駆け出しパーティー
私は盗賊のミーティア。冒険者パーティー『猫耳愛好会』のリーダーを務めています。
パーティー名の由来は、私が猫種の半獣人だから。私の仲間達が悪乗りして、この名前に決まってしまったんだよね……。
まあ、名前は兎も角、パーティーとしては上手く回っています。前衛の剣士ハル。盗賊である私が中衛で、後衛に魔術師のクーレッジに弓使いのアシェイ。
事前の情報収集を心掛け、冒険の準備をきっちりしているからでしょう。このパーティーで危険な状況になった事は、数える程しか無い訳だしね。
ちなみに、最近はブートシティに移り、ダンジョンで腕を磨いている所です。私の『盗む』スキルで稼ぎも良く、冒険者ギルトからも一目置かれていたりするのですが……。
「だから、次は剣だってば! 敵を素早く倒せるだろ!」
「何言ってんの? それ、あんたが欲しいだけでしょ?」
夜の酒場でテーブルを囲み、夕食を食べる私達四人。これは、ここ最近のいつもの光景。
そして、稼いだお金の使い身を相談する私達。今は剣を求めるハルと、それを却下するクーちゃんの間で意見が割れていたりします。
「はぁ……。それじゃあクーレッジは何を買いたいんだよ?」
「そんなの決まってるでしょ? ミーちゃんの可愛い服よ!」
ハルの問いに、間髪入れず答えるクーちゃん。その目はキラキラと輝いている。
この光景も、いつものやつ。ハルが頭を抱えていると、クーちゃんが諭すように解説を始めた。
「良い? このパーティーは『猫耳愛好会』。猫耳であるミーちゃんを愛でる会なの。パーティーの看板娘であるミーちゃんを華やかにする。それに勝るお金の使い道なんて他にある?」
「いや、あるよ! 俺達は冒険者パーティーだろ! まずは、パーティーを強化しようよ!」
お互いに意見をぶつけ合うのは問題無い。言いたいことを言い合えてるって事だからね。
だから、私は二人の意見に耳を傾けつつ、黙々と夕食を食べ続けていた。そんな私に対して、アシェイが困った表情で問い掛けてくる。
「それで、リーダー? パーティー共同貯金の使い道は?」
「う~ん。そうですね~」
アシェイの問い掛けにより、クーちゃんとハルの視線がこちらに向く。最終的な決定権は、リーダーである私が持ってるからね。
ちなみに、私達は稼ぎの半分を貯金している。何かあった時や、パーティーとして購入が必要になった時の資金とする為である。
その代わり、残りは四等分にして配っている。こちらは個人のお金なので、個人的に使って良いお金となっている。
「うん、当面は貯金かな」
「「そ、そんな~……」」
私の決定にガックリと肩を落とす二人。ただ、これもいつもの事なので、アシェイは苦笑を浮かべるだけだった。
なお、今のダンジョンは攻略難易度が低い。強い魔物が出ないので、私達の今の装備で困る事はないのだ。
初めての貯金でハルには鉄の盾を買っている。剣もまだまだ使えるので、急いで買い替える必要はないのである。
それに続いて買ったのが、私用の革ジャケットに革グローブ。どちらもピンクのリボンとモコモコが付いた、可愛いデザインのやつだ。
私の装備も急いで買い替える必要は無い。それに、しっかり稼いでいるだけで、ギルド内の評価は上がってる訳だしね。
「とはいえ、そろそろ次を考える頃かな~?」
私の何気ない呟きに、皆の視線が集まる。私から次の方針が出されると思ったみたいだ。
そういうつもりでは無かったけれど、機会としては丁度良いのかもね。私は考えていた意見を、皆に対して話す事にした。
「ほら、私達のレベルも上がってるし、貯金も溜まって来てるでしょ? 駆け出しダンジョンを終わりにして、一つ上のダンジョンに挑戦も有りかなって」
「確かにそうだな! もっと強くなりたいしな!」
私の提案に真っ先に乗ったのがハル。彼は冒険者ランクを早く上げて、一人前と認められたい欲求が強いからね。
ただ、慎重派のクーちゃんとアシェイは考え込む姿勢を見せた。安定している今の状況を捨てる事に、少なからず不安があるんだろう。
「……ミーちゃんは、どこに挑戦するつもり?」
クーちゃんは悩んだ末に問い掛けて来た。私はすぐに反対されなかった事にホッとする。
「サファイア共和国を考えてるよ。水属性の魔物が多くて、対策が簡単な場所があるんだよね」
火の属性は凶暴な魔物が多い。風は素早さが高く、土は硬い魔物が多かったりする。私達のパーティーでは、少し不安な場面が想定される。
それに対して、水属性の魔物は対処がしやすい。低レベルの魔物は水魔法の威力が低い。それに素早い魔物も、硬い魔物もいない。
水中に引き釣り込まれる状況にさえ警戒すれば、経験値もお金も今以上に稼げるはずなのだ。
「僕は良いと思う。リーダーの判断を信じてるからね」
「……その言い方は、ちょっとズルいんじゃないかな?」
アシェイが賛同してくれる。そして、遅れてクーちゃんも認めてくれた。
これでクーちゃんが反対したら、私を信じてないみたいになるからね。アシェイはしてやったりという笑みを浮かべていた。
そして、方針が決定したなら、次は情報集めだ。事前の情報がどれだけ大切かは、師匠がしっかりと教えてくれたからね!
「じゃあ、明日は冒険者ギルドで情報を買わないとね。隣の国になるけど、ダンジョンの情報は扱ってるみたいだから……」
――バン……!!!
酒場に響いた大きな音で、私の話は中断された。音の発生源は、出入り口の扉みたいだった。
室内の全員が扉の方へと視線を向けている。何事かと静まり返る状況下で、その原因と思わしき人物が大声で叫んだ。
「ここに、ミーティア=サマーはいますかっ?! 居たら名乗り出て下さい!」
注目を集めるその人物は、黄金の髪が眩しい女性。白いローブに身を包んだ神官みたいだった。
私の名前が呼ばれたみたいだけど、状況がまったくわからない。私が呆然としていると、あちらの視線がこちらを捉えた。
「ああ、良かった! まだ無事でしたね!」
彼女は安堵の表情を浮かべ、急いで駆け寄って来る。その背後には、鎧姿の騎士が二名。彼女は立場ある人物なのだろうとわかる。
警戒する仲間達と、静かに状況を見守る私。そんな私達に向かって、彼女は笑顔でこう告げた。
「初めまして、皆さん。私の名はローラ=ホーネスト。――巷では『聖女』等と呼ばれています」
「「「「…………は???」」」」
私達は突然の名乗りに困惑する。聖女と言えば、教皇に次いで偉い神官なんじゃ……。
彼女は本物の聖女様? 本物だとしたら、どうしてこの街に?
私達は状況が分からず混乱する。しかし、ただの駆け出し冒険者だった私達は、こうして想定外のトラブルに巻き込まれる事となった……。