エピローグ
空は真っ青で汚れを知らず、足元は白い雲が際限なく広がっている。ここは所謂、天界と呼ばれる場所。神々がよく集まって、お茶を楽しむ場所である。
今はちゃぶ台を挟んで、二人の神が座っていた。そして、レトロなブラウン管テレビに映る、もう一人の神と会話をしていた。
「そうか! ソリッドは嫁を二人増やしたか! 流石は私の息子だな!」
「ソリッドちゃんはカッコいいからね! おばあちゃんも鼻が高いよ!」
テレビに映るのは、竜人族の特徴を持つ女性。名はメルト=ドラグニル。ソリッドの母である。
その言葉に同調したのも、竜人族の特徴を持つ女性。名はノエル。『黒の竜神』と呼ばれている。
二人は黒髪に、黒い羽根や角と、黒をベースにした姿。その二人を見つめるもう一人は、黒が白に反転した姿であった。
「まあ、今回は多少の無茶もしたがのう。ソリッドでなければキレておる所じゃぞ?」
眉を顰める最後の一人。彼女の名はブロンシュ。『白の竜神』と呼ばれ、全ての神々が敬う存在である。
本当の意味での最高神は、世界そのものであるポラリースだ。彼女は神々の力の源でもある。
しかし、彼女が自身で動く事は稀。それ故に、実質的にはブロンシュが最高神とみなされている。
「ソリッドが私にキレる? そんな事は有り得ないな! あったら私は泣くぞ!」
「うんうん、私も泣くと思う! ソリッドちゃんの怒った顔は見たくないもの!」
実際は二人が悲しむから、ソリッドは怒るに怒れないのだ。しかし、能天気な二人はそんな子の気持ちに気付く事はない。
そんな優しい子の心を知るブロンシュは、苦笑を浮かべてポツリと漏らす。
「それにしても、神格を持つ者も随分増えたのぉ。この後もまだまだ増えるんじゃろうなぁ……」
「ああ、私の子だからな! モテモテだからな! きっと凄いハーレムを作るに違いないな!」
「お嫁さん百人出来るかな♪ 出来たら家族が一杯で賑やかだね♪ 私は凄く楽しみだなぁ♪」
能天気な二人の反応にブロンシュは一人で頭を抱える。それ程の神々が生まれては、誰かが管理をせねばならない。
ソリッド一人に任せるのも酷だ。というよりも、流石に無理だとわかっている。
結婚とは互いの合意によるものだが、ある程度は彼女の選別も必要になるだろう。
「パッフェルは良い補佐役となるじゃろうな。後はローラも補佐役に付けるか……」
「なんだ、ローラも嫁にするのか! うむ、一向に構わんぞ! 嫁が増えるのは!」
「あの子も良い子だよね! 私もソリッドちゃんのお嫁さんに良いなって思うよ♪」
補佐役に付けると言ったが、嫁にするとは言っていない。しかし、二人の神はすっかり乗り気になってしまった。
このままでは本人の意向に関係なく、二人が外堀を埋め始めるだろう。そうなる前に、本人確認が必要となる。
ブロンシュはそっと計画を練る。今の内から彼女を弟子にし、自分の保護下に入れておく。その上で本人の意思を確かめようと。
今はポラリースの庇護下だが、どうせ彼女は何もしない。妹が同時に加護を与えても、特に気にする事も無いだろう。
「それでは、まずはマリアベルに伝えねばのう……」
彼女が『天啓』の加護を与えた女性。彼女は大らかな性格で、とても善良なのでブロンシュが気に入った人物だ。
しかし、大らか過ぎるのが玉に瑕である。それを含めて計画を立てるので、ブロンシュからの啓示で問題が起きた事は無いのだが。
ブロンシュが脳裏で計画を練り始めると、それを知らぬ二人が再び騒ぎ出す。
「そういえば、しばらくソリッドはそちらの大陸だろう? もう少し、互いに簡単に行き来出来ないものか?」
「あっ、確かに! 私もそっちの大陸に顔出したい! ゆう君にも、しばらく顔を合わせてないものね!」
こちらの大陸を管理するのはブロンシュ。あちらの大陸を管理するのは、彼女の弟子シェリル。二人が動かなければ、世界の管理に混乱は起きない。
つまり、ノエルとメルトの二人は、互いに大陸を渡っても問題は無い。そういう意味では、行き来する術を用意しても良いかもしれない。
そう算段を付けた所で、具体的な手段をどうするか思案し始める。
「今は互いに距離があり過ぎるからのぉ……。姉上の力を使うにも、中継地が必要になるかのぉ……」
今のポラリースには二つの大陸が存在する。しかし、それは互いに星の裏と表に位置する関係。
今は地脈が通じておらず、瞬間移動等が出来ない。地脈を繋げるには、更なる聖地と領域守護者の配備が必要となるのだ。
一朝一夕で出来る作業では無く、ある程度の計算能力を持つ神が担当する必要がある。しかし、今はそれを任せられる候補が無かった。
「まあ、パッフェルかローラが神になったら任せるとするか。初めの修行と言う事にしての……」
「えぇ! それではソリッドと長く会えないではないか! 今すぐ何とか出来ないのですか!」
「私も今すぐ息子に会いたいよぉ! お姉ちゃん、何とか出来なの? ねえ、お願いだよぉ!」
二人の駄々っ子に詰め寄られ、全知全能の神も嘆息せざるを得ない。どうやらまた、無理を通さねばならないみたいだ。
とはいえ、頼られると断れないのが彼女でもあった。やれやれと肩を竦めると、テレビの向こうのメルトに告げる。
「お主の夫と、シェリルを呼ぶが良い。二人の協力も必要じゃからな」
「それでは、何とかなるのですね! 急いで二人を呼んで参ります!」
「やったね、メルトちゃん! 流石はお姉ちゃん! ありがとうね♪」
こうしてまた、世界は平和に回り続ける。善良なる神々の采配と、幸せを願う気持ちによって。
そして世界は進み続ける。神々の采配と、その御心に従う善良なる人々の手によって……。
最後までお付き合い頂き、ありがとう御座いました。
この物語はこれにて終了とさせて頂きます。
多くの人には読まれないでしょうが、それでも楽しく書き続けました。
こんな破天荒な物語でも、楽しいと思って貰えたなら幸いです♪




