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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第二章(裏) 根暗アサシンの妹の過去
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パッフェル、十歳の記憶(前編)

 私はパッフェル=アマン。今年で十歳になった。そして、今日は待ちに待った花祭りの日である。


 ソリッドは冒険者として活動し、日中はほぼ家に居ない。アレックスお兄ちゃんも勇者の修行で、三年前から王都で生活している。


 私だけが家で勉強か留守番だった。家の手伝いも少しは考えたが、両親がやんわり拒否してきた。私は体力が無く、器用でも無いからね。仕方が無いと割り切っている。決して面倒だからではない。


 だけど、それも今日で終わりである。私の才能がわかれば、それを伸ばす修行が始められる。冒険者にだってなれるだろう。


 これからは、またソリッドと一緒だ。私はソリッドの隣に戻れるのである……。


「パッフェル、そろそろ始まるぞ?」


「あ、うん……。緊張してきた……」


 ブートシティの教会に集まる子供たち。私もその中の一人だが、私の隣にはソリッドが居る。事前に申請しておけば、保護者同伴が認められるからだ。


 なにせ私は体力が無い。ソリッドに負ぶって貰わないと、教会まで辿り着けない可能性があった。だから、これも仕方が無い事だと言えるだろう。


 それに、教会側からしても、私の不参加は困るはずだ。『勇者』と認定された者の妹。その鑑定結果には、王侯貴族や多くのギルドも注目しているのだから。


「パッフェルさん、前へ」


「は、はい……」


 偉そうなおじさんに呼ばれた。ソリッドの説明では事実偉いらしい。白神教の司祭であり、この地の教会管理者らしいのだ。


 私はドキドキする胸を押さえながら前に出る。そして、目の前の台に置かれた、『鑑定の水晶』へと手を触れる。


「――っ……?! こ、これは……」


 偉そうなおじさんは驚いていた。そして、水晶を凝視して、そこに表示される情報を確認する。その確認に時間が掛かり、周囲はざわつき始めていた。


 多くの注目が集まる中、私は不安で背後に振り替える。そして、そこにはソリッドが居た。いつもと変わらず落ち着いた姿で、静かに私へと頷いてみせた。



 ――きっと大丈夫。



 そう、言われた気がした。そのお陰で私は落ち着きを取り戻す。そして、再び偉そうなおじさんの方を向くと、丁度おじさんも顔を上げた所であった。


 おじさんは大きく深呼吸する。そして、会場の全員に聞こえる様に、大きな声で宣言した。


「彼女、パッフェル=アマンは『ユニーク』加護ギフトを所持している! その名は『大魔導士の才』! 火・水・土・風属性の魔法を、一つ上の階級として発動可能な能力だ!」



 ――ざわざわざわ!!!



 会場が大きくざわめいた。奇声を上げている者もいる。私は怖くなって、ソリッドの元へと駆け寄った。


 すると、ソリッドが優しく抱きしめてくれる。その抱擁に僅かに安堵すると、それを打ち消す様に偉そうなおじさんの指示が飛ぶ。


「彼女が上級魔法を習得すると、伝説の特級魔法となる可能性がある! 急いで王都の宮廷魔術師団へ連絡を! そして、魔術師ギルドの者達は、すぐさま彼女の能力を確認してくれ! ステータスもマナと魔力がかなり高い! これはかなりの結果が期待出来るはずだ!」


