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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第二章(裏) 根暗アサシンの妹の過去
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根暗アサシンの妹

 ゆさゆさと体が揺さぶられる。そして、耳元で囁かれる声に、私の意識が覚醒を始めた。


「――フェル。起きろ、パッフェル」


 ぼんやりとした思考のまま、私はゆっくりと目を開く。目の前には鎧姿の騎士が座り、困った表情をこちらに向けていた。


 そして、横に視線を向けると、そこにはソリッドの顔。息のかかる程の距離に、私は思わず固まってしまう。


「王城に着いたぞ。一人で降りられるか?」


 ソリッドの言葉でようやく気付く。ここは既に王都である。そして、今の私達は騎士団が管理する竜舎の傍にいるのだと。


 視線を下ろすとドラゴンの赤い鱗が見える。更に視線を逸らすと、地面までは少しばかり距離がある。私は迷うことなく、ソリッドへと両手を広げて見せた。


「……やれやれ。仕方が無いな」


 ソリッドは私をお姫様抱っこで抱き上げる。そして、ドラゴンの背を蹴り、軽やかに地面へ降り立った。


 私は優しく下ろされて、地面にしっかり足を付ける。すぐ傍にいるソリッドを見上げると、満面の笑みでお礼を告げた。


「ありがとう、ソリッド!」


「この程度はいつもの事だ」


 素っ気ない態度で、いつもの無表情。ただ、ポンと頭に手を置かれ、彼の温かさをしっかりと感じる。


 何でも出来るのに不器用で、気遣いが出来るのに感情を示すのが苦手。そんな私の最愛の人は、見ているだけで私を幸せな気持ちにさせてくれた。


「パッフェル様! それでは、ここで失礼させて頂きます!」


 声を掛けられ、私は背後に視線を向ける。そこには送り迎えをしてくれた、竜騎士隊の小隊長さんが立っていた。そして、彼は私に対して、姿勢正して敬礼をしていた。


 確か彼の名前はレオン=ハルバートと名乗っていた。私は縁を大切にしろという、村長の教えを実践することにした。


「ありがとう、レオンさん。また何かあれば宜しくお願いします」


 私はそっと彼の手を取り握り締める。そして、ニコリと彼に微笑みかけた。


 私は軍関係者に恐れられている事を知っている。けれど、私は自分の顔立ちが幼く、可愛いらしい事も自覚している。


 噂だけしか知らず、それで恐れる者には有効なのだ。私が優しく微笑めば、大半の男性はころりと落ちる。彼等は噂が嘘であったと思い込み、後は私の支援者となるのだ。


「――は、はい! 困った事があれば、いつでもお声掛けを! このレオン=ハルバールは、いつでもパッフェル様の元へと駆け付けますので!」


 顔を真っ赤にする青年騎士。私は小さく手を振って、彼に対して別れを告げた。純情そうな彼の態度に、内心でニンマリと笑みを浮かべていた。


 そして、私とソリッドは城門を目指して歩く。敬礼を続ける騎士が見えなくなる頃、私はソリッドに対して問い掛けた。


「そういえば、少し前にギルドで依頼を受けたでしょ? 懐かしい相手に驚いたんじゃない?」


「懐かしい相手? 見知った顔は居なかったが?」


 私はピタリと足を止める。それに合わせてソリッドも立ち止まる。


 不思議そうに私を見つめるソリッド。私は首を捻りながら、ソリッドへと改めて問い掛ける。


「新人達の面倒見てたでしょ? あれってギルドマスターからの依頼だったんだよね?」


「ああ、そうだ。だが、それがどうかしたのか?」


 これは、どういうことだろうか? どうしてソリッドは、不思議そうにしているのだろう?


