表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/162

三つの選択

 三魔人の待つ部屋へと案内された俺とパッフェル。室内に踏み込んだ俺は、思わず圧倒されてしまう。


 部屋の空気がハッキリと違うのだ。教会を思わせる、清浄な空気を肌で感じたのだ。


 それと同時に、目の前に広がる大宴会場。パリピ感ある景色と荘厳な空気が混在し、俺の脳がバグりそうになっていた。


「皆さま、お待たせしました。ソリッド様をお連れ致しました」


「「「うぇ~い! 待ってましたぁ!!!」」」


 一部のパリピが盛り上がっている。見ればエリアの一角が、夢魔族の男女で占められている。


 あそこだけが特に酷い。あの辺の魔族が、場の空気を完全に破壊していた。


「ふふふ、ごめんなさいね。うちのベイビー達がはしゃいじゃって?」


 俺に声を掛ける一人の人物。彼は夢魔族の中央で、玉座に座った大男だった。


 俺ですら圧倒される筋肉マッスル。纏う空気は神々しさすら感じ、彼が別格である事は一目瞭然。



 ――なのだが、何故か来ている服は女性物のドレス。



 中身は筋肉マッスルで、纏う衣は女性物。所謂、オネエと呼ばれるやつだろうか?


 夢魔族の神とやらは、何故か初見からの俺の脳を破壊する気満々だった。


「まったく……。私と貴女の眷属達は、やはり相容れない存在みたいね……」


 そのオネエに声を掛ける別の人物。こちらは白銀の長髪をなびかせる、赤眼の美女である。


 間違いなくこちらは不死族の神。吸血鬼の女王ヴァンパイア・クイーンレイ殿が神と仰ぐ存在だろう。


 白い肌の執事やメイドに囲まれ、尊大な態度で玉座に座る。そして、優雅そうにワイングラスを揺らしていた。


「ふっ、相変わらずですね。ですが、あれも御方が望まれた姿ですよ?」


 最後に声を発したのは、目元を白い仮面で隠す人物。黒い髪に真っ赤なタキシード姿の男性である。


 彼は悪魔族の神なのだろう。何故からば、彼の隣で魔王が控えている。それも非常に緊張した面持ちで。


 彼だけは取り巻きが居なかった。彼はゆらりと立ち上がると、率先して俺の前へと歩み寄る。


「恐らく、覚えていないのでしょう。けれど、これは私の我儘で御座います……」


 仮面の悪魔は俺の眼前で足を止める。そして、すっとその場で膝を付いた。


「元魔王軍の筆頭四天王。仮面のディアブロ、御身の前に」


「「「なっ……?!」」」


 俺だけでは無い。場の全員が彼の行動に驚かされる。突然の行動に、誰もが動けず固まってしまう。


 しかし、クスリと笑う声が聞こえた。それと同時に、銀髪の美女が立ち上がり、彼の行動に続いた。


「元魔王軍の四天王次席。残虐のエリザベート、御身の前に」


「あらら、仕方ないわね。これは私も二人に続く流れよね?」


 最後に筋肉マッスルの大男も動く。ディアブロの背後で膝を付き、二人に倣って名乗りを行う。


「元魔王軍の四天王三席。妖艶のラヴィアン、御身の前に」


 何が起きているのかわからない。ただ、異常な光景だと言うのだけは間違いない。


 それぞれの種族が神と崇める三名。それがどうして、俺の前で跪いているのだ?