「「「――うおおおぉぉぉ……!!!」」」


 興奮した人々が、私の元へと押しかけてくる。その圧力に怯えていると、ソリッドが私を抱きしめ周囲へと叫ぶ。


 どうやら、魔術師ギルドの職員と交渉しているらしい。魔術師ギルドへ向かうのに、ソリッドの動向が認められた。その事に私は再び安堵する。


 そして、私はソリッドと手を握りながら、魔術師ギルドへと向かった。そして、演習場と呼ばれる広場に案内されると、多くの職員が見守る中で講義が開始された。


「さて、それではまず水の初級魔術から始めましょう」


 優しそうな女性の魔術師が先生だった。彼女は丁寧に魔術の基礎を教えてくれる。マナを魔力へと変換する方法と、魔術発動の呪文について。


 親切な説明だったので、私はすぐに教えを理解した。体内のマナを魔力へと変換する。それは難しくなかった。先生はとても私の事を褒めてくれた。


 そして、教えられた通りに呪文を唱える。体内で生成した魔力が流れていく。それを感じながら、私は魔術を発動させた。


「ウォーター」



 ――しーん……



 先生の話では、これで水が生まれるはずである。魔力に応じて量は変わるけど、誰でもコップ一杯程度の水は生み出せると言っていた。


 なのに、私の手には一滴の水も生まれていない。それどころか、魔力が消費された感覚も無い。明らかに魔術は発動していなかった。


「お、おかしいですね……? それでは、別の魔術も試してみましょうか!」


 先生はいくつかの呪文を教えてくれた。その呪文は難しいものではなかった。けれど、どの魔術も発動しない。先生は困惑した様子で別の魔術師に助けを求めた。


 次は大人しそうな男性の青年魔術師だった。土の魔法をいくつか教えてくれる。けれど、どの魔術も発動しない。属性を変えても結果は変わらなかった。


 次はおじいちゃんの魔術師だった。風の魔法が得意らしく、優しく砕いて教えてくれる。けれど、私は呪文がわからない訳ではないのだ。結果が変わる事は無かった。


 そして、最後は短気そうな中年男性の魔術師。火の魔術を教えてくれた。けれど、結果はやはり同じ。どの魔術も発動する事は無かった。そして、先生は苛立たしそうに叫んだ。


「ちっ、何が『大魔導士の才』だ! そもそも魔術が使えねえなら、階級が上がるとか関係ねぇ! ただの宝の持ち腐れじゃねぇか! こいつは勇者の兄とは違う! 外れだったって事だ!」


「……はずれ?」


 おじいちゃん先生が、その先生を窘めている。しかし、多くの者が同意見だったらしく、失望の眼差しを私に向けていた。そして、溜息を吐きながらこの場から去っていく。


 初めの女性の先生は、憐みの目で私を見ていた。そして、私に対してこう説明してくれる。


「ごめんなさい。魔術が使えないなら、貴女を仲間に迎える事は出来ないの。普通はこんな事って無いんだけどね……」


「私が、はずれだから……?」


 私の問い掛けに、先生は何も答えなかった。そして、目を伏せてしまい、そのまま無言で去って行った。


 その場に残ったのは私とソリッドだけ。私はソリッドの方へ振り向くと、震える声で問い掛けた。


「わた、わたしは……はずれなの……? ソリッドや、お兄ちゃんみたいには……なれないの……?」


 その問い掛けに対し、ソリッドは抱擁で返して来た。私を強く抱きしめると、私の耳元で強く断言した。


「違う、外れなんかじゃない。パッフェルが外れなんて、そんな事があるはずない!」


「でも、みんないなくなった……。私は仲間に成れないって……」


 私はこの時に初めて理解した。本当の意味で理解したのだ。これがソリッドの味わっていた孤独だったんだと。


 今までの私はソリッドが居れば、他はどうでも良いと思っていた。けれど、そう言えたのは知らなかったからだ。周りから否定される事が、こんなにも辛くて悲しい事なんだと……。


 私は悲しくて、悔しくて、流れ出る涙が止まらなかった。ソリッドはそんな私を抱きしめ、私の頭を優しく撫でた。


「……心配するな。俺が何とかする。パッフェルの悲しみは、全て俺が取り除いてみせる」


 私の心は悲しみで満たされていた。けれど、ソリッドがそう言うなら、何とかなる気がし始めていた。


 ソリッドは決して私に嘘を付かない。いつだって私を守ってくれる。だから、私はソリッドを信じて、ただ抱きしめ続けた。


 その後、ソリッドは泣き疲れて眠った私を抱え、家まで連れ帰ってくれたのだった。

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