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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第三章 根暗アサシンと魔族の姫
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ザ・ムービー

 パーティー気分の皆さんにはお引き取り願った。あんなアゲアゲのテンションでは、まとに会話も出来ないからである。


 俺はぞろぞろと部屋から出ていく夢魔族を見送る。すると、隣でヴァイオレットが残念そうに呟いた。


「おかしいですね……。私の店に遠征してくる人間は、大抵がアレを喜ぶのですが……」


「あれっしょ? 成金商人とか、羽目外したい貴族とか? 見てると超ウケるよね!」


 チェルシー姫は楽しそうにケラケラと笑っている。何が楽しいのかはわからないが、とにかくフランクな人柄だけは理解出来た。


 そして、料理も酒も下げられたテーブルには、軽く摘まめるお菓子にジュース。それらを手にしながら、俺達は何故か雑談を始める事になった。


「ソリッドとパッフェルの武勇伝は聞いてるよ! 人族の中でトップの冒険者なんでしょ!」


「……まあ、そうだな。S級の冒険者は、俺達『ホープレイ』のメンバー以外にいないしな」


 謙遜すべきか悩んだが、俺は素直に事実を告げた。何となくだが、そうすべきだと勘が告げたのだ。その方がチェルシー姫は喜ぶだろうと。


 そして、その感は正しかったのか、チェルシー姫は笑みを浮かべる。キラキラした瞳で、俺達に問いかけてくる。


「そんで、神竜まで倒したんでしょ! マジ、ヤバいよね! あれ倒せるとか神じゃね?」


「ええ、私も同意見ですね。神獣を倒せる存在となると、三魔神以外に思いつきませんし」


 チェルシー姫に同意し、ヴァイオレットが誇らしげに頷いていた。どうして彼が胸を張っているかは謎である。


 まあ、それは良いとして、三魔神とは何だろうな? 魔族には神獣を倒せる存在が居るのだろうか?


