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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第三章(裏) 魔族の姫と根暗アサシン
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チェルシー、十歳の記憶

 映画の撮影は半年ちょっとで終わったんだけど、それからもう少し時間が掛かった。むっちゃん達が編集に拘ったり、映画上映の利権がどうとか。


 あーしには難しい所がわからない。その辺りは全て、むっちゃんが取り仕切ってる。こういうのは得意な人に任せるのが一番だって思うんだよね。


 そして、何だかんだあったけど、王都での上映はとっても好評。ブルームシティでも、あーしのファンが沢山増えた。むっちゃんも自信があったみたいで、この辺りには何の不安も無かったんだ。


 ただ、不安があるのが不死族と鬼人族の領地での上映。この辺りは文化的にも独自色が強いし、魔王国との繋がりも強くない。あーしの映画に興味を持って貰えるか、正直わからないんだって。


 そんな事から、あーし達は初上演に合わせて、不死族の領地へやって来た。映画の上演前にスピーチすることで、少しでも皆に興味を持って貰おうって作戦なんだよね。


 初めて足を踏み込む不死族の領地。ドキドキしながらやって来た地で、あーしは初っ端から度肝を抜かれた。


「ウェェェルカァァァム! 魔王国のお嬢さん! 我等、不死族の陽気な仲間達はぁ……。お嬢さん達の来訪をっ! ぜっっっんりょくでっ、歓迎するぜぇ! イヤァ!」


「テンション、ヤバぁ……」


 馬車から降りたあーしの前に、超ハイテンションな出迎えが待っていた。いきなりここまでのハイテンションは、夢魔族の領地でも中々にお目に掛かれないレベルだ。


 ……しかもね。出迎えた相手がカカシなの。頭が何故かカボチャの、カカシがピョンピョン飛び跳ねてんの。


 正直、不死族の領地を甘く見てたわ。ゾンビとかスケルトンみたいな種族で、もっとオドロオドロシイのをイメージしてたんだけどね……。


「これはこれは、ジャック殿。お出迎えありがとうございます」


「いえぁ、ローズの旦那! アンタはウチ等のヒーローだ! ブラザーの俺様が出迎えんのが、当然ってもんだろ?」


 カカシのジャックさんが、むっちゃんの周りを飛び跳ねている。そんなジャックさんの事を、何故かむっちゃんは無の微笑みで見つめていた。


 相手はめっちゃフレンドリーだけど、むっちゃんの反応がヤバい。これ絶対に、むっちゃんが感情を押し殺してる感じのやつだ……。


「えっと、それじゃあジャックさん。あーし達を映画館まで連れて行ってくれる?」


「勿論だぜ、お嬢さん! 道案内なら俺様に任せな。完璧にエスコートしてみせっからよ!」


 ジャックさんはハイテンションに叫ぶと、激しく跳ねて飛び出して行った。


 てか、あーし達を残したまま、姿を消してしまったんだけど……。


 突然の出来事に驚いていると、むっちゃんが頭を抱えて説明し始めた。


「あれでも彼は、この国の守護騎士でしてね。私でも倒すのが難しい猛者なんですよ。四天王のアリア殿に次いで、この国のナンバー2だったりするんですよね……」


「マジで? カカシなのに、めっちゃ強いってこと?」


 体と腕はちょっと細めの丸太だった。それにマントみたいなぼろ切れを纏い、カボチャの頭が載っているだけ。


 そんな彼が不死族というだけでも驚きなのに、この国では二番目に強いの? 世の中ってのは、本当に不思議で一杯なんだね。


 そして、あーしが呆然としていると、むっちゃんがスッと顔を近づけてくる。周囲に気を配りながら、あーしの耳元でそっと囁いた。


「彼の生前は切り裂きジャック……。千人の魔族を、無差別に殺した殺人鬼です……。今では改心したようですが、念の為にご注意下さい……」


「――え、殺人鬼? マジヤバじゃん……」


 あーしはジャックさんの姿を探す。しかし、近くには居ないらしく、全然見当たらなかった。


 代わりにおかしな事に気付く。遠くに見える大きなお城と、そこから広がる田園風景。城下町と聞いていたのに、牧歌的な巨大な村が存在しているのだ。


 しかも、歩いているのはゾンビやスケルトンじゃない。魔族や人間のお年寄りばかり。あーしにはここがどういう場所か、まったくわからなくなっていた。


「――って、おいおい! お嬢さん、いきなり迷子かよ! ちゃんと付いて来てくんなきゃ困るぜ!」


 どこからともなく、ジャックさんが姿を現す。そして、コミカルな動きで、あーし達の周りを飛び跳ねていた。


