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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第五章(裏) 苦労人聖女と勇者の母
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勇者選定基準

 先程、私が皆に天啓オラクルの説明を行った。それは、パッフェル達のお母様である、マリー=アマン様からの指示であった。


 そして、説明を終えた私に、マリー様が視線を向ける。ニヤニヤと笑みを浮かべ、楽しそうに話し始めた。


「とまあ、さっきのが白神教に伝わる一般常識。それで、ここから私が話すのが、白神教にも伝わっていない、隠された真実となりま~す」


「隠された、真実……?」


 マリー様のお話に私は動揺する。白神教にも伝わらぬ真実。そんなものが存在すると言うのか……。


「五百年前に起きた王国崩壊の危機。これって、詳細な説明って残ってないでしょ? 実はこれって、『勇者選定基準』を作る為に、白神教が捏造しちゃったからなんだよね~」


「捏造……? それに、『勇者選定基準』とは……?」


 白神教が何を捏造したと言うのだろうか? そして、初耳である『勇者選定基準』とは?


 私は前のめりになり、マリー様のお話に耳を傾ける。興味無さそうなパッフェルの態度に、少なからずイラっとするものを感じながら。


「五百年前の事件は『呪いの厄災』が誕生したことで起きたのよ。これは世界に蓄積された、多くの人々の怨念が具現化したって言うのかな? 膨大な負の力を宿した人間が、パール王国に生まれてしまったのよね~」


「『呪いの厄災』ですか……?」


 『厄災』と言えば、思い浮かぶのが一つ。何故かソリッドを狙う、竜人族の女性の姿。


 彼女は圧倒的な力を持ち、勇者パーティー『ホープレイ』でも太刀打ち出来なかった。


 Sランクと呼ばれる人類最高の戦力でも無意味。満足するまで耐え続け、彼女が帰るのを待つ事しか出来なかった存在である。


「『呪いの厄災』は人の力では傷付ける事が出来ない。その傍に居るだけで、人は誰もが呪いに感染する。どれだけの強さを持とうとも、世界への恨み、嫉みを宿す従者にされちゃうんだよね~」


「そんな、理不尽な存在が……」


 傷付ける事が出来ない以上、倒す事が出来ない存在。しかも、近寄ると従者にされてしまう。


 そんな存在が国を滅ぼそうとした。はっきり言って、どうしようもない状況だったであろう。


「そこで白の神ブロンシュ様が、天啓オラクルを使って伝えたわけ。世界を守護する火・水・土・風・光の精霊王の元に、選ばれた人間を連れ行く様にと。ちなみに、闇の精霊王はずっと魔王城に居るから、その時は距離があり過ぎて候補から外したみたいね~」


「え? 闇の精霊王が魔王城に?」


 火・水・土・風・光の勇者なら心当たりがある。私が直接知るのはアレックスとガーネット王の二人だけど。


 各精霊王を祀る神殿も知っている。ただ、闇の精霊王だけは神殿も無く、その所在も明らかにされていないはずなのだが……。


「精霊王の加護を得た精霊騎士は、『呪いの厄災』に対抗出来るわけ。呪いにも感染しないし、滅ぼす為の力も持っている。それと同時に、天啓オラクルを持つ巫女は、浄化の力も与えられていてね。その力のお陰もあって、教皇になる前は聖女様って呼ばれていたそうよ~」


「では、聖女という存在は、その時に初めて生まれたと?」


 私の問いに、マリー様が頷く。どうやら、白神教で『聖女』が生まれたのは、五百年前の事件が起源みたいだ。


「と言う事は、魔王国に存在する『降り掛かる厄災』。これを滅ぼす為に、アレックスや他の四勇者が力を合わせる必要があるのですね?」


「え? 違うけど?」


 え、えぇ~? 今の話って、そういう流れじゃ無かったの?


