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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第五章 駆け出し冒険者と苦労人聖女
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商品

 パッフェルさんはドラゴンに乗ってやって来た。そして、お出迎えのハーフリング族さん達に対して、テキパキと指示を出して行く。


「凶悪犯罪者用の拘束魔導具は? 人数分あるわよね? スキルや魔法も使えなくなるから、全員の手足を確実に拘束すること」


「「「はい、わかりました!!!」」」


 ハーフリング族の大半が、手錠らしき者を手にしていた。見た目はただの金属製だけど、パッフェルさんの説明から普通の手錠では無さそうである。


「それと商会の荷馬車を用意しといて。うん、通常の荷運び用で大丈夫。転がってる商品は、全て王都に運び込むから」


「「「はい、わかりました!!!」」」


 五名のハーフリング族が、ツヴァイタウンの中へと駆け出す。パッフェルさんの指示により、馬車を取りに行ったのだろう。


「あ、ホルンさん! 約束の首だけど、どうする? ここで取っとく?」


 パッフェルさんがにこやかな笑みで、ホルンさんへと歩み寄る。すると、ホルンさんは慌てて倒れたエッジの頭を掴み、こいつですと示して見せた。


 約束の首とは、エッジの事なのだろうか? 軽い挨拶くらいのノリだけど、話している内容は洒落になってないような……。


 パッフェルさんは返事を待つ様に、可愛らしく小首を傾げる。どうなるのかと私達が見守っていると、ホルンさんは恐る恐る、パッフェルさんへと問い返した。


「確かにこいつは親の仇なんですが~。私が首を取らなかったら、パッフェル様は彼をどうなさるのでしょうか~?」


 その問いは想定外だったのだろう。パッフェルさんは目をパチパチと瞬いた。


 しかし、すぐにニヤニヤと笑い出す。悪戯を考えている子供みたいに、あどけない笑みでこう告げた。


「最近、夢魔族とのコネが出来たのよ。そこの代表から、|この国から消えて問題無い《・・・・・・・・・・・・》犯罪者が手に入ったら、購入したいって言われてるのよね」


「は……?」


 パッフェルさんの言葉に、私はポカンと口を開く。会話の内容に私の理解が追い付かなかった。


 その理由はパッフェルさんの表情にもあると思う。彼女はケラケラと笑いながら、とても楽しそうに話し続けた。


「いやぁ、こうなる展開を読んでたんでしょうね。そいつらって裏の人間でしょ? ホルンさんがそいつの首を取らないなら、ここの奴等と一緒に出荷する事になるわね」


「出荷した後~、彼等はどうなるのでしょうか~?」


 ホルンさんが何故だか、キラキラした目でパッフェルさんを見つめている。どうしてそんな、恋する乙女みたいな眼差しが出来るのだろうか……?


「夢魔族の領地に『夢の国』って所があるのよ。そこの『ローズパレス』に送られて、教育を受ける事になるわね。特殊な需要の顧客に応える為の、奉仕者サーヴァントに仕上げる為にね」


「まあ~。それはとっても素敵ですね~♪」


 うっとりとした表情を浮かべるホルンさん。このワンシーンだけを見えれば、ちょっとしたガールズトークに見える所に、私は少なくない恐怖を感じていた。


 詳しい事はわからない。けれど、二人の会話が相当エグイのは私にもわかる。というか、師匠がさっきからずっとソワソワしてるんだけど……。


「それでは、エッジの首は不要です~。どうぞ、『夢の国』へと送って下さい~♪」


「オッケー。それじゃあ皆で仲良く、新しい扉を開いて貰うとしましょうかね~♪」


 その扉は、絶対に開いちゃいけない奴だ。薔薇が一杯咲いた、別世界が展開されちゃう。


 あ、ちなみに私にその趣味は無いよ! クーちゃんの趣味で進められた事があるけど、ちょっと見ただけで、そっとページを閉じたからね!


