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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第三章 根暗アサシンと魔族の姫
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ヴァイオレットの提案

 ヴァイオレットの説明で、チェルシー姫の立場がわかった。全魔族の期待を背負い、それを叶えたいと彼女は願っている。しかし、今回の戦争によって実現が難しくなった。


 そして、その状況を変える為に、俺を勇者として仕立て上げた。『ノアの書』の物語をなぞり、黒目黒髪の勇者を再現させたのである。多くの魔族は期待によって、戦後の悪感情を抑えられるだろうとの計算である。


「……しかし、魔族側は良いとして、人族側はどする? 俺がチェルシー姫に協力しようとも、多くの人族にとっては関係無いはずだが?」


 何せ俺は人族に名が知られていない。それどころか、一部から黒目黒髪が原因で疎まれている。非協力的な人間が現れてもおかしくない。


 しかし、その疑問を予想していたのだろう。待ってましたとばかりに、ヴァイオレットは指を弾いた。


「勿論、その辺りも考えています。ソリッドが姫様に協力頂ければ、付随する協力者がいるでしょう?」


「……まさか?」


 俺とヴァイオレットの視線が横に向かう。その視線の先には、パッフェルの姿があった。


 パッフェルはその意図を理解して、むすっと顔を顰める。しかし、彼女が口を開くより早く、ヴァイオレットが待ったをかける。


「待ってください、パッフェル。私達は貴女を、一方的に利用しようと考えている訳ではありません。これは利害の一致なのです。きっと、貴方なら納得してくれるはずです」


「利害の一致? それって、どういう事かしら?」


 ヴァイオレットの説明に、パッフェルはスッと目を細める。不機嫌さは隠して、話を聞く姿勢になった。


 恐らくは、『利害の一致』という言葉が効いたのだ。お金の交渉をする時のパッフェルは、良くあんな顔をしているからな。


「パッフェルは誰よりも貪欲に力を求めています。そして、実際にこの戦争で、誰よりも地位と権力を獲得した。今の貴女はパール王国の国王よりも、多くの人族に敬われています」


「…………」


 ……え? ちょっと待ってくれ。ウチの妹って、王様より偉いのか?


 パッフェルも否定しないし、チェルシー姫も当然と言う顔をしている。その事実を知らなかったのは、俺だけなのだろうか……。


「では、その力は何の為に求めたのでしょう? その力を使って、何を成し遂げたいのでしょうか? 貴女が描く夢と、チェルシー姫の描く夢は、重なるものだと思いませんか?」


「……それで? 貴方達は何をする気なの?」


 パッフェルは冷たく問いかける。しかし、今の言葉には感情の揺らぎが見られた。彼女の夢が何かは知らないが、それを知られた事が動揺を誘ったらしい。


 ただ、パッフェルの問いは、先程よりも協力姿勢を見せるものであった。ヴァイオレットは気を良くしたようで、ニコリと笑みを浮かべて爆弾発言を行う。


「言いましたよね? 『ノアの書』の物語を再現したと。ならば、その後に求めるもの――それは、姫様とソリッドの結婚です」


「――アァ⁉」



 ――ヤバイ! パッフェルが切れた!