 私が呆然としていると、マリー様がカラカラと笑う。そして、指を振りながら楽しそうに口を開く。


「だから言ったでしょ? 『勇者選定基準』は白神教が作ったって。事実を捏造して、白神教の権威を強める為にね」


「……それはまさか、『勇者』の選定自体が誤りであるとっ⁈」


 これまで、長年に渡って『勇者』が世界を守って来た。そう世間の人々は認識している。


 しかし、マリー様はアッサリと頷く。『勇者』の存在が誤りであると認めてしまった。


「世界を救った『勇者』は、千年前に降臨した黒の神の子供のこと。五百年前の厄災を滅ぼしたのは、精霊王が加護を与えた『精霊騎士』なんだよ。けれど、白神教が権威付けの為に、白の神は五人の勇者を降臨させたって嘘を付いたんだよね~」


「そんな、馬鹿な……」


 それでは、これまで『勇者』を崇めていたのは? ありがたがっていたのは、何だったと言うのだ?


 いや、それが呼び名の問題だけなら別に良い。問題は彼等が『厄災』と戦えるのかどうかだ。


「……改めてお聞きします。現在、『勇者』と呼ばれる者達の力で、『厄災』を滅ぼす事は出来るのでしょうか?」


「それは無理じゃない? だって、今の『勇者』君達って、精霊王からの加護ギフトを貰って無いし。彼等が貰った加護ギフトって、その配下である大精霊からの物だしね~。精々が『厄災』からの精神汚染を防げる程度かな~?」


 その回答により、私の脳裏に最悪の未来が描かれる。今の私達では、あの『降り掛かる厄災』を滅ぼす事が出来ないのだと。


 ただ、その言葉が正しい事も理解出来てしまう。相手はアレックスでは歯が立たなかった相手。


 仮に同等の力を持つ他の四勇者が集まっても、彼女に太刀打ち出来るとは思えなかったからだ。


「――母さん。それでは、『厄災』への対抗手段カウンターは、他に存在するのか?」


「おっ、良い所に気が付いたね~!」


 その問いに私は頭を跳ね上げる。そして、マリー様の肯定に心底安堵する。


 見るとマリー様は、ソリッドの頭を嬉しそうに撫でまわしていた。恥ずかしそうに俯きながらも、されるがままのソリッド。


 マリー様は頭を撫でながら、真剣な表情でこう告げた。


「まず、千年前のを大厄災、五百年前のを小厄災と呼ぶわね。厄災の危険度がまったく別物だから」


「ふむ、千年前の方が危険度が高いと言う事か……」


 ソリッドの呟きに、マリー様が頷く。そして、手は止めずに説明を続ける。


「今回の厄災は過去最大なの。魔王国に大厄災が一つ。人族の領域に小厄災が三つ。合計で四つの厄災が誕生してしまったのよ」


「嘘……。そんな……」


 五百年前の小厄災でも、この国が滅びかけた。そんな存在が三つもこの地に存在している。


 幸いな事に、大厄災は魔王国と言っていた。そちらが『降り掛かる厄災』なのでしょう。


 魔王国だから良いと言うつもりはないが、分散してくれていたのはせめてもの救いだろう。


「今回の厄災は規模が違う。だから、五百年前みたいに力を分散させては負ける恐れがある。そう考えた白の神ブロンシュ様は、力を一人の人間に集約させる事にしたのよ」


「かつての精霊騎士の力を、一人の人間に集約ですか……」


 私はゴクリと喉を鳴らす。それならば、三つの小厄災も滅ぼす事が出来そうです。


 それどころか、魔王国の大厄災にも対抗出来るかもしれない。そう期待する私に、マリー様が想定外の言葉を放った。


「火・水・土・風の精霊王。その全て加護ギフトが与えられた存在。それこそが――我が娘パッフェルなのです!」


 私達の視線がパッフェルに集まる。他人事だったパッフェルは、ポカンと口を開けていた。


 そして、狼狽えた様子でポツリと呟く。


「……え? どういうこと?」


 それは私も同意見だ。『歩く天災』と呼ばれる彼女が、『厄災』への対抗手段カウンターですって?


 それはとても笑えない冗談としか、言いようが無いのですが……。


「ふふふ~。どう? 驚いた?」


 胸を張ってドヤ顔で告げるマリー様。どうやら、冗談とかでは無いらしい。


 そして、そろそろソリッドを撫でるのを止めてあげて欲しい。ソリッドがどう反応して良いか、とても困った顔をしているので……。

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