 色々と言いたい事はあるけど、まずは聞きたい事がある。ジャックさんを目で追いながら、あーしは疑問を投げかけた。


「ここって本当に不死族の領地なの? 不死族の人達が見当たらないけど……」


「ああ、今は昼間だからな! 俺様の仲間達なら、棺桶や墓ん中で眠ってるぜ!」


 ああ、なるほど。不死族の人達は夜行性なんだ。そういった人達は、夢魔族の街にも沢山いたからな。答えとしては納得出来た。


 ただ、それだけでは納得出来ない事もある。この街で行きかうお年寄りの人達についてだ。


「ここに居る人達も住人なの? 不死族じゃ無い人達ばかりだけど……」


「確かにまだ生きてんな! ただ、もうすぐ俺等の仲間入りだけどな!」


 縁起でもない事を平然と言うなぁ……。なまじ冗談とも言えないから、全然笑えないんだけど……。


 あーしが反応に困っていると、隣のむっちゃんが助け舟を出す。あーしに向かって、この状況を説明してくれた。


「彼等は身寄りのないお年寄り達。一人寂しく死ぬのが嫌で、この地へ来る事を望んだ人達です。そして、人生に未練を残す大半の者は、死んだ後に不死族の仲間に加わるのです」


「それじゃあ、元々は別の土地で暮らしていた人達なの……?」


 あーしの問いに、むっちゃんは静かに頷く。複雑な感情の入り混じる、何とも言えない表情だった。


 あーしは改めて街を見る。そこを歩く人達の表情は様々だった。穏やかな表情で微笑む人。何かを堪える様に顔を顰める人。その感情はそれぞれ違っているみたいだった。


「まあ、理由なんて色々とあるわな! 家族に迷惑掛けたくないってのもいりゃ、逆に家族に見捨てられたってのだっている! 人の数だけ人生があるってわけさ!」


「人の数だけ人生がある……」


 それは当たり前のことだと思う。誰一人として、同じ人生を歩む人なんているはずがない。


 けれど、あーしはそんな事もわかってなかった。誰もがみんな、幸せなのが当たり前だと思ってたんだ。


「ねえ、ジャックさん……」


「あん、どうしたんだい? お嬢さん?」


 ピョンピョンと飛び跳ねるジャックさん。あーしはそんなジャックさんに視線を向けず、街の人々を見つめながら問い掛けた。


「あーしの映画を見れば、あの人達も幸せになれるのかな?」


「さあ、どうだろうな! 精々が奴らの人生の、1%でも変わりゃ良い方じゃねぇの?」


 ……そっか。そりゃそうだよね。


 長い人生を生きて来たんだと思う。映画を見たくらいで、人生が全て幸せになんてなる訳ないよね。


 あーしは自分の甘い考えに落胆する。しかし、寂しさに目を伏せていると、ジャックさんの静かな声が耳に届く。


「――ただし、それは人生最後の1%かもしれねぇな。人生の最後を、幸せに終えれるかもしれねぇってことだ」


「――えっ……?」


 あーしは驚いてジャックさんに視線を向ける。すると、彼は恭しく頭を下げていた。


 先程までのコミカルな動きじゃない。腰を曲げて、微動だにせずにこう続けて来たんだ。


「未練を残さず逝けるなら、これ程幸せなことはない。彼等の幸せを願ってくれるってんなら、俺様はお嬢さんに敬意を示そう」


「ジャックさん……?」


 先程までとの落差に、あーしは戸惑ってしまう。さっきまでの不思議な不死族じゃない。あーしには真摯な姿を見せる、一人の紳士として目に映っていた。


 彼はそのカボチャの頭を上げると、あーしに対して軽く肩を竦める。そして、少しだけおどけた口調でこう言った。


「ただまあ、不死族ってのは女王陛下を崇める種族なんでな。俺様達にとっては、その娘であるアリア様こそが姫様なんだ。魔王を崇める事も無いし、お嬢さんを姫様と呼ぶ事はない。そこん所は、わかって貰えっと助かるかな?」


「女王陛下……?」


 そういえば、『ノアの書』に書かれてる。かつて『黄金時代』を作った一人。元四天王でもあった、不死族の女王って人の話を。


 今の四天王はその一人娘である、アリアさんが継いだらしいんだ。まだ会った事はないけど、とても強い騎士だってむっちゃんは言ってたかな。


「四天王のアリアさん、か……」


 とても興味は惹かれたんだけど、この時はまだ会う事が出来なかった。あーしの訪問はアリアさんにとって、興味を引く出来事ではなかったみたい。


 残念だなって思うけど、それはそれで仕方が無い。またいずれ、次にここを訪れる時。その時には、あーしがアリアさんにとって、気になる存在になってみせれば良いだけだしね!

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