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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第一章 根暗アサシンと駆け出し冒険者
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冒険者ギルド

 聖女ローラとの再開は十日後となる。それまで、何せずに過ごすのも時間の無駄だ。俺は冒険者ギルドに赴き、程よい依頼を見繕って貰おうと考えていた。


 そして、建物に踏み込んで、その熱気に驚かされる。多くの人で溢れかえり、怒声の飛び交う環境だったのだ。


 地方の冒険者ギルドには、これまで何度も足を運んだ事がある。しかし、これ程の冒険者の数も、熱気も存在していなかった。流石は王都と言うべきだろう。


「――さて……」


 俺はフードを頭に被り、気配を消して壁際へと移動する。目立たない様に注意しながら、冒険者ギルドの中を観察した。


 怒声が飛び交っているのは、依頼が張り出されたボード付近だ。依頼内容が掛かれた紙を巡り、冒険者達が言い争いをしている。


 恐らくは、報酬が高い依頼や、昇格用のポイントが稼げる依頼を、誰が受けるかで揉めているのだろう。地方では優秀な人材が少なく、依頼の奪い合い等は起きなかった。むしろ、消化されない依頼が多く、俺はその様な依頼を片手間で片付けていたものだったが……。


 そして、しばらく観察し続けるが、ボード付近の賑わいが落ち着く気配がない。人の群れに飛び込む度胸が無い俺は、ボードの依頼を諦める事にした。


「なら、あちらか……」


 俺はギルド内の受付カウンターに視線を移す。五人の女性職員が、冒険者の手にした依頼を受け付けていた。女性職員はいずれも手際よく、テキパキと事務処理を進めている。


 しかし、一人だけ何故か手が空いてる女性職員が居た。彼女はオレンジ寄りの赤毛を持つ、小柄な女性であった。年齢へ十五歳程に見える為、恐らくは新人職員なのだろう。


 とりあえず、俺は足音を殺してそちらに向かう。そして、彼女の前に立ち、息を潜めて問い掛けた。


「――すまない。少し良いか……?」


 俺に声を掛けられ、女性職員がビクリと肩を揺らす。そして、俺の顔を見て、お化けでも見たかの様に目を丸くする。



 ――すると、彼女は唐突に想定外の行動に出る。



「ギ、ギルマス呼びますよ! 私に手を出したら、周りの皆が放っておかないんだから!」


「――なっ……。ちょっと、待て……」


 彼女が大声を上げた事で、周囲の視線が俺達に集まる。『なんだ?』と皆がざわつきながら、不審な目で俺の事を見つめていた。


 これは非常に不味い状況である。黒ずくめで、フードとマントで身を隠した姿。只でさえ、俺は周りから誤解を招きやすい姿をしているのだ。この状況では、周囲は悪い方向へ邪推するだろう。


 ちなみに、こんな姿をしているのが悪いと言う意見もあるだろう。しかし、俺は普通の恰好をしていても、黒目黒髪というだけで不審者扱いされがちである。だから、そもそもの話として、人目に付きにくい恰好をしているのだ。


「……そ、そうだ! これを見てくれ! このギルドカードを見て貰えれば、俺が怪しい者では無いとわかるはずだ!」


 俺は懐からギルドカードを取り出した。アダマンタイト製の特注品。S級冒険者にだけ発行される、特注品のギルドカードである。


 しかし、そのカードを目にした彼女は、余計に胡散臭そうな顔となる。非常に警戒した様子で、身を引きながら俺へと説明を始める。


「あの、冒険者ギルドのギルドカードを見た事ないんですか? ランク毎に色が決められていて、その色の中に黒色は存在しないんですけど……」


「良いから見てくれ! 本物かどうかは、調べればわかる!」


 確かに冒険者にはランクがあり、一般的に黒色は存在しない。A級のゴールド。B級のシルバー。C級のレッド。D級のブルー。E級のグリーンである。


 しかし、特別な階級であるS級には、決まった色が無い。その人物に相応しい色が、個別に選ばれるのである。


 それが俺の場合は黒色であった。勇者アレックスはゴールドだが、常に光を放つ特別な加工。パッフェルも七色に変化する特殊加工。ローラに至っては、無色透明なダイヤモンド製である。


