帰還組
私達、『猫耳愛好会』のメンバーは、ホルンさん、ハーゲンさんと共に、ブートシティへの帰路につく。
師匠、聖女様、パッフェルさんは、ツヴァイタウンのパッフェル商会で、作戦会議を行うとの事で別れる事になってしまった。
ライトさん、レフィーナさんも、聖女様の護衛であちら側だ。結局、あの二人とも余り話す機会無く終わってしまった。次はもう少し、話が出来たら良いんだけどね。
ちなみに、帰還組である私達は、帰りは二日かけてノンビリしたもの。今は馬車を止めて、軽い昼食を取っている。そして、これまでの冒険を語り合っていた。
「それで、その後は! ドラゴンに乗ったパッフェル様は、どんな感じだったの!」
「ええ、それはとてもカッコ良かったです~。物語のワンシーンみたいでしたね~」
荷台でダウンしていたクーちゃんは、パッフェルさんの登場を目撃していない。それを悔しく思っていると、ホルンさんが詳しく説明し出したのだ。
当然のことながら、盛りに盛って、大幅に美化されている。ホルンさんフィルターでの詳しい描写が語られる。
そんなホルンさんの話に、クーちゃんは目を輝かせていた。私は話の区切りが良い所で、ホルンさんへと問いかけた。
「ホルンさんも、クーちゃんに負けてないですね~。ちなみに、パッフェルさんのどんな所が好きなんですか?」
好きな話をする時、人はみんな饒舌になる。だから、仲良くなるには、相手の好きな話題を振るのが一番だと思うんだよね。
そして、ホルンさんはわかりやすく笑顔になる。キラキラした瞳で、彼女の思うパッフェルさんを語りだした。
「それはもちろん、誰よりもカッコ良い所ですね~♪ スラっと伸びた高身長に~。キリリとした勇ましいお顔でしょ~。タキシードとかで男装させたら~、きっと惚れない女性は居ないと思うのですよ~♪」
「「……ん? んんん???」」
私とクーちゃんが揃って首を捻る。ホルンさんの説明には違和感しかなかった。
そもそも、パッフェルさんは小柄な可愛らしい女性だ。年齢は十八歳らしいけれど、知らなければ未成年にしか見えない童顔である。
クーちゃんから聞かされる感想も、可愛らしい見た目と、勇ましい中身とのギャップがエグイと言うもの。少なくとも見た目がカッコ良いとは、誰からも聞いた事がないのだけれど……。
そして、私達の反応にホルンさんもキョトンとする。そんな私達に対して、意外にもハーゲンさんが助け舟を出した。
「ははは、そいつは種族による審美眼の差ってやつだな。嬢ちゃんから見たら、俺なんかの見た目はどんな風に見えてる?」
「はぁ……? 正直に申せば、いかつい巨人ですね~。私達からすれば、熊系の魔獣と大差無い感じでしょうか~?」
思いっきり、ズバッと言った! 私達が思っていても、絶対に言えないやつを!
