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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
四章 根暗アサシンと光の勇者
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同行依頼

 アレックスとの会談は続いている。ただし、今の彼は冷静さを取り戻した様子であるが……。


「それで、急な話で申し訳ないのだけれど、ガーネット王国への訪問に同行して貰えないかな?」


「ガーネット王国への同行? 俺が必要な理由があるのか?」


 これは魔獣討伐関連の依頼だろうか? それとも、彼の公務に関するものだろうか?


 魔獣討伐ならば勇者パーティー『ホープレイ』としての活動となる。俺だけでなく、パッフェルの同行も必要になるだろう。


 とはいえ、行き先が隣国のガーネット王国だ。余程の問題でも無ければ、俺達が向かう必要性を感じない。


 何せあの国は魔王軍と戦い続けた軍事国家である。戦力だけで言えば、パール王国よりも高い軍事力を有しているのだから。


 かといって、勇者としての彼の公務と言うのも疑問が残る。そこに俺が必要な理由が思いつかない。


 何せ公務の際は、式典等への参加となる。平和の象徴として、彼が参加してスピーチを行うのだ。


 VIPである彼の護衛も考えたが、それも考えづらい。アレックスは俺以上の力を持つし、国の騎士団が良い顔をしないだろうからな。


 そして、俺が疑問に首を捻っていると、アレックスは疑問の答えを口にする。


「ガーネット国王――『火の勇者』ガーランドが、君に会いたいそうだ。出来る事なら、彼の誘いに応じてくれないかな?」


「ガーネット国王が俺に会いたいだと?」


 ガーネット国王との面識はない。しかし、ガーネット王国の軍とは何度か共同作戦を取った事がある。


 そして、アレックスの参戦した戦いに負けは無い。軍事関係者からの、アレックスの評判は非常に高いと思われる。


 ……しかし、今回気になるのはパッフェルの評価だ。


 彼女は敵軍に与えたダメージと、同程度のダメージをガーネット軍にも与えている。アレックスが平和の象徴とするなら、パッフェルは恐怖の象徴とも言える。


 俺が呼ばれた理由は、保護者として怒られる為だろうか? アレックスを叱る訳にはいかないので、代わりに怒られろと言う事だろうか?


 それも止む無しと内心で納得していると、アレックスは楽しそうな笑みを見せた。


「移動は片道で三日、往復で六日。更にはあちらの滞在が四日という所だろうか? 十日程の日程となるが、付き合ってくれないかな?」


「……わかった。ガーネット王国へ同行しよう」


 今の俺に断る理由は無い。それに、先程のアレックスの異変についても、原因を探る必要がある。


 しばらく彼と行動を供に出来るのは好都合だ。この十日の旅の中で、彼に何があったかを確認してみせる。


 俺が内心でそう決意を固めていると、アレックスは満面の笑みでこう告げて来た。


「そうか、来てくれるのか! じゃあ、折角だしお揃いの服装なんてどうかな? 謁見の間では、僕と並んで顔見世を行おう!」


 アレックスとお揃いの服? この真っ白で、キンキラな金刺繍の服をか?


「……断固として拒否する」


「なっ、どうしてだよっ?!」


 ショックを受けた様子のアレックス。とても不服そうに頬を膨らませている。


 何とも懐かしい姿である。十歳までのアレックスなら良く見たが、大人になっても再び見る事になるとはな……。


 俺はゆっくり首を振り、ため息交じりに彼に応えた。


「似合うはずがない。それに、俺は陰に隠れている位が丁度良いのだ」


「そんな、もったいない! 折角のお披露目の機会だっていうのに!」


 駄々っ子みたいな態度で、不満を一切隠そうともしない。こんな姿は勇者パーティー『ホープレイ』の活動中でも見せていなかった。


 先程までの不気味な気配は無いが、代わりに今は子供返りしてしまっている。彼は本当にどうしたのだろうか?


「……それで、出発はいつだ? 俺ならいつでも構わないぞ」


「なら、今から行こうか。ガーネット国王も待っているしね」


 想定外の回答に、流石の俺も面食らう。いやまあ、実際に今からでも出発は可能なのだが……。


 まあ、冒険者時代はこんな事はざらだった。問題は無いので、俺はこくりと頷いて見せた。


「ははは、ソリッドと二人旅か! 本当に楽しみだな! 二人だけって何気に初めてだよね?」


「まあ、そうだな……。というか、ガーネット王国へは、二人だけで向かうのか?」


 先程も言ったが、彼はVIP待遇の人物である。厳重に護衛が付けられて当然の人物なのだ。


 しかも、訪問相手は一国の王である。そんな気軽に会える人物では無いはずなのだが……。


「ははは、もちろん御者の人達だって同行するさ。ただ、馬車の中は僕達だけだし、泊る宿もそうなるね」


「ふむ、そうか……」


 付き添いの人達は別の馬車や、別の部屋割りらしい。そう言う意味での発言なのだろう。


 俺がひとまず納得していると、次にアレックスはテーブルに紙の束を広げ始めた。


「それで、ガーネット王国の観光名所なんだけど。こことか行ってみない? 食べ物だとこの辺りが、一通りの名産品が揃っていて……」


「いや、待ってくれ。いきなり観光って、公務は良いのか?」


 テーブルの上を確認すると、それらはいずれもパンフレットであった。観光名所や有名店の紹介がされている。


 何やらアレックスの頭の中は、完全に観光モードとなっているらしかった。


「いいの、いいの! 公務なんてのは、王様と顔を合わせて終わりだからね! それよりも今は、楽しい事だけ考えようよ!」


「そ、そうか……」


 王様への謁見って、そんな気軽な物だったっけ? 平民からすると、謁見できるだけでも名誉な事だった気がするのだが?


 ……いや、アレックスは特別だからな。普段から王様と話す機会も多いのだろう。


 だからこその慣れというやつだ。チキンハートな俺には、決して真似出来ない所業である。


「そうそう、道中にも隠れた名店があってね。旅行中はきっと退屈する事が無いよ! この十日間は君との旅行に備えて、沢山の情報を集めておいたからね!」


「……この十日間は、旅行に備えて?」


 ……え? ちょっと、まって欲しい。


 パッフェルが電話して、この面談の段取りを組んでくれた。十日後であれば時間が取れるとの事で、俺は今日まで待っていた訳である。


 それは公務が忙しかったからではないのか? 旅行の準備に十日間を費やしていたのか?


 愕然とする俺に対して、アレックスはとても良い笑顔でこう告げた。


「この日をとても楽しみにしていたんだ! 絶対に楽しい旅行にしようね、ソリッド!」


「……そうか、楽しみにしていたのか。ならば、仕方が無いな」


 アレックスとて一人の人間。勇者であろうと、楽しみたい時だってある。


 いや、人一倍頑張って来た彼なのだ。平和になった今こそ、彼にはその世界を楽しむ権利がある。


 俺はそう考えて納得した。兄弟であるアレックスと共に、この旅を楽しんでも良いのだろうと思い始めていた。

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