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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第五章(裏) 苦労人聖女と勇者の母
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白神教対策会議

 私の名はローラ=ホーネスト。巷では聖女等と敬われております。しかし、今の私はとある会議室で身を小さくしていたりします。


 なお、場所はパッフェル商会のツヴァイタウン支店。参加者は私、パッフェル、ソリッドの三人です。


 パッフェルに召集された私とソリッドは、パッフェルの発言を静かに待ちます。すると、パッフェルは鋭い視線をソリッドに向けました。


「まず、始める前にだけど。ソリッドに言っておく事があるの」


「俺に言っておく事? それは何だ?」


 パッフェルはピリピリした空気を纏っている。何かしらの憤りを感じているらしい。


 ただ、それがソリッドに向けられているのが謎です。私とソリッドは不思議に思い、パッフェルに注目します。


「今回、ミーティアが狙われた件だけど。自分のせいだと思ってるでしょ? それで、責任を取ってパール王国を離れるつもりでしょ?」


「――なっ……! そうなのですか、ソリッド……?!」


 言われてみれば、確かにその通りだ。ソリッドならば、そういう考えを持ってもおかしくない。


 私とパッフェルはソリッドを注視する。すると、彼は顔を伏せて、小さく頷いた。


「……ああ、その通りだ。俺が居なければ、ミーティアは狙われなかった。やはり俺は、この国に居るべきではないのだ」


「――ふざけないでよ! そんな無責任、私は絶対に認めないからね!」


 パッフェルに怒鳴られ、ソリッドが目を丸くする。私も彼と同じく、驚きでパッフェルを見つめてしまった。


 国を出る事を認めたくないならわかる。しかし、どうしてソリッドの行動が、無責任だという事になるのだろうか?


「国を出て、それで責任を取ったつもりなの? それで全部解決すると思っているの? ――違うでしょ! 貴方は残して行くミーティアに、何の責任も取ってないじゃない!」


「――っ……?! そ、それは……」


 パッフェルの発言に、ソリッドはハッとなる。顔を上げると、彼女へと真っ直ぐ視線を向けた。


「前に弟子が出来たって、嬉しそうに話してたでしょ? 彼女はソリッドにとって、可愛い弟子なんだよね? だったら師匠として、ちゃんと彼女の進む道を、整えないと駄目じゃない!」


「……ああ、そうだな。パッフェルの言う通りだ」


 パッフェルの言葉にソリッドが頷く。真っ直ぐ彼女を見つめる瞳は、迷い無いものへと変わっていた。


 それを見たパッフェルが、ふっと口元を緩める。そして、満足そうな笑みを浮かべて、ソリッドへと釘を出しました。


「良い、ソリッド? 悪いのは貴方じゃない。差別を推奨する、白神教なんだからね? 貴方は逃げるんじゃなくて、戦わないと駄目なんだよ?」


「ああ、わかった。俺はもう逃げない。ミーティアの為にも、最後まで戦い抜こう」


 ソリッドの言葉に、パッフェルが微笑んだ。そして、私は彼女の動きを見逃さなかった。


 隣に座る私からは、テーブル下の彼女の拳が見えた。『やった!』と言わんばかりに、握りしめた拳である。


 恐らくだが、ソリッドが弟子を取った時から計略を練っていたのだ。彼が国を離れられない様に、彼女はこの状況を作り上げたのだ。


「ふぅ……」


 けれど、私はそれに気づかぬ振りをします。触らぬ神に祟りなしです。パッフェルを怒らせても、良い事なんて何もないですしね。


 しかし、小さな問題を回避しようとも、また別の大きな問題が現れるものなのですよね……。


「それじゃあ本題だけど。白神教どうする? 潰しちゃう?」


「お止め下さい。社会に大きな影響が出てしまいますので……」


 これである。やはりパッフェルは、こういう頃を平然と口にするのだ。


 白神教は幹部こそアレですけど、社会に必要な組織です。市民の治療に孤児院運営、市民や国家の祭事も取り仕切っています。


 急に無くなれば社会に混乱を齎します。そう簡単に、潰して良い組織ではないのですよ。


「そういう考えが甘えを生むんでしょ? 時には荒療治も必要じゃない?」


「……市井の皆が困らぬように、寛大な処置をご検討頂けないでしょうか?」


 彼女の言い分も間違ってはいない。私自身も同じ事を、常日頃から思ってるくらいだし……。


 けれど、思ってもやっちゃダメ! 無関係な人に迷惑かける何て論外です!