私とクーちゃんは驚きで固まる。しかし、ハーゲンさんは気にする事無く、私を指さしてこう続けた。
「それじゃあ、こっちのミーティアは?」
「まぁ、そのぉ……。やはり、いかつい巨人でしょうか~? 猫系の魔獣と大差無いですね~」
「「え、えぇ……?!」」
私は少なくないショックを受ける。ホルンさんからすると、私は魔獣に見えてたなんて……。
ただ、ホルンさんは気まずそうに視線を逸らしていた。悪気は無いし、普段は思っていても口にしない意見なんだとわかった。
そして、気まずい空気の中、ハーゲンさんが第三の質問を行う。
「じゃあ、パッフェルの嬢ちゃんは?」
「話を聞いていました~? スラリとした高身長の、カッコ良いお方って言ったでしょ~!」
「「え、えぇ……??」」
ホルンさんはムッとした表情で、先程と同じ説明を行う。ただ、私とクーちゃんからすると、二人のやり取りが未だに良くわからなかった。
すると、ハーゲンさんはニヤリと笑い、最後の質問を行った。
「嬢ちゃんは、パッフェルの事を人族として見てるか? それとも、同族として見てるのか、どっちだ?」
「パッフェル様は、神様が遣わしたハーフリング族の救世主ですよ~。同族として見てるに、決まってるじゃないですか~」
「「えぇっ! そうなの……?!」」
パッフェルさんは人族だ。私より頭一つ分小さいし、子供に見える童顔でもある。けれど、血の繋がった兄――勇者アレックス様が居るので、間違いなく人族である。
ただ、パッフェルさんの身長は、ホルンさんより頭一つ分高い程度。私達に比べると、ハーフリング族に近い容姿なのかもしれない。
そして、同じハーフリング族として見た場合、先程のホルンさんが告げた感想になるのかもしれないけど……。
「パッフェル商会の従業員は、忠誠心がヤベエって有名だったが……。まさか、神の御使いとして敬われてたってのか?」
「そうよ~。大昔から伝わる伝承なの~。私達に安住の地を与えてくれる、救世主登場のお話なのだけど~。ハーフリング族のみんなが、とうとう現れたって喜んでいるわ~」
何だか凄い話が飛び出して来た。白神教の伝承とは違う、ハーフリング族に伝わる物語だろうか?
師匠も大概だけど、パッフェルさんも同様の凄まじさを持つ人だ。もしかしたら、本当に彼等が信じる救世主だったりするのだろうか?
余りにも現実離れした出来事ばかりで、もう常識が息をしていない。考えるのを馬鹿らしくなって来た所、小さく息を吐くパーティーメンバーに気付いた。
「……ハル? どうかした?」
「あぁ、ちょっとな……」
いつもは元気な剣士のハル。何故だか暗い顔をしており、昼食も進んでいないみたいだった。
顔色を見る限り、乗り物酔いとは違うみたい。どうしたのかとジッと様子を伺っていると、彼はポツポツと語りだした。
「今回、俺って何もしてない……。何かあったら、ミーティアを助けるって言ったのに……」
「いやいや、今回は無理だって。師匠達が凄過ぎただけでさ」
全てはパッフェルさんの手の上であったし、『死の番人』を壊滅させた師匠も規格外の強さだった。
常識外の人達に守られたから、こんなに短期間で終わる事が出来た。けれど、本当ならこんなアッサリ片が付く問題では無かったはずである。
まだ駆け出しである私達が、そんな人達と同じく動けるはずがないのだ。今は無理だとしても、これから強くなって行けば良いだけである。
そう励まそうと思ったのだが、ハルはすっと懐から何かを取り出す。そして、大きなため息と共にこう呟いた。
「それに、一言も話せなかった……。こんなチャンス、滅多に無いのに……」
「それって……?」
取り出したのは聖女様のブロマイド写真。可愛らしく微笑んでいる姿が写っている。
どうやら、彼はそちら担当の信者らしい。私はすっと身を引くと、ハルに軽く声を掛けた。
「ドンマイ。それに聖女様も、それ所じゃなかったしね」
「そうだな……。次があったら、頑張って話しかける……」
それは好きにしてくれたら良いよ。聖女様の迷惑にならない範囲であればね。
興味を失った私は、ハルから視線を逸らす。すると、すぐ近くで不穏な気配を察知した。
「本当に嫌ねぇ……。男の人達って、清楚な女性が好きなのかしらねぇ……?」
「まだおこちゃまですしね~。パッフェル様の良さがわからないのですよ~」
何やら冷たい視線で、ハルを睨みつける二人。知らないうちに、二人の仲が深まっている。
ただ、パーティー内での揉め事は止めて欲しい。趣味は個人の自由なので、相手の趣味には口を出さないように。
ちなみにアシェイはどうだろう? そう思って視線を向けると、彼はブンブンと首を振っていた。
彼はどちらのファンでも無いらしい。まあ、それはそれで、どうでも良いことか……。
私はパーティーのリーダとして、規則を作るべきかをぼんやりと考え始めた。