 いずれも、ギルドに情報が保存され、全ギルドで共有されている。特殊な装置を通す事で、そのカードが本物である事が確認可能となっているのだ。


「はいはい、それじゃあ一応確認してあげますね」


 彼女はやれやれといった態度でカードを受け取る。そして、刻まれた簡易情報に目を通し、更に疑わし気に顔を顰めた。


「……所属パーティー『ホープレイ』? あり得ない事が掛かれてますけど?」


「……いいから装置を通してくれ。調べて貰えれば本物かどうかわかるはずだ」


 彼女は溜息を吐き、ぞんざいな手つきでカードを弄ぶ。そして、自らに割り当てられた、事務処理用の魔道具に向き直る。


 それは、ギルドカードの確認や更新を行う為の装置。昇格用のポイントや、報奨金の預貯金等も管理出来るディスプレイである。


 彼女はカードを設置台に置き、表示されたディスプレイの文字に眉を寄せる。


「氏名はソリッド=アマン。職業はアサシン。所属パーティーはホープレイ。レベルに至っては70って出てますね。……先輩、装置が壊れてますよ?」


 彼女は隣のカウンター座る、先輩職員へと話しかけた。しかし、その先輩職員の顔は蒼白で、表情はわかりやすく引き攣っていた。


 そんな先輩の様子に、後輩職員は不思議そうに首を傾げる。だが、次の瞬間には、先輩職員のビンタが繰り出される。



 ――パァァァン……!!!



「こ、このおバカぁぁぁ! 何てことしてくれてんの! 現在、勇者一行が王都に滞在してるって、お達しがあったでしょうがぁぁぁ!!」


「あいたっ……?! え、でも……。この人が、勇者パーティーって……」


 後輩職員が俺を指さし、なおも疑わし気な視線を向ける。だが、先輩職員はその指を掴むと、ポキリと折った。額に青筋を浮かべながら、後輩職員に冷たく告げる。


「良・い・か・ら! 貴方はこの事を急いでギルドマスターに報告。後の対応は、私が引き継ぎます!」


「い、いだだだぁぁぁ……! ゆ、指が折れてます! 折れてますよぉぉぉ?!」


 しかし、先輩職員はとりあわず、彼女の尻を蹴り飛ばす。後輩職員は泣き言を言いながら、奥の部屋へ走って行った。


 一連の対応に、俺はただ茫然と立ち尽くす。本物と信じて貰えたのは良いが、あの後輩職員は大丈夫なのだろうか?


 まあ、魔法なりポーションなりで回復は可能なはず。すぐに治療して貰える事を祈りながら、俺は彼女の背中を見送った。


「ソリッド様、うちの新人が申し訳ありません。後ほど、キッチリと教育させて頂きます。もしご要望でしたら、ハードモードやヘルモードの折檻も付け加えさせて頂きます」


「い、いや……。別に折檻等は不要だ。俺は何も気にしていないしな……」


 ハードモードやヘルモードって何だ? 何となく、とても危ないものだとは理解出来るのだが……。


 俺はニコニコと笑顔な、この先輩職員に戦慄を覚える。きっと彼女は、怒らせてはいけないタイプの人種なのだろう。


 彼女はカウンターから出てくると、すっと手をかざし、俺を奥の部屋へと案内し始めた。


「それでは、応接間にて要件をお伺いさせて頂きます。ギルドマスターも顔を出すと思いますので、ゆっくりと御くつろぎ下さい」


「そ、そうか……。では、案内をよろしく頼む……」


 ギルドマスターが、わざわざ顔を出すのか? というか、それでくつろげと言われてもな……。


 俺は僅かな緊張感を感じる。しかし、先輩職員が歩き出した為、それ以上は何も言わずに付き従った。ただ、不意に背後から、こんな囁き声が届いて来た……。


「おい、あいつヤバくねぇ……。新人が粗相したからって、普通指を折るか……?」


「ああ、全身黒ずくめで、根暗っぽいしな……。絶対にアレは危険人物だって……」


「しかも、アサシンだろ……。気に入らない奴は、暗殺しまくってそうだよな……」


 待ってくれ。指を折ったのは俺じゃない。そこは俺のせいにしないで欲しい。


 とはいえ、それ以外は良くある風評被害である。どこに行っても付きまとう、俺に対する初見の印象と言うやつだ。


 俺は内心でこっそりと溜息を吐く。そして、誰にも聞こえない様に小さく囁いた。


「だから、目立ちたくないんだ……」


 しかも、今回は勇者パーティ『ホープレイ』の所属と知られた上である。その上で、悪評を広める結果になってしまった。


 俺が傍にいたら、こんな感じで勇者の名声に傷が付く。そうならない為にも、少しでも早くパーティーから離れたいのけどな……。


「パーティーは解散出来ない……。なら、どうにかして、俺を追放させれないかな……?」


 難しいだろうが、それしか手は無いと思われる。俺はそんな事を考えながら、ギルドの中を歩き続けた。

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