~」


「そ、そうなんですね……」


 あはは~っと、軽い感じで笑うマリー様。こちらかすると、まったく笑えない状況なのですが……。


 正直、私には手に余る問題である。どうしたものかと、私はソリッドに視線を送る。すると、急に室内に不思議な音が木霊する。



 ――ふぃっふぃ~! ふぃっふぃ~!



「――はい、パッフェルです。どちら様でしょうか?」


 見るとパッフェルが、魔導デバイスを耳に当てていた。あの間抜けな音色は、受信時のコール音だったらしい。


 なぜ、このタイミングで? そう思ったのだが、急にパッフェルが頭を下げて驚いてしまう。


「え? まさか、ご本人様でしょうか? あ、はい。大丈夫ですが、どの様なご用件で……?」


 パッフェルがペコペコと頭を下げている。目の前に本人が居る訳でもないのに、どうして頭を下げているのだろうか?


 というか、商会のお得意様だろうか? パッフェルが下手に出る相手なんて、そう多くは居ないと思うのだけれど……。


「――え、本当ですかっ⁈ わかりました、すぐに現場に向かいます!」


 パッフェルは通話を終える。そして、沈痛な面持ちで盛大な溜息を吐く。


 私達は何事だろうとパッフェルに注目する。すると、パッフェルが重々しい口調でポツリと呟いた。


「王様からの直電だった……。筆頭宮廷魔導士である私に、緊急の勅命だって……」


「「「え……???」」」


 王様からの直電? 王様って魔導デバイスを、ご自身で利用なされるの?


 こういう時って部下に指示して、連絡させるものだよね? まったくもって、状況を理解出来ないのだけれど……。


 私達は首を傾げてパッフェルを見る。すると、彼女は嫌そうな表情を消し、ソリッドへ上目遣いで甘えだした。


「サファイア共和国が滅亡の危機なんだって。一人じゃ心許ないから、一緒に来て欲しいなぁ?」


「……は? あ、いや、わかった! 勿論、俺も協力しよう!」


 一拍遅れて、ソリッドは大きく頷く。言葉の意味を理解するのに、少し時間が必要だったみたいだ。


 当然ながら、私も彼と同じ感じだった。話の展開が急すぎて、さっきからずっと付いて行くのに必死なんですけど……。


 急な展開の連続で、思わず酔って吐きそうである。だが、そんな私を無視して、パッフェルは慌てて席を立つ。


「今まさにピンチらしいの! ひとっ走り行ってくるから、後のことは宜しくね!」


「はいは~い。こっちはこっちで出来る事やっとくから、そっちも気を付けてね~」


 しゅたっと片手を上げると、後は任せたと飛び出すパッフェル。ソリッドは慌てて、その背中を追いかけて行った。


 そして、居間に残されたのは私とマリー様の二人。気まずく感じる私を他所に、マリー様はしれっとこう告げた。


「それじゃあ、このまま話を続けるね~」


「……え? あ、いや、わかりました。宜しくお願いします」


 肝心のパッフェルが居ないけど、続けても大丈夫なのだろうか?


 内心ではそう疑問に思いつつも、私は黙ってマリー様の説明を聞くことにした。


 だって、他にどう反応すれば良いか、わからないんだもの……。

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