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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
四章(裏) 光の勇者と根暗アサシン
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アレックス、二十歳の記憶

 僕達は魔王国の中心地、魔王城のすぐ傍まで進軍した。しかし、最終決戦を直前に、急に魔王軍からの降伏宣言が届いたのだった。


 徹底抗戦を想定していた僕達は大いに戸惑った。とはいえ、相手が降伏を宣言していて、その条件を話し合いたいと言って来ているのだ。


 僕達は進軍を止めて、最終的な判断をガーネット王国の国王へと委ねる事にした。あくまでもパール王国側は、ガーネット王国への援軍という位置づけだったからね。


 そして、僕達は一旦パール王国の王都へと移動し、ガーランド王へと報告を行う。僕とローラの二人はその立場もあって、ガーランド王からディナーへと誘われる流れとなった。


「此度の助力には感謝している。今日は存分に楽しんで行って欲しい」


「ありがとうございます。一先ずはこの勝利に乾杯させて頂きますね」


 大きなテーブルを囲み、僕達は互いに杯を掲げる。ガーランド王と僕とローラの三人だけだ。大げさな挨拶なんかは割愛させて貰う。


 相手は一国の王とは言え、王国一の武人にして『火の勇者』だ。堅苦しい挨拶よりも、ざっくばらんな対応の方が好ましいタイプだろうね。


 僕はテーブルに並んだ料理に手を出しつつ、ガーランド王に対して問い掛けた。


「それで、どうするおつもりですか? 魔王軍の降伏条件については」


「幾ばくかの賠償金を請求する事になるだろうな。まあ、その程度だ」


 ガーネット王はモリモリと肉を食べながら、あっさりした口調で答える。その態度を見るに、余り勝利を喜んでいる風には見えなかった。


 僕が不思議に思い見つめていると、ガーランド王が僕の視線に気付く。そして、苦笑を浮かべながら、僕の疑問に答えてくれた。


「我が国は魔王国と接していてな。小競り合いは日常茶飯事なのだ。今回は勝ったからと言って、遺恨を残す対処をするつもりはない」


「そういうものですか」


 余りにも割り切った対応に驚きを感じる。ただし、為政者としては、これが正しい考え方なのだろう。


 確かに後々を考えると、下手に恨みを買うのは下策である。そういうものだと、僕は納得することにした。



 ――だが、ガーランド王は不意に顔を顰める。



「しかし、今回の戦は納得がいかぬ。我が国と魔王国の戦は珍しいものでは無い。しかし、これ程までに怒り狂う魔王国は初めて見たのだ」


「……というと?」


 ガーネット王国からパール王国へは、魔王軍からの急な侵攻があったと伝わっている。その苛烈さゆえに劣勢となり、今回はパール王国も援軍を出す事になった。


 しかし、ガーネット王国の国王だからだろう。ガーランド王は何らかの疑念を抱いている。そして、それを僕に伝えたいみたいだった。


「かの国は不満があれば、それを口にする。我が国へと不躾な要求をする事も度々ある。しかし、今回は何の要求も無く、ただ一方的に侵攻して来た。これは私の知る、魔族の在り方では無い様に思う」


「魔族らしくない、ですか?」


 ガーランド王は静かに頷く。そして、納得がいかないらしく、腕を組んで唸っていた。


「今回の戦は何故起こった? 彼等は何がしたかったのだ? 魔族との交渉の場で問い質すつもりではある。しかし、今はどうにも収まりが悪い……」


 確かに今の僕達は、魔族が何をしたかったのかがわからない。一方的に襲ってきたという認識しかないからね。


 ただ、ガーランド王はこの戦の、落とし所を考える必要がある。その為には、彼等の考えを知る必要があるのだろう。


 話を聞かされて気にはなる。けれど、それを今の僕が考えても仕方が無い事だ。後になって、その理由がわかれば聞かせて欲しいけどね。


 僕は気持ちを切り替えて食事を再開する。すると、ガーランド王もそれを察して、話の流れを変えて来た。


「そういえば、お主等には褒美を与えたいと考えている。何か我が国に望むものはあるか?」


「褒美ですか……」


 ガーランド王の問い掛けに、僕は食事の手を止める。そして、その問い掛けに丁度良いなと思う。


「この先、有事の際にソリッドの保護をお願い出来ませんか?」


「ソリッド? 確か、お主に仕える優秀な『陰』であったか?」


 ソリッドの噂は耳にしているみたいだ。ただ、ソリッドは僕に仕えている訳ではないけどね。


 ガーランド王は顎を撫でながら、しばらく考える。そして、僕に対して問い掛けて来た。


「お主の言う有事とは、何を意味しておる?」


「……僕の国は『白』に拘り強いんですよ。この先、『黒』に対する扱いが、今より悪くなる事を懸念しています」


 僕の説明にガーランド王は目を細める。そして、僕の言葉の真偽を見抜こうとしていた。


 チラリと隣を見ると、ローラがギョッと目を見開いていた。そんな僕達の態度を見て、ガーランド王はニヤリと笑う。


「貴殿は実に『潔癖』だと聞く。母国に戻れば、居心地が悪いのではないかな?」


「ははは、勧誘でもする気ですか? まだ僕には、母国でやる事がありますので」


 ガーランド王は『火の勇者』であり国一番の武人と聞く。しかし、それ以上に『王』なんだなと実感した。


 これまでの状況と、僕から聞いた話から、おおよその事情を察したらしい。そして、それをとても面白いと考えているのが態度からわかる。


 より深く分かり合えると感じた僕は、ガーランド王へと一歩踏み込む事にした。


「ガーランド王の目には、我が国がどの様に映っていますか?」


「くくく、そうだな……。我が国は資源も乏しく、戦が日常の厳しい土地だ。しかし、貴殿の国を見ていると、国が豊かというのは、一概に良い事ばかりでは無いと感じるな」


 ガーネット王国は土地の半分が砂漠である。人の生活出来る土地が少なく、生産できる食料にも限りがある。


 それに反して、パール王国は食料に困らない肥沃な大地。そして、危険な魔獣も少ない、安全な土地を多く抱えている。


 人族の領域で、パール王国は最も栄えた国と言える。しかし、パール王国は他国を凌駕する程の、強大な大国とはなっていない。


 その理由は、権力者同士の足の引っ張り合いである。他国の様に一枚岩となり、自国の発展に注力出来ない環境にあるのだ。


「耳の痛い話です。何とか出来ると良いのですがね」


「ああ、そうだな。そうなる事を私も願っているよ」


 僕とガーランド王は互いに笑みを浮かべる。これで互いの腹の内は見せあった事になる。


 しかし、ローラは僕達の考えを理解出来ていない。ただ、良く無い気配だけを察して、オロオロとしているばかりであった。


 ガーランド王はそんな様子すら面白そうに、ニヤリと笑ってこう告げた。


「ソリッドの件は承った。どういう形が良いか、少し検討させて貰おう」


「ええ、宜しくお願いします。僕の大切な兄弟ですので」


 こうして僕は、肩の荷が一つ降りた。新たな戦いに向けて、懸念事項の一つを片付ける事が出来たのだ。


 後は自国に戻り、エリカ達と合流するだけ。最後に状況を擦り合わせて、最終的な実行計画の調整を行うだけとなる。


 僕は長かった準備期間が、ようやく終わりを迎えるのだと感じ始めていた……。

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