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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第五章 駆け出し冒険者と苦労人聖女
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待ち伏せ

 夜間に馬車で駆け続け、現在は空が明るみ始めていた。そんなタイミングで、不意に馬車が速度を落とす。


 私とハーゲンさんは、揃ってホルンさんへと視線を向ける。すると、彼女は魔導デバイスを取り出して、誰かと会話を始めた。


「え~? うんうん。そうなのね~。それじゃ~」


 会話は短時間で終わる。そして、ホルンさんは馬車を止めると、こちらに向き直って説明を始める。


「合流予定の仲間から連絡だったの~。ツヴァイタウンに『死の番人』が張ってるから、街には入らない方が良いって~」


「チッ、こちらの行動が読まれてたか……」


 説明を聞いて、ハーゲンさんは顔を顰める。ようやく休めると思っていたので、私も気持ちとしては良くわかる。


 そんな私達に、ホルンさんは申し訳なさそうな表情を浮かべる。そして、森の右手を指さして話を続けた。


「この先に抜け道があるから、そこから迂回して行くわ~。ツヴァイタウンの裏側に回れば、救援物資を届けてくれるみたいなの~」


「救援物資ですか? 確かに、水や食料は必要ですね」


 馬車の荷台は乗員でぎっしり。多くの人を乗せる為に、水や食料は載せていない。


 次の街に向かうにしても、そろそろ喉の渇きは感じ始めている。多少の補給は必要だと思う。


「森の小道は速度は出せないから、ゆっくり休んでいてね~。まあ、そんなに時間はかからないと思うけどね~」


「わかりました。よろしくお願いします!」


 私が頭を下げると、ホルンさんはニッコリ笑う。そして、彼女は親指を立てると、馬の操作へと戻っていった。


 私はその背中から視線を逸らし、馬車の仲間達の様子を伺う。状況は変わらず、ハーゲンさん、ライトさん、レフィーナさん以外はダウンしたままであった。


「流石にこの状況では、『死の番人』に会いたくないですよね?」


「まあな。昨晩と違って、聖女様も完全にダウンしちまったしな」


 今の聖女様は白目を剥いて倒れている。乗り物酔いに耐え切れず、途中から意識を失ってしまったのだ。


 この状況では、私を守る所ではない。むしろ、聖女様を守る為に、ライトさん、レフィーナさんも動けない状況となっていた。


 更には仲間達も蹲って身動きが取れない状況。ホルンさん、ハーゲンさんが実力者だとしても、全員を守り切るのは厳しいだろう。


「理想で言えば、気付かれずに次の街へ到着でしょうか?」


「いや、この先の道も張ってるはずだ。基本的には強行突破になるだろうな」


 ハーゲンさんが渋い顔で告げる。先回りされていた状況から、相手は更に周到な準備を行っている想定みたいだ。


 そうなると、こちらの戦闘要員は限られている。この先の戦闘は、敵が大人数にならない事を祈るしかないのだろう。


「なら、どこかで休んで体制を整えますか? 聖女様が復活すれば、迎撃しやすくなりますし」


「う~ん、それは判断が難しいな。ゆっくり進むと、相手も体制を整えちまうだろうしなぁ……」


 ハーゲンさんが腕を組んで低い声で唸る。私の提案を採用するか、悩んでいるみたいだった。


 聖女様自身もS級冒険者で、守りの能力は最強クラス。更には、ライトさん、レフィーナさんという神殿騎士も戦力に加わる。


 けれど、それを考慮しても勝てない相手なのだろうか? その体制でも守り切れない程に、『死の番人』が手強い相手と考えているのだろうか……。



 ――いや、そうじゃない。



 私はこのメンバーなら大丈夫と楽観視した。けれど、ハーゲンさんは駄目だった時に、どうしようと考えているのだろう。


 師匠からも、常に最悪を想定しろと言われた事がある。作戦が駄目だった時の事まで考え、最悪でも逃げられる状況を用意しておけと。


