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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
四章(裏) 光の勇者と根暗アサシン
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アレックス、六歳の記憶

 僕の名はアレックス。農家の息子であり、パッフェルの兄。そして、ソリッドの兄でもある。まあ、ソリッドが年下かは、良くわからないんだけどね。


 そして、ソリッドの兄となって一年が経った。今日の僕はソリッドと一緒に、僕の持つ不思議な力について話し合っていた。


「やっぱり、お日様の下だと強くなるみたいだね」


「凄いね、アレックス。大人にも負けない力だよ」


 現在、僕は大人用の鍬を使って畑を耕している。父さんなら重そうに扱い、すぐに力尽きる重さがある。それを難なく扱えていた。


 ちなみに、母さんは少し離れた畑で、同じように畑を耕している。そして、鍬を枝切れの様に軽々と振るっている。


 アレと比べると、僕もまだまだ子供に見えてしまう。けれど母さんは村一番の力持ちだ。アレと比較するのは良く無いだろう。


 僕は母さんの手伝いをしつつ、ソリッドに向かって僕の考えを伝える。


「夜はこんなに力が出ないし、曇りの日もイマイチになるんだ。だから、僕はお日様の光を浴びると、強くなるんだと思う。ソリッドはどう思う?」


「うん、間違ってはいないと思うよ」


 間違ってはいない? それは正しくもないって意味かな?


 僕は鍬を振るうのを止めて、ソリッドに視線を向ける。ソリッドはパッフェルと手を握りながら、並んで僕の事を見つめていた。


 なお、僕は力が強いので畑仕事を手伝うが、ソリッドは年齢相応の力しかない。なので、畑仕事を手伝う代わりに、パッフェルの子守りを担当している。


 それはさておき、先程の発言を疑問に思った僕は、ソリッドに対して質問する。


「ソリッドは違う考えを持ってるのかい?」


「うん、そうだね。合っているか自信は無いんだけど……」


 ソリッドは僕の質問に対し、答えを言い淀む。彼は基本的に無口だし、自信が無い素振りを見せる事が多い。


 村の人達に色々言われてるのが影響しているんだろうね。僕はいつも庇っているけど、それでも陰口を無くす事は出来ないからな……。


 僕は残念な気持ちを抱きながらも、ソリッドの答えを待つ。すると、ソリッドは躊躇いがちに、自分の考えを口にした。


「アレックスは加護を持ってるんだと思う。それも、光の精霊の加護を……」


「光の精霊? それって勇者様が持つ加護じゃないの?」


 このフェイカー村でも白神教の教えは浸透している。村人の殆どが花祭りで判定を受けるし、その教義を聞く機会も多くある。


 だから、勇者様や精霊の事は何となく知っている。そして、精霊の中で一番偉いのが光の精霊だってことも。


「うん、そうなんだ! 光の精霊の加護を持ってたら、勇者様って認められるかも! アレックスは大人になったら、勇者様になれるかもしれないんだよ!」


「ふーん、勇者様かぁ……」


 珍しくソリッドが興奮していた。僕が勇者になれることが、そんなに凄い事なのかな?


