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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第二章(裏) 根暗アサシンの妹の過去
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パッフェル、十六歳の記憶(前編)

 ソリッドが十五歳、私が十三歳の頃に、魔王軍の侵略が激化した。そして、勇者であるアレックスお兄ちゃんを中心とした特殊部隊が設立される事となる。


 けれど、私にとってそれはどうでも良いこと。軍事面はお兄ちゃんと聖女ローラが中心である。私とソリッドは時々、作戦に協力する程度であったからだ。


 ただ、お兄ちゃんの発案で、私達は冒険者パーティーを再編成する事になった。それが勇者アレックスをリーダとしたパーティー。



 ――『ホープレイ』の結成である。



 構成メンバーは勇者アレックス、聖女ローラ、魔導士パッフェル、暗殺者ソリッドの四人。お兄ちゃんとローラは特例として、B級冒険者からのスタートを許可された。


 そして、名前の由来は『人々にとって希望の光となる』こと。勇者と聖女が加わった事で、私達自身の目的の為でなく、人々の為に活動するパーティーとなったのだ。


 なお、私達は軍事行動に伴って、各地の激戦区へと移動する。冒険者活動はその片手間。そして、活動の大半は軍事行動に参加しない、私とソリッドの二人で行っていた。


 ただ、激戦区への転戦は、ある意味で冒険者活動にも利点もあった。他のパーティーが手を出せず、困っていた問題を多く受ける事が出来たからだ。


 冒険者活動は私とソリッドが居れば問題無く対処出来る。私が十六歳になる頃には、『ホープレイ』の全メンバーがA級冒険者へと昇格していた。


「そう、A級冒険者なんだよね。私達って……」


 ソリッドの背中を見つめながら、私は一人でポツリと呟く。ソリッドは依頼主の村長を前に、依頼の報告を行っている。村長は泣きながら、ソリッドへ感謝の言葉を告げていた。


「ありがとうございます! これで村は救われました! 大した謝礼は出来ませんが……」


「――謝礼は不要。俺は『勇者の影』。動けない勇者に代わり、手を貸したに過ぎん……」


 いつも通りのやり取り。村の近くに縄張りを作った魔獣の討伐。魔獣の強さに対して、余りに報酬が安すぎて、誰にも受けて貰えなかった依頼である。


 ソリッドはそういう依頼を率先して受ける。それも、冒険者ギルドを通さず、こっそりと解決してしまう。私も付き合って、その慈善活動に参加していた。


「ありがとうございます! それではせめて、お名前だけでも……」


「名乗る程の者ではない。『勇者の影』とでも覚えて貰えれば良い」


 ソリッドはそう伝えると、すっと村長に背を向けた。そして、村の出口に向かって歩いて行く。私はそんなソリッドに対して、先に行ってと告げて残る。


 その場に残ったのは私と村長の二人。村長はずっと黙っていた私に対して、不思議そうな眼差しを向けていた。


 私はにこりと営業スマイルを浮かべる。そして、村長に対して挨拶を行う。


「私はパッフェル=アマン。勇者アレックスの妹です。そして、先程の彼も私の兄であり、ソリッド=アマンと言います」


「なんとっ?! それではお二人とも、勇者様のご兄弟だったのですか!」


 村長が驚きの声を上げる。私はその反応に満足して頷いた。


 ソリッドは何故か名前を名乗りたがらない。しかし、挨拶はコミュニケーションの基本。そう村長から教わっている。相手に名前をしっかり名乗り、きちんと名前を憶えて貰わないとね。


 そして、ここからが本題である。私は村長に対してビジネスを開始する。


「この村は大変そうですね。町からは離れていて、森からは近いです。今回みたいに魔獣が出る度に困らないですか?」


「ええ、まあ……。寂れた村ですので、仕方が無いことですが……」


 村を見ても、田畑はあるが広くはない。広げたくても魔獣の対処が出来ず、森を切り開くことも出来ないのだろう。


 それになにより、今回みたいな魔獣への対処が出来ない。縄張り争いに負けた魔獣が畑に被害を出しても、ただ見ている事しか出来ないのである。


「もし宜しければ、私の店を配置しましょうか? 場所を提供頂ければ、互いにとって大きなメリットとなるはずですよ?」


「パッフェル様のお店ですか? それは一体、どのようなもので……」


 不安そうな表情で問い掛ける村長。今の彼は立場が弱く、私に付け込まれるのを恐れているのだろう。


 ただ、私は村長の恐れる様なビジネスを考えていたりしない。長く付き合って行くには、お互いがWin-Winで無ければならないからだ。


「基本は雑貨屋と思って下さい。ただ、店員はベテラン行商人のハーフリング族。村人に迎える訳ではなく、ただ出張店が置かれるとお考え下さい」


「出張店、ですか……?」


 村長が怪訝そうに首を捻っている。ハーフリング族に対しては、時々は立ち寄る者がいるだろうし問題無いだろう。


 ちなみに、このハーフリング族は村長から紹介された伝手である。私は行商人ネットワークを使い、全てのハーフリング族に依頼を流せる立場となっていた。


 国を持たず、行商せざるを得ないハーフリング族は、その多くが自らの店を持つ事を夢見ている。この時の私はオーナーとして、彼等に店舗と資金を与える立場でもあったのだ。


 そして、私は主張店がイメージできない村長に、丁寧な説明を続ける。ここにまた、一つの行商団の夢を叶えてあげるためである。


「私のお店は王都に本店があります。そこで仕入れを一元管理し、必要となる商品を各店舗へと配送しているのです。まあ、かみ砕いで言えば、村の出張店に依頼頂ければ、王都で扱うどんな商品でも、安く手に入るとお考え下さい」