 戦場でたまにあった、発作的な奴である。下手をしたら、この場で精霊魔法を放ちかねない。ここが地下室であり、埋没するとかも関係ない。後先関係なくぶっ放す奴である。


 咄嗟にパッフェルを抑えようとするが、ヴァイオレットが手で制してくる。彼は余裕のある笑みを浮かべ、パッフェルに対してこう告げた。


「そして、こうも言いましたよね? これは利害の一致だと。パッフェルの望みも叶える計画なのですが……。ここで話してしまっても宜しいでしょうか?」


「……おい、紫野郎。テメェちょっと面貸せや」


 意外な事に、パッフェルは魔法を放たなかった。ヴァイオレットを引き連れて、VIPルームから外へと出て行ってしまう。


 メチャクチャがらが悪かったが、アレは大丈夫なのだろうか? 俺が内心で心配していると、急にチェルシー姫が声を掛けて来た。


「多分、心配しなくても大丈夫だと思うよ? むっちゃん、凄く頭が良いから。ちゃんとパッフェルの考えをわかって、話を用意してると思うんだ」


「そうなのか……?」


 確かに戦場での彼は頼りになった。少ない情報からでも状況を把握し、常に適切な提案をしてくれた。頭が良いと言う言葉に異論はない。


 ……ただ、チェルシー姫が落ち着きが無いのは何故だろうか? 先程から視線をキョロキョロとさせ、ソワソワしながら身を揺らしている。


「……ああ、そうか。ヴァイオレットの提案は、俺とチェルシー姫の結婚だったな。実際の所、そんな事は可能なのか? それに、チェルシー姫はその提案をどう考えている?」


 普通に考えれば現実的な提案ではない。仮にも彼女は一国の王女。そう簡単に平民の――それも、人間の男と結婚出来る立場ではないだろう。


 そして、チェルシー姫自身の考えがどうか窺うと、パタパタと手を振って否定的な言葉を並べ始めた。


「いやいや、むっちゃんったらマジ急過ぎだよね! 結婚ってそんな簡単にするもんじゃないっしょ? そりゃ、魔王国の皆は期待してるかもしんないよ? けど、お互いの感情とかもあるし? 上手く行かなかったら気まずいし? それも一つの手かなってくらいで、私は全然乗り気とかじゃないんだけどさ!」


「そ、そうか……」


 ……物凄く早口だった。取り合えず、チェルシー姫は乗り気では無いらしい。ならば、彼女の言う通りに一案ではあっても、実行される可能性は低いと考えるべきか。


 まあ、それも当然のことだろう。チェルシー姫程の美女が、わざわざ俺を選ぶ理由が無い。国の為に仕方なくならともかく、今はそんな追い詰められた状況でもない。


 俺はヴァイオレットの戯言だった割り切る事にした。俺でも結婚できるのかという、淡い希望が打ち砕かれた事はそっと忘れる事にした……。


「あ、それと何だけど……」


「ん……?」


 何やら赤い顔で、チェルシー姫がモジモジしている。上目遣いにチラリラと様子をうかがい、言いにくそうに口を開いた。


「魔王国ってさ、人族の国と色々と違ってさ……。一夫一妻制でも無いし、親兄妹でも結婚出来たりさ……。魔王とかの権力者なら、わりとやりたい放題だったりするわけなの……」


「ふむ、そうなのか……」


 どうしてチェルシー姫は、急にそんな話を始めたのだろう? 彼女の父親が魔王な訳だが、割と問題のある親なのだろうか?


 いや、確かチェルシー姫は魔族の期待する救世主。将来は彼女が魔王という立場に立つ可能性があるはず……。


 まさか、チェルシー姫にはハーレム願望があるのか? 先程の提案は、その末席に俺を置くと言う提案だったりするのだろうか? それは俺的にアリなのだろうか?


 俺が内心でモヤモヤしながら悩んでいると、不意に背後の扉が開く音がした。そして、戻って来たパッフェルは、一緒に入って来たヴァイオレットにこう告げていた。


「良い? これは利害の一致だからね。それと、約束は必ず守って貰うから」


「ええ、勿論ですとも。私は約束を破りません。共に協力して行きましょう」


 戻って来たパッフェルは、スッキリした表情だった。どうやら、ヴァイオレットとの交渉は、彼女にとって悪い内容では無かったらしい。


 そして、何故かその姿に、チェルシー姫が顔を輝かせた。いそいそとパッフェルに駆け寄ると、魔導デバイスをパッフェルに掲げて見せる。


「ねえ、パッフェル! もう私達は親友マブだよね? 連絡先の交換しとかない?」


「そうね。交換しときましょうか。今後は連絡する機会も増えるでしょうし」


 何故かヴァイオレットとの交渉の結果、パッフェルとチェルシー姫が仲良くなった。交渉の内容が非常に気になるのだが……。


 俺はヴァイオレットに視線を送る。しかし、彼は人差し指を口元に当て、秘密とばかりにウインクを送ってくる。どうやら、俺には教えられない内容らしい。


「ふむ、それにしても……」


 パッフェルとの連絡先交換に、ヴァイオレットも混ざりだした。三人で仲良く連絡先を交換している。


 仲間外れにされたみたいで少し寂しい。魔導デバイスの購入を、やはり本気で検討すべきかもしれない……。

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