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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
四章 根暗アサシンと光の勇者
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降り掛かる厄災(中編)

 俺の妹であるパッフェルは『歩く天災』と呼ばれる。これは彼女の過激な性格に由来する。発作的に敵味方問わず、破壊を巻き散らす事から付けられた通り名である。


 そして、その双璧を成す存在が魔族側にも存在する。それが『降り掛かる厄災』。唐突に現れ、破壊を撒き散らす存在。今の俺達が対峙する、正真正銘の化け物である。


「ははは、どうした! 何を狙っている? さあ、私を楽しませてみろ!」


 腰まで届く長い黒髪。ルビーの様な真っ赤な瞳。そして、竜人族の特徴である角と羽と尻尾。


 彼女は顔立ちだけなら間違いなく美女である。しかし、その獰猛な笑みと纏うオーラは、見る者全てを畏怖させてしまう。


 俺も初めて出会った時は、そのアンバランスな存在に、大いに混乱させられた。


「――ちぃっ! 相変わらず理不尽な……!」


 『降り掛かる厄災』が拳を繰り出してくる。俺はそれを全力で避ける。紙一重で避けよう等と、そんな余裕を見せる事など出来なかった。


 何せ彼女の攻撃はその全てが一撃必殺。纏うオーラに触れるだけで負傷し、かすりでもすれば木の葉の様に吹き飛ばされてしまう。


 破壊の化身とも言うべき存在。その上で彼女の動きは、アサシンである俺と同等の素早さまで持っているのである。


「ああ、良い! お前と遊ぶのは実に楽しいな!」


「ふざけるな! こっちは必死だと言うのに……!」


 命を懸けた必死の回避。それが彼女にとっては、只の遊びでしかないのだと言う。


 理不尽にも程がある。恐らく、パッフェルに吹き飛ばされた兵士達も、きっと同じように思ったのであろうな……。


 そして、俺は必死で攻撃を避けながら、ひたすらにチャンスを待ち続ける。彼女が一瞬でも隙を見せて、アレックスが必殺の一撃を叩き込むその時をである。


「アレックスなら……。必ず……!」


 光の勇者であるアレックスは、彼だけが持つスキルをいくつか持つ。その一つは『超身体強化』であり、短時間だが自身の能力を1.5倍に強化出来るものだ。


 この状態のアレックスは、俺をも軽く凌駕する身体能力を持つ。流石に『降り掛かる厄災』程とは行かないが、それを除けば大陸最強の戦士と言っても過言ではない。


 更にもう一つのユニークスキル。それこそが彼を最強の勇者と言わしめる奥義……。



 ――ラスト・シューティングスターである。



 使えばその日は一日、光の精霊の加護が失われる。光魔法も光関連のスキルも、全て使えなくなるデメリットを持つ。


 しかし、その一撃は流星の如き輝きを放ち、光の速さで敵を貫く。俺ですら目で追う事が出来ない、回避不能の一撃必殺技なのである。


 この奥義はかつて『降り掛かる厄災』をも負傷させた。パッフェルの魔法すら防ぐ彼女に、唯一傷を負わせた奥義でもあるのだ。


「だが、それは相手もわかっているはず……」


 俺に対して容赦ない連撃を繰り出す『降り掛かる厄災』。しかし、それでもアレックスに対して背中を見せる真似はしなかった。


 俺とアレックスの狙いはわかっている。だからこそ、相手もアレックスを警戒して、大きな隙を見せないようにしているのだろう。


 こうなると、この戦いはやや不利かもしれない。相手が隙を見せるのが先か、俺のスタミナが尽きるの勝負となるからだ。


 こちらに相手の隙を作る余裕が無い以上、相手はただ待ち続ければ良いだけなのだが……。


「……飽きた」


「なに……?」


 『降り掛かる厄災』が攻撃の手を止める。そして、俺に対して右手をスッと掲げて見せた。


 俺は距離を取って警戒を続ける。そんな俺に対して、彼女は退屈そうな眼差しを向けていた。


「ギガ・フレア」


「――なっ……?!」


 巨大な火の玉が瞬時に生まれる。俺の背中にぶわりと嫌な汗が流れ、俺は咄嗟に我が身を大地に投げ出した。


 その直後、俺の体があった場所を、その業火が通り過ぎる。



 ――ジュワッ……!!!



 バッと背後に視線を向ける。森林は蒸発し、大地はマグマの様に赤く溶けていた。


 始めて見る『降り掛かる厄災』の魔法。その威力にゾッとしていると、冷めた声が俺に降り注いだ。


「私は楽しませろと言った。遊ぶ気が無いなら、本気で殺すぞ?」


 静かな怒りがそこにあった。これまで感じた圧力とはまるで異なるものであった。


 俺は死の恐怖を確かに感じた。そして、明確な殺意を向けられて、俺は心臓を掴まれたかの様に、まったく体が動かなくなってしまう。



 ――不味い、このままでは……!



 動かなければ殺される。それがわかっていても、体が動いてくれなかった。


 これが『降り掛かる厄災』の本気の殺意。神龍に匹敵すると言う、正真正銘の化け物の威圧。


 どうすることもできない。そう俺が諦めかけた時、想定外の出来事が起こる。


「――ソリッド様に、手を出すなぁぁぁ!!!」


「合わせます! エレナ様はそのまま全力で!」


 森から飛び出す二人の人物。それは、従騎士エレナと、執事のマッシュであった。


 『降り掛かる厄災』の右側からは、エレナが『竜殺しの剣(ドラゴンスレイヤー)』で切りかかる。


 『降り掛かる厄災』の左側からは、マッシュが気を爆発させて突進技を繰り出していた。


「や、止めろ! 二人とも……!」


 余りにも無謀な攻撃である。二人のレベルでは、『降り掛かる厄災』に挑めるはずが無い。


 一撃でも受ければ殺される。最悪の結末を俺は想像出来てしまった。



 ――ゴッ! ゴン!



 『降り掛かる厄災』はバックナックルで『竜殺しの剣(ドラゴンスレイヤー)』を叩き折る。そして、尻尾の一振りでマッシュを横なぎに吹き飛ばしていた。


 大地に転がる二人の姿に、『降り掛かる厄災』は怪訝そうに顔を歪ませる。それを攻撃とも認識されなかった事で、二人は殺される事だけは無かったらしい。


「良くやった、二人とも!」


 気が付くとアレックスの姿が消えていた。そして、その声は『降り掛かる厄災』の背後から届いた。


 完全に背後を捉えている。二人の命を懸けた攻撃が、その最大のチャンスを生み出したのだ。


「――ラスト・シューティングスター!」


 ついに必殺の奥義が発動する。『降り掛かる厄災』でも防げない、その最後の切り札が。


 俺の視界は眩い光に染まってゆく。太陽を直視したかの様な光量に、思わず俺は目を閉ざしてしまう。



 ――ガッ……!!!



 何か硬い物がぶつかるような音が響く。『降り掛かる厄災』の背に、アレックスの剣が届いたのだろう。


 光量が収まり、俺はチカチカする瞳を開く。そして、その目で見たその光景は……。

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