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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第一章 根暗アサシンと駆け出し冒険者
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駆け出し冒険者(ミーティ視点)

 私は盗賊のミーティア=サマー。私はまだまだ駆け出しの冒険者である。先日、冒険者になる為に、田舎から王都へ出て来たばかり。幼馴染のくーちゃん――クーレッジと二人で上京し、二人で一緒に冒険者になった。


 ……そして、上京した初日に失敗した。私の猫耳に気付いた通りすがりの傭兵に、私怨による暴力を受け、それが原因で王都の人々を恐れる様になってしまったのだ。


 ちなみに、私のお父さんは人間だけど、お母さんは猫族の獣人である。私の体の中には、お母さん譲りの魔族の血が流れている。私はそれが人間にとって、どういう意味を持つのか理解していなかった。


 けれど、それは仕方が無い事だとも思う。田舎では皆がそんな事を気にせず、私に優しくしてくれた。私の猫耳を見ても、それを毛嫌いする人なんていなかった。生まれ故郷から出た事の無かった私には、それが普通ではないと気付けなかったのだ……。



 ――ただ、それでも私は幸運だった。



 私は盗賊ギルドも、冒険者ギルドも信用出来ず、ひたすら恐れて避け続けた。冒険者としての基礎も無いまま、無謀な冒険を始めようとしていた。


 そんな時に、師匠と出会う事が出来たのだ。黒い瞳と、黒い髪を持つ物静かな男性。落ち着いた雰囲気と、知性的な瞳を持つ、心優しい暗殺者。


 私は一目見て安堵感を覚えた。この人は敵ではない。私を守ってくれる人だとわかった。初めて会ったはずなのに、両親にも似た親近感を感じていたのだ。


 それなのに、何故か周囲は師匠を恐れてしまう……。


 実際、くーちゃんも初めは凄く警戒していた。当初は、あの事件があった直後だからだと思っていた。けれど、それも少ししてから違うと気付いた。


 一緒に街を歩いていると、周囲の目が気になり出した。皆が師匠をチラチラ見ている。それも、嫌悪感を感じているみたいな、とても不快な視線であった。


 ハルとアシェイが仲間になった。その二人も初めはとても緊張していた。それは師匠が冒険者の最高峰――S級冒険者だからだと思った。けれど、後で話を聞くと、師匠の雰囲気が怖かったそうなのだ。



 ――何故、周囲は師匠を恐れるのだろう?



 私にはそれが不思議で仕方なかった。お金で動く人ではない。私欲で動く人でもない。師匠は勇者様の家族に相応しい人徳者なのだ。


 そして、師匠を恐れる多くは、師匠を良く知らない人達。その見た目だけで嫌悪しているらしかった。黒目黒髪は珍しいが、それだけが原因とは思えない……。


 ならば、きっとその理由は一つ。少し前まで続いた、魔族との戦争が原因だろう。その戦争により、人間にとって魔族は敵となった。私が暴行を受けたのだって、戦争が原因なのだから。



 ――何という皮肉なのだろう。



 勇者一行の活躍により戦争は終わり、この大陸に平和が戻った。多くの人間が勇者一行に感謝している。それなのに、その陰で活躍した師匠は、その存在を知られず、人々から嫌悪されるだなんて……。


 そんな理不尽が許されるのだろうか? 師匠が黒目黒髪だから。そんな理由で、あれ程の優れた人物が、正当な評価を得られないだなんて……。



 ――いや、許されて良いはずがない。



 あの人は多くの人を救って来た。そして、私の心だって救ってくれたのだ。そんな人の不遇を見逃すなんて、私は絶対に認められなかった。


 だから、私は決めたんだ。私は凄い冒険者になる。誰からも認められる、凄い冒険者になって見せる。血の半分が魔族であっても、人々から憧れを持たれる存在になるんだって。


 そうすればきっと、人間にとっての偏見も消える。魔族は人々の敵ではなくなる。師匠の黒目黒髪を見ても、周りから恐れられる事も無くなるはずである。



 ――それこそが、冒険者としての私の新しい目標だ!



 その為に、まず私はバンダナを外す事にした。周囲からの視線はあるが、堂々とその猫耳を晒す事にしたのである。これが私なのだと周囲へ示すためだ。


 更にパーティー名が『猫耳愛好会』に決まった。くーちゃんが提案し、ハルとアシェイも賛成した。多数決による決定である。師匠の為だと思い、私は羞恥心を押し殺した……。


 まだまだ私は駆け出し冒険者。目標を達成する為の道のりは長い。それでも、私は達はその一歩を踏み出した。一歩一歩、確実に前に進み続けている。


 仲間の三人も私の目標を応援してくれると言った。仲間達もそれぞれに、それだけ凄い冒険者を目指したいと。ちなみに、くーちゃんの目標はパッフェル様らしいけどね。



 ――そして、私にはもう一つの個人的な目標も……。



 それは、私が目標を達成した後に、師匠の隣に立てるだけの存在となった際にだけど。ずっと一緒に人生を歩む、あの人の伴侶になるつもりだ。


 師匠はダンジョンの中で、私が望めば受け入れてくれると言った。そして、私はそれを望んでいるし、この思いは変わる事は無いと確信している。


 それに、師匠は周りから誤解されがちだが、私だけはそんな事が無かった。きっと、私は誰よりも師匠の事を理解してあげられる。私こそが運命の人に違いないのだ。


 だから、私は出来るだけ早く目標を達成しないといけない。誰からも認められる冒険者になって、師匠を迎えに行かなければならない。長く待たせる訳にはいかないのだ。



 ――だから、もう少しだけ待っていて下さい……。



 私の心を支えてくれた師匠。その恩を返す為にも、今度は私が彼の支えになるのだ。その為にも、私は早く一人前になり、優れた冒険者になる必要がある。一分一秒だって無駄には出来ない。


 私は熱い決意を胸に秘め、日々を自己の修練に費やす。伝説のトレジャーハンターとなり、ソリッド=アマンの妻となる為に……。


 こうして、この私――ミーティア=サマーは、充実した冒険の日々を送る事になったのです。

これにて第一章が終了となります。

第二章からは週二回(水・土曜日)更新予定となります。

引き続きお楽しみ頂けると嬉しいです!

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