 俺は疑問に思いながらも問い掛けることはない。何故ならば、黒い小枝みたいなお菓子を口にしているからだ。


 恐らくこれは、チョコレートと呼ばれる菓子である。初めて口にしたのだが、これが甘くて凄く美味しいのだ……。


「けど、ソリッドと言えば、やっぱアレだよね? クライマックスの『月下の刃』!」


「『月下の刃』? それって何なの?」


 パッフェルがチェルシー姫に問い掛けている。先程よりは警戒も溶けたらしく、砕けた雰囲気になっていた。


 ちなみに、パッフェルは桃のジュースが気に入ったらしい。ドロリとした触感で、とても甘いジュースである。俺には甘すぎたが、彼女はずっとそればかり口にしていた。


「あ~、人間の領地じゃ上映してないよね? 最近、魔族の国で流行ってる映画があってね。それが、超クールでイケてるの!」


「へえ、映画か……。人族の国には映画館が無いからね。どういう物か、前から興味はあったのよね」


 パッフェルの瞳がギラリと光る。アレは金について考えている時の顔だ。何かしら金の匂いを感じ取ったのだろう。


 まあ、俺には余り興味の無い話である。俺は一人で静かに、小枝を口に運び続けた。


「それでは、少し見てみますか? 私物のアーティファクトで、録画した映像をお見せする事が出来ますが」


「――ア、アーティファクト! 見たい見たい! アーティファクトも、その映画も!」


 パッフェルがとても興奮していた。だが、それも仕方が無い事である。アーティファクトとは古代文明の遺産。今では再現不可能な、機械文明の英知の結晶なのだから。


 壊れたアーティファクトでも歴史的な価値があり、今でも動くとなると金貨千枚は軽く飛ぶ。下手な宝石等よりも、よっぽと価値を持つのがアーティファクトという代物だ。


 ……ちなみに、パッフェルも一つだけ持っている。俺のベッドに寝転びながら、俺を眺め続ける『遠見の水晶』がそれだったりする。


「全て上映すると長くなりますからね。クライマックスシーンだけにしておきましょう」


「そ、それがアーティファクトなのね! 一体、これにはどれ程の価値があるのか……」


 パッフェルの目が金貨になっている。アーティファクトを見て、その金額を計算しているのだろう。それは良くある頃なので、特に気にする必要は無いだろう。


 それよりも、この菓子はこの街で買えるのだろうか? この店で扱っている以上、仕入れルートはあるはずだよな? 帰りにでもお店の場所を聞いてみるか……。



 ――フッ……



 映画の上映の為なのだろう。部屋の明かりが急に消えた。そして、テーブルに置かれて四角い箱から、壁に向かって光が伸びる。


 それは壁に当たると映像を映し出す。菓子が食べづらくなったので、俺も渋々その映画を見る事にした。


『――動くな。大人しくしていれば、危害を加える気は無い』


「……ん?」


 そこは薄暗い寝室であった。月明かりのみが室内を照らし、天幕付きのベッドが映し出されている。


 そして、そのアングルがスライドする。すると、ベッドの傍に立つ、黒装束の男が画面に映った。その手にはナイフが握られており、就寝中の人物の喉元を狙っていた。


『何者だ? 我が寝室へ潜り込む等、只者では無いな?』


『……俺は『影の勇者』。それだけ言えば十分だろう?』


 ん? んんん? 何となく、見覚えのある光景な気が……。


 いや、とぼけるのはよそう。アレって俺じゃないか? どうしてあの時の映像が残っている?


 それに、セリフが少しおかしい。あの時の俺は『影の勇者』ではなく、『勇者の影』と名乗ったはずなのだが……。


『勇者よ。貴様の要求は何だ? 危険を冒してまで、我が元へ来た理由は?』


『……この愚かな戦争を終わりにしろ。これ以上の血は、流すべきではない』


 いや、『勇者よ』なんて言われていない。どうして俺が勇者みたいになっている?


 俺はあくまでも『勇者アレックス』の仲間の一人。それも陰に徹して、裏方を担当していた存在である。俺を勇者と思っている人など、居るはずが無いのだが……。


『ふっ、何と剛毅な男よ……。自らの命も顧みず、平和の為に戦うとはな……』


『……それで、答えは? 俺はこれ以上、この刃を血で染めたくはないのだ!』


 あれ? こんな会話だっただろうか? もっとこう、『お前は馬鹿なのか?』って感じだった様な……。


 俺は認識の違いに首を捻る。ただ、目の前に証拠映像があるので、そちらが真実だったのではと錯覚し始める自分もいる。


 何かがおかしいと唸っていると、映像内ではベッド上の人物が高笑いを始めた。


「ふははは! よかろう、勇者よ! その勇気に免じて、我が軍は負けを認めよう! すぐにても、この戦争を終わらせようじゃないか!」


「……その言葉を信じて良いのだな?」


 あの時は確か、高笑いとかしてなかった気が……。夜中だったし、もっと静かに会話してたはずなのだが……。


 というか、あんな高笑いされたら警備兵が飛んでくる。こんな感じで、会話を続けられるはずがないよな?


 俺は何を見せられているのだろうか? そう混乱する俺だったが、場面は終わりに向かい始める。


『無論、我は必ず約束を果たす。我が名――魔王ベリオールの名に賭けて誓おうではないか!』


「……よかろう。お前のその言葉、信じるとしよう」


 そういうと、画面の俺がスッと身を引く。月明かりが入り込む窓を開くと、俺はそこから夜の闇へと溶け消えていった。


 そして、壁に映された映像が消え、部屋には明かりが戻った。ニコニコ顔のチェルシー姫は、ヴァイオレットに向かって興奮しながら語り掛ける。


「マジ、クールじゃね! あり得ないっしょ! あんなカッケェシーン、普通は無理だって!」


「ええ、その通りですとも。流石は我が友ソリッド。彼こそが真の勇者と言う事なのでしょう」


 いや、ちょっと待って欲しい。色々と理解が追い付いていなのだ……。


 そして、パッフェルがまた凄い顔で俺を睨んでいる。単身で魔王城に乗り込んだのは、仲間達に秘密にしてたからな。バレて怒られるのは覚悟していた。


 ただ、あの映像は何かちょっとおかしい。映っていたのは俺だし、あの場所も魔王ベリオールの寝室そのもの。だけど、セリフの所々が俺の記憶と違っているのだ。


 ちなみに、俺を手引きして、侵入に協力したのはヴァイオレットだ。その彼があの映像を持っていることに、微かな疑問が無い訳ではない。


 しかし、彼が俺を勇者に仕立てる理由が思いつかない。過去の事実を改変することだって出来るはずがない。


 ならば、俺が何か勘違いをしているのだろう。俺にはそれ以外の答えを、見出す事が出来なかった。


 そして、説明を求めるパッフェルの視線に対し、俺は静かに目を逸らす事しか出来なかった……。

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