「ほ、ほぉ……? それは凄いですな……」


 村長の目の色が変わり始める。明確なメリットが見えた事で、彼の心が動き始めたのだ。こういう小さな村では、欲しい物が手に入らないなんてザラだろうしね。


 私はそんな村長の感情を察知し、内心でニンマリと笑う。わかりやすい彼に対して、更なる追い打ちをかける。


「更には店員は旅慣れた者達です。いずれも魔獣との戦いに慣れ、今回程度の魔獣なら、簡単に追い払ってしまうでしょう。それは当然、店を守る意味もあります。それで村からお金を取ったりはしません」


「ほ、本当ですか? タダで魔獣を追い払って貰えるのですか?」


 村長の目が大きく開かれる。この村の運営において、一番の懸念事項が魔獣だ。それが無償で解決するなら、これ程魅力的な提案は無いだろう。


 そして、これが最後の仕上げである。どの村でも最後に懸念される疑問に、私は先手を取って説明し始める。


「ただ、ソリッドの繋いだ縁ではありますが、これは慈善活動という訳ではありません。ここに店を置かせて貰うにあたって、一つだけお願いしたい事があります」


「お願いしたい事ですか? それは、どのようなものでしょうか?」


 村長がゴクリと喉を鳴らす。私がどれ程の要求をしてくるのかと、恐れているのが手に取るようにわかる。


 しかし、私はそんな要求を決して行わない。これは全て、お互いにとってメリットしか無い商談なのだから。


「私の店が指定する作物を育て、私の店で独占購入させて下さい。勿論、買取額には色を付けます。決して安く買い叩く真似はしません」


「え、そんな条件で……? あ、いや……。それは、領主様の許可を得なければ難しいかと……」


 一瞬は喜色を示すが、村長はすぐに顔を青くする。私の提案が脱税を意味すると受け取ったのだろう。


 しかし、そこに関しても問題は無い。私は自らの胸にそっと手を置き、胸を張ってこう告げた。


「ご安心下さい。オーナーがパッフェル=アマンだと告げれば、この地の領主も拒否出来ません。これでも私は宮廷魔術師達のトップ。国王陛下より、侯爵の地位を与えられていますので」


「こ、侯爵……?! パッフェル様は、貴族様だったのですか!」


 そう、私はこの時に既に、宮廷魔術師団のトップに立っていた。そして、他の魔術師達を黙らせる為に、貴族でも上位となる侯爵の地位を与えられていた。


 その経緯としては、かつて戦場で展開された魔族の軍隊と、防衛用の砦を魔法で吹き飛ばした事にある。私の精霊魔法は非常に強力であり、加護ギフトによってワンランク昇格という効果を持つ。


 人類最高位の上級魔法を使うと、私の場合は更に上の特級魔法へ昇格する。それは軍事上、戦略級魔法とも呼ばれる。これを目の当たりにした軍上層部は慌て、国王へと危険性を進言したのだ。


 ただ、私はその展開を予想済み。アレックスお兄ちゃんの伝手で、事前にクリストフ将軍へと話を付けていた。宮廷魔術師団の団長および、侯爵の地位を用意するなら王国へ忠誠を誓うと伝えて貰ったのだ。


 そして、私は想定通りの地位を得た。その際には叙勲式も行われた。余談ではあるが、私は宮廷魔術師団の全魔術師に土下座もさせた。とても気分が良かった。


 楽しい思い出だが、私はそれらを頭から追い出す。そして、恐縮する村長に対して、そっと右手を差し出した。


「貴族と言っても、私は農村出の田舎者です。そんなに恐縮しなくて良いですよ。ただ、これから良いお付き合いをして頂ければ、私としてはそれで満足です」


「お、おぉ……! パッフェル様は、我々にとっての救いの女神だ!」


 感動した様子で手を握る村長。私は涙を浮かべる彼に対して、優しく微笑んで見せた。


 そして、内心ではガッツポーズを取る。これで十三箇所目の支店。着実にパッフェル商店はその足場を固めていた。


 まずはこの村を町へと育て、その経済の中心に私の店を置く。各地の産業を私の本店で取り纏めてかじ取りを行う。必要な流通は全て私の采配で決まる。



 ――そして、やがて私は王国の経済を支配する。



 これが私と村長の立てた計画。パッフェル=アマンが世界一の大富豪となり、ソリッドと優雅に余生を過ごす為のプランであった。

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