 私はポケットから魔導デバイスを取り出す。その場で待つ様にソリッドへ告げると、私は距離を取って電話を掛けた。


「……もしもし、パッフェルだけど。この前、ソリッドと会ったんだよね?」


『よう、パッフェル! 指名依頼のことだな? それがどうかしたのか?』


 魔導デバイスから陽気な声が聞こえてくる。通話の相手はハーゲン=ダッツ。この王都の冒険者ギルドを取り仕切るギルドマスターである。


「どうして、ソリッドがハーゲンの事に気付いてないの? 久々の再開なのに名乗らなかったの?」


『べ、別に名乗る必要ないだろ? そもそも、ブートシティでも殆ど絡んでなかった訳だしよ……』


 ん? ブートシティでも絡んでない? ソリッドが新人の時から見守っていたのに?


 ハーゲンは何を言っているのだろう? 私は理解出来ずに混乱し始める……。


「ずっと支援してくれてたよね? 逆に私はハーゲン以外の職員と接点無くらいなんだけど? どうして、ソリッドには絡んでないのよ?」


『どうしても何も……。その、恥ずかしいだろ……? お前の事が気になってるなんて、言える訳ねぇじゃねえか……』



 ――乙女かっ……?!



 いかつい顔したおっさんが。それも、禿たマッチョのおっさんがである。恥ずかしくて名乗れないって何なの!


「ねえ、馬鹿なの? 恥ずかしいってなに? 自分の顔を鏡で見なよ?」


『ちょっ、なんで唐突の罵倒っ……?! いくら何でも酷くねえか!』


 不満げなクレームが聞こえるが、そんな抗議は受け付ける気が無い。私は痛む頭を抱えながら、とりあえず一つだけ確認をする。


「それで、ソリッドに伝えて良いの? ハーゲンが昔から知り合いだってこと。私としては変な口裏合わせとか、したくないんだけど?」


『おい、止めろって! 別に言う必要ねえだろ? 俺は遠くから見てるだけで良いんだ。今後もこれまで通り、裏で支え続けるからよ?』



 ――ああ、もう面倒くさい! 何なのよ、このハゲは!



 これ以上の会話は、私の精神衛生上よろしくない。そう判断した私は、無言で通話を終了させた。


「はあ、無駄に疲れた……」


 私は魔道デバイスをポケットに入れる。呼び出しで振動しているが、それには気付かないフリをする。


 そして、ソリッドは戻って来た私に、困惑した様子を見せていた。そして、聞くべきか悩んだ後に、躊躇いがちに問い掛けて来た。


「その、罵倒する声が聞こえてな……。相手は誰だったんだ?」


「気にしなくて良いよ。少しばかり仲良しな、只の乙女だから」


 ソリッドは何とも言えない表情を浮かべている。ただ、問題無いと判断したのか、私に向かって静かに頷いた。


 私は小さく息を吐き、それで気持ちを切り替える。ハーゲンの嫌な一面を見たが、それでも彼は有能なのだ。これからも頑張って貰わねばならない。


 冒険者としての私も、宮廷魔導士としての私も、貴族としての私も、大富豪としての私も、その全てはソリッドの為にあるのだ。


 多少の苦労なんて、どうってことはない。それがソリッドのためになるなら、私はこれまで通りに何でもやるだけである。


「……ふむ、そろそろ日が暮れるな」


「ああ、もうそんな時間なんだ……」


 ソリッドの言葉で空を見上げる。空が茜色に染まりだし、夜が近いことを示していた。


 私とソリッドは並んで歩く。城下町を歩きながら、私はソリッドと腕を絡めた。


「夕食はソリッドの手作りが良いな~」


「……ふむ。なら、まずは買い物だな」


 私はソリッドに甘え、ソリッドは私を甘やかす。ソリッドにとって私は、可愛い妹でしかないのだろう。それでも私は、この時間を愛おしく感じているのだ。


 願わくばこの時間が、永遠に続きますように……。そう願いながら、私はソリッドと共に、歩み続けるのであった。

これにて第二章(裏)が終了となります。

ただし、第三章も引き続きよろしくお願いします。


少しでも面白いと思って頂けましたら、

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