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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第三章(裏) 魔族の姫と根暗アサシン
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チェルシー、十二歳の記憶

 あーしも今や十二歳。かなり大人っぽくなって来たよ!


 マヤ姉とイズ姉のメイクテクもあるしね。街を歩けば多くの人が、あーしに視線を向けてくる。


 中には映画のファンって人も居るけど、そうでなくても人目を引く程、あーしが魅力的になったってことだね!


「……とはいえ、調子に乗らない様にご注意下さい。驕れる者は必ず、それが原因で身を滅ぼすのです」


「あい……。気を付けます……」


 むっちゃんに心を読まれ、あーしは的確に釘を打たれる。夢魔族の王様であるむっちゃんは、マジで人の心を覗けるからね。嘘を付いてもすぐにバレてしまう。


 勿論、あーしがむっちゃんに嘘を付いたりはしない。彼は人生の半分を共に生きた、あーしの先生だからね。大好きな先生を裏切る真似なんて出来るはずがない!


「そういう真っ直ぐなのは、私には眩し過ぎるんですがね……。まあ、それはさておき。お客様がお見えですので、お行儀よくお願いしますね」


「はい、わかりました!」


 今日は王都の屋敷にお客様がやって来た。それも、パパやママではなくて、あーしに会いにやって来てくれたんだよね!


 あーしはむっちゃんと一緒に扉の前に立つ。そして、むっちゃんが開いた扉の先には、あーしの会いたかった人物が待っていた。


「お会い出来て光栄です! ミハエル先生!」


 相手の姿が見えると同時に、あーしは足早に駆け寄って行く。すると、ミハエル先生はソファーから立って、あーしにお辞儀をして見せた。


「お初にお目にかかります、姫殿下。こちらこそ、お会い出来て光栄です」


 頭を下げるのはシルバーヘアーの紳士。彼は鬼人族の特徴である、一本の白い角が額から生えていた。


 そして、頭を上げると細めでキリッとしたお顔。皺の刻まれた渋いお顔のイケおじである。


「あ、あの……。握手して貰っても……!」


「握手ですか? まあ、構いませんが……」


 ミハエル先生が出した手を、あーしは両手でガッチリ掴む。マジ、感動である。あのミハエル先生に出会い、握手までして貰えるとか!


「あ、あの! 先日入手したG-20、めちゃスゴでした! 超サクサクなのに、全然魔力も消費しないし!」


「ほう、既に入手されましたか。まだ発売数日だったと思いますが……」


 そりゃあ、めっちゃ頑張って予約したからね! マークとミックにも並んで貰って、頑張って抽選会で引き当てることが出来た!


 あーしが興奮していると、背後から呟きが聞こえて来る。むっちゃんも今更ながら、何の話か気付いたらしい。


「確か新型の魔導デバイスですか? 一昨日から姫様は、ずっとそればかり触ってましたね」


「当然っしょ! 販売数が少なくて、全然手に入んないだよ! あんなん嬉しいに決まってんじゃん!」


 むっちゃんは何故か、困った笑みを浮かべている。あーしのこの感動が、まったく伝わっていないみたいだった。


 友達や仲の良い人達からは、めっちゃ羨ましがられたのに! むっちゃんは、そういう所に興味が薄いからなぁ!


「生産数については済まないね。あれは試験的なモデルなんだ。もう少しデータが集まれば、廉価版として数も売り出す予定なものでね」


「その試験モデルが良いんですよ! 最新機能を自分だけ使えるって言う優越感? もう、本当にマジ最高でした!」


 知らない人の為に説明すると、ミハエル先生は科学者なの。魔導デバイスの生みの親で、今でも毎年のように最新モデルを生み出し続けている。


 それも凄いんだけど、映画館の撮影機とか、撮影装置とかもそう。ありとあらゆる発明品を生み出し続ける超天才。ここ百年ほどの間、魔王国の文明を引き上げ続ける偉人なんだよね!


 更には魔王四天王の一人でもあり、鬼人族の王様でもある。普段は領地に引き籠って、滅多に人前に現れない人物でもあるのだ。


「姫様、少し落ち着いて下さい。ミハエルが困ってますよ?」


「え? はわわ……! ごめんなさい、ミハエル先生! 困らせてしまって!」


 あーしは慌てて頭を下げる。しかし、ミハエル先生は気にした様子を見せずに笑っていた。


 そして、視線をむっちゃんに向けると、真剣な表情で話し始めた。


「君から聞いた通りだ。彼女には闇の最上位精霊が宿っているね。この『神眼』で見たのだから間違いないよ」


「やはりそうでしたか。普通ではないと思っていましたが……」


 あーしが頭を上げると、二人の視線がこちらに向いていた。むっちゃんは心配そうに。ミハエル先生興味深そうに。


 むっちゃんはミハエル先生へと視線を移し、真剣な口調で問い掛けた。


「闇の精霊は扱いが難しいと聞きます。しかも、その身に直接宿る等とは聞いた事も無い。姫様は今のままで問題無いのでしょうか?」


 ……あれ? 思いのほか、むっちゃんが焦ってない? あーしって、自分が思ってるよりヤバイ状況なの?