 私はドキドキする胸をそっと抑える。そして、深呼吸しながらふと気付く。


 倒れている皆さんは目を見開いて、恐怖に身を震わせていた。全員身動きできないみたいだけど、意識はハッキリしているみたいなのだ。


 私はその事を不思議に思って、師匠へと問いかけた。


「師匠は誰も殺してないんですね。何か特別なスキルですか?」


「ん? いや、俺はスキルを使えないぞ。この武器の効果だな」


 師匠が手にした短剣を見せてくれる。それは金属製とは思えない、真っ白な刀身だった。


 何の素材かはわからないけど、とても強い気配は感じる事が出来る。凄い業物かもと思っていると、師匠はさらりと、とんでも発言を行う。


「神竜の牙で出来ている。素材自体の魔力を媒介に、麻痺の術式が付与されているのだ」


「――って、神竜の牙だとっ……?!」


 唐突な大声に驚き、私はビクリと体を震わせる。声の主はハーゲンさん。私達の会話を聞いていたらしい。


「おいおい、加工出来たのかよ! そんなの国宝級じゃねぇかっ?!」


「そうなのか? パッフェルが伝手で、何とかしてくれたのだが……」


 戸惑った様子から、師匠も詳しくは知らないのだろう。そして、ハーゲンさんは目をキラキラさせながら、師匠の短剣をじっくり観察していた。


 そんなに凄い短剣なのかと、私も興味をそそられる。そして、じっと見つめていると、師匠が更にとんでも発言を行う。


「神竜の牙なら沢山余っている。欲しいなら一本用意しようか?」


「えっ……? わ、私用の短剣って事ですか……?」


 まさかと思って問い掛けたが、師匠はあっさり頷いた。本当に国宝級の短剣をくれる気らしい……。


「パッフェルから、市場に流すなと言われていてな。持て余していたので、良ければ一本くらい……」


「良ければじゃねぇよ! 別の理由で嬢ちゃんの命が狙われるだろうが!」


 師匠の言葉をハーゲンさんが遮る。そして、その発言内容に、私と師匠は目を丸くする。


 これは相当にヤバイ代物らしい。私を殺してでも欲しい人が、沢山やって来ちゃう程には。


 そんな危険な武器はノーセンキューだ。私が身を引くと、師匠はしゅんと肩を落としてしまう。


「そうか……。それは残念だ……」


「あはは、また別の機会に~」


 勿論、師匠からの贈り物なら大歓迎だ。その気持ちだけでも、とても嬉しくなってしまう。


 けれど、身に過ぎた代物はね? やはり地道にコツコツと、身の丈に合った装備を揃えて行くのが一番なのだろう。


 そんな感じワイワイやっていると、パッフェルさんがこちらにやって来る。そして、師匠とローラさんに向かってニコリと微笑む。


「じゃあ、私達は三人で作戦会議と行きましょうか。白神教をどうするかについてね?」


「ふむ? どうするか、だと?」


 師匠は腕を組んで、怪訝そうな表情を浮かべる。そして、聖女様は青い顔を、更に青くしていた。


 そして、メンバーを考えると、恐ろしい作戦内容となるのだろう。怖いもの見たさで知りたい気もした。


 けれど、パッフェルさんがホルンさんに向かって、こう指示を出したのだった。


「ホルンさん、彼女達をブートシティまで送って貰えますか? あっちも掃討し終わってるし、もう襲われる事は無いと思いますので」


「承知しました~! パッフェル様の命令とあらば、私は何だってやりますので~!」


 パッフェルさんに命じられ、嬉しそうに応えるホルンさん。彼女は獣人では無いのだけれど、ブンブン振った尻尾が幻視してしまえる程のテンションだった。


 ただ、パッフェルさんは何かを思い付いたらしい。すっとホルンさんの背後に回る。そして、彼女の肩をモミモミしながら、耳元でそっと囁いた。


「やだなぁ、命令だなんて。私とホルンさんの仲でしょ? ただのお願いだよ♪」


「はうっ……! ん、んんっ……。わ、わかりましたぁ……。パッフェルさま~……」


 ビクビクと身を震わせ、蕩けた表情となるホルンさん。百合の花が見えた気がするけど、やはりこれも幻視なのだろう……。


 そして、フラフラなホルンさんへと、パッフェルさんの更なる追い打ちが続く。


 パッフェルさんは嬉しそうに、ギュッと抱き着いたのだ。ホルンさんは顔を真っ赤にすると、その場にヘナヘナと崩れ落ちてしまう。


「これからも、仲良くしましょうね! ホルンさん!」


「仲良く……。パッフェルさまと、仲良くだなんて……」


 完全に堕ちたホルンさんと、それを嬉しそうに見つめるパッフェルさん。私達はその光景に、ただドン引きする。


 それと同時に内心で強く理解した。きっと本当の最強と言うのは、こういう人の事を言うんだろうな、と……。

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