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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第八章 パール王国の厄災と光の勇者
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聖女のあり方(ローラ視点)

 私は『破壊神』であり、『大厄災』であるメルト=ドラグニルに抱きしめられている。そして、はるか上空を飛行していた。


 ドラゴンの背に乗った時には恐怖を覚えましたが、今度はお腹側で抱き抱えられる事になるとは。こんな未来は予想もできませんでしたね。


 ただ実は、以前よりこちらの方が快適だったりします。しっかり抱かれて固定され、それでいて痛く無い様に加減もされています。


 更に上空は寒くて風も強いのだが、今はそれもありません。彼女が結界か何かで、守ってくれているのでしょう。


「実は気配り上手だったりしますか?」


「……貴様は何の話をしているのだ?」


 抱き合っているので、彼女の顔はすぐ横にあります。その視線は私に向き、顔は怪訝そうに歪んでいました。


 ただ、受け答えはしてくれるらしい。返事が返った事にホッとしつつ、私は彼女に問いかけました。


「私はこれから、どうなるのでしょうか?」


「縄張りに連れ帰る。そこを出ない限りは好きにしろ」


 縄張りとはどこでしょうか? どういう環境かが気になる所です……。


 ソリッドに教わったので、食べ物がある地なら何とかなる。とはいえ、荒れ果てた荒野とかでは、流石にサバイブするのも困難なのですが……。


「安心しろ。私の縄張りは聖域だ。食べれる物はそこらじゅうに生えている」


「聖域とは……。もしかして、領域守護者が守護すると言う場所ですか……?」


 まさかという思いで問い掛けました。しかし、彼女は整然と頷きを返しました。


 どうやら、彼女は聖域を縄張りにしているらしい。そういえば、ソリッドにもそこに来る様に伝言を残していましたね。


「私が神格を得るのに力が必要だったのだ。その力を溜める為に、聖域を奪ってマナを得た」


「……もしかして、ソリッド達が倒した神竜は、貴方が負い出した領域守護者だったりします?」


 返事は無かったが、口元がニヤリと歪んでいた。恐らくは、それは肯定を意味するのでしょう。


 というか、アレで一つの領地が滅んだんですけどね。流石は『大厄災』と言うべきなのか……。


「しかし、お前は私が怖く無いのか? どうしてそうも平然と出来る?」


「別に怖がる理由が無いでしょう? 貴女からは害意を感じませんしね」


 私にとって怖いのは、悪意を持って近寄る存在。私の力や名声を、利用しようと擦り寄る人達です。


 しかし、彼女は私をどうこうする気がありません。ソリッドさえ来るなら、私を傷付けたりはしないでしょう。


 そう考える私に対して、彼女は目を大きく見開く。そして、ポツリとこう漏らしました。


「本気でそう考えているのか? これは驚きだ……」


「えっと……。その、それ程のことでしょうか……?」


 そういえば、先程から考えを読まれてません? これも『覚醒者』の能力なんですかね?


 まあ、それならそれで構いませんけど。そういう相手と思って腹を括るだけの話ですし。


「ふ、ふふふ。フハハハ! お前は面白い奴だな! ソリッド以外にも、お前みたいな奴が居たとは!」


「いえいえ、私なんてつまらない女ですよ? ソリッドと比べられるのは、心外なくらいですし……」


 ソリッドは驚きの宝石箱みたいな人です。どんな状況でも動じず、どんな状況でも生き残る。


 なのに、意外と傷付きやすい。平然そうな顔をしているけど、実は裏でションボリしている。


 そして彼は甘い物が大好きだ。なのに彼は、それを何故か自覚していない。意味不明である。


 そんな彼と比べたら、私なんて平凡な存在。そんじょそこらに居る、只の女神官にしか過ぎませんからね。


「ふ、ふふふ……。や、止めろ! 私の腹筋を殺す気か! アハハ!」


「いえ、勝手に考え読んで笑わないで貰えます? 私にどうしろと?」


 笑っていても腕が緩んだりはしない。そういう意味では問題ありません。


 とはいえ、どうして笑われているのかが不明です。これはもう、私ではどうしようもありませんよね?


「わかった、わかった! お前の人となりは理解した! 今後は心の中まで覗くのは控えよう!」


「まあ、そうして貰えるなら助かります。一先ず、人畜無害な僧侶とご理解頂けたんですかね?」


 心を覗いていると認めましたね。そして、それを悪い事と思う感性もあるみたいです。


 ならば、彼女は案外悪い人ではないのかも? 少なくとも、人の話を聞かない系の人では無さそうです。


 私が彼女を再評価していると、彼女は肩を震わせながらこう告げた。


「よし、お前は私の従者と成れ。私が世界を壊そうとも、お前の事は助けてやろう」


「いえ、私は神に仕える身ですので。『白の竜神』様からの宗旨替えはちょっと……」


 一応、彼女は『破壊神』なのですよね? それに仕えるのは、色々と問題がありますよね?


 しかし、何が面白いのか、彼女は更に肩を震わせる。そして、笑いを堪えながら首を振る。


「お前の名はローラか。ならば、ローラには特別に許可しよう。私の友となる事を許す」


「えっと……。ありがとう、ございます?」


 友達って許可されてなるものだっけ? というか、こんな状況で友達になるもの?


 まあ、竜帝を名乗ってたくらいですし、皇帝くらいに偉い感じなのでしょうか?


 というか、神様になるのかな? 自称では無く正真正銘の?


「私の事はメルトと呼べ。様などを付ける必要は無いぞ?」


「はい、わかりました。宜しくお願いしますね、メルト?」


 私の返事にメルトは満足げに頷く。そして、機嫌良さそうに空を飛び続けています。


 そういえば、タイプは違うけどエリスも似た感じでしたね。友達が欲しいのに、どうやって作れば良いかわからない……。


 あの時は私が声を掛けましたが、今回は彼女から声が掛かった。そして、私の友人が一人増えた。


 その嬉しそうな横顔を見て、この人は悪い人ではないと理解した。ただ寂しがりで、不器用なだけの人なのでしょう。


 なら、私は彼女を助けてあげるべきなのでしょうね。私が困っている時に、そっと助けてくれたソリッドみたいに。


 私はこの運命を受け入れる。彼女に連れ去られるこの定めも、きっと神の思し召しなのだと考えて……。

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