表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第五章 駆け出し冒険者と苦労人聖女
76/162

駆け出しパーティー

 私は盗賊のミーティア。冒険者パーティー『猫耳愛好会』のリーダーを務めています。


 パーティー名の由来は、私が猫種の半獣人だから。私の仲間達が悪乗りして、この名前に決まってしまったんだよね……。


 まあ、名前は兎も角、パーティーとしては上手く回っています。前衛の剣士ハル。盗賊である私が中衛で、後衛に魔術師のクーレッジに弓使いのアシェイ。


 事前の情報収集を心掛け、冒険の準備をきっちりしているからでしょう。このパーティーで危険な状況になった事は、数える程しか無い訳だしね。


 ちなみに、最近はブートシティに移り、ダンジョンで腕を磨いている所です。私の『盗む』スキルで稼ぎも良く、冒険者ギルトからも一目置かれていたりするのですが……。


「だから、次は剣だってば! 敵を素早く倒せるだろ!」


「何言ってんの? それ、あんたが欲しいだけでしょ?」


 夜の酒場でテーブルを囲み、夕食を食べる私達四人。これは、ここ最近のいつもの光景。


 そして、稼いだお金の使い身を相談する私達。今は剣を求めるハルと、それを却下するクーちゃんの間で意見が割れていたりします。


「はぁ……。それじゃあクーレッジは何を買いたいんだよ?」


「そんなの決まってるでしょ? ミーちゃんの可愛い服よ!」


 ハルの問いに、間髪入れず答えるクーちゃん。その目はキラキラと輝いている。


 この光景も、いつものやつ。ハルが頭を抱えていると、クーちゃんが諭すように解説を始めた。


「良い? このパーティーは『猫耳愛好会』。猫耳であるミーちゃんを愛でる会なの。パーティーの看板娘であるミーちゃんを華やかにする。それに勝るお金の使い道なんて他にある?」


「いや、あるよ! 俺達は冒険者パーティーだろ! まずは、パーティーを強化しようよ!」


 お互いに意見をぶつけ合うのは問題無い。言いたいことを言い合えてるって事だからね。


 だから、私は二人の意見に耳を傾けつつ、黙々と夕食を食べ続けていた。そんな私に対して、アシェイが困った表情で問い掛けてくる。


「それで、リーダー? パーティー共同貯金の使い道は?」


「う~ん。そうですね~」


 アシェイの問い掛けにより、クーちゃんとハルの視線がこちらに向く。最終的な決定権は、リーダーである私が持ってるからね。


 ちなみに、私達は稼ぎの半分を貯金している。何かあった時や、パーティーとして購入が必要になった時の資金とする為である。


 その代わり、残りは四等分にして配っている。こちらは個人のお金なので、個人的に使って良いお金となっている。


「うん、当面は貯金かな」


「「そ、そんな~……」」


 私の決定にガックリと肩を落とす二人。ただ、これもいつもの事なので、アシェイは苦笑を浮かべるだけだった。


 なお、今のダンジョンは攻略難易度が低い。強い魔物が出ないので、私達の今の装備で困る事はないのだ。


 初めての貯金でハルには鉄の盾を買っている。剣もまだまだ使えるので、急いで買い替える必要はないのである。


 それに続いて買ったのが、私用の革ジャケットに革グローブ。どちらもピンクのリボンとモコモコが付いた、可愛いデザインのやつだ。


 私の装備も急いで買い替える必要は無い。それに、しっかり稼いでいるだけで、ギルド内の評価は上がってる訳だしね。


「とはいえ、そろそろ次を考える頃かな~?」


 私の何気ない呟きに、皆の視線が集まる。私から次の方針が出されると思ったみたいだ。


 そういうつもりでは無かったけれど、機会としては丁度良いのかもね。私は考えていた意見を、皆に対して話す事にした。


「ほら、私達のレベルも上がってるし、貯金も溜まって来てるでしょ? 駆け出しダンジョンを終わりにして、一つ上のダンジョンに挑戦も有りかなって」


「確かにそうだな! もっと強くなりたいしな!」


 私の提案に真っ先に乗ったのがハル。彼は冒険者ランクを早く上げて、一人前と認められたい欲求が強いからね。


 ただ、慎重派のクーちゃんとアシェイは考え込む姿勢を見せた。安定している今の状況を捨てる事に、少なからず不安があるんだろう。


「……ミーちゃんは、どこに挑戦するつもり?」


 クーちゃんは悩んだ末に問い掛けて来た。私はすぐに反対されなかった事にホッとする。


「サファイア共和国を考えてるよ。水属性の魔物が多くて、対策が簡単な場所があるんだよね」


 火の属性は凶暴な魔物が多い。風は素早さが高く、土は硬い魔物が多かったりする。私達のパーティーでは、少し不安な場面が想定される。


 それに対して、水属性の魔物は対処がしやすい。低レベルの魔物は水魔法の威力が低い。それに素早い魔物も、硬い魔物もいない。


 水中に引き釣り込まれる状況にさえ警戒すれば、経験値もお金も今以上に稼げるはずなのだ。


「僕は良いと思う。リーダーの判断を信じてるからね」


「……その言い方は、ちょっとズルいんじゃないかな?」


 アシェイが賛同してくれる。そして、遅れてクーちゃんも認めてくれた。


 これでクーちゃんが反対したら、私を信じてないみたいになるからね。アシェイはしてやったりという笑みを浮かべていた。


 そして、方針が決定したなら、次は情報集めだ。事前の情報がどれだけ大切かは、師匠がしっかりと教えてくれたからね!


「じゃあ、明日は冒険者ギルドで情報を買わないとね。隣の国になるけど、ダンジョンの情報は扱ってるみたいだから……」



 ――バン……!!!



 酒場に響いた大きな音で、私の話は中断された。音の発生源は、出入り口の扉みたいだった。


 室内の全員が扉の方へと視線を向けている。何事かと静まり返る状況下で、その原因と思わしき人物が大声で叫んだ。


「ここに、ミーティア=サマーはいますかっ?! 居たら名乗り出て下さい!」


 注目を集めるその人物は、黄金の髪が眩しい女性。白いローブに身を包んだ神官みたいだった。


 私の名前が呼ばれたみたいだけど、状況がまったくわからない。私が呆然としていると、あちらの視線がこちらを捉えた。


「ああ、良かった! まだ無事でしたね!」


 彼女は安堵の表情を浮かべ、急いで駆け寄って来る。その背後には、鎧姿の騎士が二名。彼女は立場ある人物なのだろうとわかる。


 警戒する仲間達と、静かに状況を見守る私。そんな私達に向かって、彼女は笑顔でこう告げた。


「初めまして、皆さん。私の名はローラ=ホーネスト。――巷では『聖女』等と呼ばれています」


「「「「…………は???」」」」


 私達は突然の名乗りに困惑する。聖女と言えば、教皇に次いで偉い神官なんじゃ……。


 彼女は本物の聖女様? 本物だとしたら、どうしてこの街に?


 私達は状況が分からず混乱する。しかし、ただの駆け出し冒険者だった私達は、こうして想定外のトラブルに巻き込まれる事となった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