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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第三章(裏) 魔族の姫と根暗アサシン
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チェルシー、六歳の記憶

 あーしは王都の実家で勉強の日々を送っていた。あーしが立派な魔王になれる様にって、むっちゃんが家庭教師をしてくれる事になったんだよね。


 ただ、今のあーしはむっちゃんの前で正座している。床に額を付けながら、言い訳せずに謝った。


「ごめんなさい。夜に宿題しようとしたら、気付いたら寝てました」


「またですか……。だから夜の勉強は止めるように言いましたよね?」


 むっちゃんの呆れた声が頭上から届く。恐らくはいつもみたいに、やれやれと肩を竦めているんだと思う。


 そして、あーしが土下座を続けていると、背後の人達の動く気配がした。あーしの事を取り囲むと、むっちゃんへと抗議し始めた。


「キング、姫ちゃんは悪くねぇ! 叱るなら、俺達を叱ってくれ!」


「そうだぜ! 俺達と遊ぶために、姫ちゃんは夜に勉強してんだ!」


 この声はマークとミックだ。あーしと超仲良しのインキュバス。むっちゃんの部下らしいけど、いつもあーしの味方をしてくれる。


「ねえ、キング。わかってるんでしょ? 姫ちゃんは悪くないって」


「そうよね。こんな小さな子に、沢山の勉強を詰め込み過ぎなのよ」


 この声は、マヤ姉とイズ姉だ。あーしと超仲良しのサキュバス。こっちもむっちゃんの部下だけど、いつもあーしの味方をしてくれる。


 むっちゃんは部下たちの抗議に大きく息を吐く。そして、厳しい口調でこう告げた。


「ええ、姫様は悪くありません。悪いのは姫様を誑かす、あなた達四人ですからね」


「「「「…………何のことですかね?」」」」


 四人はいつも通りにとぼけ始めた。見なくてもわかる。こう言われて、視線を逸らす姿をいつも見てるからね。


 再び大きな息を吐くむっちゃん。そして、あーしの手を引いて立ち上がらせると、四人を睨みながらこう呟く。


「余り悪影響ばかり与えるなら、貴方達をブルームシティに送り返しますよ?」


「「「「断固として拒否する!!!」」」」


 むっちゃんに対して、キッパリと拒否の意思を示す四人。彼等はむっちゃんの部下のはずなんだけど、何故だかむっちゃんの言う事をいつも聞かない。


 それどころか、この話をするといきり立って、いつもむっちゃんに食って掛かってる。


「姫ちゃんはウチらの命なんで。キングの言う事でも聞けねぇっすね!」


「俺たちゃ姫ちゃんの親衛隊だぜ? 姫ちゃんの傍を離れる気ねぇから」


「無理矢理引き離すなら辞表出します。姫ちゃん家でメイドしますんで」


「良いねそれ! いっそウチら全員で、姫ちゃん家に再就職しよっか!」


 ワイワイと盛り上がる四人。視線をむっちゃんに移すと、頭を抱えて溜息を吐いていた。


 ここ最近、むっちゃんは溜息が多いな。あーしのせいもあるんだけど、苦労がとっても多いみたい。


「何でインキュバス、サキュバスが揃って、姫様に魅了されてるんですか? こんな謀反は、まったくもって想定外です……」


「そ、そうだよね……。うん、喧嘩は良くない! みんなで仲良くしよ?」


「「「「だよね、姫ちゃん! 姫ちゃんはいつも良い事言うなぁ!」」」」


 四人があーしを囲んでちやほやし始める。それを見つめるむっちゃんは、やはり溜息をついていた。


 ただ、今日は何か様子がおかしい気がする。いつもなら続く小言が無く、何やら真剣な眼差しで私を見つめていた。


「……やはり、賢者路線は諦めるべきか?」


「「「「……え?」」」」


 むっちゃんの異変に気付いたらしく、四人が顔を見合わせる。彼等は恐る恐る、むちゃんの様子を伺っていた。


 しかし、むっちゃんは彼等の視線を無視する。あーしだけを真っすぐに見つめながら、あーしに対してこう問い掛けてきた。


「姫様は映画館を御存じですか? 我々が運営している娯楽施設の一つなのですが」


「うん、知ってる! 勇者様とシェリル様の映画を見た事があるよ!」


 急だったけど、映画の話題に嬉しくなる。映画館は私達の住む首都と、ブルームシティの二か所にある。あーしは何度か行ったけど、本当に面白かった。


 その映画について話をするのかな? そう思ってたんだけど、むっちゃんの話は思ったのとは違うものだった。


「姫様は人並み外れた感性。そして、多くを魅了する笑顔こそが長所でしょう。ならばそれを生かすためにも、女優の道も有りかもしれないですね」


「……女優?」


 それってあの映画で映っていた女の人のことだよね? つまり、あーしがシェリル様の役を演じるってことなのかな?


 それって、とっても面白そう! 映画の中でなら、あーしもシェリル様みたいになれるかも!


 私はワクワクして、仲良しの皆に笑みを向けた。すると、皆は互いに相手を指さしながら、声を揃えてこう言った。


「「「「その発想は無かった。キング、マジ天才じゃね?」」」」


 どうやら皆も賛成みたいだった。ノリノリな感じでテンションを上げている。


 それもそのはず。彼等は夢の国から来た魔族。歌に踊りにメイクに着付け。それらエンターテイメントを扱うプロ達だからね。


 これまでは護衛&友達という立場だったけど、これからは一緒に映画を作る仲間。皆の才能がこれまで以上に発揮できるのだ。


「姫ちゃん、マジ頼りにしてくれよな? ウチらの本気見せっからよ」


「キレッキレのダンス仕込んでやるぜ? 皆の度肝抜いてやろうぜ!」


「姫ちゃんに何着せよっかな? 可愛いのも綺麗なのも似合いそう!」


「それよりメイクよ! 大人っぽい姫ちゃんもキュンってなりそう!」


 いつも楽しそうな四人だけど、今日はいつも以上に楽しそうにしている。その姿を見ているだけで、あーしも思わず笑顔になっちゃう!


 そして、あーし達がテンションを上げていく中、むっちゃんは苦笑しながら、あーしの頭を撫でて来た。


「これまで遊んでいた時間は、演技や踊りの練習ですよ。それと、我が王に相応しい教養も必要です。量は減らしますが、勉強は続けますからね?」


「うん、わかった! 大変だけど、あーし頑張るからね!」


 みんなで一緒に頑張るって楽しい! 大変かもだけど、それでもやってみたいって思える!


 あーしはむっちゃんに抱き着き、そして顔を上げて笑顔を向ける。そんなあーしに対して、むっちゃんも笑顔を返してくれた。


 その笑顔はあの庭園で見た、造りものとは違っていた。むっちゃんの本物の笑顔だった。


 いつも苦労してるけど、それでも退屈な姿を見る事は無い。きっと、むっちゃんも今という時間を楽しんでいるんだろう。


 あーしは幸せだった。大好きな皆に囲まれて、楽しい時間を過ごしている。あーしにとって世界は、幸せで溢れかえる場所だったんだ。

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