 教会の教えでは勇者様は人族を守る剣。魔王に対抗できる存在であり、何度も魔族の脅威を跳ね除けた偉い人だと言う。


 カッコいいとは思うけど、あまり実感が無いんだよね。魔族が危険だって言われてるけど、僕は実際に見た事が無い訳だしさ。


 正直、勇者様になれるとしても、それで嬉しいとは思わない。ただ、それでも僕はソリッドに聞いてみた。


「ソリッドは僕が勇者様に成ったら嬉しいかい?」


「当たり前じゃないか! 勇者様は聖人なんだよ! 王様と同じ位に偉い人なんだからね! アレックスが勇者様になれるなら、嬉しいに決まってるだろ!」


 おっと、凄い勢いで返事が返って来たぞ。ここまで感情的なソリッドは珍しいな。


 それだけに、ソリッドが本気だと伝わって来る。僕が勇者様になったら、彼は本当に喜んでくれるんだろうね。


 そして、ついでにパッフェルに視線を向ける。妹は畑から顔を出すミミズを見つめている。勇者様の話には無関心みたいだ。


 まあ、四歳のパッフェルには、まだ良くわからないか。それに妹はソリッドの事以外には、あまり関心を示さないしね。


 後は両親だけど、こちらも興味は無いだろうな。僕達の両親は地位や名誉に限らず、あらゆる欲から無縁の人達だからね。


「……けれど、ソリッドが喜ぶのなら、勇者様になっても良いかな」


「うん、アレックスなら成れるよ! きっと多くの人達を助けて、皆から求められる凄い人に!」


 まだ六歳の僕には、大人になった自分が想像できない。けれど、ソリッドが期待するなら、それに応えたいとは思った。


 そして、キラキラした目を向けるソリッドに、僕は微笑みながら質問した。


「もし、僕が勇者様になったとしたら、ソリッドは一緒に戦ってくれるのかい?」


「え……? 僕が、アレックスと一緒に……?」


 僕の問い掛けに、ソリッドはポカンと口を開く。驚きのあまり、そのままの姿で固まっている。


 そんなソリッドの姿に僕は思わず笑ってしまう。いつも冷静なのに、時々こういう間の抜けた姿を見せる事があるんだよね。


「そりゃそうだよ。僕はソリッドの期待する勇者様になる。けれど、僕が一番守りたいのは君なんだ。僕としては、一緒に居て欲しいんだけど?」


 ソリッドと過ごして一年になるけど、僕は彼の事が大好きだった。無口で控えめだけど、誰よりも優しくて、誰よりも気遣いをしてくれる。


 村の子供達と遊ぶこともあるけど、正直ソリッドと遊ぶ方が面白いとも思う。彼ほどに僕の事を理解してくれるのは、両親を除けば他に居ないだろうしね。


 だから、僕はソリッドとずっと一緒に居たい。勇者様に成れたとしても、ソリッドと別れるんなら成る意味が無いんだ。


 そして、僕が返事を待っていると、ソリッドは意を決した様に口を開いた。


「……うん、わかった。僕もアレックスと一緒に行きたい! アレックスが勇者様に成るなら、僕もその力になれる様に頑張るよ!」


「うん、良かった。それなら僕も、心置きなく旅立てるよ」


 大人になったら、ソリッドと一緒に旅に出る。それは何だか、とても楽しい事に思えた。


 満面の笑みを浮かべるソリッドに、僕も思わず笑みが零れてしまう。


 そして、僕達が見つめ合っていると、先程まで大人しかったパッフェルが、急に慌てて跳ねだした。


「ソリッド、どこ行くの! あたしも一緒にいく!」


「違うんだ、パッフェル。今から出かけるって話じゃなくて……」


 パッフェルは僕とソリッドが、今から旅立つと思ったらしい。必死について行くと、ソリッドに訴えかけている。


 ソリッドは困った表情で、パッフェルに説明している。しかし、パッフェルは聞く耳を持たず、ずっと付いて行くと言い続けていた。


 僕はそんな二人の姿に、また笑い声を上げてしまう。ソリッドが大好きな妹に対して、僕はこう言って聞かせた。


「それじゃあ、パッフェルとも約束だ。大人になったら、皆で一緒に旅に出ようね」


「うん、約束! あたしも一緒に旅に出る! 絶対につれて行ってね!」


 僕が約束したことで、パッフェルはようやく納得したらしい。ニコニコと笑みを浮かべて、ソリッドに約束だと言い続けている。


 そんな妹の姿に、ソリッドは苦笑を浮かべている。けれど、僕と視線が合うと、彼は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「僕も約束する。きっと強くなって、アレックスの助けになるから」


「うん、約束だ。僕もソリッドを助けられる位に強くなってみせる」


 子供だったこの時の僕は、勇者になれる事を疑ってもいなかった。本当ならば勇者になれる人なんて、百年に一人の限られた人物であるのに。


 けれど、僕はこの九年後に本当に勇者となる。それがどれ程にあり得ない幸運なのかは、この時の僕には知る由も無かった。

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