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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第三章(裏) 魔族の姫と根暗アサシン
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チェルシー、八歳の記憶

 今日は王都の屋敷でディナーになった。一緒に食べるのはパパとママ。それに、大切な話があるむっちゃん。この四人でのディナーだった。


 パパは仕事帰りなので、いつもの仕事着。真っ黒なマントとスーツ姿。お城に居る時は、基本的にいつもこの格好だね。


 ママは赤色のドレス姿。薄紅色の髪と瞳を持つママはとっても美人。あーしの自慢のママである。


 それで、今日のあーしはピンクのドレス。それに、ナチュラルメイクでちょっと大人な雰囲気。パパもママもさっきから、チラチラとあーしの顔を見ているね!


「それで、大切な話とは何だ? ローズ殿?」


 パパがテーブル向かいに座る、むっちゃんに対して低い声で問い掛けた。別に怒ってる訳じゃないけど、パパは魔王だからね。部下の前では、偉そうにしてないといけないんだ。


 ただ、むっちゃんは涼しい笑みを返していた。そして、手にしたワインをテーブルに置き、パパに対してこう告げた。


「姫様の主演映画。そのクランクインについてのお知らせです」



 ――ガタッ……。



 むっちゃんの台詞に、パパは思わず立ち上がる。そして、キッとむっちゃんを睨むと、喉を鳴らしてこう漏らした。


「ついに、この日が来たか……」


「ふふふ、やったわね貴方!」


 パパだけでなく、ママも喜んでいる。満面の笑みで、パパに拳を握って見せた。


 そんな喜び一杯の両親に対して、むっちゃんは一息ついて、言い難そうに口を開いた。


「それでは準備が整い次第、姫様はブルームシティに移って頂きますね」


「撮影期間の半年間だったか? 半年もちーちゃんに会えんと言うのか!」


 パパは目に涙を溜め、ブルブルと身を震わせている。あーしと会えないのが寂しいんだろうね。


 正直、あーしも寂しい。今までは毎日パパと顔を合わせてるんだもの。それが出来なくなれば、寂しいのは当然だと思うの。


 けれど、ママがパパの肩にそっと手を置く。そして、パパに慰めの言葉をかける。


「寂しいけど我慢しましょう? だって、この子がやりたいって言うのよ。親として応援するべきだと思うわ」


「それは、それはそうだが……。だが、それでもママはっ! 半年も会えなくても、我慢出来ると言うのか!」


 耐えかねたパパは、涙を流してママに詰め寄る。そんな姿にママは、困った笑みを浮かべていた。


 そして、言うべきか悩んだ末に、最後には決心してこう告げた。


「私は保護者だもの。勿論、ちーちゃんと一緒にブルームシティに行くわよ?」


「――マ、ママに裏切られた~!」


 パパがテーブルに突っ伏して、シクシクと泣き出した。それを困った様子でママが慰めている。


 やっぱりこうなるよね。こうなると予想していたあーしは、パパの傍にそっと近寄り、パパの手を握ってこう言った。


「ごめんね、パパ。あーしが我がまま言って。でも、あーしも寂しいの我慢する。それに手紙も書くから。……だから、あーしの事を応援して欲しいな?」


「そ、そんなの……。応援するに決まってるでしょ! パパは、ちーちゃんのパパなんだよ! いつだって、ちーちゃんの事を一番に考えてるんだから!」


 パパはおいおいと泣きながら、あーしの事を抱きしめる。あーしもそんな大好きなパパを抱きしめ返した。やっぱりパパは、あーしにとって世界一のパパだった。


 そして、あーしとパパが抱き合っていると、むっちゃんはいつもの疲れた声でこう言った。


「お約束通り、一月毎にフィルムをお送りします。撮影の映像を、いつでも、何度でもご確認頂けますので……」


「本当だな? 約束だからな! 届かなかったら、ブルームシティに攻め込むからな!」


 パパがむっちゃんを脅し始める。とはいえ、本当に攻め込む事は無いだろう。ママもブルームシティにいるし、コッソリとお城を抜け出して来るくらいだと思う。


 そして、そんなパパの事を、むっちゃんも良くわかってる。笑みを浮かべると、しっかりつ頷き返した。


「勿論ですよ。姫様の愛らしさを魔王国中に広める為です。それに必要な事なら、私は何だってやり遂げてみせます」


「ふっ、その言葉信じるぞ? 魔王四天王筆頭に相応しい働きを期待する!」


 あーしから離れたパパは、胸を張って堂々とした姿を見せた。お仕事の時に見せる、魔王のポーズを取っている。


 そんなパパに、むっちゃんは静かな笑みで頷いた。すると、隣で見ていたママが、不思議そうに呟いた。


「ローズさんったら、すっかり表情が柔らかくなりましたね。昔はもっと、ピリピリとなさっていたでしょう?」


「ははは、そうですかね? これも姫様の影響かもしれませんね」


 ママの言葉に、むっちゃんは満更でもない笑みを浮かべる。あーしは毎日見てるけど、今のむっちゃの笑顔は、とても優しくて大好きだって思ってる。


 しかし、ママはクスクスと笑いながら、楽しそうに思い出を語りだす。


「昔のローズさんは、闇の貴公子として有名でね? 私が若い頃なんて、婦女子の間では有名な……」


「――おっと、奥様! その話はここでは不味い! 互いに傷を負うので、止める事をお勧めします!」


 珍しい事にむっちゃんが焦った姿を見せていた。ママはそんなむっちゃんに、悪戯っぽく舌を出して見せていた。


 そして、その話は本当に良くないみたい。何だかパパの表情が、不機嫌そうに歪んでしまったからだ。


 空気がピリッとしたのを感じていると、むっちゃんはわざとらしく咳払いして、パパに対して別の話題を振り出した。


「それと、不死族と鬼人族の領地について。そのいずれの都市でも、映画館の建設が進んでいます。恐らく初上演は、姫様の映画になることでしょう」


「……ふむ、それは素晴らしい。かの地を治める四天王にも、ちーちゃんの愛らしさを、しっかりと理解して貰わねばな」


 今は映画館が二つしかない。あーし達が住む王都と、むっちゃんの住むブルームシティだけ。


 けれど、この先はそれが少しずつ増える。映画を楽しめる人が増えるし、上演される映画の数も増えていくみたい。


 それはとても素敵な事だと思う。皆が今よりももっと、幸せになれるって、あーしは思っている。


 だからこそ、あーしも頑張らないといけない。皆が映画を好きになってくれて、楽しんで貰えるように、しっかりと演技を学ばないといけないって思うんだ!


「あーしが頑張ったら、他の四天王の人にも会えるかな? むっちゃんとライオンさん以外、あーしは会った事が無いんだよね……」


「……ええ、いずれ会えるでしょう。きっと彼等の方から、姫様に会いに来るはずですよ」


 そっか。残りの二人の人にも会えるんだね。パパの部下らしいけど、今まで一度も会った事が無い人達。


 けれど、むっちゃんが言ってた。あーしが魔王を継ぐ時には、皆があーしの部下になるって。


 だから、あーしはその二人とも仲良しになりたい。一緒に幸せな国を作れるように、協力して欲しいって思ってる。


 そう思うのだけれど、何故かむっちゃんが難しそうな顔をしている。あーしはその理由がわからず、不思議に思って首を傾けるであった。

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