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アマン家の晩餐

 村に滞在して五日が経過した。村の中を散策し、その変化を確認したりして過ごした五日間だった。


 しかし、観光用に変わった一部を除き、大きな変化がある訳では無い。観光客が多かったのも、パッフェル帰還が噂されていたから。ワンチャン狙いのファンによる、一時的な盛況でしかないとのことだ。


 そして、パッフェルも握手会に講演会にと、忙しかったのは初めの二日だけ。その後はプライベートとして、まったりと自宅で過ごしていた。


 まあ、そんな感じで俺は暇を持て余す事になった。俺はパッフェルと相談して、明日には王都へと戻る事にしたのであった。


「それじゃあ、二人とも当分の間は王都暮らしなんだね? 冒険者の仕事を続けるのかな?」


 今の俺達はリビングで夕食中である。俺とパッフェルに問いかけてる父さんに、隣に座るパッフェルがすかさず首を振る。


「そんなわけない。王宮かソリッドの宿でゴロゴロしてる」


「いや、俺は働くぞ? 先々はアレックス次第ではあるが」


 アレックスとの約束まで、まだ四日の期間がある。何もなければその間は、冒険者ギルドで仕事を受注するだろう。


 それ以降に関しては、アレックスの出方次第となる。パーティー解散は出来ないだろう。しかし、俺を追放してくれるなら、俺は大陸中央のグレイシティへと向かうつもりだ。


 俺の返事を聞いて、母さんが何故かニヤニヤと笑う。そして、ワインでほんのり色付いた顔で、俺に向かって話し掛けて来る。


「ふーん、相変わらず真面目ね~。それで、グレイシティに行きたいんだっけ? ソリッドはそこに移住したいの?」


「いや、移住するかは決めていない。まずはどういう場所か、一目見てみたいだけだ」


 無論、良さそうな環境ならば移住も検討する。しかし、それ以前の問題として、俺が受け入れられる環境なのかが重要である。


 グレイシティは人族と魔族が共存する町。魔族の特徴である黒目黒髪を持つ人間でも、差別的な扱いを受けない可能性には期待している。


 しかし、その予想が正しいかは、行ってみなければわからない。期待通りだとしても、俺がそこに住めるかも確認してみなければわからないしな。


 だが、母さんの本題はそこでは無いらしい。ずいっと身を乗り出すと、俺とパッフェルに下卑た笑みを向ける。


「そんでパッフェルも一緒に? もう二人って付き合ってたりするの?」


「か、母さんっ?! 何てことを聞くんだ……。もう酔ってしまったの?」


 母さんの質問に、隣の父さんが慌てだす。母さんは基本的に空気を読まない。こういう不躾な質問を、平気でぶっこんでくる人物なのである。


 ただ、俺としては良い機会だと思った。俺の答えは決まっている。しかし、これまでは躊躇して、パッフェルの考えを聞けなかったからだ。


「付き合う訳がない。俺とパッフェルは兄妹として育ったのだぞ? 母さんが望むような結婚なんてのも有り得ない。……パッフェルもそうだろ?」


「結婚とかよくわからない。ただ、私はソリッドがいないと生きていけないしね。今の所は(・・・・)これまで通り、妹としての付き合いしか考えてないよ」


 パッフェルの回答は素っ気ないものだった。ただ、俺の想定内のものであった為、俺は内心で安堵していた。


 しかし、母さんは意味ありげにニヤニヤ笑いを続けている。そして、からかう様に俺に向かって言葉を投げてくる。


「まあ、男女の関係なんて、何があるかわからないもんだよね。今はそうだとしても、この先も同じとは限んない訳だしさ」


「いや、有り得ないだろ? 兄妹で結婚だとか……」


 酔った母さんのウザ絡みは良くある事だ。あまり真面目に受け答えしても意味がないのだろう。


 俺は軽く息を吐いて聞き流そうとする。しかし、母さんは考える素振りを見せると、不穏な発言を始める。


「今はソリッドが二十歳で、パッフェルが十八歳か……。私の直感だと、数年以内だと思うんだよね~」


「母さんの直感って……。また、厄介な……」


 俺は背中に嫌な汗が流れるのを感じる。母さんの直感は馬鹿に出来ない。神がかった予測を的中させる事が多々あるのだ。


 この村での災害や飢饉を回避したこともある。五歳の俺を見つけたのも直感によるもの。今やこのフェイカー村で、母さんの直感を馬鹿にする者は誰もいない。


 とはいえ、酔っ払いの発言というのもある。明日には発言した本人も、自分の発言を忘れている可能性が高い。


 今回の予想は流石に無いと思うが、それでも母さんの直感だと五分五分な気がするんだよな……。


 しかし、モヤモヤと悩み始めた俺に対し、隣のパッフェルが興味なさげに声を掛けて来た。


「別に気にしなくて良いよ。これまで通り、普通にしてればさ?」


「……ああ、パッフェルの言う通り。これまで通りで問題無いな」


 母さんの発言を気にしていたら、パッフェルとの関係がギクシャクしてしまう。今のパッフェルみたいに、気にせず自然体で居る方が良いのだろう。


 落ち着いた態度のパッフェルを見て、俺も何とか冷静さを取り戻した。そんな頼もしい妹に視線を向けていると、母さんが更なる不穏な発言を続ける。


「ちなみに、これも直感なんだけどね。パッフェルの恋のライバルは三人……いや、四人かな? 中々に苦労する気がするんだよね~」


「ちょっと待って! 何その展開! それは流石に聞き流せないんだけどっ?!」


 パッフェルはテーブルを叩き、唖然とした表情で立ち上がる。明らかに動揺した様子で、ワナワナと身を震わせていた。


 というか、俺もそれは聞き流せない。どうすれば今の状況から、そんな修羅場的な展開が繰り広げられると言うのだ……。


「――いや、パッフェルへの求婚者という意味か? それならわからなくも……」


「それこそ無いから! いても全部切るから、恋のライバルとかならないし!」


 え? 全部切るって、求婚を断るってことか? パッフェルには結婚願望が無いのだろうか?


 いやまあ、今のパッフェルへの求婚者なんて碌な相手が居ないか。地位、名声、金等が目的の、俗物的な人間しか集まらないだろうしな。


 そういう意味なら、パッフェルの判断もあながち間違いとは言えないか……。


「母さん、相手は誰よ! ソリッドを好きになる奴なんて、本当に居るのっ?!」


「ちょっと待ってくれ。その言い方は、悲しくなるから止めて貰えないかな?」


 俺自身もわかっている。俺を好きになる物好きなんて現れないだろうと。


 けれど、それを妹に断言される悲しみである。俺はどうして、こんな仕打ちを受けているのだろうか……。


 切なさから胸を押さえていると、今度は父さんが慌てて俺にフォローを入れて来た。


「だ、大丈夫だよ、ソリッド! きっと、広い世の中には居るから! それに、父さんも母さんもソリッドの事を愛してるから!」


「止めてくれ、父さん……。それは単なる追い打ちだから……」


 必死にフォローする父さんの姿に、俺の悲しみはより深まる。今の俺はそんな慈悲を求めていないんだ……。


 母さんに掴みかかるパッフェル。俺を必死に慰める父さん。そして、そんな俺達を見て爆笑する母さん。


 こんなカオスな状況の中、アマン家の夜は過ぎていくのであった。

これにて第二章が終了となります。

ただし、第二章(裏)へと続きます。


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