思わぬ展開
最終章は週三(月・水・土)更新とさせて頂きます!
最後までお付き合い宜しくお願いします!
パール王国へと戻った俺達は、母さんから様々な知らせを受けた。余りの情報過多に、パッフェルがオーバーフローを起こす程に。
国母グリ―ディアの死。二つの『厄災』の消滅。農業プラントに存在する元『機械神』と呼ばれる古代遺物。
だが、最も衝撃だったのが、ローラが攫われた事である。それも、『大厄災』であるメルト=ドラグニルによって……。
「そんで、ソリッドに聖域へ来いって言ってる訳なの。そうしないと、『破壊神』として世界を滅ぼすって脅し付きでね~」
「何故、そんな事に……?」
色々とわからない事だらけだ。どこから手を付けて良いか悩む程に……。
ただ、最も気になるのは母さんの法衣姿。下手すると最高位では無いか思われる格好なのだ。
しかも場所は大聖堂の応接室。教皇アルフレッドが母さんと並んで座っていたりする。
まずこの状況が何なのだ? まずはそこから説明して欲しいのだが……。
「ねえ、母さん。少し前から薄々気付いてたんだけど……」
「なあに、パッフェル?」
俺と並んで座るパッフェルが、神妙な顔で母さんを見つめる。見つめ返す母さんは、いつも通りの緊張感が無い笑みである。
「私とお兄ちゃんって、教皇の孫だったりする?」
「うん、流石はパッフェル! 良くわかったね!」
ニコニコと笑顔の母さん。それに対して頭を抱えるパッフェル。二人の温度差が凄まじい。
というか、どうしてそうなる? 何故、パッフェルはそれに気付けたのだろうか?
衝撃の事実に戸惑う俺に、パッフェル疲れた顔でこう告げた。
「前に家で母さんが、『天啓』の加護持ってるって言ってたでしょ? あの後調べたら、それって教皇一族にしか発現しないそうなのよ。それで母さんが、教皇の娘じゃないかって思ってたのよね……」
「裏でそんな事を調べていたのか? 流石はパッフェルだな……」
『天啓』について知らされてから、俺達はずっとサファイア共和国で戦っていた。領域守護者の対処に、鬼龍院家とのいざこざである。
それだけでも手一杯のはずが、母さんの件も確認していた。恐らくは、パッフェル商会に指示を出しての事だろうが。
俺は妹の能力に感服する。これ程の才能を持つ妹なのだ。兄として自慢したくなるのもわかるだろう?
そう内心で考えていると、それまで静かだった教皇が動き出した。
「そういう事なのだ。これまでは理由があって、話す事が出来ずに済まなかった……」
「う~ん、何となく想像出来るけどね。グリーディアから私達を守る為なんでしょ?」
パッフェルの反応に教皇が目を見開く。俺も同じく目を見開いている。
この頭の回転にはいつも驚かされる。初見である教皇には尚のことだろう。
「強欲で知られる教皇が、『国母』グリ―ディアと程々の距離を保ってるんだもん。深く踏み込まないのは何でだろうって思ってたのよ。でも、ここまで情報が揃えばわかるわよね? 『厄災』であるグリ―ディアが、教皇と私達の関係を知ったら不味いって考えたんでしょ?」
「話には聞いていたが、よもやこれ程とは……」
わかるよねと聞かれたが、それでわかるのはパッフェルくらいだ。俺にはまったく、思い付きもしなかった。
ただ、教皇は何やら納得した様子でウンウン頷いている。そして、懐から何かを取り出し、ズラッとテーブル上に並べ出した。
「パッフェルよ。これが何かわかるね?」
「これは……。私のプロマイド写真……?」
見間違いかと思ったが、そんな事は無かった。それは紛れもなく、パッフェルのプロマイド写真。
全部で三十枚有り、それぞれが違うアングルである。これにはパッフェルも顔を引き攣らせている。
「パッフェル商会のパッフェルグッズは、全てコンプリートしておる。そして、偽名での登録にはなるが、ファンクラブ会員No.1は、何を隠そうこのワシじゃ!」
「なん……ですって……?」
胸を張って宣言する教皇。そして、隣の母さんは腹を抱えて爆笑している。
幸いと言うべきか、この部屋には俺達四人しかいない。無関係な人が居なくて、本当に良かったと思っている。
「賢いパッフェルなら、これを見ればわかるね?」
「……おじいちゃんって呼んで、良いってことね?」
パッフェルの回答に、教皇が破顔する。厳格な雰囲気は砕け散り、好好爺とした笑みで両手を広げる。
「パッフェルちゃん! さあ、遠慮はいらん! ワシに思いっきり甘えておくれ!」
「……ごめんね、おじいちゃん。それは大切なお話が終わってからにしましょう?」
パッフェルにやんわり断られ、露骨にションボリする教皇。母さんも爆笑したままで、まったく話に付いて行けない。
すると、苦笑いを浮かべたパッフェルが、母さんに向かって問い掛けた。
「それで、ローラは無事なのよね? 母さんの態度から大丈夫とは思ってるけど」
「うん、ローラちゃんなら平気よ~。あの子はあれで、かなり強い子だからね~」
母さんの言葉にパッフェルは頷く。そして、今のやり取りなら俺にも理解出来た。
ローラの強さとはレベルや腕っぷしの事では無い。そんなものは、そもそも『大厄災』相手には通じないしな。
ここで言う強さは、心の在り方である。ローラはあるがままを受け入れ、柔軟に受け流す境地に辿りついている。
だからこそ、今の彼女は大丈夫なのだ。『大厄災』メルト=ドラグニルは、そういう心の交流が可能な相手という事なのだろう。
「とはいえ、救出には向かう必要があるよね? それについてはどうしようか?」
「ああ、それはちょっと待ってね。もう少ししたら、迎えが来ると思うからさ!」
迎えとは何の事だろうか? 聖域に向かう為の移動手段の事だろうか?
ただ、それだけならば、対策の検討を待つ必要は無い。それを相談するのに、必要な人物が現れると言う事だろうか?
そう思って首を捻っていたら、ドアをコンコンと叩く音が響いた。
「おっ、早速来たね! それじゃ、入って貰って!」
母さんの声で扉が開く。扉を開けたのは、ローラの付き人兼神殿騎士のレフィーナだった。
そして、渋い顔の彼女は別の人物に顎をしゃくる。邪険な様子で、中に入れと指示していた。
「いやあ、お待たせしました。受付で手間取ってしまったもので……」
「お前は……。どうして、お前がここに……?!」
部屋に入って来た人物に、俺は思わず腰を浮かせる。余りに想定外の人物がやって来たからだ。
黒いスーツ姿に、サラリと流れる紫の髪に紫の瞳。妖艶な空気を漂わせる、優男風のキザな人物。
彼は夢魔族のインキュバスと言う種族である。そして、この地の会員制バーを経営する人物……。
「久しぶりって程でもないかな? 君の友が迎えに来たよ♪」
俺の唯一無二の友。そして、魔王軍四天王が一人。
ヴァイオレット=ローズが、嬉しそうに俺へと微笑んでいた。