 私達は迎撃に失敗すれば、それは私の死を意味する。『死の番人』との交戦は、絶対に負けられない状況を意味するのだ。


 だからこそ、出来るだけ戦闘は避けなければならない。何故ならば、今の私達の勝利条件は、誰一人欠ける事無く、私が最後まで生き残る事なのだから。


 師匠からの教え。そして、ハーゲンさんの反応から、私はそれらの判断を経験として学び始めていた。


「あらら~。おかしいわね~?」


 私が考えに没頭していたら、ホルンさんの声が耳に届く。何事かと思い、私とハーゲンさんが視線を向ける。


 すると、既に森を抜けていたらしい。私達の少し先には、ツヴァイタウンの城門が見えていた。


「どうかしましたか?」


「城門が閉じてるのよ~。この時間なら、もう開いてるはずなのにね~」


 ホルンさんに言われて私も気付く。ツヴァイタウンは城壁に覆われているが、その城門が鉄の扉で閉ざされているのだ。


 あれでは誰も中に入る事が出来ない。というか、これ程大きな街なら、出入りする人達がまったく居ないのもおかしい気がする。


 状況がわからない私達は、そのままゆっくり馬車を進める。そして、城門のすぐ傍に来た所で、私の背中がブルリと震えた。


「――っ……?! ホルンさん、囲まれています!」


「あらあら~? ハメられたかしら~?」


 ホルンさんは馬車を止め、御者台から立ち上がる。魔導銃を手にすると、鋭い視線を周囲に向けた。


 その視線を感じてか、周囲の殺気が強くなる。どこに隠れていたのか、黒ずくめの集団が私達の馬車を囲んでいた。


「思った以上の団体さんね~」


 のんびりした口調とは裏腹に、放つ威圧感は凄まじかった。すぐ傍にいる事も有り、味方の殺気で鳥肌が凄い事になってる……。


 そして、状況に気付いハーゲンさんは、ハンドアックスを手に取る。馬車から飛び出しつつ、私に向かって指示を出した。


「ミーティアは仲間を守れ! 絶対に馬車から出るんじゃねぇぞ!」


「は、はい! わかりました!」


 刺客の人達は、間違いなく私より強い。私が出て行っても、足手まといにしかならないだろう。


 ならば、私はここで大人しくするべきだ。そして、いざとなればこの身を挺してでも、仲間を守らなければならない。


「私達も出るぞ、レフィーナ!」


「ええ、言われるまでもない!」


 神殿騎士のライトさん、レフィーナさんも馬車から飛び出す。そして、ハーゲンさんと共に、馬車を守る様に展開していく。


 この四人は私なんかよりも強い。そう簡単にやられる人達ではないのだろう。


 けれど、私は絶望感で顔を歪める。私達を取り囲む暗殺者達の気配は、少なく見積もっても数十という数だったからだ。


「……無駄な抵抗はよせ」


 集団の中から、一人の暗殺者が前に出た。全身を黒一緒に染めた服で、口元も布で覆い隠した人物。


 ただ、声は低く、かなりの年配だとわかる。そして、その殺気は彼等の中で、最も強い様に感じられた。


「ターゲットは獣人の娘のみ。大人しく差し出せば、他は手を出さん」


 その人物が手を翳すと、集団は殺気を収めて一歩下がる。皆殺しにする気が無いとアピールしているらしい。


 すると、その対応に対して、ホルンさんがくすっと笑って馬車から飛び降りた。


「あらあら~? そうなの~?」


 ホルンさんは魔導銃を腰のホルスターに収納する。そして、殺気を消すと、代表らしき人物へと歩み寄った。


 会話をするには少し離れた距離。けれど、戦闘を開始するには十分な距離で、ホルンさんは相手へと提案を行う。


「それじゃあ、その前に少しお話をしましょうか~?」


「ふむ……?」


 ホルンさんの突飛な行動に、暗殺者が眉を顰める。彼女の行動の理由が、いまいち読めないからだろう。


 とはいえ、話を聞くつもりはあるらしい。相手が聞く姿勢を見せた事で、ホルンさんはニコリと微笑んだ。

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