 ミハエル先生を呼ぶって聞いて、それ以外の事が頭に入って来なかった。実はかなり切羽詰まって、ミハエル先生に頼った感じだったり?


 あーしは内心で冷や汗をダラダラかき始める。しかし、ミハエル先生はふっと柔らかな笑みを浮かべていた。


「私も少し驚いている。闇の最上位精霊が、彼女をとても大切に守っているみたいなんだ。まるで我が子を守るかのように……。こんな事例は、これまでに見た事がないね」


「精霊がですか? たった一人の子供に対して?」


 むっちゃんが戸惑いの声を漏らしていた。あーしが精霊に守られている事が、むっちゃんには驚きみたいだった。


 ただ、あーしからすると、闇の精霊は小さな頃からの友達なんだよね。一緒に居るのが当たり前で、いつでもあーしを守ってくれていた。


 二人が何に驚いているのかわからない。そう首を傾げるあーしに、ミハエル先生の講義が始まった。


「そもそも、精霊とはこの世界が生み出す免疫機能。そして、世界を正常に運営する為の一機能のはずなのだ。その機能の一部が彼女を守っている。それは世界が定めたことなのか? それとも特殊な変異体が、偶然にも彼女に張り付いたのか? 私の『神眼』でも、そこまで読み取る事は出来ない。しかしこれが、本来のルールを逸脱しているのだけは間違い無く……」


「…………???」


 ミハエル先生が何やら呪文を唱え始めた。話の内容が一割も理解出来ないんだけど?


 あーしが首を捻り続けていると、ミハイル先生の呪文が止まる。そして、少し考える素振りを見せて、あーしへと問いかけて来た。


「姫様は精霊の存在を知っていたのかな? もしそうなら、いつ頃から気付いていた?」


「うーん、生まれた時から? 覚えてる範囲では、いつも守ってくれたと思うんだよね」


 本当に生まれた時は、流石に記憶も無いんだけどね。ただ、物心付いた頃には、当たり前のように傍に居たんだよね。


「では、その精霊と意思疎通は? 姫様の指示を聞いたりはするのかな?」


「意思疎通は出来るよ。指示ってか、お願いなら何度か聞いてくれたな~」


 基本的には自分の意思で動いてる気がする。あーしがこうして欲しいって思うと、動いてくれる事は多いけどね。


 思い出しながら答えていると、ミハエル先生が口を閉ざす。そして、何やら考える素振りを見せたあと、あーしへと低い声で問い掛けた。


「その力は今後も成長を続けるでしょう。いえ、正確に言うなら、本来の力を引き出せる様になると言うべきでしょうか。――姫様は強大な力を手にしたとして、それをどのように使うおつもりですか?」


「……え? 別に使うつもりなんて無いけど?」


 いや、強大な力ってなに? 何が出来るのか、まったくわかんないんだけど……。


 あーしが再び首を捻っていると、ミハエル先生が考える素振りを見せる。そして、別の言い方であーしに尋ねて来た。


「将来、姫様が魔王となったとしましょう。世界の全てを支配できる程の、誰にも逆らえない程の力を手にしています。その力を使って、世界を制したいと思いませんか?」


「いや、そんなん思わないけど? 力で支配って発想がヤバいっしょ?」


 ミハエル先生がおっかない事を言い出した。世界征服とか、いつの時代の魔王だよ。今はそんな時代じゃなくない?


 あーしが若干引いていると、ミハエル先生が物理的に身を引く。そして、むっちゃんに視線を向けると、穏やかな表情でこう告げた。


「私としては問題無いと判断します。ただし、この先も問題が無いかといえば、それは貴方の手腕に掛かっていると言えますがね」


「……承知しました。姫様の望む世界のために、私は力を尽くすのみです」


 むっちゃんは神妙な面持ちで頷く。それに対して、ミハエル先生は優しい笑みで頷いた。


 二人で何をわかりあったのかはわからない。ただ、ミハエル先生は仕事を終えたとばかりに、さっそうと立ち去ってしまった。


 あーしはサインを貰い損ねたと気付き、その後に大きく落ち込む事になった……。

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