「「「御身への変わらぬ忠誠を、ここに宣言致します」」」


 彼等の宣言に、誰も何も言えなかった。誰もが混乱した様子で息を飲んだ。


 ……と思ったら、一人だけ違う人物がいた。何故かヴァイオレットが、一人だけ号泣していた。


「ふふふ、我々も少しばかり、はしゃいでしまいましたね?」


「ふふ、ディアブロがはしゃぐなんて珍しい事もあるものね」


「彼はこういう所あるわよ。神殿とか都市を作った時とか……」


 その場で立ち上がった三人は、和やかな空気で話し合う。その姿は神様と言うより、只の仲が良い同僚にしか見えなかった。


 しかし、ディアブロは戸惑う俺に気付き、その会話をすぐに打ち切る。彼は咳払いと共に、真面目な空気で語り出した。


「ソリッド様はこれより、大厄災の元へ向かうと伺っております。その為、我等が神より預かりし、この宝珠を届けに参りました」


 ディアブロはそう言うと、すっと手を差し出した。そこには真っ黒な宝石が握られている。


 俺はそれが何かわからず、受け取りを躊躇する。すると、ディアブロは微笑みながら説明を続ける。


「ソリッド様にはとある封印が施されています。それは御身の力と記憶を封じ、苦難を乗り越える修練の為で御座います。しかし、この宝珠を使えば、その修練を止める事が出来るのです」


「俺の力と記憶? 修練とは何の事を言っているのだ?」


 思い付くのは五歳以前の記憶だ。俺は五歳の時に記憶喪失で、育ての親に拾われた過去がある。


 それ以前の記憶が、この宝珠で蘇るのだろうか? しかし、封じられた力とは何の事だろう?


「口で説明するよりも、使って貰う方が早いのですが……。そうですね、その前に私の質問にお答え下さい」


 ディアブロは何かを思い付いたらしく、その手の宝珠を握って隠した。


「ソリッド様には三つの選択肢が御座います。一つ目はこの宝珠を使い、自らの手で大厄災との決着を付ける手段となります」


「自らの手で決着……?」


 ディアブロの口ぶりからすると、それが出来ると確信している様子だった。俺の封じられた力とは、それ程に大きな物なのだろうか?


「二つ目は我々に大厄災の討伐をお命じ下さい。我等の神の本意ではありませんが、我等はソリッド様の指示を優先致します」


「俺の指示を優先する……?」


 彼等は確か『黒の竜神』に仕えているはず。その神の本意は俺が宝珠を使い、大厄災との決着を付ける事なのだろう。


 だが、彼等はそれに背いて構わないと考えている。どうして神の意思より、俺の意思を尊重すると言うのだろうか?


「そして、三つ目はこの宝珠を受け取らず、大厄災へと挑む手段です。間違いなくソリッド様は敗れ、世界の半分は崩壊するでしょう」


「――なっ……?」


 俺が負けると断言された。ただ、その言葉が嘘で無いと言うのは、俺も直感的に理解していた


 少し前に『憤怒の厄災』と対峙したが、あれもまともに戦えば勝てる相手では無かった。


 たまたま相手が、俺が勝てる舞台で戦ってくれた。というより、相手に勝つ気が無かったのだ。


 例え以前より強くなったとはいえ、今の俺がメルト=ドラグニルに勝てるとは思えなかった。


「ふん、安心なさい。不死族の領地とグレイシティは私が守るわ。人族も全て滅びる事はないでしょうから」


「ふふふ、ソリッド様がその手段を選ぶとは思っておりませんけどね?」


 エリザベートとラヴィアンが俺を見つめている。その表情は穏やかで、答えは既にわかっていると言わんばかりだった。


 そして、その三つの選択肢を出された事で、俺のやるべき事が明確になった。俺が手を差し出すと、ディアブロはそっと宝珠を握らせた。


「神の真意はわからないが、俺に出来る事なら俺がする。それに彼女は、ただ倒して終わりでは駄目な気がするのだ」


「流石はソリッド様で御座います。記憶を封じられていても、やはりその本質にお変わりは無い」


 以前に俺がメルトと戦った時、彼女は俺に血を飲ませた。そうする事で、俺の命を繋ぎとめた。


 その時に初めて、彼女は自らの名を明かした。それと同時に、俺へと名を尋ねて来たのだ。



 ――あの時に見た彼女の瞳。



 俺にはそれが、助けを求めている様に見えた。だからこそ、彼女の相手は、俺がすべきなのだと思ったのだ。


「では、宝珠を使うとしよう」


 俺握った宝珠に意識を向ける。すると、宝珠の側から応えてくれた。


 俺の体をそっと優しい気配が包み込み、俺を覆う何かがパキリと割れる音を聞いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