 そう言いたいのだけれど、私自身も白神教の幹部クラス。この場では肩身が狭い立場な訳で……。


「……パッフェル、その辺りにしておけ。余りローラを苛めるな」


「別に苛めてる訳じゃないけど? まあでも、そろそろ建設的な話をしましょうか」


 ソリッドの横槍で、パッフェルが肩を竦める。ただ、不満を私にぶつけるのは止めてくれるみたいだ。


 私はほっと胸を撫で下ろす。ソリッドはいつも私を助けてくれる。彼が居るかどうかで、私の心の安定は大きく変わって来ますね。


「じゃあ、状況を整理しましょう。今の白神教の差別――上層部のやり方を変えさせる必要がある。そして、組織自体は必要だから、組織運営に影響を与えない範囲で対処が必要。ここまでは良いかしら?」


「ええ、問題ありません」


 そう、問題は白神教の幹部クラスなのです。王侯貴族とも癒着しており、強い権力を持つのが厄介なのです。


 それ故に、誰も何も言えない。言った所で握りつぶされるだけ。だから今の白神教は腐敗の一途を辿っている訳なのです。


「私の調査だと、教皇が絶対の権力を持ってるみたいね。他の幹部を失脚させても、余り組織への影響は無いと思う。ローラはその辺り、どう見てる?」


「ええ、間違っておりません。お爺様が健在な限り、今のやり方は変わらないでしょう」


 基本、幹部達はお爺様の言いなりです。それ以外は私腹を肥やし、名声を得る事にしか興味がありません。


 誰かが欠けても、同じような別人が補充されるだけ。組織は変わりなく回り続ける事でしょう。


「となると、教皇をどうにかするしかない。余りに権力が強すぎて、社会的に殺すのが難しいのよね……。かと言って、物理的に殺すのは不味いでしょうし……」


「はい、その通りです。暗殺等すれば凶悪犯罪者として、大陸中に悪名を轟かせる事になりますね」


 私とパッフェルは揃ってソリッドを見る。彼は慌てた様子で、やる訳が無いと首を振る。


 しかし、彼は必要と判断したらヤル人だ。そして、ヤレるだけの実力も持っている。


 先程、パッフェルが釘を刺したし、大丈夫とは思うけどね。流石に弟子に迷惑掛ける真似はしないと思うのだけど……。


「となると、サクッと解決はまず無理ね。地道に白神教の力を削いで、徐々に流れを変えるしかない。凄く時間が掛かるけれど、長期戦の構えで行くしかないか……」


「はい、それが無難では無いでしょうか?」


 今のパッフェルは大きな影響力を持っている。国民の意識を変えて行くのは難しくないだろう。


 裏組織『死の番人』は潰したし、今の白神教に強硬手段は取れない。ならば、時間が解決するのを待つのが最善である。


 それになりより、お爺様もそれなりに年だ。もう少しすれば代替わりもするだろう。


 次期教皇には期待出来ないけれど、今よりは権力が弱まるだろうし……。


「――ちょっと、良いだろうか?」


「「ん……??」」


 ソリッドが手を上げている。先程まで静かに聞いていたのに何だろうか?


「解決の手立てになるか不明だが、故郷に帰って母さんに相談するのはどうだろう?」


「母さんって……。いや、流石にこの件は、お母さんに相談しても仕方が無いでしょ?」


 パッフェルが戸惑いの表情を見せる。そして、私も同じく戸惑いを感じている。


 勇者と大魔導士の母とは言え、彼女はただの農夫の妻だ。教皇をどうにか出来るはずが無い。


 しかし、ソリッドはゆっくりと首を振ると説明を続ける。


「先日、一緒に故郷に帰っただろう? そこで、村長から母さんの秘密を聞かされたのだ」


「師匠から……。それで、お母さんの秘密ってなに?」


 パッフェルの顔色が変わる。確かフェイカー村の村長は、パッフェルにとって商売の師匠。それが理由なのか、真剣な表情でソリッドの言葉を待っていた。


 そして、ソリッドはいつも通りの平坦な口調で、とんでもない発言を行った。


「母さんは、教皇の娘らしい。それも特別な加護ギフト――『天啓オラクル』を持っていると」


 その衝撃の事実を聞かされ、私とパッフェルはポカンと口を開く事しか出来なかった。

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